人魚姫(アンデルセン、1837)のあらすじ、前編。

人魚姫の像 アンデルセン童話

ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話から、とても有名な『人魚姫』のあらすじを紹介します。オリジナルのタイトルは、Den lille havfrue、英語は、The little mermaid フランス語はLa Petite Sirèneです。

創作童話で、ディテールが細かく、かなり長い話です。美しいディテールは原文で楽しんでいただくとして、ここではストーリーラインだけを書きます。 それでも長いので、2回に分けます。

人魚姫、簡単な要約

人間の王子に恋をし、さらに人間のもつ永遠の魂をほしいと思った人魚は、自分の声と引き換えに人間になるものの、王子とは結婚できず、海に身を投げるが、空気の精となって、永遠の魂をもつ道が開ける。

海の下にある王国

深い深い海の底に王国があり、海の王様と娘が6人、さらに、王様の母親(娘にとっては祖母)が一緒に住んでいました。王様は、だいぶ前に妻を亡くしたので、祖母が娘の世話をしていました。

この国の人は足がなく、かわりに魚のようなひれがついています。

祖母はとても賢い人で、自分の高貴な生まれに誇りを思っていました。娘6人はみなきれいでしたが、なかでも末の娘はひときわ美しく、名前はついてませんが、ここでは「人魚姫」と呼びます。

人魚姫は、静かで内省的な性格です。物語の冒頭では10歳ぐらいです。

娘たちは、みな1年違いの年子です。15歳になると、海の表面に出て、そこから見える陸地や人間の様子を見ることができます。

海の上から見える世界に、人魚姫は強い関心をいだいていました。

順番に海の表面へ行く姉たち

姉たちが、15歳になるたび、海の表面に出て、人間の生活やそこから見えるものを、いろいろとお教えてくれました。人間の世界は、なかなか魅惑的なところのようです。

ただ、姉たちは、はじめて海の上へ出た時こそ、大興奮するものの、いつでもそこに行けるようになると、だんだん興味を失い、海の王国での生活のほうがずっといいわ、ということで意見が一致していました。

それでも、夕方になると、姉たちは、よく、手に手をとって、海の表面まであがっていきました。そして、嵐が来る前に、もちまえの美しい声で歌を歌いました。

船員に、「嵐が来て、船が沈んでも、怖がらなくていいのよ」という気持ちを込めて歌っていたのですが、船員には、それは嵐のとどろきに聞こえました。

姉たちが海の上に行ってしまうと、人魚姫はさびしくて、泣きそうになりました。しかし、人魚は涙がないので、実際には泣けません。そのため、人魚姫はよりいっそう、胸が苦しくなりました。

15歳になって海の表面へ行く人魚姫

ようやく、人魚姫は15歳になり、海の表面へ出かける日が来ました。おばあさんに、髪飾りや、ひれ飾りをつけてもらってあがっていきます。

ちょうど太陽が沈んだどころで、黄昏の美しい夕方でした。海は穏やかで大きな船が見えます。たくさんの人が音楽に合わせて歌ったり踊ったりしていました。

人魚姫が、船のそばまで泳いでいくと、窓からきれいな服を着た人々が見えました。とりわけ美しいのは、大きな黒い瞳をした王子さまです。彼は16歳になったばかりで、誕生日パーティが開かれていたのです。

王子さまがデッキに出てくると、まるで空の星がいっせいに彼のまわりに落ちてきたかのように輝いています。人魚姫の目は王子さまに釘付けになりました。

そのうち船が揺れ始めました。嵐の到来です。結局、船は嵐に飲まれました。王子さまも海に落ちました。

王子さまを助ける人魚姫

人魚姫は、一瞬、「これで自分は王子さまと一緒にいられる」と喜びました。が、人間は海の中では生きられないことを思い出し、急いで王子さまのところまで泳いでいきます。王子さまを引き上げ、彼の頭を海面の上に出し、そのまま2人で波の流れに身を任せました。

朝になりました。王子さまは目をつぶったままです。しかし、太陽の光のせいか、ほほには赤みがさしてきました。人魚姫は、王子さまの額にキスをして、王子さまの神をなでました。彼はまるで、人魚姫の庭にある彫像(難破した船から流れてきたもの)のようです。

人魚姫は、また、王子さまにキスをしました。目の前に陸地が見えてきました。頂上に雪のある山が見えます。海岸のそばには美しい森も見えます。近くに白くて大きな、教会か修道院のような建物があります。

人形姫は岸まで泳ぎ、王子さまの身体を、頭が高くなるようにして、 白い砂の上に 置きました。あたたかい太陽の光があたるように気を配りました。

そのうち、白い建物の鐘がなり、少女たちが出てきました。人魚姫は、沖合いに戻り、岩のかげにかくれて様子を見守りました。

1人の少女が王子さまに近づき、ほかの人を呼んでいます。ほどなくして王子さまは立ち上がり、そばに立っている少女に笑いかけました。

人魚姫はショックでした。「私には笑いかけてもらえない…」。 王子さまは、自分を助けたのが人魚姫だとは知らないのです。

王子さまが少女たちと建物の中に入っていったのを見届けると、人魚姫は海にもぐり、王国に帰りました。

恋わずらい

もともと、内省的な人魚姫でしたが、この日から、ますます1人静かに、ふさぎこむようになりました。人魚姫はしょっちゅう、王子さまを置いた岸に行きました。雪がとけた山や、実がなった果物の木は見えても、王子さまの姿は見えません。

人魚姫は、悲しみでいっぱいです。庭にある彫像を抱きしめたときだけ、少し気がやすまりました。

あるとき、とうとう耐えられなくなった人魚姫は、姉の1人に王子さまのことを打ち明けました。そのうち、姉の友だちが、王子さまの居所を知っていることがわかり、姉たちは、人魚姫をつれて、王子さまのお城を見に行きました。

きれいな物でいっぱいのすばらしいお城でした。

以後、人魚姫は、ストーカーのごとく、夜になると王子の城に通い詰めます。ギリギリまで泳いでいって、王子さまの姿をながめました。

ほかの船の船員が、「王子さまはとても立派な方だ」とうわさするのを聞いたとき、人魚姫は「助けてよかった」と満足し、彼の頭を自分の胸に抱いたときの感触や、彼に熱いキスをしたときの感覚を思い出していました。

人魚姫は、これまで以上に人間の世界にあこがれるようになりました。

不滅の魂にあこがれる

人間の住む世界は、海の王国よりずっと広そうだし、山、森、陸地と見た目にもバリエーションがあるし、いったいそこはどんな世界なんだろう。

人魚姫は、人間の世界に関して、いくつも疑問を持っていたので、おばあさんに質問してみました。

人魚姫:「もし、人間が海でおぼれなければ、永遠に生きられるの?」

おばあさん:「そうだよ。わたしらは300年生きられるけど、死んだらそこで終わり。海の泡になるだけ。でもね、人間はね、わたしらよりずっと短命だけど、死んでも魂は生き続けるんだよ。

1回生きて死んだら終わるわたしらは、そのへんの海藻みたいなもんさ。切ったら、もう生えてこない」。

人魚姫:「なぜ、私たちには不滅の魂がないの? 人間としてたった1日でも生きられるなら、寿命の100年を差し出してもいいわ。人間の世界にある幸せを知りたいの」。

おばあさん:「そんなこと考えちゃいけないよ。わたしらは、ここにいれば、人間なんかより、ずっと幸せなんだよ」。

原文はこちら⇒Hans Christian Andersen : The Little Mermaid

ポイントは永遠の魂

『人魚姫』の話は、人間に恋をした人魚姫の悲しい運命の話、つまりラブストーリーというイメージを持つ人が多いと思います。

しかし、原文を呼んだところ、この人魚は、人間のもつ、肉体はほろんでも永遠に生き続ける魂に、強いあこがれを持ち、それを自分もほしい、と思っているのがわかります。

単に王子さまと一緒に住みたいから、人間になったわけではないのですね。

このあたり、当時のデンマークの人の宗教観がわからないと理解できない部分ですが、とても重要なポイントだと思います。

なぜなら、この話は、『赤い靴』と同じで、世俗的には、不幸な結果におわっても、キリスト教的には、もしかしてハッピーエンドなのかな、と思わせる終わり方をするからです。

この続きはこちら。

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