キャット・シンデレラ(ジャンバティスタ・バジーレ、1636):イタリアのシンデレラのあらすじ。

かまど シンデレラ

イタリア版シンデレラ、『キャット・シンデレラ』のあらすじを紹介します。

17世紀に、イタリアのジャンバティスタ・バジーレ(Giambattista Basile 1573?‐1632 )という詩人(軍人でもあった)が書いた童話集、Pentamerone (ペンタメローネ、五日物語)に入っているもので、原題は、チェネレントラ(Cenerentola)です。

チェネレントラが、かまどの灰の前で、猫のように丸くなっていることから、英語圏では、『キャット・シンデレラ』と呼ばれています。

なお、ロッシーニの、ラ・チェネレントラとは違う話です(まあ、あちらもシンデレラなので、同じといえば同じですが)。

意地悪なまま母

昔むかし、妻をなくした公爵がいました。公爵は一人娘のゼゾーラを、とてもかわいがっていました。

彼は娘のために家庭教師をつけ、ゼゾーラはこの家庭教師になついていました。

そのうち、公爵は再婚しましたが、相手はとてもいじわるな女性で、すぐに公爵の連れ子、ゼゾーラを憎むようになりました。

まま母はいつもゼゾーラを憎々しげに見るので、ゼゾーラは、家庭教師に、「ああ、あなたが新しいお母さんだったらよかったのに。あの人、すごく私をいじめるの」とこぼして、不平不満を歌にして、えんえんと歌っていました。

家庭教師の入れ知恵

家庭教師は耳にスズメバチが入り、小人にばかされてしまい、ゼゾーラにこんなアドバイスをしました。

「もし私の言うようにしたら、私があなたの母親になって、大事にしてあげるわ。お父様が外出したら、まま母に、衣装箱に入っている古いドレスを取って、と頼むのよ。いま着てるものの代わりに着るから、と言って。

まま母はあなたにボロを着せたいから、喜んで古着を取ろうとするはずよ。そして、あなたに、衣装箱のふたを持っていて、と頼むでしょう。

まま母が箱の中を探しているとき、ふたを落としなさい。そしたら、まま母の首の骨が折れるわ。その後、お父様に、私を妻にするよう頼みなさい」。

ゼゾーラは言われたとおりにし、まま母の喪があけると、すぐに父親に、カルモジナ(家庭教師の名前)と結婚するよう説得しました。

灰かぶりに成り下がる

父と家庭教師の結婚の祝宴のとき、窓際に立っていたゼゾーラのところに、鳩がやってきました。

鳩「もし、何か頼みたいことがあったら、サルディーナ島の妖精の鳩にお願いしてね。すぐに願いは叶えられるわ」。

カルモジナは、1週間ほどは、びっくりするほどゼゾーラをかわいがりましたが、これまで隠していた6人の実の娘を連れてきてからは、ゼゾーラは、まま母からも父親からも、無視されるようになりました。

ゼゾーラは、素敵はマイルームから、台所に追いやられ、ボロを着て、かまどの灰の世話をするようになったのです。

いまは、皆、彼女をチェネレントラと呼ぶようになりました。

出張する父親

公爵は、サルディーナ島に用事で出かけることになり、6人の娘それぞれに、おみやげのリクエストを聞きました。

みな、ドレス、アクセサリー、宝石などをリクエストしました。

公爵は実の娘にも、半ばからかいぎみに、「で、おまえは何がいいのかな?」と聞きました。

「特になにも。でも、妖精の鳩に、私のことを話して、何か送ってくれるよう頼んでください」。

公爵はサルディーナで用事をすまし、娘たちに頼まれたものを買い整えましたが、ゼゾーラに言われたことはすっかり忘れていました。

公爵が帰りの船に乗ると、船はまったく動きません。船長や、乗組員がどんなにがんばっても。疲れ切った船長が眠ると、夢に妖精が出てきました。

「どうして、船が動かないかわかる? 公爵が、実の娘との約束を破ったからよ」。

船長から夢の話を聞いた公爵は、妖精の洞窟に行き、ゼゾーラのために何かくれないか頼んでみました。

妖精の贈り物

すると洞窟から、美女が出てきて、「私のこと、覚えていてくださってありがとう、と娘さんに伝えてくださいな。そして、これをどうぞ」と言って、ナツメヤシの苗木、くわ、小さな金のバケツ、シルクのハンカチを差し出しました。

公爵は贈り物を受け取り、国に帰り、娘たちに土産物を手渡しました。

ゼゾーラは、とても喜び、花壇になつめやしの木を植え、まわりにくわで穴をあけ、バケツで水をかけ、ハンカチで、ナツメヤシの葉をきれいに拭きました。

数日のうちに木は女性ほどの背丈になり、そこから妖精が出てきて言いました。

妖精「何が望みなの?」

娘「たまには、姉たちに知られずに家を抜け出したいの」

妖精「願いごとがあるときは、いつでも、この花壇まで来て、こう言うのよ。

わたしの小さなナツメヤシの木、わたしの黄金の木、…中略… わたしにきれいなドレスを着せて!

ドレスを脱ぎたいときは、最後の文章を、『ドレスを脱がせて』に変えればいいわ」。

パーティに出かける

街でパーティが行われることになり、まま母の娘たちは、美しく着飾りました。ゼゾーラは、ナツメヤシの木のところに大急ぎで行き、教わった呪文を唱えました。

すると彼女は女王さまのような美しい出で立ちになり、立派ななりをした小姓(ペイジ)が12人出てきました。

このパーティには、若き王さま(独身らしい)も来ていて、ゼゾーラの美しさにすっかり魅了されました。王さまはこの女性の正体と家をつきとめるよう、家来に命じました。

ゼゾーラは、こっそりこの話を聞いており、かねてよりナツメヤシの木に作らせておいた銀貨をばらまきました。

家来が銀貨を拾うことに夢中になっているあいだ、ゼゾーラはさっさと家に帰り、いつもの古着を着て、姉たちを出迎えました。

一方、王さまは家来がちゃんと仕事をしなかったことを怒り、次のパーティでは、女性の正体と家をつきとめるように命令しました。

2度めのパーティ

2度めのパーティも、1回目と同じように進み、会場で王さまは、ゼゾーラにうっとりし、姉たちは、この謎の美女におおいに嫉妬の炎を燃やしました。

帰る時、ゼゾーラは今度は、真珠や宝石をばらまいたので、またも家来はそれを拾うことに夢中で、彼女を見失いました。

王さまは家来にものすごく怒り、今度こそ、美女の正体をつきとめないと、とんでもない目にあわせるぞ、と脅しました。

3度目のパーティ

3度目のパーティも、1回め、2回めと同じように進み、ゼゾーラはますます美しい女王のような出で立ちで出席しました。

家に帰るとき、家来はゼゾーラの乗った馬車を走っておいかけてきました(馬に乗っていたと思う)。ゼゾーラは、「早く、もっと早く、スピードを出して!」と御者に言いました。

御者が猛スピードで馬車を飛ばした、その瞬間、ゼゾーラは靴を片方落としてしまいました。家来はこれを拾って、王さまに届けました。

美しい靴を見て王さまは、「靴がこんなに美しいとしたら、その持ち主はどれほど美しいことか」と思い、国中の娘たちを食事に呼び、持ち主探しをすることにしました。

靴の持ち主探し

身分にかかわらず、娘たちは、宴会にやってきて、1人ずつ、靴をはいてみましたが、足に合う者は1人もいません。

王さま「明日、また来て、わたしと食事をしてくれ。1人たりとも娘を家に置いてきてはいけない」。

公爵「そういえば、もう1人、家に娘がいますが、いつも灰のそばにいる、みすぼらしいバカ娘ですから、ここで王さまと食事をするなんて、とんでもありません」。

王さまは、その娘を一番に連れてくるよう、公爵に言いました。

ゼゾーラ、女王となる

翌日、 カルモジナの娘たちは、ゼゾーラを連れて宴会にやってきました。王さまは、ゼゾーラをひと目見ただけで、「この人だ」と確信しましたが、宴が終わるまで、何も言いませんでした。

食事が終わって、ゼゾーラに靴をはかせようとしたら、まるで磁石のように、彼女の足にぴったりと合うではありませんか。

王さまはゼゾーラを抱き寄せ、隣の椅子に座らせると、頭にかんむりを乗せました。女王の誕生です。

この様子を見た姉たちは、怒りと嫉妬でいっぱいで、急いで家に帰って母親に訴えました。

「王さまは気が狂ってるわ! 私たちを退けるなんて!」

五日物語(ペンタメローネ)について

ペンタメローネは、 ジャンバティスタ・バジーレ がナポリの方言で書いた童話で、10人の語り手が、5日間、いろいろな話しを聞かせる、という形です。ナポリに伝わる昔話が全部で50入っています。

2巻あり、著者の死後 1634年と1636年に出版されました。ヨーロッパ最古の童話集で、シャルル・ペローやグリム兄弟の童話集にのっている話の原型が多数収録されている、と言われています。

ジャンバティスタ・バジーレ

ナポリの言葉を解読できる人がいなかったので、長らく埋もれていましたが、20世紀になって、ナポリ語に通じた学者が現代のイタリア語に訳してからは、広く知られるようになりました。

確かに、『キャット・シンデレラ』はグリム童話のシンデレラによく似ています。鳩や木が出てくるところや、木がドレスを出してくれるところなど。

シンデレラ(グリム童話、アシェンプテル)のあらすじ(1)

いきなり、まま母を殺したシンデレラが幸せになるってどうなのか、とも思いますが、ストーリー展開はおもしろいと思います。

なお、原文(英語)では、ゼゾーラの父親はprince ですが、王子と訳すとわかりにくくなるので、公爵としました。prince は、英国以外の公爵、という意味もありますから。

ゼゾーラの父親は庶民ではなく、王さまではないものの、身分の高い人なのです。

バジーレは、イタリア語が統一されて、ナポリ方言がなくなってしまうことに危機感をいだき、この童話集を書いたそうです。このあたり、ドイツのアイデンティティを確立したくて、グリム童話を編さんした、グリム兄弟に似ていますね。

グリム兄弟(グリム童話の編さん者)の経歴

関連書籍

ペンタメローネは、昔、日本でも翻訳されましたが、いまは絶版になっています。

英語に訳されたものは、ゼロ円で購入できます。

しかし、レビューを見ると、「訳が古い」とあります。きっと大昔に英語に訳されたものなのでしょう。確かに、古い英語だと、たとえ童話でもすごく読みにくいのですよね。

先日まで、シンデレラのバリエーションを7つ集めた英語の本を読んでいたのですが、古い英語でよくわからないところがいっぱいありました。読みやすい本が見つかったら、『ペンタメローネ』も読んでみるつもりではいます。

なお、映画『ジェーン・バーキン in シンデレラ』は、『キャット・シンデレラ』と一部よく似ています。父親が、娘たちのおみやげのリクエストを聞いたり、洞窟に魔女(ジェーン・バーキン)が住んでいたり)、主人公の名前がゼゾーラだったりするところが。

ジェーン・バーキン in シンデレラ(2000)の感想

シンデレラは、もともとは木(母親や魔法使い)から、ドレスを出してもらっていたのかもしれません。シャルル・ペローは、その話に、魔法使い、かぼちゃの馬車、ガラスの靴という鉄壁の小道具を配して、おもしろい童話にしたのだろう、と考えています。

シンデレラ(シャルル・ペロー版)のあらすじ-1

コメント

タイトルとURLをコピーしました