グリム童話から、「12人の兄弟」というタイトルの童話を紹介します。
原題は、Die zwölf Brüder 英語のタイトルは、The Twelve Brothers。
簡単すぎる要約
カラスになった12人の兄弟を人間に戻すため、末娘のお姫様が、とても困難なことをして、ギリギリで成功する話。
もうすぐ子供が生まれる
あるところに、王様とお妃様、そして、12人の息子がいました。
お后様は13人めの子供を妊娠中です。
王様は、もし生まれてくる子が、女の子なら、この子に全財産を渡したいから、そのときは、上の12人の息子は殺す、と言って、棺桶の準備をします。
お后様が、嘆き悲しんでいると、一番下の息子、ベンジャミンが、「お母様、なぜそんなに悲しそうなのですか?」と聞きました。
お后さまが、事情を話すと、けなげなベンジャミンは、「お母様、泣かないで、僕たちは逃げて、なんとか生きるから」と言います。
お妃さまは、「ではお兄様たちと森にお逃げなさい。そこで、一番高い木に登って、城の塔のほうを見張っていて。
もし男の子が生まれたら白い旗をあげるから、そのときは戻っておいで。女の子だったら、赤い旗をあげるから、そのときは、できるだけ遠くに逃げなさい」と言いました。
生まれたのは女の子だった
兄弟たちは森に行き、順番に木にのぼって塔をチェックしました。
ベンジャミンが当番のとき、母親が赤い旗をあげました。
この話を聞いた兄たちは、「なんてこった。女の子のために、死ぬはめになるなんて。復讐しなければ。これから女の子を見つけたら、赤い血を流させてやる」と誓いました。
兄弟は、森のもっと奥に逃げ、小さな魔法の家(bewitched house)を見つけます。そこは空き家だったので、住むことにしました。
兄たち「ベンジャミン、おまえは一番小さくて力がないから、家にいて家事をしろ。僕たちは、外に食べ物を取りに行く」。
その日から、兄たちは、狩りに行き、ウサギ、シカ、鳥など食べられそうなものは何でも取ってきました。
料理はベンジャミンの仕事です。こうして、兄弟は、10年間、この家でわりに平和に暮らしました。
妹、兄の存在を知る
その間、妹も成長しました。この子は、美しい顔とやさしい心の持ち主。しかも、額には金色の星がついていました。
ある洗濯日に、妹は、12枚の男性用のシャツを見つけました。父親のものにしては小さいので、一体誰のかしら、と母親に質問したところ、母親は事情をすっかり話しました。
父があつらえた棺桶を見せ、泣いている母親に、妹は、「お母様、泣かないで。私がお兄様たちを探してきます!」と言って、見つけた12枚のシャツを持って、森に向かいました。
妹は1日中歩き、夜になって、魔法の家にたどりつきました。
中に入ると、若者(ベンジャミン)がいます。
ベンジャミン「きみはいったいどこから来たの? そしてどこに行くつもりなの?」
妹「私はプリンセスで、12人の兄を探しています。見つかるまで、歩き続けますわ」
女の子は、雰囲気が神々しく、王族のドレスを着ていたし、額に金の星までついているので、ベンジャミンは、その子が妹だとわかりました。
妹、兄たちと住み始める
ベンジャミンは、自分はすぐ上の兄だと打ち明け、ふたりは抱き合って再会を喜び合います。
兄たちは、「女子を見つけたら殺す」、と言っているので、ベンジャミンは、ひとまず、妹をおけの下に隠しました。
夜になって兄たちが帰ってきました。
兄たち「きょう、何かあったかい?」
ベンジャミン「兄さんたち、知らないの?」
兄たち「いや、知らない。いったい何があった?」
ベンジャミン「次に会った女の子を殺さないと約束してくれた話す」
兄たち「よし約束しよう」
ベンジャミン「僕たちの妹が来たんだ」
こうやってベンジャミンは、妹を紹介し、兄たちも大喜びし、妹を心から愛しました。
この日から、妹とベンジャミンが家で家事をし、兄たちが外に狩りに行くようになりました。
ベンジャミンと妹はいつもおいしいごちそうを作り、家を美しく整え、13人は幸せに暮らしていました。
兄たち、カラスになる
ある日、妹はとなりの庭に、白いユリが12本咲いているのを見つけます。兄たちを喜ばせようと、妹はこのユリを摘みました。1人に1本ずつあげようと思ったのです。
しかし、花を摘んだその瞬間、12人の兄弟は、全員カラスになり、森の奥に飛んでいき、家も庭も消えました。
突然老女があらわれる
妹は、森で一人ぼっちになりました。ふと目をあげると、隣に老女が立っています。
老女「ああ、おまえはいったいなんてことをしたんだい? なぜユリをそのままにしておかなかったの。ユリはおまえの兄たちだったのだよ。兄たちは永遠にカラスになってしまった」
妹「えええ? もとに戻す方法はありませんか?」
老女「たった1つだけある。だがむずかしいよ。おまえが7年間、一言も口をきかず、笑いもしなければ、兄たちは人間に戻れる。しかし、一言でもしゃべったら、兄たちは殺されてしまうだろう」。
妹「必ず、お兄様たちをもとに戻してみせます!」
妹は、高い木のてっぺんに登り、座って糸を紡ぎ始めました。一言もしゃべらず、笑いもせず。
素敵な王様もあらわれる
ある王様が森に狩りにやってきました。お供の犬が、木の上にいる娘を見つけて、さかんに吠えます。
王様は、額に黄金の星がついている美しいプリンセスを見て、一目で恋に落ち、結婚を申し込みました。
娘は何も言わず、首をたてにふりました。
王様は娘を木からおろし、馬にのせ、自分の城に連れていき、結婚式をあげました。
盛大な式が行われましたが、花嫁は一言も話さなかったし、笑いもしません。
それでも、2人は数年間幸せに暮らしました。
王様の母の策略
王様の母は、心がゆがんでおり、だんだん、若い女王(しゃべらない娘)をいとましく思うようになります。そして、息子に盛んに、義理の娘の悪口を言いました。
「笑いもしゃべりもしないなんて、魔女に違いない」、と、あることないこと言いたてたのです。
最初はとりあわなかった王様ですが、母があまりにしつこく、いろいろ言うので、とうとうある日、妻を死刑にすることにしました。
城の中庭に、火が焚かれ、妻がまさに焼かれようとしているのを、王様は、城の上のほうから、見ていました。目に涙をためながら。
彼はいまも、妻を深く愛していたのです。
7年間の終わり
若い女王が火刑柱に結び付けられ、ドレスに火がついたそのとき、ちょうど7年の最後の瞬間が終わりました。
12羽のカラスが、ばさばさと集まってきて、地面におりてきました。カラスが地面にタッチしたその瞬間、12人の兄弟がすくっと立って、妹を火の中から助け出し、皆でがしっと抱いて、キスをしました。
ようやく口をきけるようになった妹は、王様(夫)に事情をすっかり話しました。
王様は、妻が無実だったことを知り喜び、それ以後、2人は死ぬまで幸せに暮らしました。
王様の母親は、裁判を受け、煮えたぎった油と、毒蛇の入った樽に入れられ、苦しみながら死にました。
原文(英語)はこちら⇒Grimm 009: The Twelve Brothers
どこまでも強い妹の愛
「12人兄弟」というタイトルの童話ですが、この話の主人公は、妹です。
妹は、7年間、たとえ、魔女の罪をきせられても、火炙りの刑を言い渡され、実際服に火がついて、殺されそうになっても、何も言わなかったから、兄弟たちは、人間に戻ることができました。
ふつうできませんよね。
絶対しゃべると思います。
意味のあることは言わなかったとしても、「ああ、熱い!」とか、「お兄様!」とか「お母様!」ぐらい言いそうなものです。
笑わないのもけっこう大変です。
私は、1日だってできそうにありません。しかし、この妹は7年も黙っていました。
それは、兄たちを人間に戻したいという強い意志があったからです。
深い家族愛があったから、最後はハッピーエンドになったのです。
まあ、この妹は、生まれたときから、額に金色の星がついていてふつうではありませんが、自分のパワーを身をもって示したことになります。
先日記事にした、Frozen(アナと雪の女王)のエルサみたいです。
ベンジャミンの活躍
12人の兄たちの一番下のベンジャミン(Benjamin)は、「聖書からその名前をとった」と原文にあります。
ベンジャミンは、ヘブライ語でベニヤミンで、旧約聖書に出てくるヤコブの12人の子のうちの一番下の子供です。
ベニヤミンは、「右手の子(右利きの子)」という意味で、幸運な子であり、後継者を意味します。
ここから、家族の中の末っ子や、グループ内での最年少者のことを意味する、フランス語の普通名詞、benjamin, benjamine(女子の場合)ができました。(読み方は、バンジャマン、バンジャミヌ)
この童話では、主役は、妹(名前はない)ですが、すぐ上の兄ベンジャミンは、彼だけ名前があって、わりと重要な役どころです。
彼がみょうにフェミニンで、白雪姫のように、家事をするところがおもしろいです。
また、父親が息子ではなく、娘に全財産ゆずろうとするのも、童話の話の中では異例です。
ふつう、長男にゆずりますから。
役割が反転しているのが興味深いですね。
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たとえ娘に財産をゆずっても、兄たちを殺すことはないので、かなりむちゃくちゃな父親ですが、この王様は、娘が特殊なパワーを持って生まれてくる、と気づいていたのかもしれません。
女性にもパワーがある、と伝えるこの童話は、今日的な物語と言えるでしょう。
自己犠牲とも言えますが、私は、パワーだと考えたいです。
そういう意味では、『雪の女王』などの美女と野獣系(クピドとプシュケ)の話と似ています。
12人のおひめさまが出てくる話もあります。
鳥になった兄たちを助けるべつの話。
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