グリム童話から、『美女と野獣』(というよりも、『クピドとプシュケ』)によく似ている童話を紹介します。原題は、 Das singende springende Löweneckerchen 英語のタイトルは、The Singing, Springing Lark。
spring は飛び跳ねることですが、鳥なので、「舞う」と訳してみました。もしかしたら、この鳥、本当にぴょんぴょん飛び跳ねるのかもしれませんが。
日本語のタイトルをしらべたところ、『鳴いて跳ねるひばり』『歌うぴょんぴょん雲雀』『さえずり踊るひばり』などいろいろありました。決定的なタイトルはついていないようです。
超簡単な要約
忙しい人向け1行サマリー:鳩になって飛んでいってしまった夫をどこまでも追いつづけた娘が、最後に夫と再会し幸せになる話。
この話、グリム童話にしては長いです。ポイントだけ書きます。
お土産にヒバリを所望する三女
昔、ある男が長い旅に出ようとしていました。3人の娘に、お土産は何がいいか聞いたところ、長女は真珠、次女はダイヤモンド、三女は鳴いて舞うヒバリを所望しました。
用事が終わって帰るとき、男は真珠とダイヤモンドはすぐに買いましたが、ヒバリはなかなか見つかりません。森の中に入っていくと、すばらしい城があり、そばにあった木のてっぺんに、歌って舞うヒバリがいました。
男が喜んで、家来にヒバリを捕獲させようとしたら、突然ライオンがやってきて吠えました。
ライオン:「私の歌って舞うヒバリを盗む奴は、誰であろうと食べてやる!」
男:「お許しください。あなたのヒバリとは存じませんでした。おわびにお金をたくさん差し上げます。どうか命だけはお助けください」。
ライオン:「おまえが家に帰って、最初に会った者を私に差し出すなら、許してやろう」。
男はちゅうちょしました。なぜなら、自分が家に帰ると、いつも 一番にやってくるのは、父親を慕う三女だからです。
しかし、家来が、「娘さんとは限りませんよ。猫か犬が一番に出てくるかもしれません」と言うので、男は、ライオンに「そうします」と言って、ヒバリをもらって帰路につきました。
ライオンのところへ行く三女
家に帰ったら、やっぱり一番に出迎えたのは三女でした。三女はヒバリを見て、大喜びしますが、父親は泣き出し、娘に事情を話しました。
父親:「ライオンはきっと、お前を食べてしまうだろう。どうか、ライオンのところへ行かないでおくれ」。
娘:「お父さま、約束は守らなければいけませんわ。行って、私が無事に帰ってこられるよう、ライオンを説得いたします」。
翌朝、娘はライオンの城に向かいました。
実はこのライオンは魔法をかけられた王子で、家来もみな、ライオンにされていました。しかし、全員、夜になると人間の姿に戻ります。
ライオンも家来のライオンも、娘を丁重に迎え、城に案内しました。夜になるとライオンは、ハンサムな王子になり、豪華な結婚式が行われました。2人は、昼間は眠り、夜は起きて、幸せに暮らしました。
姉たちの結婚式のため里帰りする
ある日、王子が妻に、明日、おまえの姉(長女)の結婚式があるから、出たければ、実家に行くがいい、と言います。家族に会いたかった妻は、喜んで里帰りしました。
式が終わったあと、妻は森に帰ってきました。ほどなくして、次女も結婚が決まり、実家のそばの教会で式をあげることになります。
妻:「こんどはあなたも一緒に来てくださいな」。
夫:「それはできない。一筋でも私に光があたれば、私は鳩に変わり、7年間、ほかの鳩たちと空を飛ばねばならないのだ」。
妻:「でも、どうしても一緒に来てほしいのです。絶対光が当たらないようにしますから」。
そこで、2人は小さな2人の子どもも連れて、妻の実家に向かいました。
ライオン、鳩になる
妻は、夫のために、分厚い木で囲まれた、光が当たらない部屋を用意しました。結婚式のろうそくが灯されたら、夫はその部屋に入ればいいのです。
しかし、その部屋のドアに、細い裂け目があるのを誰も気づきませんでした。
式が終わり、参列者がろうそくを持って夫のいる部屋の前を通ったとき、髪の毛ほどもない細い光が夫(ライオン)にあたり、夫はすぐさま鳩になりました。
鳩:「7年間、私は空で生活しなければならない。7歩進むたびに、私は、赤い血と白い羽を落とすから、それを目印に、私を追っておくれ。そして7年たったら、また一緒になろう」。
こう言うと、鳩は飛んでいきました。妻は、言われたとおり、7歩ごとに落ちている血と羽を目印に、かたときも休むことなく、鳩を追っていきました。そろそろ7年がたつころ、妻は、ようやくまた夫と一緒になれると胸が踊りました。
鳩を見失う妻
ある日、妻がいつものように鳩を追って歩いていると、血も羽も落ちておらず、目をあげると、鳩が見当たりません。
人間にはこの問題は解決ができないと思い、 妻は、 太陽、月、夜の風に順番に鳩のゆくえを聞きました。
太陽と月は「見ていない」といい、太陽は小ぶりのふた付きの箱(チェスト)、月は卵をくれました。
夜の風も鳩を見ていないと言いましたが、ほかの風にも聞いてあげると言って、東風、西風、南風にたずねてくれました。
東と西の風は鳩を見ていませんでしたが、南風は、白い鳩が紅海のほうへ飛んで行ってライオンの姿になったのを見たといいます。
南風:「ライオンはヘビと戦っていた。実はこのヘビは魔法をかけられたおひめさまだ」。
夜の風:「きみにアドバイスがある。紅海に行きなさい。右岸に背の高い葦(アシ)が生えているから、11番目の葦を切って、それでヘビをたたけば、ライオンがヘビに勝てる。そして両方とも人間の姿に戻るよ。そばにグリフィンがいるはずだから、それに夫と乗って海を渡りなさい。
この木の実をあげよう。海の真ん中にこれを落とせば、すぐに大きな木が水の中から生えてくる。グリフィンはその木の上で休憩できる。休憩しないと2人を乗せて海を渡れないから、木の実を海に落とすことを忘れちゃいけないよ」。
夫をおひめさまに取られる
妻が紅海に行くと、風が言ったとおり葦があったので、妻は言われたとおりにしました。しかし、ヘビがおひめさまに戻ったとき、人間に戻った王子の手をつかみ、さっさとグリフィンに乗って、どこかへ行ってしまいました。
妻はその場に座って泣き出しましたが、泣くだけ泣くと、「必ず夫を見つけよう」と決め、立ち上がり、長い長い道のりを行き、とうとう自分とライオンが暮らしていた城まで戻りました。
城では、王子とおひめさまの結婚式が行われようとしていました。
妻は、「きっと神さまが助けてくださる」と言って、太陽からもらったチェストを開けました。中には、太陽のように黄金に光るドレスが入っていたので、妻はそれを着て、城に入っていきました。
おひめさまと取引する妻
そばにいた誰もが、妻の姿に見とれました。花嫁のおひめさまも、そのドレスがとても気に入り、自分のウエディングドレスにしようと、妻に売ってくれるよう頼みました。
「これ、売り物じゃないわ。でも、一晩だけ、あなたの花婿が眠る部屋で私を過ごさせてくれたら、あげてもいいわ」。
おひめさまは、どうしてもそのドレスがほしかったので、承諾しました。しかし召使いに言って、花婿に眠り薬を飲ませました。
その晩、妻が王子(花婿)の部屋に入ると、王子はぐっすり眠っていました。
「私は、7年間、あなたのあとをついて、太陽や月、4つの風のところにも行ってあなたの行方を聞いたのよ。あなたをヘビから助けたのよ。それなのに、あなたは私を忘れてしまったの?」
ぐっすり眠っていた王子には木の葉が風にそよいでいる音にしか聞こえませんでした。
ようやく夫と再会する
翌朝、妻は花婿の部屋を出ると、牧場に言って泣きました。そのとき、月がくれた卵のことを思い出し、割ってみたところ、金色のメンドリとやはり金色のひよこが12匹出てきました。
おひめさまは、妻がメンドリとヒヨコを連れて牧場を歩いているのを見て、ドレスと同じように欲しくなり、再度、妻を花婿の部屋に泊まらせるのと交換に、メンドリとヒヨコを手に入れようとしました。
また眠り薬を飲ませるつもりだったのです。
ところが、その晩は、王子は家来から、前の晩、おひめさまに強要され、自分が王子に眠り薬を飲ませたと聞きます。その晩は、薬の入った飲み物をベッドの隣に捨てるよう王子は家来に言いました。
夜がやってきて、妻が王子の部屋で話し始めると、王子は妻の声だとすぐにわかりました。「変なおひめさまに、魔法でおまえのことを忘れさせられていた」と王子は言い、2人は再会を喜びました。
2人はこっそり城を抜け出し、グリフィンに乗って、紅海を渡りました。
妻は忘れずに、木の実を海に落とし、休憩して元気になったグリフィンは、ある家まで2人を運びました。そこには、ハンサムに成長した王子と妻の子供がいました。それ以後、2人は死ぬまで幸せに暮らしました。
原文はこちら⇒ Grimm 088: The Singing, Springing Lark
結婚の心得
この話、一応子供むけの童話ですが、内容は、結婚に関する教えのように思われます。
妻がほしいと思ったヒバリは、夫、または結婚生活の象徴です。その証拠に、タイトルのヒバリは、物語の序盤、「お父さんからヒバリをもらって娘は喜んだ」というくだりを最後にいっさい出てきません。
ヒバリを、夫か結婚生活のことだと考えれば、その後ずっとその話なので、ヒバリがタイトルになるのも納得できます。
娘は父親に、「約束は守らなければだめよ」と言って、ライオンのところに向かいますが、この約束は、結婚の契約とも取れます。
この話は、結婚生活に関して以下のことを教えてくれます。
・夫は妻をやさしく迎えること。
・何があっても、妻は夫を愛し、ついていかねばならない。
・夫は、ときには、よその女に目移りするかもしれないが、愛し、求め続ければ、夫は戻ってくる。
・夫がどこかへ行ってしまったら、探して、連れ戻しなさい。
・夫が危険な目にあったら、果敢に助けなさい。
・ほしいものはどこまでも追い求めよ。あきらめるな。
・結婚とは忍耐だ。
・忍耐、忍耐、忍耐。そうすれば幸せになれる。
この童話に出てくる娘は夫を求め、手にいれたあと、失う危機があっても、あきらめずに夫を探し、見つけ出し、取り戻しました。あきらめない気持ちが幸せをもたらしたのでしょう。
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