白い猫(ドーノワ夫人、1698)のあらすじ

白い猫 美女と野獣

Countess d’Aulnoy(ドーノワ伯爵夫人)の書いた童話、La Chatte Blanche(白い猫)のあらすじを紹介します。

ドーノワ夫人は、オーノア夫人と書かれることもあります。

本名は、とても長くて、Marie-Catherine Le Jumel de Barneville, Baroness d’Aulnoy (マリー=カトリーヌ・ル・ジュメル・ド・バルヌヴィル、ドーノワ伯爵夫人)です。

ドーノワ夫人は、17世紀のフランスで、自宅をサロンにし、大人向けに自作の童話を披露していました。

白い猫・簡単な要約

猫の姿に変えられたお姫さまが、ハンサムな王子さまのおかげで、もとのお姫さまに戻り、2人で結婚して幸せになる話。

王様の計画

あるところに、そろそろ引退する年齢に近づいてきた王様がいました。

この王様には3人の息子がいます。

年老いてきたとはいえ、まだまだ元気で、国を治めたい王様は、王子たちに、国を盗られることを恐れていました。

「息子たちが反乱しないためには、ほかのことに意識を向けさせるのがが一番だろう」。こう考えた王様は、息子3人に、かわいい犬を連れてくるよう命令します。

王様:「1年かけて、もっともかわいい犬を見つけて連れてきた者を、年齢にかかわらず跡継ぎにする」。

真ん中と、末の息子は喜びました。ふつうなら、長男が王国を相続するところですから。

1年後、戻ってくることを約束して、息子たちは旅立ちました。

不思議なお城

さて、この物語の主役は、末の王子です。

この王子は、童話によく出てくる、とてもハンサムで、マナーもよく、やさしく、勇気がありました。

彼は熱心に、かわいい犬探しをしました。その数、3万~4万匹。

ただ、1人で、3万匹もの犬の世話をするのは大変なので、かわいい犬を見つけるたびに、前の犬を手放していました。

そんなふうに、熱心に犬探しをしていた末っ子ですが、あるとき、ものすごく美しいお屋敷にたどりつきます。

このお屋敷の呼び鈴は、ダイヤモンドが連なってでできており、持ち手はシカかなんかの足でした。

入ってみると、手だけしか見えない召使いが案内してくれます。この後、こまごまとした用事は、みんな手だけの召使いが行います。

お屋敷の中は、とてもきらびやかで、まるでお城です。

ここには、猫がたくさん住んでいます。

といっても野良猫ではなく、みんな、シャルル・ペローの『長靴をはいた猫』に出てくる猫みたいに、品がいい。

こんな猫たちが、楽器を演奏したり、ダンスしたりして王子をもてなします。

この猫たちを牛耳っているのが、ひときわ美しい白い猫です。白い猫は、黒いマントを身に着けていました。

竜宮城の猫バージョンみたいなお城で歓待された王子は、王様の命じたことなどすっかり忘れ、1年間、楽しく遊んで暮らしました。

犬をくれた白い猫

犬を連れていく期日の3日前、白い猫が、王子に言いました。

「そろそろ、犬を連れていく時期ではありませんか?」

王子は、犬のことを思い出してあわてました。「今から犬を探すなんて、無理だ」と。

白い猫は、ドングリを差し出し、言いました。

「この中に小さな犬が入っていますの。これをお持ちくださいな。でも、王様に見せるまで中を開けてはいけませんよ」。

第2のタスク

兄2人の連れてきた犬もなかなかかわいかったのですが、王様が一番気に入ったのは、末の王子の連れてきた犬でした。

何といってもドングリに入るサイズ。しかもこの犬はダンスをします。

この勝負は、末の王子の勝ちでしたが、まだまだ引退したくない王様は、息子たちに第2のタスクを命じました。

「1年かけて、針の穴をとおるほど、うすいモスリンの布を探し出し、持ち帰りなさい」。

白い猫、また助ける

王子は、白い猫のところにもどり、また1年遊び暮らしました。

1年の終わり、また白い猫に、「そろそろ、布を持っていくときではありませんか?」と言われて思い出します。

このときも、何の準備もしていない王子に、白い猫は、ハシバミの実を差し出しました。

「この中に、世にも繊細なモスリンが入っておりますの。これをお持ちくださいな」。

王様は、王冠に隠していた、格別、小さな針を使いましたが、白い猫のくれたモスリンは、するすると針の穴を通りました。

またしても末の王子の勝ちです。

往生際の悪い王様は、3つ目のタスクを命じました。

「1年かけて、誰よりも美しい姫を見つけ、結婚相手として連れてまいれ。結婚していない者には王位をゆずれないからな」。

白い猫のお願い

王子は、また白猫のところに戻り1年、楽しく暮らしました。

王様との約束の期日が迫り、白い猫にうながされ、「どうしよう、今さらお姫さまを探すことなんてできないし」と王子はあせります。

「王子さま。私がお助けすることができます。どうぞ、私の頭を、剣でたたき切ってください」

白い猫の、いきなりの強烈なリクエストにあわてる王子。

白い猫とすっかり仲良くなっていた王子は、「きみの願いなら何だって叶えてあげたいけど、頭を切るなんて。そんなことはとても僕にできないよ」と言います。

当然の反応です。

しかし、白い猫は、どうやったのかわかりませんが、なんとか王子を説き伏せます。

王子がこころを鬼にして、白猫の頭を剣で斬りつけると。。。

あら、不思議、世にも美しいお姫さまが立っているではありませんか。

しかも、ほかの猫も、人間(お姫さまの家来)に戻っていて、手には猫の皮を持っています。

家来たちは、お姫さまと、人間に戻れたことを喜び合っていました。

お姫さまの素性

元白猫のお姫さまは、「自分は城ごと魔法をかけられていた」と王子に事情を説明します。

お姫さまの父は、国を6つも持つパワフルな国王で、お母さんである女王は旅行好きの自由な感じの人でした。

あるとき、この女王が、旅をしていると、ものすごくきれいなお屋敷があります。

あまりに美しいので、これはきっと仙女(魔法使い)の家であろう、と女王は思い、庭に入りたくてたまらなくなります。

「仙女のお城の庭にあるフルーツはとてつもなくおいしい」と聞いていたからです。

どうしても、仙女の庭にある果物を食べたかった女王は、仙女と取引をします。

仙女「おまえの娘を私たちに育てさせてくれれば、果物はいくらでも食べていい」。

あまりに果物が欲しくて、理性がどこかにいってしまっていた女王は、このオファーに応じます。

そして、女王はこころゆくまでおいしい果物を食べたのですが、その後、仙女とした約束を後悔しました。

仙女に育てられたお姫さま

国に戻って、女王は、おそるおそる、夫の国王に仙女との約束の話を打ち明けました。

夫は怒ったものの、女王と娘を助けるため、城の一角に閉じ込めて仙女に取られまいと、護衛を立てました。

しかし、結局、娘は仙女に取られてしまい、仙女は、この娘を、塔の中にとじこめて育てました。

閉じ込めたといっても、待遇はよく、食事はちゃんと与えたし、あらゆる教養が身につくよう、こころを配っていたので、娘はお姫さまらしく育ちました。

ただ、外に出られないので、友人が1人もいません。

あるとき、お姫さま(16歳ぐらい?)が、塔の窓から外を見ていると、どこかのプリンスが通りかかり、2人は窓越しに話をして、すっかり意気投合しました。

プリンスは、何度も、塔まで通い、お姫さまと親しげに話をしていました。

この様子を見た仙女は、すごく怒って、ドラゴンをプリンスに差し向けます。あわれ、プリンスは、ドラゴンに食べられてしまいました。

仙女は、お姫さまを、小人(とっても醜い)と結婚させるつもりでいたのです。

仙女:「罰としてお前は白い猫にする。死んだ王子とそっくりの人間に愛されない限り、お前は一生猫のままだ」。

ハッピーエンド

どんな運命のめぐり合わせか、末の王子は、ドラゴンに食われたプリンスとそっくりだったので、白猫は、お姫さまに戻れたのでした。

2人は、シンデレラの馬車みたいな豪華な馬車に乗り、王様(3人息子のいる方)のお城に戻りました。

兄たちも、美しい女性を連れてきていましたが、元白猫のお姫さまの美しさは、尋常ではなく、この勝負も末っ子の勝ちでした。

お姫さま:「国王さま、私は、国を6つ持っております。あなたに1つ、末の王子さまのお兄様ふたりに1つずつ、お渡しします。

すると、国が3つ残りますが、この3つは、私と、末の王子さまで統治したいと思います。だから、どうか、2人の結婚を許してください」。

もちろん、国王は結婚を許し、2人は末永く幸せに暮らしました。

独創性がない話だけど

この話、どこかで聞いた話を継ぎ合わせた感じで、オリジナリティはありません。

全体のストーリーは、『美女と野獣』で、野獣が女性になったパターン。

美女と野獣(ボーモン夫人)のあらすじ

王様が出す3つのタスクに関しては、『パドキー』にそっくり。

パドキー(Puddocky、ドイツの民話)のあらすじ。

仙女が、姫を塔に閉じ込めるのは、『ラプンツェル』です。

ラプンツェル(グリム兄弟、1857)のあらすじ。

仙女の庭にある果物を食べたくてしかたがなくなるのも、ラプンツェルの出だしに似ています。

しかも、白猫の姫の身の上話が長く、まるで童話が2つ合体したような作りです。

宮廷文化の反映か、きらびやかなお城の外装や内装、ドレスや宝飾品の説明がだらだらと続き、ぼやけた印象の話になっています(こうした細部はあらすじでは省略しています)。

そのせいか、海外でも、日本でもあまり有名な話ではありません。

いいところと言えば、当時の女性の弱い立場を、想像できるところでしょうか。

当時の女性は、貴族といえど、社会的弱者で、自由に結婚できなかったし、幸せになれるかどうかは、男性次第でした。

1人で自由に旅や冒険をすることはできず、お屋敷でいつも王子さまが来るのを待っている白い猫状態です。

ウィキペディアによると、ドーノワ夫人は、1650年か51年に貴族の家に生まれています。

15歳のとき、父親が決めた相手であるドーノワ男爵と結婚しましたが、なんとドーノワ伯爵は、30歳も年上でした。

ドーノワ夫人は、基本的に夫が嫌いで、結婚後もいろいろ波乱に満ちた人生だったようです。

ずっとのんびりサロンを開いていたわけではなく、パリを追われたこともあります。

仙女の話を集めた童話集のほかに、回顧録や歴史ものも書いていますが、内容は嘘ばかりだ、という説もあります。

ドーノア夫人は、お話を作る才能があったのでしょう。

ドーノア男爵のほうは、歴史には名前を残していませんが、夫人のほうは作家として、日本のウィキペディアにも名前がのっています。

いろいろ悲しい思いをしただろうし、愚かなこともしてしまったかもしれないけど、ドーノワ夫人は、女性として、すごくがんばった人と言えるでしょう。

ところで、野獣やカエルになった王子は、最愛の人のキスや、愛情表現で人間に戻りますが、このお姫さまは、剣で自分の頭を叩き割られるともとの姿に戻ります。

これって、愛情表現なんですかね?


この童話のオリジナルはフランス語ですが、イギリスのアンドリュー・ラングの『あおいろの童話集』に収録されているものをもとに、あらすじを書きました。

物語の中に、本当に『長靴をはいた猫のような』、とか、『シンデレラの場所のような』という描写があるので、ドーノワ夫人や、サロンの面々は、みなペローの童話はよく知っていたのでしょう。

シャルル・ペローは、1628年生、1703年没、ドーノワ夫人は、1650/51年生、1705年没なので、ともに、ルイ14世(1638-1715)の治世(1643-1715)のフランスで生きた人です。

シャルル・ペロー(シンデレラ物語の原作者)の経歴

絵本が出ているみたい。

コメント

  1. masausa より:

    この話、ほるぷ出版の絵本で知りました。確かに話はいまいちだけど、ル・カインの絵がやっぱり素敵な絶品です。わたくしは絶版になったものを30年前に古本屋で購入しましたが、今は2003年版が出回っているようです。こちら超オススメ→https://www.amazon.co.jp/白猫-エロール・ル-カイン/dp/4593504228

    • pen より:

      masausaさん、こんにちは。

      宮廷文化の影響で、情景描写はきらびやかだから
      絵本にすると映えるでしょうね。

      2003年版が出回っているのですね。
      記事にリンク、追加します。

      エロール・ル・カインって人、ほかにもおとぎ話の絵本を描いているみたいね。
      私は見たことないと思うけど。

      コメントありがとうございました。

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