六羽の白鳥(グリム兄弟、1857)のあらすじ。

白鳥 グリム童話

グリム童話から『六羽の白鳥』というお話を紹介します。原題は、 Die sechs Schwäne 英語のタイトルは、The Six Swans です。

超簡単なあらすじ

白鳥になってしまった6人の兄を助けるために末の妹が自己犠牲を払う話。

道に迷った王様

昔、ある王様が、狩りに夢中になりすぎて、深い森の中で迷いました。帰り道がわからなくて途方にくれていると、1人の老女がやってきます。ずっと首を振り続けているこの老女は魔女でした。

王様「すみません、森から出る道を教えてくれませんか?」

魔女「もちろんですとも、マジェスティ。ただ、1つ条件があります。私にはとても美しい娘がおります。娘をあなたの后にしてくださるなら、道を教えましょう」。

とても恐ろしかったので、王様はこの条件をのみました。

魔女が王様を自分の家に連れていくと、暖炉のそばに座っていたきれいな娘が、待ちわびていたかのように王様を迎え入れました。

確かに娘は美しいと王様は思いましたが、好きにはなれず、その姿を見ると、身震いせずにはいられませんでした。

王様が娘を馬に乗せると、魔女が道を教え、王様は無事、城に帰り着きました。

子供を隠す王様

この王様には、前の結婚でできた子供が6人いました。上5人が男の子、一番下が女の子です。

新しい嫁が、自分の子供に危害を加えることを恐れた王様は、子供たちを、遠く離れた、誰にも見つけられそうにない城に隠しました。

その城は森の中にあり、そこへ行く道は複雑で、王様自身も覚えられません。

王様は、賢い女からもらった秘密の糸玉を持っており、この糸玉を投げると、糸がばらけて、道を教えてくれるのです。

王様の秘密を知る后

子供に会いに王様がたびたび留守にするので、后は不審に思いました。どこへ行っているのか知りたかった后は、家来を買収して、王様の行き先を調べさせました。

王様の行き先と、彼が魔法の糸玉を使っていること知った后は、糸玉のありかを見つけます。

それから、后は白い絹でシャツを何枚か作りました。

ある日、王様が狩りにでかけたすきに、后はシャツを持って、子どもたちの住む城に行きました。

父親がやってきたと思った子どもたちは大喜びで、わらわらと城から出てきました。すると后は持参したシャツをそれぞれの子供に投げました。

シャツが体にさわるやいなや、子供たちは白鳥になり、空高く飛んでいきました。

詰めが甘かった后

「ほほほほ、まま子を始末してやったわ」。喜んで帰った后ですが、実は下の女の子は、外へ出てこず、人間のまま、まだ城の中にいることを知りませんでした。

翌日、王様が子供たちの城へ行くと、女の子しかいません。

妹は、兄たちが庭に落としていった羽を見せながら、起きたことを伝えましたが、王様は自分の妻がそんなひどいことをするとは信じられませんでした。

兄たちが誘拐されたと思った王様は、娘を連れて帰ろうとしましたが、娘は、もう一晩だけ森にいさせてほしいと頼みます。

まま母が怖かったのです。

妹、兄たちと再会するが

兄たちを探そうと、城を出た妹が、一晩中、森の中を歩き続け、もう歩けない、と思ったそのとき、狩人の家を見つけました。

その家に入ると、小さなベッドが6つあります。妹は、ベッドの下に入り込み眠りました。

朝になると、何やら物音がしたので見てみると、窓の向こうで白鳥が6羽、地面に降り立とうとしています。

1羽ずつ降り立つと、その白鳥は、人間の姿に変わりました。そう、彼らは、兄たちでした。

喜んで妹が出ていくと、兄たちも笑顔になり、7人はしばしの再会を喜びました。

魔法をとく方法

兄「おまえはここにはいられないよ。ここは、盗人の家なんだ。見つかったら殺される」

妹「私を守って」

兄「だめだ。僕たちが人間の姿でいられるのは、毎晩15分間だけなんだ」

妹「もう人間に戻れないの?」

兄「戻れない。人間に戻る条件はすごく難しくてね。おまえが、6年間、笑いも話もせず、アスター(キク科の植物)で、僕たちにシャツを作らなきゃだめなんだ。

一言でも話をしたら、それまでやった仕事はすべておじゃんになる」

こう言うと兄たちは、また白鳥になりどこかに飛んでいきました。

チャレンジする妹

難しい条件ですが、妹はこの困難な仕事をして、兄たちを人間に戻してみせると決めました。

娘は森の木に座って、一晩過ごし、翌日、アスターを集めて、縫い始めました。

誰にも何もしゃべらずに。ニコリともせず。木の上に座ってひたすら仕事に打ち込んだのです。

それからずいぶん長い時間がたちました。ある日、妹が、もくもくとシャツ作りをしているとき、その国の王様とおつきの猟師たちが通りかかりました。

べつの王様に見初められる妹

まず猟師たちが、妹にいろいろ質問し、いっしょにおいでと言いましたが、妹は首をふるだけ。

妹は自分の金のネックレスや、ベルト、ガーターなど身につけているものを1つずつ猟師に投げて、追っ払おうとしましたが、猟師はあきらめません。

とうとう妹は下着1枚の姿になりました。猟師は、木にのぼって、妹をかつぎだし、王様のところに連れていきました。

王様が、「おまえはだれだ? 木の上で何をしていた?」と聞いても妹は何も言いません。

妹があまりに美しかったので、王様は彼女に恋をし、結婚することにしました。

美しいドレスを着せると、この娘は光輝いたし、立ち居振る舞いも優美でした。

王様の母は不満だった

王様の母は、この結婚に不満で、若き女王の悪口を言いました。どこの馬の骨ともわからない娘で、王様にふさわしくない、とかなんとか。

悪口を言うだけではく、母親は実力行使に出ました。

翌年、女王が子供を生んだら、王の母は女王が寝ているあいだに、子供をどこかへ連れていき、女王の口のまわりに血をぬりたくりました。

そして息子に、「女王が子供を食べた」と言ったのです。

しかし、王様はそんなことは信じません。

この騒ぎをよそに、女王はただだまって、シャツを作っていました。

翌年、第2子が生まれたときも、母親は同じことをしましたが、王様は信じません。

ですが、その翌年、第3子が生まれたとき、母親が同じことをして、「女王は人食い鬼だ」とうったえたとき、彼女が何も抗弁しないので、王様は女王を裁判にかけざるを得なくなります。とうとう、女王は火炙りの刑を言い渡されました。

祈願成就の日

刑が執行される日は、6年目の最後の日でした。6着のシャツはほぼできあがっていました。最後のシャツの左袖は間に合いませんでしたが。

木にくくりつけられた女王は腕にシャツをかけていました。

火がつけられる直前に、6羽の白鳥がバサバサと飛んできました。

女王は、順番に、白いシャツを白鳥に投げました。シャツが体にさわるやいなや、羽が落ち、兄たちは人間に戻りました。

雄々しくてハンサムな男性に。

一番下の兄は左腕があるべきところに、白鳥の羽がそのまま残っていました。

兄と妹は抱き合って大喜び。それから女王は、王様に「ようやくあなたにお話できますわ。私は無実です」と話し始めました。

自分の母親が子供を奪って隠したことが暴かれ、子どもたちは戻されました。

母親は罰として、火炙りになりましたが、王様と女王、そして6人の兄たちは、その後、長きにわたって幸せに平和に暮らしました。

原文(英語)はこちら⇒Grimm 049: The Six Swans

アスターって?

アスター(aster)で画像検索すると、こういう花が出てきます。

アスター

辞書には、キク科アスター属(シオン属)の植物の総称。シオン・都わすれなどがあり、園芸では特にエゾギクをさす、とあります。

茎をつかって、シャツを縫った(織った?)と思われます。

どうやって作成したかは私にはわかりません。

まあ、どうやってやったのかわからないことは、この童話にはたくさんあります。

たとえば、王様の母は、新生児をどこに隠したのか? 最後に王様の手に戻されるまで、いったい誰が育児をしたのか?

女王の口にぬった血はどこから調達したのか? なぜ女王(妹)は、毎年、同じパターンで、みすみす子供を取られてしまうのか?(シャツ作り以外のことは眼中にないのかもしれない)

兄6人は、どうやって魔法をとく方法を知ったのか?

妹は、6年も、どうやって口をきかずに生きることができたのか? 口がきけないなら、なぜ、文章に書くという手段を使わなかったのか?

物語の途中から存在がなくなる、兄と妹の父は何をしているのか? 子供を捜索しなかったのか?

などなど。

なお、シャツと訳しましたが、妹が作ったのは、王子様たちが着るのにふさわしい御召し物だと思います。

愛と献身の勝利

鳥になってしまった兄たちを、妹が助ける話は、いくつかあり、このブログでも、兄がカラスになった話を紹介しています。

十二人兄弟(グリム兄弟、1857)のあらすじ。

この手の話で一番有名なのは、アンデルセンの創作童話、『野の白鳥』でしょう。

子供のころ、絵本で読んだことがあります。

兄も妹も何も悪くないのに、魔法をかけられてしまうのが気の毒ですが、そういうことがあっても、妹は献身的に兄を助けなければならない、家族や兄弟は大事にしなくてはならない、というのが、この話の教訓でしょう。

ことの発端を作ったのは、一番最初に出てくる王様です。

彼は、おつきの猟師や家来がいたのに、狩りに夢中になりすぎて、1人でどんどん森の奥深くに入ってしまったのです。

一国をおさめる人としては、軽率すぎます。

このエピソードから、森へ行く時は地図を持参するか、自分がわかっている道をいきなさい、というモラルが得られます。

でも、もしかしたら、すべては、魔女の策略だったのかもしれません。

娘を王様に嫁がせたい魔女が、魔法をつかって王様をばかしたという線も考えられます。

そのような邪悪な母と娘の魔力も、妹の愛と献身には負けるのです。

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