グリム童話から、『ホレのおばさん』という話を紹介します。原題は、ドイツ語、英語とも、Frau Holle です。Frauは、ドイツの既婚女性、~夫人、~さん、という意味で、英語のMrs.に相当します。辞書によると、今は、高校上級から上の年齢の女性に、未婚、既婚の区別なく使われるそうです。
ホレ夫人、という感じですね。この人は仙女です。
邦題は、『ホレのおばさん』のほかに、『ホレおばあさん』というのもあります。
ホレのおばさん、1行のあらすじ
落ちたリール(糸を巻くもの、巻きわく)を拾うため、井戸に飛び込んだ働き者の妹が、金をまとって帰ってきたのを見たなまけ者の姉が、自分も金をもらうため、わざとリールを井戸に落として、井戸に飛び込んだが、仕事をなまけたので、金ではなく、コールタールまみれになる話。
シャルル・ペローの『仙女たち』によく似た話です。
2人の娘
ある未亡人には娘が2人いました。1人は美しくて働き者、もう1人は、醜くてなまけ者です。しかし、未亡人は怠け者の娘をかわいがっていました。実子(じっし)だったからです。
未亡人は、家の仕事を全部、継子(ままこ)に押し付け、継子は、さながら灰かぶり姫のように暮らしていました。
井戸にリールを落とす
継子は、毎日、大通りの隣にある井戸の横で、糸をつむぐ仕事をしました。あまりにたくさん紡いだので、指が血だらけに。リールも汚れてしまったので、井戸で、リールをすすいでいたら、うっかり井戸に落としてしまいました。
家に帰って、リールを落としたことを母に話すと、母はものすごく怒り、「おまえが落としたんだから、おまえが拾ってこい!」と言いました。拾えと言われてもどうしていいかわからなかった継子は、とりあえず、井戸に飛び込みました。
井戸の中の世界
一瞬、気を失った継子。意識が戻ったとき、そこは、美しい牧草地で美しい花が咲き乱れていました。継子がそのまま歩いていくと、パンがいっぱい入ったオーヴン(かまど)があります。
「ああ、僕を出して、こげちゃう。もうずっとかまどの中なんだ」。こうパンが言うので、継子は、木べらを使ってパンを出してやりました。
さらに歩いていくと、りんごがいっぱいなっている木があります。「僕を振って、振って。りんごはみんな熟したから」。木がそう言うので、継子は、木をゆさぶり、りんごを落としました。継子はそのへんにりんごをひとまとめにしました。
ホレおばさん
さらに行くと、小さな家があります。年老いた女性が、中から継子を見ています。この人は、ものすごく歯が大きかったので、継子は一瞬、逃げようとしますが、おばさんは意外とやさしい声でこう言いました。
「怖がらないで。うちにおいで。もし、ちゃんと家事をしてくれたら、おまえのためになるよ。私の寝床の面倒を見てくれるだけでいいんだよ。羽がたくさん出るまで、布団を振っておくれ。その羽が雪になるんだ。私はホレおばさんだよ」。
やさしそうなおばさんの声を聞き、継子は、この家に住むことにします。毎日、布団を振って、羽をしっかり出しました。仕事はこれだけ。この家の生活は、前の生活と違い、極楽のようです。ひどいことも言われず、毎日、お肉を食べることができました。
ホームシック
ホレおばさんの家で、継子は幸せでしたが、そのうちホームシックになりました。あんな家でも、帰りたいと思ったのです。「ここで、とてもよくしてもらっていますけれど、いつまでもいられません。家族のもとに帰らないと」、継子はホレおばさんにこう言いました。
「家に帰りたいと思ってくれてうれしいわ。おまえはとてもしっかり働いてくれた。私が、連れて帰ってあげましょう」。
ホレおばさんが、継子の手をとり大きな門のところまで行くと、継子の上に大量の金が、まるで雨のように降ってきて、継子はすっかり金に包まれました。
「全部、お前のものだよ。よく働いてくれたからね」。そう、ホレおばさんは言いながら、井戸に落ちたリールを継子に手渡しました。
門がしまると、継子は家からそう遠くないところに戻っていました。
実子も井戸へ
金ですっかりおおわれ、金持ちになった継子を見て、母も姉も喜んでくれました。事情を聞いた母は、実子にも、同じように金を手にしてほしいと思ったので、実子に、井戸に言って、リールを落とすように命じました。
実子は、井戸まで行き、ろくに糸をつむがず、いきなり針に指を突き刺したり、イバラの茂みに手をつっこんだりして、リールを血だらけにし、井戸に放り投げたあと、すぐに、井戸に飛び込みました。
継子が言ったように、牧草地に出て、歩いていくとかまどの中で、パンが「出して、出して、焼け死んでしまいます」と頼みましたが、実子は、「汚れるからいや」と言って、パンを無視。さらに、りんごがたわわになった木が、「振って、振って、もう充分熟しています」と言っても、「私の頭の上に落ちるからいや」と言って無視しました。
実子の場合
ホレおばさんの家に行くと、実子は、ホレおばさんのために働きはじめましたが、ちゃんとできたのは初日だけ。2日目からは、いつもの実子に戻り、なまけてしまいました。3日目になると、もはや、朝、起きたいとも思いません。
実子は、ホレおばさんの言いつけどおりに、寝床を整えず、布団を振って、羽を出しませんでした。ホレおばさんは、実子の仕事ぶりにうんざりして、おばさんのほうから、「もう、家へお帰り」と暇を出しました。
実子も、家に帰りたかったから渡りに船です。「ようやく金の雨に打たれるんだわ」と実子はわくわくしました。
ホレおばさんが実子を門のところに連れていくと、実子は、金が振ってくるのを待ち構えましたが、なんと降ってきたのはピッチ(pitch タール)です。
タールは実子にべっとりくっつき、一生取れませんでした。
☆原文(英語)はこちら⇒Grimm 024: Frau Holle
教訓:働き者がむくわれる
「しっかり働きなさい。働けば、むくわれる」という、グリム童話によくある、労働をよきものとする話です。
人に親切にすることも重要です。パンが、「熱いよ、焦げちゃうよ、出して」と言えば、出してやり、りんごの木が「振って」と言えば、振ってあげるべきなのです。
また、最初から見返り(この話では金)目当てで、行動してはいけません。見返りを求めすぎず、淡々と働くことが重要です。労働そのものの中に喜びがあるからです。
家族も大事にしなければなりません。たとえ、あまりいい待遇を受けていなくても。継子が、ホレおばさんの家にずっといたら、金はもらえなかったでしょう。「家に帰りたい」と、実子がおばさんに言ったとき、おばさんは、「そう言ってくれてうれしい」と喜んでいたし。
見返りを求めず、勤勉に働き、人に親切にして、家族を大事にする。今でも、そういう生き方をする人のほうが、幸せになるでしょう。
キラキラしたものがが降ってくるほかの話⇒星の銀貨
コメント