小人と靴屋(グリム兄弟、1857)~3種類の小人

靴を作っているところ グリム童話

グリム兄弟の童話から、『小人と靴屋』を紹介します。『靴屋の小人』『小人の靴屋』と訳されることもあります。

もともとのタイトルは、Die Wichtelmänner で、これは、ドイツ語で「小人たち」です。

このタイトルで、第1話、第2話、第3話と全部で3つの話があり、最初の話が、『小人と靴屋』(英語で、The Elves and the Shoemaker)としてよく知られています。

いずれもごく短い話です。

第1話:小人と靴屋

本人は何も悪くないのに、とても貧乏な靴屋がいました。靴1足分の皮しかなくなった夜、彼は皮を裁断し、あとは翌朝、作ることにし、神をたたえてから眠りにつきました。

すると翌朝、とてもすばらしい靴ができていました。傑作といえるできです。お客さんは、とても喜んでくれ、余分に代金を払ってくれました。

このお金で、靴屋は2足分の皮を買い、また裁断だけして、残りは翌朝仕上げることにして眠りにつきました。すると今度もまた素敵な靴ができていて、またお客さんが余分にお金をくれました。

このようなことが毎晩続き、彼はお金持ちになりました。

もうすぐクリスマスというある晩のこと、いつものように皮を裁断したあと、靴屋はおかみさんに、「誰が、俺たちを助けてくださるのか、夜、寝ずに見張っていようじゃないか」と提案しました。

おかみさんは同意して、2人は部屋にかかっていた服の後ろに隠れました。真夜中、2人の裸の小人がやってきて、皮を手にとるとあっという間にたくさんの靴を作って去っていきました。

翌朝、靴屋のおかみさんが言いました。

「小人たちのおかげで暮らしが楽になったのだから、何か、感謝の気持ちを表したいわね。あの人たち、裸だから、すごく寒いんじゃない? 私が、シャツ、上着、下着、ズボン、靴下を作るから、あんたは、靴を作ってあげたらどうだろう?」

靴屋はこの提案に賛成し、その夜、皮のかわりに、小人たち用の衣類と靴を並べておきました。そして、また隠れて、様子を見ることにしました。

真夜中、小人たちがやってきて、皮がないのを見て、はじめはとまどっていましたが、すぐにとまどいは笑顔に変わりました。2人とも、服を着て、きれいな服をなでながら歌いました。

僕たち、とってもいかすじゃないか。もう靴屋はしなくていいね♪

小人たちは踊りながら、部屋を出ていきました。彼らは2度と現れませんでしたが、靴屋は繁盛し、その後、何をやってもうまくいきました。

第2話

昔むかし、働きものだけど、貧しい召使いの少女がいました。少女は毎日、家の中のゴミやチリの山をほうきで掃き出していました。

ある朝、ゴミの上に手紙がのっていました。少女は字を読めなかったので、雇い主たちに手紙を見せたところ、それは小人からの手紙で、小人の子供の洗礼をするから、少女に、代母(名付け親)として出席してほしいという誘いの手紙でした。

少女はどうしようか思案していましたが、雇い主に、こういうオファーは断らないほうがいいと言われたので、出かけることにしました。

3人の小人がやってきて、少女を、小人たちが住んでいる山に連れていきました。そこにあるものはみな小さかったのですが、黒檀、真珠、金など豪華な素材でできたものばかりで、何もかもが美しくキラキラしていました。

代母の役を勤めたあと、少女が帰ろうとすると、小人たちが、3日間いてほしいと頼むのでそうすることにしました。その3日間は、小人たちが手厚くもてなくしてくれ、とても楽しく過ごせました。

帰るとき、小人は少女のポケットに金をいっぱい詰めてくれました。家にもどり、すぐに仕事をしようと、少女はいつものところに立てかけてあったほうきを手にして、掃き始めました。

すると見知らぬ人が奥から出てきて、少女に「あんたは誰? そこで何しているの?」と聞きます。

少女は3日間、山にいたと思っていたのですが、実は、7年たっていて、元の雇い主たちはみな死んでいたのです。

第3話

小人たちが、ゆりかごに寝ていた子供を奪って、かわりに頭が大きくて、目がギョロっとした子(changeling、チェンジリング、取り替え子)を置いていきました。この子は食べて飲むことしかしません。

ショックを受けた母親は、隣人のところへ相談に行きました。すると隣人は取り替え子を台所のかまどの上に座らせ、火をたいて、卵のから2つにお湯をわかしなさい、と言いました。

そうすれば、その子供は笑っておしまいになる、というアドバイスです。母親は言われたとおりにしました。母親が、卵のから2つに水を入れて、火にかけたら、そのうすのろの子は、

「おいらはもう大きいけれど、卵のからで料理する人は見たことがない」

と言い、笑いはじめました。すると小人たちが元の子供をつれてきて、かまだの上に置き、取り替え子を連れていきました。

教訓:勤勉は善

最初の2つの話のモラルは、勤勉でいればむくわれる、だと思います。

靴屋が貧乏だったのは自分のせいではないし、夜のうちに皮を裁断して、翌朝縫うのは、仕事を前倒しでやっている証拠です。

彼は働き者なのです。

あらすじには書いていませんが、この靴屋は貧乏になっても悪びれず、夜は神様に感謝して、すがすがしい気持ちで眠りについているし、朝も神様にお祈りしています。

そういう生活態度がむくわれたのでしょう。

第2話の少女も、学はないけれど正直な働き者です。小人にポケットにいっぱい金をもらったら、もう働かなくてもよさそうなものなのに、すぐに仕事である掃除を始めるのですから。

小人の山ですごした3日間が人間世界の7年になるのは、浦島太郎と似ています。魔物の世界と人間世界は時間の流れが違うのか、楽しいと時間が速くたってしまうかのどちらかでしょう。

私はずっと人間世界にいるけれど、時間の流れは相対的、あるいは主観的なものだと感じます。

取り替え子(changeling)とは?

第3話は、とても短く、童話というよりも、子供を取り替えられたとき、どうすべきか教えるハウツーものといったほうがよさそうな話です。

changeling とは、妖精などが、子供をさらって代わりに置いていく醜い子、馬鹿な子、取り替え子、すりかえられた子です。

Confessions of an Ugly Stepsister という小説に出てきた、シンデレラに当たるクララが、自分のことを本気で、changeling だと思っていました。

小人たちは、かまどの上の取り替え子と、もとの子供をすりかえるので、子供が戻ってきたらすばやくかまどからおろさないと大変なことになります。

けれども、実際には取り替え子なんていないはずなので(小人やエルフもいませんから)、「かまどからすぐにおろさなきゃ」、と心配するには及びません。

取り替え子は、ヨーロッパの伝承話にしばしば出てきますが、その正体は、正常とはちょっと違う子供(知的障害児や奇形児、発育不全の子)だったと言われています。

小人について

wchtelmänner は、いわゆる小人で、英語だと dwarf だと思いますが、英語ではこの童話に出てくる小人は、elf と訳されています。

elfは、いたずらをする小妖精でなんとなくかわいげがあり、映画などではよく緑色の服を着ています。 dwarf は醜い顔をした魔力をもつ小人です。白雪姫に出てくいる小人は dwarf です。

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