フェア、ブラウン、トレンブリング(ケルトのおとぎ話)のあらすじ。

白馬に乗る少女 シンデレラ

FairBrown and Trembling (フェア、ブラウン、そしてトレンブリング)というアイルランド地方に伝わる伝承話を紹介します。シンデレラのバリエーションです。

Jeremiah Curtin(1835-1906)というアメリカの民俗学者のバージョンと、Joseph Jacobs(1854-1916)というオーストラリアの民俗学者のバージョンがありますが、今回は、ジョセフ・ジェイコブス版のあらすじです。

3人姉妹

ティール・コナール(地名)のヒュー・クールハ王には、 娘が3人いて、それぞれ、フェア、ブラウン、トレンブリングという名前でした。

日曜になると、姉2人は、新しいドレスを着て教会へ行きましたが、トレンブリングは姉たちに言われて家で家事をしました。姉たちは、トレンブリングに「外に出るな 」 と命令しました。

姉たちは、自分たちよりもきれいなトレンブリングが、先に結婚することを恐れていたのです。

こんなふうにして7年たち、エマニアの王子が長女に恋をしました。

教会に行くトレンブリング

ある日曜の朝、姉たちが出かけたあと、年老いた鶏の世話係(henwife、以後、ヘンワイフと表記します)がやってきて、トレンブリングに教会へ行くようすすめました。

「でも、服がないし、外出したことが姉たちにばれたら殺されちゃう」

ためらうトレンブリングに、ヘンワイフは、「ドレスは私が用意する、どんなのがいいの?」と聞きました。

「雪のように白いドレスに緑色の靴がいいわ」。

ヘンワイフが黒いマントを着て、娘の古い服をつまみ、ドレスと靴を念じると、娘は美しい姿に変わりました。

「右の肩にはハニーバード(小鳥)、左の肩にはハニーフィンガー(これも小鳥)を止まらせるわ。白い馬と金のサドルとたづなも用意するからね」。

トレンブリングが馬に乗ると、ヘンワイフは「教会の部屋の中に入ってはいけないよ。ミサが終わったら、人々が出てくる前に、さっさと帰ってくるのよ」と言いました。

トレンブリングが教会の扉のところに行くと、中にいた人は、「あの美しい女性は誰だろう」と、不思議がりました。

ミサが終わり、人々に引き止められる前に、 素早く、トレンブリングが家に戻ると、ヘンワイフが食事のしたくをしてくれていました。

姉たちは、美しい女性が教会へ来たが、誰も彼女のことを知らないのよ、と話しました。

2度めと3度目の教会行き

次の日曜も、トレンブリングはヘンワイフのおかげで教会に行けました。

このときは、黒い絹のドレスに赤い靴、前と同じように肩に小鳥をのせて、シルバーのサドルとたずなのついた黒い馬です。

ヘンワイフは前と同じように、部屋の中に入らないで、誰よりも早く教会を出るよう指示しました。人々、特に男性たちは戸口にいる美しい女性の正体を知りたくてやきもきしました。

その次の日曜も、トレンブリングは同じようにして教会へ行きました。

トレンブリングが望んだのは、腰から下はばらのような赤で、腰から上は雪のような白のドレス、緑色のケープ、赤と白と緑色の羽のついた帽子、つま先が赤で、まんなかが白、うしろとかかとが緑色の靴です。

ヘンワイフがドレスと靴を出し、いつものように、トレンブリングの両肩に小鳥をのせ、帽子をかぶせると、美しい金色の髪がふさふさと肩に落ちました。

馬は、白地に、青と金色のダイヤモンドの形の模様のある馬で、サドルとたづなは金色です(すべてトレンブリングのリクエスト)。

靴をなくすトレンブリング

謎の美女のうわさは広がり、たくさんの王子や、身分の高い男性が教会にやってきて、ミサのあと、その女性を送っていこうとしていました。

この日も、トレンブリングは、部屋の中には入らず、ミサが終わるとすぐに帰ろうとしましたが、長女のことなど、とうに忘れたエマニアの王子が、外で待機しており、走り去ろうとする彼女を馬で追ってきました。

王子は、トレンブリングの足をつかんで、はなそうとしません。そして、靴が落ちました。トレンブリングはなんとか逃げ切り、靴を手にした王子が残りました。

靴の持ち主探し

「靴を片方なくしてしまったの」。うろたえるトレンブリングにヘンワイフは言いました。

「気にしなさんな。とってもラッキーなことかもしれないよ」。

エマニアの王子は、「靴の持ち主を自分の后にする」と、ほかの王子たちに宣言しました。

ほかの王子:「靴を持ってるからって、花嫁にはできないぞ。私たちと剣で闘って勝たない限りはな」。

エマニアの王子:「靴の持ち主を見つけたら、決闘して勝ってみせるさ。誰にも渡さないぞ」。

それから王子たち全員で靴の持ち主探しがはじまりました。ある者には大きすぎ、ある者には小さすぎ、なかなか持ち主がわかりませんでしたが、 とうとう、王子たちはトレンブリングの家へやってきました。

トレンブリングを見つける王子

虫の知らせがあったのか、 姉たちは、 トレンブリングをクローゼットに閉じ込めました。もちろん、姉2人の足には靴は合いません。

「ほかに、この家に、若い女性はいないのか?」

「いますわ。ここに!」クローゼットの中からトレンブリングが答えました。

「あら、あの子は、かまどの灰の世話をしてるだけの人間ですのよ」。

姉たちは抵抗しましたが、王子やほかの男たちがゆずらないのでトレンブリングをクローゼットから出します。もちろん、彼女が靴をはいたらぴったりでした。

トレンブリングを海に突き落とすフェア

教会の美女が見つかったので、男たちは4日かけて、順番に決闘し、5日目にエマニアの王子の勝利が決まりました。

トレンブリングと王子の結婚式は、1年と1日かけて行われ、そのあと、王子はトレンブリングを自分の城につれて帰り、やがて男の子が生まれました。

産後の養生をするために、トレンブリングと夫はフェア (長女) の家をおとずれます。夫が狩りに行って留守のとき、海辺を散歩中に、フェアは妹を海に突き落とし、トレンブリングはくじらに飲まれてしまいました。

フェアは1人で家に戻り、トレンブリングのふりをして、「もう私は元気になったので、フェアは、父のところに戻りました」と王子にうそをつきます。

2人はよく似ていたので、王子は半信半疑です。その夜、王子は2人の間に剣を置き、「もしおまえが私の妻なら、この剣はあたたかくなり、そうでなければ冷たいままだ」と言いました。

翌朝、王子が目覚めると、剣は冷たいままでした。

ハッピーエンド

実は、 牛飼いの少年が、フェアがトレンブリングを海に突き落とすところを見ていました。

翌日、満潮のとき、くじらが岸に泳いできて、トレンブリングを吐き出しました。トレンブリングはくじらに呪いをかけられていたので、自ら家に戻ることができませんでしたが、紆余曲折のすえ、王子と牛飼いの少年に、無事、助け出されます。

フェアはと言えば、自分の父親の手により、7年分の食料と一緒に、たるに入れられ、海に投げ込まれました。

トレンブリングは2人めの子供である女の子を生みました。王子とトレンブリングは、牛飼いの少年を学校にやり、自分たちの子供のように世話をし、のちに娘と結婚させました。

王子とトレンブリングは、14人の子供をなし、年をとって死ぬまで幸せに暮らしました。

原文はこちら⇒ Celtic Fairy Tales/Fair, Brown, and Trembling – Wikisource, the free online library

戦いあり陰謀ありのシンデレラ

ふつう『シンデレラ』は、足に 靴が ぴったり合ったら、あとは王子さまと結婚してハッピリーエバーアフターになりますが、この物語は、そのあと男たちが決闘したり、姉がシンデレラを海に突き落としたりします。

こんなふうになるのは、ほかの伝承話と合体したせいかもしれません。

くじらに飲み込まれる話にしても、あらすじには、書いていませんが、「3回飲み込まれて、3回吐き出され、4回目に飲み込まれたら、自分はもう助からないから、その前に夫にくじらを殺すように言って」、というややこしいことを、トレンブリングが牛飼いの少年に言うのです。

牛飼いの少年は、初日は、フェアにものを忘れる薬を飲まされて、伝言を伝えることができません。

フェアの処罰についても、王子と、フェアの父親とで、議論して決めています。

王子が自分の妻とフェアの見分けがつかないのも変です。物語の冒頭では、トレンブリングは姉2人より美しいと書いてありますから。

でも、まあ、いろいろなエピソードがあって、おもしろい話ではあります。出会いが教会というのも興味深いです。

『赤い靴』のカーレンは、教会に赤い靴をはいていったら、養母にきびしくとがめらえますが、トレンブリングはド派手な格好で出向いています。

ジョセフ・ジェイコブス はオーストラリア人ですが、ケンブリッジ大学を出て、イギリスの民話をたくさんまとめました。以前、『ジャックと豆の木』を紹介しています。

コメント

  1. masausa より:

    シンデレラの類話、本当に世界中にたくさんあるのですね。3日目の装いがまるでクリスマスのディスプレイみたいで笑えますわ。

    • pen より:

      世界にあるシンデレラの話、学者によって数が違うけれど、300とも800とも言われています。また、音楽(吟遊詩人の語るもの?)やらを入れて、3000という人もいるそうです。
      このブログではこれを入れてまだ4つしか紹介していませんが(ペロー、グリム、イエシェン、トレンブリング)。

      シンデレラばかり書いていると飽きてくるので、ほかの童話も書いております。

      トレンブリングのドレス、白⇒黒⇒紅白で、3日目は帽子やマントが加わって過剰ですね。

      この話、けっこうおもしろいのでアニメなんかにしてほしいと思うのですが、アダプテーションはないみたいですね。絵本はありますし、アイルランドでは、子供たちがクリスマスに学芸会で演じるかもしれませんが。

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