ジェーン・バーキン in シンデレラ(2000)の感想

谷間 ペロー童話

イギリスのテレビ映画、Cinderella(シンデレラ)を見ましたので、感想を書きます。

邦題は、「ジェーン・バーキン in シンデレラ」となっております。確かにジェーン・バーキンが、フェアリーゴッドマザーにあたる人魚みたいな魔法使い(しかし人間らしい)として、出てきます。

日本でのジェーン・バーキンの人気の高さを思わせる邦題ですが、この「シンデレラ」の主役は、 継母役のキャスリーン・ターナーです。 時代背景は1950年頃と思われます。

ジェーン・バーキン in シンデレラ 、基本情報

公開:2000年1月1日(元旦に放映されたのですね)。
監督:ビーバン・キドロン
主演:キャスリーン・ターナー、デヴィッド・ワーナー、ジェーン・バーキン、マルセラ・ブランケット(シンデレラ役の女優)。
シンデレラと王子を演じた人は、日本ではあまり知られていない役者さんです。
ロケ地:マン島

DVDの予告編です。2分6秒。

予告編を見ると、「なんか変わってる」と思うかもしれません。実際、本当にちょっと変わったシンデレラなので、好き嫌いが分かれるでしょう。アマゾンのレビューも評価が割れています。私も1回目を見たときは、「なんか変なもの見てしまったよ」と思ったのですが、じっくり2回めを見たところ、「わりと好きかもしれない」という結論に落ち着きました。

シンデレラという物語のふところの深さがわかる映画

ディズニーアニメの、「信じれば夢は叶う。魔法でおひめさまに変身して、舞踏会へ。楽しく踊っていたら、12時だわ。階段を降りているうちに、ガラスの靴がぬげるけど、最後はキラキラのハッピーエンド」みたいな世界を期待していると、「げ、何これ?」と思ってしまうでしょう。

けれども、シンデレラという話は、 決して ディズニーアニメ版が正統とは言えません。いろいろな文化圏にいろいろなシンデレラがいるわけで、この映画は、シンデレラという話のふところの広さを思わせてくれます。

原作はいろいろなものがミックスしている

このシンデレラの概略は、シャルル・ペロー版といえますが、ところどころグリムも入っています。たとえば、シンデレラ(ゼゾーラ)は、よく母親の墓に参っているのですが、墓石にしばしばタカが止まっています。このタカが、シンデレラを、マブという名のジェーン・バーキン演ずる、人魚みたいな女性がいる洞窟に案内するのです。

また、予告編にも出てきますが、父親が出かける前、3人の娘にお土産のリクエストを聞く場面は、グリム童話にあるものです。しかし、このシーンは、「リア王」のワンシーンととらえたほうがいいのかもしれません。

なぜなら、父親は、娘たちに、自分をいかに愛しているのか言ってくれ、とのたまうし、姉たちの名前はゴネリルとリーガンだからです。

父親が娘たちに土産のリクエストを聞く場面は、「美女と野獣」にもありますね。

継母が、姉たちの足を、必死に靴にねじこもうとしてもどうしても入らないので、「しかたないわ、どちらかにつま先をあきらめてもらうわ」と、のこぎりを持ち出すシーンは、グリム童話のシンデレラです。グリムでは、実際に足を切りますが、この映画では、王子が、「ばかなことはやめるんだ」と言って止めます。

ちなみにこの靴はガラスの靴ではなく、宮廷のバラの花の花びらでできた靴です。

前半はゴシックロマン、後半はコメディー?

この映画の前半は、母親のお墓のある荒野みたいな場所の描写や、さむざむしい海や崖、洞窟のシーンなどがなかなか素敵で(単に私の好みというだけかも)、ちょっとブロンテ姉妹の世界を思わせます(スケールは小さいですが)。お屋敷の中も薄暗くて、ろうそくがいっぱいあって、好きな雰囲気です。

(薄暗くて、シックだったお屋敷の雰囲気は、派手派手しい、継母とまま姉の登場で、こわされてしまいますが)。

ところが、舞踏会(ロイヤル・ガラ)に出かけるころから、なんとなく、はちゃめちゃになっていき、これはもしかしてコメディなんだろうか、と思いました。英語がしっかりわかると、もっと笑えると思います。まあ、まま姉2人は、最初からかなりはちゃめちゃではあります。

この姉2人は夕食ではやたらとワインを飲むし、部屋ではセクシーな黒い下着を着て、お酒を飲みながら、たばこをふかし、シンデレラを堕落させようとする、おとぎ話にあるまじき、性悪ぶりを見せます。

しかも、この2人、明らかにクレイジーです。

お墓のそばには羊たちがいて、シンデレラはかわいがっているのですが、姉たち2人は、いきなり、ここで狩りをはじめ、羊を一頭殺してしまったりします。

キャスリーン・ターナーが好演

お金や名誉にしか興味のない意地悪な継母を、キャスリーン・ターナーがうまく演じています。この母は、シンデレラの父が、金持ちの貴族だと思って一緒になったのですが、実は、この家は没落貴族で、お金は全然ないのです。

それを知った継母はものすごく怒り、夫(シンデレラの父)に、「現金をもってこない限り、寝室は別よ」と言い渡します。

夫は、「そうか、実はロイヤルガラの招待状をもらったんだけど、きみは行きたくないんだね」みたいなことを言うと、態度が豹変し、「まあ、あなた、素敵。もちろん行きますとも」とすりよってきます。

しかし、それでも、寝室は別で、夫を地下室みたいなところに押し込み、布団を投げてよこします。それだけでなく、彼女は夫に毒をもり、彼は次第に衰弱していきます。

ジェーン・バーキンもなかなかいい

愛想がなくてそっけないものの、何かとシンデレラに親切にする人魚(?)のマブ役のジェーン・バーキンもいいです。

おすすめは、最後のほうのマブと王子さまとの会話。王子さまは、舞踏会でシンデレラに会ったとき、彼女のドレスが気に入り、「そのドレス、素敵だね。どこで買ったの?」と聞きます。

これも、なんか変な質問ですけど、シンデレラは、「山にある滝よ。そこの洞窟で手に入れたの」と言います。

この王子さまは、世間知らずなので、本当に洞窟にハイファッションを販売するブティックがあると思って、やってくるのです。

そこでマブに会い、「国中の女性に靴をはいてもらったけど、愛しい人が見つからない」としょげていると、マブが、「あんた、それでも男なの? 惚れた女なら、死ぬまで探すもんでしょ」と激励し、「あんた、本当に国中の女にはいてもらったの? 本当に本当に確かなの?」と聞きます。

姉御肌の人形です。

王子さまは、シンデレラの姉たちに試してもらったとき、サンドイッチを持ってきた女中には、はいてもらっていなかったことに気づき、シンデレラの家に向かいます。

このシーン、王子さま役の俳優も、うまいと思いました。

崩壊寸前でなんとかとどまっている、と思う

私は、キャスリーン・ターナーとジェーン・バーキンが共演する映画やドラマは、イメージできない、と思ったのですが(何の予備知識もなく、映画を見始めたら、2人が出てきたので驚きました)。

実際、この2人がからむ場面はなく(JBは基本的に洞窟にいるため)、2人が出てくるシーンは、それぞれ別の映画のようです。

突飛なシーンもよくあり、人によってはバラバラに崩壊していると感じるかもしれません。決して、1本の筋がとおったソリッドな作品とはいえないでしょう。

けれども、やりとりがおもしろいシーンも、ロマンチックなシーンも、カメラが美しいシーンもあります。シンデレラに恋してしまって苦しんでいる王子さまの気持ちがわかる場面もあります。

完全に崩壊しそうなところを、微妙なところでなんとかとどまっているとてもユニークな「シンデレラ」。

そんな映画です。

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