十二人兄弟(グリム兄弟、1857)のあらすじ。

白いユリ グリム童話

グリム童話から、「12人の兄弟」というタイトルの童話を紹介します。

原題は、Die zwölf Brüder 英語のタイトルは、The Twelve Brothers。

簡単すぎる要約

カラスになった12人の兄弟を人間に戻すため、末娘のお姫様が、とても困難なことをして、ギリギリで成功する話。

もうすぐ子供が生まれる

あるところに、王様とお妃様、そして、12人の息子がいました。

お后様は13人めの子供を妊娠中です。

王様は、もし生まれてくる子が、女の子なら、この子に全財産を渡したいから、そのときは、上の12人の息子は殺す、と言って、棺桶の準備をします。

お后様が、嘆き悲しんでいると、一番下の息子、ベンジャミンが、「お母様、なぜそんなに悲しそうなのですか?」と聞きました。

お后さまが、事情を話すと、けなげなベンジャミンは、「お母様、泣かないで、僕たちは逃げて、なんとか生きるから」と言います。

お妃さまは、「ではお兄様たちと森にお逃げなさい。そこで、一番高い木に登って、城の塔のほうを見張っていて。

もし男の子が生まれたら白い旗をあげるから、そのときは戻っておいで。女の子だったら、赤い旗をあげるから、そのときは、できるだけ遠くに逃げなさい」と言いました。

生まれたのは女の子だった

兄弟たちは森に行き、順番に木にのぼって塔をチェックしました。

ベンジャミンが当番のとき、母親が赤い旗をあげました。

この話を聞いた兄たちは、「なんてこった。女の子のために、死ぬはめになるなんて。復讐しなければ。これから女の子を見つけたら、赤い血を流させてやる」と誓いました。

兄弟は、森のもっと奥に逃げ、小さな魔法の家(bewitched house)を見つけます。そこは空き家だったので、住むことにしました。

兄たち「ベンジャミン、おまえは一番小さくて力がないから、家にいて家事をしろ。僕たちは、外に食べ物を取りに行く」。

その日から、兄たちは、狩りに行き、ウサギ、シカ、鳥など食べられそうなものは何でも取ってきました。

料理はベンジャミンの仕事です。こうして、兄弟は、10年間、この家でわりに平和に暮らしました。

妹、兄の存在を知る

その間、妹も成長しました。この子は、美しい顔とやさしい心の持ち主。しかも、額には金色の星がついていました。

ある洗濯日に、妹は、12枚の男性用のシャツを見つけました。父親のものにしては小さいので、一体誰のかしら、と母親に質問したところ、母親は事情をすっかり話しました。

父があつらえた棺桶を見せ、泣いている母親に、妹は、「お母様、泣かないで。私がお兄様たちを探してきます!」と言って、見つけた12枚のシャツを持って、森に向かいました。

妹は1日中歩き、夜になって、魔法の家にたどりつきました。

中に入ると、若者(ベンジャミン)がいます。

ベンジャミン「きみはいったいどこから来たの? そしてどこに行くつもりなの?」

妹「私はプリンセスで、12人の兄を探しています。見つかるまで、歩き続けますわ」

女の子は、雰囲気が神々しく、王族のドレスを着ていたし、額に金の星までついているので、ベンジャミンは、その子が妹だとわかりました。

妹、兄たちと住み始める

ベンジャミンは、自分はすぐ上の兄だと打ち明け、ふたりは抱き合って再会を喜び合います。

兄たちは、「女子を見つけたら殺す」、と言っているので、ベンジャミンは、ひとまず、妹をおけの下に隠しました。

夜になって兄たちが帰ってきました。

兄たち「きょう、何かあったかい?」

ベンジャミン「兄さんたち、知らないの?」

兄たち「いや、知らない。いったい何があった?」

ベンジャミン「次に会った女の子を殺さないと約束してくれた話す」

兄たち「よし約束しよう」

ベンジャミン「僕たちの妹が来たんだ」

こうやってベンジャミンは、妹を紹介し、兄たちも大喜びし、妹を心から愛しました。

この日から、妹とベンジャミンが家で家事をし、兄たちが外に狩りに行くようになりました。

ベンジャミンと妹はいつもおいしいごちそうを作り、家を美しく整え、13人は幸せに暮らしていました。

兄たち、カラスになる

ある日、妹はとなりの庭に、白いユリが12本咲いているのを見つけます。兄たちを喜ばせようと、妹はこのユリを摘みました。1人に1本ずつあげようと思ったのです。

しかし、花を摘んだその瞬間、12人の兄弟は、全員カラスになり、森の奥に飛んでいき、家も庭も消えました。

突然老女があらわれる

妹は、森で一人ぼっちになりました。ふと目をあげると、隣に老女が立っています。

老女「ああ、おまえはいったいなんてことをしたんだい? なぜユリをそのままにしておかなかったの。ユリはおまえの兄たちだったのだよ。兄たちは永遠にカラスになってしまった」

妹「えええ? もとに戻す方法はありませんか?」

老女「たった1つだけある。だがむずかしいよ。おまえが7年間、一言も口をきかず、笑いもしなければ、兄たちは人間に戻れる。しかし、一言でもしゃべったら、兄たちは殺されてしまうだろう」。

妹「必ず、お兄様たちをもとに戻してみせます!」

妹は、高い木のてっぺんに登り、座って糸を紡ぎ始めました。一言もしゃべらず、笑いもせず。

素敵な王様もあらわれる

ある王様が森に狩りにやってきました。お供の犬が、木の上にいる娘を見つけて、さかんに吠えます。

王様は、額に黄金の星がついている美しいプリンセスを見て、一目で恋に落ち、結婚を申し込みました。

娘は何も言わず、首をたてにふりました。

王様は娘を木からおろし、馬にのせ、自分の城に連れていき、結婚式をあげました。

盛大な式が行われましたが、花嫁は一言も話さなかったし、笑いもしません。

それでも、2人は数年間幸せに暮らしました。

王様の母の策略

王様の母は、心がゆがんでおり、だんだん、若い女王(しゃべらない娘)をいとましく思うようになります。そして、息子に盛んに、義理の娘の悪口を言いました。

「笑いもしゃべりもしないなんて、魔女に違いない」、と、あることないこと言いたてたのです。

最初はとりあわなかった王様ですが、母があまりにしつこく、いろいろ言うので、とうとうある日、妻を死刑にすることにしました。

城の中庭に、火が焚かれ、妻がまさに焼かれようとしているのを、王様は、城の上のほうから、見ていました。目に涙をためながら。

彼はいまも、妻を深く愛していたのです。

7年間の終わり

若い女王が火刑柱に結び付けられ、ドレスに火がついたそのとき、ちょうど7年の最後の瞬間が終わりました。

12羽のカラスが、ばさばさと集まってきて、地面におりてきました。カラスが地面にタッチしたその瞬間、12人の兄弟がすくっと立って、妹を火の中から助け出し、皆でがしっと抱いて、キスをしました。

ようやく口をきけるようになった妹は、王様(夫)に事情をすっかり話しました。

王様は、妻が無実だったことを知り喜び、それ以後、2人は死ぬまで幸せに暮らしました。

王様の母親は、裁判を受け、煮えたぎった油と、毒蛇の入った樽に入れられ、苦しみながら死にました。

原文(英語)はこちら⇒Grimm 009: The Twelve Brothers

どこまでも強い妹の愛

「12人兄弟」というタイトルの童話ですが、この話の主人公は、妹です。

妹は、7年間、たとえ、魔女の罪をきせられても、火炙りの刑を言い渡され、実際服に火がついて、殺されそうになっても、何も言わなかったから、兄弟たちは、人間に戻ることができました。

ふつうできませんよね。

絶対しゃべると思います。

意味のあることは言わなかったとしても、「ああ、熱い!」とか、「お兄様!」とか「お母様!」ぐらい言いそうなものです。

笑わないのもけっこう大変です。

私は、1日だってできそうにありません。しかし、この妹は7年も黙っていました。

それは、兄たちを人間に戻したいという強い意志があったからです。

深い家族愛があったから、最後はハッピーエンドになったのです。

まあ、この妹は、生まれたときから、額に金色の星がついていてふつうではありませんが、自分のパワーを身をもって示したことになります。

先日記事にした、Frozen(アナと雪の女王)のエルサみたいです。

Frozen (アナと雪の女王)(2013)の感想。

ベンジャミンの活躍

12人の兄たちの一番下のベンジャミン(Benjamin)は、「聖書からその名前をとった」と原文にあります。

ベンジャミンは、ヘブライ語でベニヤミンで、旧約聖書に出てくるヤコブの12人の子のうちの一番下の子供です。

ベニヤミンは、「右手の子(右利きの子)」という意味で、幸運な子であり、後継者を意味します。

ここから、家族の中の末っ子や、グループ内での最年少者のことを意味する、フランス語の普通名詞、benjamin, benjamine(女子の場合)ができました。(読み方は、バンジャマン、バンジャミヌ)

この童話では、主役は、妹(名前はない)ですが、すぐ上の兄ベンジャミンは、彼だけ名前があって、わりと重要な役どころです。

彼がみょうにフェミニンで、白雪姫のように、家事をするところがおもしろいです。

また、父親が息子ではなく、娘に全財産ゆずろうとするのも、童話の話の中では異例です。

ふつう、長男にゆずりますから。

役割が反転しているのが興味深いですね。

*****

たとえ娘に財産をゆずっても、兄たちを殺すことはないので、かなりむちゃくちゃな父親ですが、この王様は、娘が特殊なパワーを持って生まれてくる、と気づいていたのかもしれません。

女性にもパワーがある、と伝えるこの童話は、今日的な物語と言えるでしょう。

自己犠牲とも言えますが、私は、パワーだと考えたいです。

そういう意味では、『雪の女王』などの美女と野獣系(クピドとプシュケ)の話と似ています。

雪の女王(アンデルセン、1844)のあらすじ。

クピドとプシュケの物語(ギリシャ神話)のあらすじ(前編)。

12人のおひめさまが出てくる話もあります。

踊る12人のおひめさま(グリム兄弟、1857)のあらすじ。

鳥になった兄たちを助けるべつの話。

六羽の白鳥(グリム兄弟、1857)のあらすじ。

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