火打ち箱(アンデルセン、1835)のあらすじと感想。

アンデルセンの像 アンデルセン童話

アンデルセンがはじめて出した童話集の一番最初の話、『火打ち箱』のあらすじを紹介します。デンマーク語では、Fyrtøiet、英語は The tinderbox(tinder-box)。 tinderboxは、火をつけるための道具です。

超簡単な要約

忙しい人用1行のあらすじ:ある兵士が魔女から奪った魔法の火打ち箱を使って、お金とおひめさまと王様の地位を得る話。

わりと長いので、ふつうのあらすじでもごく簡単に書きます。

魔女に出会う兵士

ある兵士が堂々と歩きながら道をやってきたところ、一人の魔女と出会いました。魔女は、兵士のリュックサックや剣をほめたあと、そばの木を指差して、頼みごとをします。

「あの大きな木の中は空洞になっています。上の穴から入って、底におりておくんなまし。私が腰にロープをつけてあげます。たくさんのランプがあるから、底は明るいですよ。

部屋が3つあって、それぞれ、銅貨、銀貨、金貨のはいった箱があるんです。大きな目をした犬が番をしてるけど、私の青いチェックのエプロンの上にのせれば、おとなしくなります」。

「それは耳寄りな話だが、おまえさんは、何がほしいのだ?」

「実は私の祖母が置いてきた古い火打ち箱も木の中にあるんで、それを取ってきてくれませんか?」

兵士は承諾して、腰にロープを巻いてもらい、エプロンを持って、木の中をおりていきました。

お金をせしめる兵士

魔女の言ったように、底はとても明るく、ドアが3つありました。

腰のロープをほどいた兵士は、律儀に、1つずつ部屋に入って、最初は銅貨をバッグやらに詰め、2つ目の部屋では、銅貨を捨てて、銀貨を詰め、3つ目の部屋では銀貨を捨てて、金貨をリュック、ポケット、帽子、ブーツにできるだけ詰めました。

魔女の言ったとおり、それぞれの部屋には、受け皿のように大きな目(銅貨の部屋)、水車のように大きな目(銀貨の部屋)、丸い鐘楼(round tower)のように大きな目(金貨の部屋)をした恐ろしげな犬がいましたが、エプロンの上に乗せるとおとなしくしていました。

「魔女のおかみさんよ、引き上げてくれ!」仕事を終えた兵士は叫びました。

「火打ち箱、持っておいでか?」

「ああ、すっかり忘れていた」。

火打ち箱を奪う兵士

兵士は火打ち箱をとると、上に引き上げてもらいました。

「この火打ち箱をどうするのだ?」

「あなたには関係のないことです。あなたは、お金をたくさん手に入れたし、私に、火打ち箱を渡しておくれなまし」。

「これが欲しい理由を教えないと、おまえの首をこの剣で切るぞ」

「何も教えません!」

兵士は魔女の首を切って、金貨を魔女のエプロンに包んで、肩にしょい、火打ち箱をポケットに入れると街に向かいました。

お金はそのうちなくなった

兵士は金貨をつかって、最上級の部屋に泊まり、上等の服とブーツを手にいれ、いっぱしの紳士になりました。街の人から王様には美しいおひめさまがいるけれど、銅の城の中に閉じ込められていると聞きます。

「そこには王様しか出入りできません。おひめさまは、ふつうの兵士と結婚すると占いで出たので、それを阻止するために、王様はおひめさまを閉じ込めているのです」。

兵士はおひめさまに会いたいと思いましたが、手立てがありませんでした。その後、兵士はぜいたくの限りをつくしました。いい家に住み、劇場や王様の庭まで馬車で行ったり、貧しい人にお金をあげたりもしました。友達もたくさんできました。

しかし、お金を使ういっぽうだったので、そのうちお金がなくなり、あと銅貨2枚が残るのみ。兵士は、素敵な部屋も衣類も友達も失くし、ボロボロの服を来て屋根裏部屋住まいとなりました。

魔法の火打ち箱

ある晩、ろうそくを買うお金もなく、暗い部屋で悄然としているとき、兵士は火打ち箱のことを思い出しました。火打ち箱を取り出し、火をつけたら、ドアがばーんとあいて、木の底にいた受け皿のように目の大きい犬が出てきました。

「ご主人さま、お望みはなんですか?」

「なんだこれ? この火打ち箱はなんでも願いを叶えてくれるってことなのか? それなら、お金を持ってきてくれ」。

ひゅん! 犬は消えたかと思うと銅貨のいっぱい入った袋を口にくわえて戻ってきました。

兵士は、もとのよい部屋に戻り、またぜいたくな暮らしをはじめました。

「きれいなおひめさまが銅の城に閉じ込められてるって、もったいなさすぎるじゃないか? なんとかしてひと目会いたいものだ」と兵士は思い、火打ち箱を使って、受け皿の目をした犬を呼びました。

おひめさまを運んでくる犬

「もう真夜中だが、おひめさまをひと目みたいのだ」。

犬は消えたかと思うと、すぐに背中に、眠ったままのおひめさまをのせて戻ってきました。おひめさまはとても美しく、兵士は、キスせずにはいられませんでした。

犬はまたおひめさまを城に連れ帰りました。

翌朝、おひめさまは、犬に運ばれて兵士のところへ行き、キスをされた不思議な夢を見た、と国王と女王に言いました。

不信に思った女王は、その晩、侍女におひめさまの枕元で番をするよう申し付けました。その夜も、兵士はおひめさまに会いたくなったので、犬がやってきて、おひめさまを連れ去りました。

侍女はあわてて追いかけ、犬が入っていった家の扉にチョークでばってんをつけました。しかし、犬がおひめさまを返しに行く時、その印を見、チョークで、街中のドアにばってんをつけました。

牢屋に入れられた兵士

全部のドアに印がついていて、家を突き止められなかったので、女王は小さな絹の布にソバの実を入れ、はしに穴をあけて、おひめさまの背中に結びつけました。こうすれば、ソバの実がおちて、行き先がわかるからです。

その晩も、犬がおひめさまを連れにやってきました。犬はソバの実に気づかなかったので、翌朝、国王と女王は兵士の家をつきとめ、兵士を牢屋にとじこめ、「明日、絞首刑にする」と言い渡しました。

火打ち箱を家に置いてきてしまったので、 兵士は、 どうすることもできません。翌朝、刑の執行を準備中、太鼓に合わせて、兵士たちの行進する音が聞こえます。 兵士が 窓から外を見ると、皮のエプロンをした靴屋の少年が走っていました。

「おい、きみ。私の家に行って、火打ち箱をもってきてくれないか? 銅貨を4枚あげるから。急いで持ってきてくれ」

靴屋の少年は、お金がほしかったので、走って火打ち箱を持ってきてくれました。

ハッピーエンド(兵士にとっての)

町外れに、絞首台が用意され、大勢の人が集まってきました。国王と女王、判事、偉い人たち、そして兵士たちの前で、兵士の首に縄がかけられる直前、兵士は、最後に1つだけお願いをきいてくれ、と言いました。この世の最後に、パイプで一服やりたい、という願いです。

国王は、これを許可し、兵士が火打ち箱の火打ち石を3回打ち付けたとき、木の中にいた犬が3匹ともあらわれました。「助けてくれ、首をつらなくてすむようにしてくれ!」兵士は叫びました。

すると犬は、いっせいに判事や偉い人たちに遅いかかり、顔や手足をかんだり、上に放り投げ、地面にたたきつけ、骨を粉々にしました。

「た、たすけてくれ!」国王は叫びましたが、一番大きな犬が、国王と女王を高く放り投げました。兵士たちは震え、人々は叫びました。

「兵士さま! 私たちの王になって、美しいおひめさまと結婚してください!」

人々は、兵士を王さまの馬車に乗せ、3匹の犬はその前で踊り、少年たちは、指笛をならし、兵士たちは敬礼しました。おひめさまは、銅の城から出てきて、女王になりました。婚礼は1週間続き、3匹の犬は祝いの食卓につき、これまでにないほど目を大きく見開いていたのです。

原文(英語)はこちら⇒ Hans Christian Andersen : The Tinder Box

ベースは伝承話

アンデルセンは、童話を創作することが多かったのですが、この話は古くから伝わる伝承話がベースになっています。グリム兄弟も、同じ伝承話をベースにした『青いランプ』という童話を童話集に入れています。『青いランプ』では、兵士は、魔女に井戸の底におきざりにされ、青いランプでたばこに火をつけようとしたら、小人が出てきて、お願いを聞いてくれます。

『青いランプ』の兵士は、魔女を殺しませんし、王様も最後に命乞いをして助かっています。

アンデルセンは、この話を自分の好きな『アラジンと魔法のランプ』ふうの展開にし、かつ、兵士の窮地を救う人間として、靴屋の少年を登場させています。

アンデルセンも貧しい靴屋の息子だったので、この少年はかつての自分なのかもしれません。

火打ち箱は、火打石とそれを打ち付ける金属と、ほくち(火口)がセットになっている小さな箱です。ほくちは、発火させた火をうつしとるもので、炭みたいなものが使われました。

『火打ち箱』のメッセージ

アンデルセン童話は教訓を伝えるものというよりも、人生のおもしろさや不思議さ、悲しさを伝えるものだと思います。この話は、一人の兵士が魔法をつかって、立身出世する話であり、これは、アンデルセン自身の人生と同じです。

彼にとっての火打ち箱、つまり魔法は、小説や童話を書いたことでしょう。

どんなにド貧乏でも、最悪でも、魔法のような何かを用いれば、世に出られるよ、好きなことを追求したまえ、いいことあるから、そんなメッセージがあるのではないでしょうか? 

この童話を書いたとき、アンデルセンは、『即興詩人』(1835)という小説でちょっと成功していましたが、童話は書き始めたばかりで、まだいまのような、世界的な超有名人ではありません。

しかも、童話そのものの評価が低かったのもあり、『火打ち箱』もあまり評判がよくありませんでした。それでも、童話を書かずにはいられなかったアンデルセン。彼は、自分の魔法を大事にした結果、大作家になったのです。

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