太陽の東 月の西(ノルウェーの民話)のあらすじ。

自然 美女と野獣

ノルウエーの伝承話から、『太陽の東 月の西』という物語のあらすじを紹介します。

この話は、『美女と野獣』のバリエーション、すなわち、『クピドとプシュケ』に類する話です。童話としては長いので、大幅に簡略化して、一記事にまとめます。

超簡単な要約

忙しい人向け1行サマリー:自分が約束を守らなかったため、嫁いだ相手(シロクマの姿をした王子)を失った娘が、彼を探し当て、のろいをとき、結ばれる話。

シロクマの元に行く娘

昔々、子沢山でとても貧乏な百姓がいました。子供たちはみなきれいでしたが、なかでも末の娘は、抜群にきれいでラブリーでした。

ある秋の木曜日の夕方、悪天候の中、百姓の家の扉をたたく者がいます。百姓がドアをあけたら、大きなシロクマがいました。

シロクマは、「お宅の末のおじょうさんをいただけませんか? 代わりにあなたを金持ちにしてあげます」と言います。

百姓は「金持ち」という言葉に惹かれましたが、一応娘に意向を聞いたところ、「いやよ」という返事。

シロクマは来週の木曜日にまた来るので、考えておいてください、と言って立ち去りました。

1週間の間、百姓が、お金があるとうちはどんなに助かるか、それにお前だって、幸せに暮らせるぞと説得をし続けた結果、娘はとうとうクマのところへ行くことを承諾。

娘は、ボロ布のようなラグを洗って、つくろい(これが嫁入り道具)、できるだけ身ぎれいにして、次の木曜日、シロクマの背中にのって、シロクマの家に向かいました。

シロクマ:「怖いですか?」

娘:「いいえ」

シロクマ:「私の毛にしっかりつかまっていてくれれば、怖いことはなにもありません」

こんな話をしながら、娘は遠い、遠い道を行きました。

シロクマの家はお城だった

ある切り立った崖にくると、シロクマは扉をノックしました。そこはお城で、銀と金で光る部屋がたくさんあります。家具はすべてとても立派です。シロクマは娘に銀の鈴(ベル)を渡しました。

「ほしいものがあるときは、これを鳴らしてください。すぐに出てきます」。

食事をし、長旅で疲れていた娘は、もう寝たいと思い、鈴を鳴らしました。すると、「チリ」ともしないうちに、絹の枕や、まっしろなシーツのある大きなベッドのある部屋にいました。

娘がふとんに入り、ろうそくの火を消したら、男がやってきて、娘のとなりに横になりました。この男は、毛皮を脱いだシロクマです。

男は毎晩、娘と一緒に寝ましたが、娘は男の姿を見たことはありませんでした。彼は、いつも火を消したあとにやってきて、朝、明るくなるまえに去っていくからです。

何不自由のない暮らしが続きましたが、そのうち娘はホームシックになりました。

里帰りする条件

あるとき、シロクマが娘に、なぜ悲しそうなのか聞いたところ、娘は自分はさびしく、とても家族が恋しいとうったえました。

シロクマは、じゃあ家に帰ってもいいけれど、お母さんと2人きりで話をしないと、約束してくれ、と言います。

シロクマ:「あなたの母親はきっと、2人きりで話そうと言うでしょう。でもそうしてはいけません。ほかの人がいるときに話をしてください。もしお母さんと2人きりで話をしたら、私たち2人に災難が起きます」。

シロクマは娘を背中にのせて、娘の家に行きました。娘の家は御殿(ごてん)のように立派になっていました。ボロを着ていたはずの兄弟姉妹は、きれいな服を着ています。

シロクマ:「わたしが言ったことを忘れないでくださいね」

娘:「もちろん、絶対、忘れないわ」

シロクマは一人で帰っていきました。

約束を破る娘

家族は娘を見て、とても喜んでくれました。いまやこの家族は金持ちで、何不自由のない暮らし。みな、娘に感謝したあと、近況を聞きました。娘は、シロクマの城では、欲しいものはなんでも手に入れられ、何の苦労もないと話しました。

食事のあと、シロクマが予告したように、娘の母が、寝室で2人きりで話したいと言いました。娘はシロクマの言いつけを守り、最初は2人きりにならないようにしていましたが、母親に誘導され、結局、2人きりで話してしまいました。

娘:「毎晩火を消したあと男の人がベッドにやってきて、明るくなる前に行ってしまうの。顔を見たいけど、見られず、とても悲しいわ。昼間は一人きりでさびしいの」。

母:「まあ、それはきっとトロール(ノルウェーの妖精、巨人で毛むくじゃらだったり、小人だったりする)よ。このろうそくをあげるから、胸もとに隠しておいて、彼が寝ているとき、火をつけて顔を見なさい。ろうを落とさないようにね」。

娘はろうそくを胸元にいれ、夕方迎えに来たシロクマと一緒に城に戻りました。

シロクマは、娘に自分が予告したことが起きなかったか聞きました。娘はうそがつけず、母親と2人きりになってしまったことを打ちあけました。

「もし、あなたが母親のアドバイスに従うと、私たち2人に不運なことが起こりますよ。それは2人の生活の終わりを意味します」、こうシロクマは言いました。

「まさか!」と娘はこころの中で思いました。

男の正体を見る

その夜、いつものように寝床に男はやってきて、娘の隣に横になりました。真夜中、男がぐっすり眠っているのを見届けると、娘は、ろうそくを灯し、その明かりで男の顔を見ました。

そこには、びっくりするほどハンサムな王子さまが寝ています。娘はひと目見て、彼に恋をし、キスをしないではいられなくなりました。

だからキスをしたのですが、キスしたとき彼のシャツにろうそくの獣脂を3滴落としてしまい、男は目をさましました。

「なんてことをしたんだ? あなたが1年、私と暮らしてくれれば、私は自由になれたのに、あなたはすべてを台無しにしてしまった。私は、まま母(邪悪なトロール)に魔法をかけられ、昼はシロクマで、夜は人間として生活していたのです。

もはやあなたと私の縁は切れました。私はあなたの元を去って、まま母の住む、太陽の東、月の西にある城へ行かねばならない。

そこには、鼻がやたら長い(3ヤード=2メートル74センチ)、まま母の娘(プリンセス)がいて、私はその娘と結婚しなければならないのです」。

これを聞いて、娘は嘆き悲しみ、自分も一緒につれていってほしいと頼みましたが、それはできないと言われました。

「それなら、そこへの行き方を教えてください。私、なんとかしてあなたを探しに行きます」。

しかし、王子は、その城へ行く道などないし、見つけられもしない、と言うのでした。

太陽の東、月の西にある城へ向かう娘

翌朝、起きると、王子も、城もなくなっており、娘は森の中に寝ていました。横には、自分がもってきたラグが転がっています。娘は泣くだけ泣いたあと、立ちあがり、どんどん歩きました。

大きな崖にくると、黄金のりんごを放り投げている 一人の老婆に会いました。娘が、王子のいる太陽の東、月の西にある城の場所をきくと、「なぜ彼のことを知っているの? きっとあんたは、彼を必要としている女の子なんだね」といって、娘に馬を貸してくれ、持っていた金のりんごをくれました。

「その城に行けても手遅れだろうし、そもそも行けないと思うよ。でも、となりの人のところまでこの馬で行きなさい、その人が別の馬を貸してくれるからね」。

そうやって、娘は、もう2人の老婆に馬を借り、それぞれから金のくしと、金の糸車をもらいました。

風の援助を得る

娘は何日も旅をしました。3匹目の馬は、東風のところにたどりつきます。東風は、城のうわさは聞いたことがあるけれど、場所は知らないし、そんなに遠くまで吹いたこともない、と言います。

「でも、兄の西風なら知ってるかもしれない。僕より強いしね。そこまででよかったら、乗せていってあげるよ」。

こうして娘は、東風、西風、南風と乗り継いで、最後に、兄弟の中で、もっとも年上で、もっとも強い、しかし気性の荒い北風のところまで行きます。

「ああ、たしかに、その場所なら知っている。一度そこまで吹いたら、めっちゃ疲れて、その後何日も、パフっともできなかったな。どうしても行きたいなら連れていってやってもいいけど、あんた、俺と一緒に行くの、怖くないのかい? 俺、それはもうひどく吹き荒れるんだが」

娘はどうしてもそこへ行きたいし、どんなに激しい風が吹いても怖くないと言いました。

翌朝、2人は城に向かって出発しました。北風が吹いているあいだ、地上ではひどい嵐です。北風と娘はどんどん進みました。北風はだんだん疲れてきて、海の上を吹いているとき、かかとが水につきそうなほど、降下してしまいました。

北風:「あんた、怖くないかい?」

娘:「いいえ、怖くないわ」

北風はなんとか持ち直し、とうとう最果ての、太陽の東、月の西にある宮殿の窓の下までたどりつきました。北風はすっかり力を使い果たしていたので、ここからは娘一人で行かねばなりません。

王子と再開する娘

翌朝、娘が城の外で金のりんごを放り投げて遊んでいると、鼻の長い姫が、娘を見つけ、「何をあげたら、その金のりんごを私にくれる?」と娘にいいました。

「これ、売り物じゃないわ。でも、もし、ここに住んでいる王子さまと今晩いっしょにいられるようにしてくれたら、あげるわ」。

鼻長姫は、この提案に承諾し、夜、娘を王子の部屋に案内しました。しかし、王子はぐっすり眠っていて、娘が呼んでも、揺り起こしても目をさまさず、朝になります。

次の晩、娘はやはり鼻長姫と取引をし、金のくしと交換に王子の部屋に行きましたが、前と同じように王子はぐっすり眠っていて何をしても起きません。

次の夜は、金の糸車と交換で、王子の部屋に行けることになりました。

さて、この城には、キリスト教徒が数人、やはり囚われていて、王子の隣の部屋にいました。その人たちから、王子は、前の晩とその前の晩、王子の部屋から王子の声を呼んだり、泣いたり、わめいたりする女性の声が聞こえたと教えてもらいます。

その晩、王子は、鼻長姫が持ってきた眠り薬入りの飲み物を飲まずに、捨てました。だから、娘がやってきたとき、ちゃんと起きていて、とうとう、2人は再会できました。

王子:「ギリギリでした。明日、結婚式の予定なのです。でも、私は鼻長姫とは結婚しません。あなたは私を自由にしてくれるたった一人の女性です」。

花嫁の条件

翌日、結婚式の前に、王子は、「結婚する前に、花嫁がわたしの頼むことをちゃんとできるかどうか、テストしたい」と言いました。そして、王子は、シャツについた3滴の獣脂を落とせる娘と結婚すると言います。

鼻長姫がしみを取ろうと洗濯し、ごしごしこすると、しみはかえって大きくなり、黒ずんでいきました。まま母がやっても同じです。その場にいた、トロールたちも洗ってみましたが、いつのまにか、シャツ全体がまっくろに。

「あなたたちには、この獣脂はとれませんね。では、あそこにいる乞食の娘にやってもらいましょう」、王子はこう言って、娘にシャツを手渡しました。

娘がシャツを水につけるやいなや、シャツは雪のようにまっしろになります。「ああ、あなたこそ、私の花嫁になる人だ」。こう王子が言ったその瞬間、まま母は怒りでまっかになり、そのまま破裂してしまい、鼻長姫も、ほかのトロールたちも、破裂して消えました。

王子と娘は、城にとらわれていた人を全員解放し、銀と金をもって、太陽の東、月の西にある城からできるだけ遠くまで、飛び去って行きました。

太陽の東、月の西、来歴

この話は、1845年にノルウエーの民俗学者の、 ペテル・クリスティン・アスビョルンセンとヨルゲン・モーが収集し、出版したものです。

似たような話が世界にいくつもあります。

今回、私があらすじを書くのに使ったのは、George Webbe Dasent (1817-1896)というイギリスの翻訳者であり、編集者が英語に翻訳し、1859年に出版したものです。

彼は、大学で古典文学を学び、外交官のアシスタントとしてスエーデンに住んでいたことがあります。ヤーコプ・グリム(グリム兄弟の一人)にも会ったことがあり、ヤーコブの影響で、北欧の民話や神話に興味を持ち始めたそうです。

教訓:夫を信頼しなさい

この話、クピドとプシュケにそっくりです。

プシュケは、相手が神さまだったので、黄泉の国に行ったりしなければなりませんでしたが、この話の娘は、太陽の東、月の西に行くまで、かなり遠距離を旅します。

話の中で何度も、「怖くない?」と聞かれ、「怖くない!」と答えているので、とても勇気がある少女なのでしょう。そして、王子さまを深く愛していると思われます。

最初に、母親の言うことを聞かなければ、こんな苦労はなかったのです。

結婚したら、実家の人間の言うことより、夫を信頼しろ、という教訓があると思います。まあ、女性は家を出たら、実家より、婚家を大事にしたほうが、うまくいくと思います。

夫が変すぎない限りは。

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コメント

  1. masausa より:

    19世紀末から20世紀初頭の挿絵絵本黄金時代に活躍したカイ・ニールセンという人がこの話の絵を描いていて、画集を持っていましたが、どんな話か気になりつつ30年間絵だけを眺めて話を知らずに暮らしていました。こんな話だったのか。と思うとともに、プシュケとアモルにそっくりなところに変な縁を感じてしまいました。

    それにしても、本当に世の中には同じ展開の話がありすぎですね。どんな話も発信源は同じで語り手が違うだけな気がしてきました。

    • pen より:

      それは、きっとすてきな画集なんでしょうね。この話、風景がきれいですから。
      発信源が同じ話もあるかもしれませんが、多くの民話は、とても古いわけで、昔は、情報も人も行き来していなかったから、独自にできあがった話も多いと思います。
      私は、人が考えることはどこでも同じだ説をとってます。

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