しっかり者のスズの兵隊(1838・アンデルセン)のあらすじ

錫の兵隊の人形 アンデルセン童話

ハンス・クリスチャン・アンデルセンの創作童話から、『しっかり者のすずの兵隊』のあらすじを紹介します。英語のタイトルは、The Steadfast Tin Soldier オリジナルのデンマーク語のタイトルは、Den standhaftige Tinsoldat 

アンデルセンの初期の作品で、人間でないものを人間として見立てた彼の最初の作品です(Wiki情報)。

スズは、金属の錫のことで、当時、よくあった錫製のおもちゃの兵隊が主人公です。

1行の要約

紙の踊り子の人形に恋をした片足の錫の兵隊の悲しい顛末、または愛の成就。

片足の兵隊

ある男の子が誕生日に、スズの兵隊の25体セットをもらいます。スズのスプーンから作ったもので、25人目の兵隊を作るとき、材料がなくなったので、この兵隊だけ片足でした。しかし、彼がほかの兵隊と違うのは、足が1本ないことだけで、赤と青のユニフォームを着て、肩に銃をかけ、背筋をキリっと伸ばし、まっすぐ前を見ているのは、全く同じでした。

この話の主人公はこの1本足の兵隊ですが、お話には名前がありません。たいてい、「そのスズの兵隊」とか、「彼は」と出てきます。ここでは「スズ兵」と呼びます。

踊り子に恋をする

スズ兵たちの乗っていたテーブルの奥のほうに紙で作ったお城があり、窓から中をのぞくことができました。中には、いろいろ素敵なものがありましたが、一番美しいのは戸口にいる踊り子の人形です。

この人形は紙製でしたが、モスリンのスカートをはき、両手を広げ、片足を高くあげていました。バレリーナなんですね。肩に、細い青いリボンをスカーフのようにまとい、リボンの真ん中に金の紙で作ったバラがついていました。

スズ兵は、この人形も、自分と同じ片足だと思い込み、自分の伴侶にぴったりだと思います。と同時に身分の差も感じました。相手はお城に住んでいるが、自分の家は、24体の兵隊とシェアしている箱ですから。

「せめて、お近づきになりたいな」

そう思ったスズ兵は、嗅ぎタバコの箱のうしろに体を倒しました。この場所からだと、もっと人形がよ見えるのです。

小鬼の忠告

夜になると、ほかの24体の兵隊は、箱の中に戻り、この家の人間もベッドに入りました。しかし、ほかのおもちゃは、動き出し、踊り、けんかし、大にぎわいです。箱の中に戻った兵隊たちも外に出たくてガタガタ音を立てましたが、ふたを開けることができませんでした。あまりにうるさいのでカナリアが起きて、おもちゃたちに話しかけたり、詩を暗唱したりします。

うるさい中で、全く口をきかない者が2人いました。スズ兵と踊り子です。踊り子は、両手を広げ、片足をあげたまま微動だにしないし、スズ兵は、ただただじーっと踊り子を見つめます(ストーカー気質の持ち主のようです)。

時計が12時を打つと、嗅ぎタバコの箱のふたがあいて、黒い小鬼が出てきました。

小鬼:「ヘイ、スズ兵! 好きになっても仕方ないものをそんなに見るなよ」

しかし、スズ兵は、小鬼をガン無視して、踊り子を見つめ続けました。

小鬼:「ふーん、そうかい、明日になるまで待ってろよ」

窓から落ちるスズ兵

朝になって、子供たちが起きると、スズ兵を窓のところに置きました。すると風のせいか、小鬼のせいか、よくわかりませんが、スズ兵は、窓から落ちました。いつもと同じポーズのまま、スズ兵は3階の窓から、道路の敷石の間に頭から落ちたのです。

少年と少年の世話係は、すぐにスズ兵を探しに行きましたが、もう少しでスズ兵を踏みつけそうなぐらい近くまで行ったのに、見つけることができませんでした。スズ兵が、「僕はここだよ!」と言えばよかったのですが、スズ兵は、「制服を着ているとき、大声を出すのはよくない」、と思っていたので、何も言いませんでした。

そのうち雨が降ってきて、土砂降りになりました。雨がやむと、道を歩いていた2人の男の子が、スズ兵を見つけました。

溝の上を紙の船で行くスズ兵

「見て、こんなところに、スズの兵隊がある! ボートで流そう」

少年たちは、新聞紙で船を作り、スズ兵をのせ、溝に流しました。スズ兵の船と一緒に男の子たちは走りましたが、そのうち見失います。

溝の水の流れはとても早く、船は大揺れに揺れましたが、スズ兵はまっすぐ立ち、じっと前を見ていました。長いトンネルから船が出ると、大きなドブネズミがやってきました。

「通行証をお持ちかな? 見せなさい!」

スズ兵はだまったまま。そして、船はどんどん流れていき、ドブネズミは、あとを追いかけます。

「あいつをつかまえろ。通行料を払っていないぞ。通行証も見せなかった!」

水の流れはどんどん早く強くなり、船は溝の終わりに到達し、そこから海に入りました。この間、スズ兵は、「いったい、僕はどこに行くんだ? これも、黒い小鬼のせいだ。あの人が一緒にいてくれれば、こんなに真っ暗に感じなかったのに」などと、考えていたのですが、表情には全く表れていませんでした。

海の中を沈むスズ兵

船が、2,3回旋回するうちに、水がどんどん入ってきて、縁までいっぱいになり、沈み始めました。スズ兵は、首から上だけ出して、それでもしっかり前を向いて立っていました。そのまま少しずつ沈んでいきます。紙の船はどんどんやわらかくなっていきます。

スズ兵は、かわいい踊り子のことを考えていました。もちろん、相変わらず、顔には何も表れていません。

紙の船が破れ、スズ兵が、水の底に落ちようとしたその瞬間、大きな魚に飲み込まれました。

中は真っ暗。しかしスズ兵はまっすぐ立ったままです。そして突然、すべての音が消え、次の瞬間、昼間の光が差し込みました。

「あらまあ、たまげた。あの兵隊じゃないの!?」

元の部屋に戻るスズ兵

実は魚は誰かに釣られて、市場に並べられ、買われ、ある家のキッチンで、さばかれているところでした。しかも、何という偶然でしょう。そこは、誕生日にスズ兵をもらった男の子の家だったのです。

料理番は、スズ兵を指でつまむと、男の子の部屋に持って行きました。スズ兵のまわりには前見たのと同じ子供たちがいて、同じおもちゃがあり、同じお城の戸口に、例の美しい踊り子がいました。

スズ兵は、感動して、もう少しで涙を流すところでしたが、泣くのは兵隊にふさわしくないと思い、ぐっとこらえました。スズ兵は踊り子をじっと見つめましたが、踊り子は何も言いませんでした。

暖炉にくべられるスズ兵

すると突然、1人の男の子が、スズ兵を暖炉に放り投げました。特に、何の理由もなく。ですが、きっと、黒い小鬼が1枚かんでいるのでしょう。

スズ兵は暖炉の火の中で横になり、すさまじい熱さを感じました。しかし、自分が火のせいで苦しいのか、熱情のせいで苦しいのかはわかりませんでした。

スズ兵の塗料は、すべて取れていましたが、溝と海の中を旅したせいなのか、火のせいなのかもわかりません。スズ兵は、踊り子をじっと見ました。踊り子も彼を見ました。スズ兵は自分が溶けるのを感じましたが、相変わらず、肩に銃をかけて、まっすぐ立っていました。

スズ兵と踊り子の最後

突然、部屋の扉が開いて、すきま風が吹きました。すると、まるで空気の精のように、踊り子が吹き飛ばされ、スズ兵のいる暖炉に落ちて、燃えました。死んでしまったのです。スズ兵のほうは、溶けて、小さな塊になりました。

翌朝、メイドが、灰をかいていると、ハートの形をしたスズ兵を見つけました。踊り子のほうは、何も残っていませんでした。黒焦げになった金箔のバラ以外は。

☆参考にした原文⇒The Steadfast Tin-Soldier | The Yellow Fairy Book | Andrew Lang | Lit2Go ETC

愛は死をもって成就する?

アンデルセンは、よほど暗い性格だったのか、彼の書いた童話には、暗い話が多いです。

このブログで紹介した 赤い靴(アンデルセン、1845)のあらすじ。も、もみの木(アンデルセン、1844)のあらすじ。も、暗いし、人魚姫(アンデルセン、1837)のあらすじ、前編。 もかわいそうなお話です。

まだ、書いていませんが、「マッチ売りの少女」なんて話もあります。

そういう暗い話の中でも、このスズ兵の話は、ウルトラ級に陰鬱な話で、子供に読ませるようなものじゃない、と感じます。この話を読んで、子供たちはどう思うのでしょう。「2人とも死んじゃったんだ…」で終わりそうです。

ただ、この結末、2人は死を持って愛を成就したとも考えられます。ロミオとジュリエットのように。だとすると、ロマンチックなお話です。

ただ、ロミオとジュリエットはバルコニーで、いろいろと語り合っているのに、スズ兵と踊り子は一言も言葉をかわしません。

2人はおもちゃだから、しゃべらないわけではありません。このお話に出てくるおもちゃは、夜になると、皆、しゃべっていますから。2人ともしゃべれるのに、何も話さず、ただ、じっと見つめ合っているのです。

というより、ほとんど、スズ兵がじっと踊り子を見つめていただけで、踊り子が彼に視線を返したのは、スズ兵が再び、元の家に戻って、暖炉の中で燃えているときだけです。

踊り子は彼の視線に気づいていたけれど、最初は「うっとうしい」と思っていたのかもしれません。しかし、彼がいなくなってみると、彼が大事な存在だったことに気づきました。そして、彼が死のうとしているそのとき、自分も一緒に死んだのです…と考えれば、無口な者同士でも、恋が成就すると言えそうです。ただ、この世では成就しません。死ななければなりません。

すると、この話の教訓は、「言いたいことがあったら、プライドなど捨てて、ちゃんと言いなさい」、となります。

アンデルセンは子どものとき、とても貧乏だったし、祖母や両親の性格にも問題があり、決してあたたかい家庭環境ではありませんでした。後に、本人が、「欠乏と貧困しかなかった」と言っていたとても不幸な子供時代。

そういう不幸があったからこそ、豊かな童話をたくさん生み出すことができたのでしょうね。

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