野の白鳥(1838, アンデルセン)のあらすじ

白鳥 アンデルセン童話

アンデルセンの、『野の白鳥』という童話を紹介します。

原題はDe vilde svaner、英語のタイトルは The Wild Swans

デンマーク伝承の民話をもとにアンデルセンが書いたもので、創作でない童話に比べると、細部の描写が細かく、神さまに祈ったり、感謝したりするシーンがよくでてきます。

あらすじでは、そのあたりは、さくっと省略します。

1行のあらすじ

まま母の呪いにより、白鳥になった11人の兄を助けるため、妹が自己犠牲を払う話。

父の再婚

ある王国の王さまには息子が11人、娘が1人います。娘の名はイライザ(Eliza イライザは英語式の読み方で、日本だとエリーザやエリザだと思います。エリザのほうがいいかもしれませんが、このあらすじでは、イライザとなっています)。

この王国は、お金があり、王子たちは、金の石版(石版というより、金版だけど)に、ダイヤモンドのペンを使ってお勉強。

その間、妹は、窓辺で、王国の半分ぐらいの値打ちがある絵本を読んでいました。

幸せだった暮らしがある日、突然、失われます。

母が亡くなり、王さまはべつの女性と再婚したのです。この人は、子供をまったくかわいがらない悪い女王でした。

結婚のお祝いのパーティで、おいしい果物やお菓子を食べるところを、女王は、「これでも食らってろ」と、ティーカップに砂を入れたものを、子供たちに差し出しました。

女王の呪い

女王は、王さまの愛情が子供に向くことが耐えられず、まず、娘のイライザを、農家に預けました。

次に、女王は、王子11人に向かって、「声の出ない大きな鳥になって、どっかへ飛んでいけ!」と叫びました。

しかし、あまりに高貴なせいか、王子たちは11羽の白鳥になっていっせいにどこかへ飛んでいきました。

妹、15歳になる

農家で暮らしていたイライザは15歳になりました。15歳になったら、城に戻る、という約束だったので、イライザは久しぶりに城に戻ります。

父親の王さまに会うのです。

イライザはとても美しい娘で、これに嫉妬した、女王は、イライザが城でお風呂に入るとき、ひきがえる3匹を忍び込ませました。

女王は、それぞれのカエルにほおずりして、イライザの頭、額、胸に乗るよう命じていました。

カエルが乗ることで、イライザが、バカで、醜く、性根が悪くなるはずだったのですが、イライザの気高い精神に負けたのか、お湯は緑色のどろんとしたものになったものの、カエルは真っ赤なケシの花に変わっただけでした。

イライザに気づかない王さま

カエル作戦が失敗したので、女王は、イライザの身体をくるみの汁で汚し、顔には嫌な匂いのする油を塗り、髪の毛をもじゃもじゃにし、醜い姿にして、王さまの前に送り出しました。

王さまはイライザが自分の娘だとわからず、「これは自分の娘ではない」と言いました。

イライザは、泣きましたが、同時に、いなくなった兄たちのことを考え、お城から抜け出し、1日中、そのへんを歩き続けて探しました。

兄たちを探すイライザ

日が暮れたので、苔の上に横たわり、お祈りをして眠ったら、夢に兄たちが出てきました。

翌日、イライザが歩いていたら、明るい湖に出ました。とても澄んだ湖です。

イライザは水にうつった自分の顔を見てびっくり。

茶色いみにくい娘になっていたので、水で洗ったところ、またもとのきれいな姿に戻りました。ついでに、イライザが湖で水浴びをしたら、ますますきれいな姿になります。

その日は、そのまま森を歩き、兄や神さまのことを思い、木になっているりんご(神さまがくれた、とイライザは考えている)を食べたりして過ごしました。

老女と出会う

翌日、森を歩いていると、むこうから老女がやってきます。老女は木苺を持つていて、3つほど、イライザにくれました。

イライザは老女に、11人の王子が馬にのって、森の中を通っていかなかったか、と聞きました。

「いいや。でも、きのう、11羽の白鳥を見たよ。みな、あたまに金の冠をしていて、そばの川で泳いでいたわ」

老女はイライザを川のところまで連れていってくれました。

波を見て哲学的になるイライザ

老女と別れたイライザは、川が海に流れ込むところまで歩いていきます。小舟もなくそこから先には進めません。

浜辺には小石がたくさんありました。どれも波の水ですり減ってすべすべしています。

鉄くずやガラスも、水のせいで、形が変わっていました。これを見てイライザは思います。

「波は何度も何度も、打ち寄せて、どんな堅いものの形も変えている。私も、波のように、いつまでも何度もやり続けよう」。

イライザは元気が出ました。

兄たちとの再会

ふと見ると、そばに白鳥の白い羽根が11枚落ちています。羽の上には水のしずくがありました。イライザは羽を拾って花束のようにしました。

夕方になると、金のかんむりをした、11羽の野の白鳥が丘に飛んできました。

イライザが坂をのぼり、茂みの影に隠れて見ていたら、降りてきた白鳥が、日没とともに、王子に変身しました。

最後に見たときとずいぶん変わっていましたが(15年のあいだに成長したと思う)、まぎれもなく兄たちです。

「おにいさま~っ!!」

エリザは、駆け寄り、一人ひとり名前を呼んだら、兄たちのほうも、それが妹のイライザだとわかり、大喜びしました。

悲喜こもごもの再会です。

白鳥に運ばれるイライザ

ひとしきり近況を伝え、女王がどんなひどいことをしたか話しあったあと、長男が言いました。

「僕たちは、太陽が出ている間は白鳥で、空を飛んでいるが、日が沈むと人間に戻るんだよ。いまは、海の向こうの美しい国に住んでいる。

1年にたった1度だけ、ふるさとの国(今いるところ)に戻れるんだ。ただ滞在を許されるのは11日間だけだ」

・・・(長男のセリフ、実はとっても長いです)

兄たちは、妹をいま住んでいる国に連れていくために、柳やあしの木で、網を作り、そこにイライザを乗せて、翌日飛び立ちました。

目的地に行くまでには2日飛ばなければなりませんが、途中で岩があるので、一晩はその狭い岩で休憩し、翌日、目的地に到着しました。

兄たちの住んでいる国はとても美しく、青い山の中に美しい城がありました。兄たちとイライザは、大きなほら穴の前に降り立ちます。

夢の中で仙女に会う

その夜、イライザは、「夢に神様が出てきたら、兄たちを人間に戻す方法を教えてもらおう」と何度も考えました。もちろん、祈りながら。

寝ているときも祈っていたら、思考が現実化したのか、美しい仙女が出てきました。なんとなく、森であった老女に似ています。

仙女は言いました。

魔法をとく方法

兄たちは、元の姿に戻れるよ。でも、あんたに、そこまでの勇気と辛抱強さがあるだろうか?

海の水が石をすべすべに変えるように、あんたも、そのやわらかい手と指を使わねばならない。

痛いよ。

水は心がないけど、おまえには心がある。

苦しみに耐えられないかもしれない。

このイラクサを見て。

ほら穴のまわりと、お寺の墓地にたくさんあるけど、このイラクサを足で踏みちぎって糸にして、長袖の服を作り、白鳥になっている兄に投げなさい。

すると呪いはとける。

11枚いるよ。それに痛いよ。本当に痛いよ。

それと、服を作っているとき、決して口をきいてはいけないよ。何年かかろうともね。

言葉をしゃべると、それは兄たちの胸を短刀のように刺すだろう。

服作りを開始する

そう言って、仙女が、イラクサで、イライザの手をさわったら、焼けるような痛みがしました。

ここでイライザは目覚めました。

その後、イライザはほら穴のまわりにあるイラクサを集めはじめました。

棘が、腕も手首も刺し、、やけどをしたような痛みがします。

でも、「これで兄たちを人間に戻せるなら」と、イライザは痛みをこらえて、作業を続けました。

兄たちは、イライザが何も言わず、せっせと、服作りをしているのを見てびっくりしましたが、まま母の魔法のせいだろうと思います。

妹の傷だらけの手を見て、末の兄が涙を流したら、その涙のしずくで、手の上の火ぶくれが消えました。

その後、イライザはひたすら、服作りをしました。

王さまとの出会い

服が1枚できあがり、2枚めにとりかかったとき、狩りをしていた王さまの一行が通りかかりました。

王さまは、イライザの美貌に魅了されます。

イライザにいろいろ質問してみましたが、もちろんイライザは何も言いません。

王さまは、イライザをお城に連れ帰りました。イライザの意向などおかまいなしです。

イライザは悲しくて泣いてばかりいましたが、何も言いませんでした。

お妃の着る美しいドレスを着て、髪に真珠のくしをつけ、火ぶくれだらけの手には絹の手袋をしたところ、イライザは、いかにも高貴で美しいお妃にふさわしい姿になりました。

イライザと結婚する王さま

王さまは、イライザを自分の后にしようとしましたが、1人だけ、大僧正が反対しました。

大僧正はイライザは魔女だと思ったのです。

しかし、王さまは僧正の意見は無視して、婚礼の祝いをはじめました。

ほら穴部屋をあてがう王さま

ずっと悲しそうにしているイライザを見て、王さまは、イライザを見つけたほら穴とそっくりの部屋を作りました。

イライザがイラクサから紡いだ糸もあります。天井には、すでにできた服がぶらさがっていました。

家来の1人が、運んできたのです。

王さまが、「仕事を続けるがいい」と言うと、イライザはようやく笑顔になり、王さまの手にキスをしました。王さまはイライザを胸に抱き寄せました。

無事に婚礼が終わります。

王さまを好ましく思うイライザ

イライザは、相変わらず、何も言いませんでしたが、やさしくて立派な王さまをだんだん好きになりました。

王さまは、イライザのためなら、何でもしてくれましたから。

イライザも、王さまを大事にしましたが、夜になると、王さまと寝るベッドを抜け出し、ほら穴の部屋に行って、服作りを続けました。

大僧正の偏見

服が7枚できたところで、イラクサから紡いだ糸がなくなったため、イライザは、墓地に行くことにしました。月夜にこっそり城を抜け出すイライザ。

墓地に行くと死体を食べる、魔物の女たちが、群れになって墓石の上にいました。

魔物が死体を食べる様子はいかにも恐ろしかったけれど、イライザは、お祈りをしながら、そばを通り過ぎ、イラクサを集めて、城へ帰りました。

しかし、これを例の大僧正は見ていました。僧正は不眠症なのか、夜、寝ないのです。

「やはり、イライザは魔女だ」と確信した僧正が、王さまに大げさに話したら、王さまは涙を流しました。はじめて疑いの気持ちがわいたのです。

そして、イライザが毎晩ベッドを抜け出して、ほら穴の部屋に行くのことに、王さまは気づきました。

火あぶりの刑

王さまはだんだん元気がなくなっていき、それを見たイライザも心配になりましたが、服作りは相変わらず続けました。

あと1枚作るところまでこぎつけたのですが、やはり、イラクサが足らなくなり、墓に行かねばなりません。

城を抜け出すイライザを、大僧正と王さまがつけました。

墓では、死体をたべる魔物たちがいたので、王さまはイライザもその仲間なのだと思いました。

イライザは、人々の裁判で、火あぶりの刑に処せられることになりました。

ハッピーエンド

明日は処刑の日。イライザは牢獄にいましたが、幸い、イラクサや、イラクサで作った服も、牢獄に放り投げられたので、イライザはお祈りをしながら、作業を続けました。

夕方、鉄格子の向こうに、末っ子の兄の白鳥が来たので、イライザは、兄たちがここにいると知り、ますます仕事に励みました。

処刑の日、ボロボロの服を着て、髪をふりみだし、血の気のない顔をしたイライザは、それこそ魔女のようでしたが、処刑場に行くため、罪人の乗る馬車に乗っているときも11枚めの服作りに没頭していました。

その姿は鬼気迫るものがありました。

人々が、「魔女を殺せ!」と叫び、イライザの持っている服を引き裂こうとしたとき、白鳥がバサバサと11羽降りてきて、馬車の上にとまりました。

役人がイライザの手を引こうとしたとき、イライザが、イラクサで作った服をぱーっと白鳥に投げたら、白鳥は、みるみる11人の立派な王子に変身します。

ただ、末の兄は、片方だけ羽のままでした。

時間切れで、片方の袖を作ることができなかったのです。

イライザが、「ようやく、口をきけますわ。私は無実です」と言うと、白鳥がいきなり人間になったのにびっくりした人々は、うやうやしく頭を下げました。

衰弱しきっていたイライザが、ほっとして、兄たちの腕に倒れかかったので、長男が、これまでの事情を王さまに話しだすと、

あたりになんともいえないいい香りが漂い、火をつけるはずだった薪が、1本1本、植物になり、赤いバラが咲き乱れました。

一番上に、一輪だけ白い花が咲いており、王さまは、それを摘み取って、イライザの胸にのせると、イライザが意識を戻しました。

すると、盛大に教会の鐘がなり、小鳥たちが飛んできました。こうして、イライザと王さまは、お城に向かい、人々はその後につづき、祝福の行列となりました。

☆原文(英語)はこちら⇒Hans Christian Andersen : The Wild Swans

自己犠牲

この話に教訓があるとしたらい、自己犠牲の美しさです。

兄たちは何も悪いことはしていないのに、いきなり白鳥にされてしまい、その兄を助けるために、イライザは、精神的にも肉体的にも苦痛にたえます。

何とも理不尽な話です。

とくに、一言も口をきけないというしばりはとてもきついものです。

自分を弁護することは許されないのですから。

小さなトゲ状のものがいっぱいついていてさわると痛いイラクサで、傷だらけの手になりながら、11枚服を作らねばならない。

しかも、このイラクサは、ほら穴のまわりと墓地にしかありません。

何とも言えない苦行ですが、兄たちを助けるためにイライザはがんばります。

仮に途中で死んでしまっても、イライザは幸せなのです。

死は神さまの祝福ですから。

肉親を助けるために、自分のことはおかまいなしにがんばれは、祝福が訪れる、と言われても、現代人はピンと来ないでしょう。

ですが、理不尽なことは、いまの世の中でも相変わらず起きます。

そのとき、打ち寄せる波のように、どこまでも粘り強く、家族を助けようとする人は本当にいますね。

人間にはそういう力があると思います。

■兄たちが鳥になるほかの話 

十二人兄弟(グリム兄弟、1857)のあらすじ。

六羽の白鳥(グリム兄弟、1857)のあらすじ。

七羽のからす(グリム兄弟、1857)のあらすじ。

アンデルセン童話は、話が長いので読んであらすじを書くのでせいいっぱいで、あまり考察を書く余裕がありません。が、印象的なシーンもたくさんあるし、いつもどおり、キリスト教がフィーチャーされている話です。

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