グリム童話から、『賢いちびの仕立て屋』を紹介します。
ドイツ語のタイトルは、Vom klugen Schneiderlein、英語では、The Clever Little Tailor、または、The Cunning Little Tailor です。
1行で終わるあらすじ
結婚したくなかった高慢なおひめさまが、なぞなぞの闘いに負けて、仕立て屋と結婚する話。
高慢なおひめさま
昔、高慢なおひめさがいました。求婚者があらわれると、なぞなぞを出し、相手が答えられないと、冷たく追い払います。
「自分のなぞなぞをといた者と結婚する」とおひめさまは公言していました。
仕立て屋の兄弟
仕立て屋の3人兄弟が、おひめさまに結婚を申し込むことにしました。
上の2人は仕事ができますが、末っ子は、小さく、ろくに仕事ができません。
兄2人は、弟に家にいるように言いましたがが、末っ子は、「がんばるから、きっとちゃんとやるから」と言って、兄についていきました。
運命を決めるなぞなぞ
おひめさまが、3人に出したなぞなぞはこれです。
「私の髪は2種類の色がある。その色は何と何か?」
長男:「黒と白。ごま塩のような髪」
ひめ:「違います」
次男:「茶色と赤。私の父の晴れ着のような」
ひめ:「違います」
三男:「金色と銀色」
おひめさまは青ざめました。そのとおりだったからです。
2つ目の条件
「誰にも答えられないと思ったのに」。おひめさまはくやしい気持ちでいっぱいでしたが、気を取り直して、こう言いました。
「あなたはまだ、勝っていませんよ。もう1つやることがあります。下の小屋に熊がいます。そこであなたが、一晩過ごせたら、結婚しますわ」。
おひめさまは、これで仕立て屋を追い払えると思いました。その熊は、そばに来た者を片っ端から殺していたからです。
しかし、仕立て屋は喜んで、「半分は勝ったようなもんだ」と言いました。
熊、くるみを割れない
仕立て屋が小屋に行くと、熊は、歓迎して襲いかかってきましたが、仕立て屋は落ち着いて、ポケットから、くるみを取り出して、殻をわり、中身を食べました。
これを見た熊は自分も食べたくなります。
仕立て屋はポケットから、一握り取って熊に渡しました。
ただし、熊にあげたのはくるみではなく小石です。
熊は小石を口に入れて、がしっと割ろうとしたものの、割れません。
熊(心の中で):「ああ、なんて僕はバカなんだ。くるみの殻も割れないなんて」。
熊が、仕立て屋に割ってくれるようたのんだら、仕立て屋は、「おまえ、相当なバカだね。口は大きいのに小さなくるみも割れないのか」と、言いました。
仕立て屋は、熊の差し出した石ころを巧妙にくるみにすり替えて、口で割りました。
熊はもう一度、チャレンジしましたが、仕立て屋は、また石ころを渡したので、何度やっても割れません。
熊、バイオリンの音色に誘われる
くるみ割りが終わると(割れてませんが)、仕立て屋はバイオリンをコートの下から取り出して、弾きはじめました。
その音楽を聞いて、熊は踊りださずにはいられなくなり、思わずステップを踏みました。
熊:「ねえ、バイオリンを弾くのってむずかしい?」
仕立て屋:「子どもでもできるさ。左手で持って、右手で弓をつかってこするんだ。すると陽気な音が出るんだよ。ホップ、サッサ、ヴィヴァラレラ♪」。
熊:「僕にバイオリンを教えてくれない? そうすれば、いつでも踊れるから」
仕立て屋は承諾しましたが、熊のひづめが長いから、まず、ひづめをちょっと切らなきゃいけない、と言って、万力を持ってきました。
熊が手を万力に入れたら、仕立て屋はそれを締めて、「はさみを持ってくるまで待ってて」とその場をはなれ、小屋のはしっこまで行き、わらの上で寝てしまいました。
勝負あり
熊のおたけびが聞こえたおひめさまは、熊が仕立て屋を食べて満足の吠え声をあげていると勘違いします。
おひめさまは、「勝ったわ!」と、翌朝、るんるんと小屋に行きました。
すると、そこには、傷ひとつない仕立て屋が立っていました。
おひめさまは、もう結婚するしかありません。王様は、おひめさまと仕立て屋をのせる馬車を呼びました。
熊、ダメ押しでばかされる
教会に行くため、2人が馬車に乗るところを見た、仕立て屋の兄2人は、小屋に行って、熊を万力からはずしました。弟が、王族になって金持ちになることがねたましかったのです。
熊はものすごく怒って、吠えながら、すごい勢いで馬車を追います。
ひめ(びっくりして):「まあ、あの熊よ。あなたをつかまえるつもりよ」。
これを聞いた仕立て屋は、即座に逆立ちをして、足を2本、窓から出しました。
仕立て屋(大声で):「この万力が見えるかい? あっちに行かないと、また万力にはさむぞ!」
これを見た熊は、くるっと向きを変え、そそくさと逃げました。
仕立て屋は静かに教会へ行き、おひめさまと結婚。2人は、モリヒバリのように、幸せに暮らしました。
この話を信じない人は、1ターレル(ドイツの銀貨)を払ってください。
原文(英語)⇒The Clever Little Tailor
教訓:上には上がいる
この童話、熊が石ころを割ろうとするくだりで、「読者のあなただって、割れたとは思いませんよね?」という1文があり、最後に、「この話を信じないなら1ターレル払え」ともあり、全体的にユーモラスな語り口です。
いや、信じる人はいないですよ。
熊ってしゃべりませんから。
仕立て屋が、コートの下にバイオリンを隠していたのも、にわかには信じられません。彼は体が小さい設定なので、そんなにうまく隠せるわけないでしょう。
それに、最初のほうで、「三男は体が小さい役立たず」とあるのに、やたらと知恵がまわり、バイオリンもうまいなんて。人は見かけによらないということでしょうか。
この童話は熊と仕立て屋のユーモラスなやりとりがメインで、おひめさまは添え物のようなものです。
最後に、彼と結婚して「モリヒバリのように幸せに暮らした」とありますが、それもにわかには信じられません。
作者(編者)が「そういうことにした」としか思えません。
おひめさまは、結婚をいやがって、相手を熊のえさにしようとすらしていたのに。
さて、この童話の教訓は、いろいろ考えられます。
熊の行動から、
・人のものをやたらと欲しがってはいけない
・物を食べるときは、いきなり口に放り込まず、まずしっかり見るべきだ
・よく知らない人の言うことを信じてはいけない
こんな教訓が導き出されます。
おひめさまの行動からは、
「上には上がいる。おごるおひめさまは久しからず」
となるでしょう。
自分のなぞなぞをとける者などいないという絶対的な自信が、おひめさまを結婚へ追いやりました。
まあ、なぞなぞぐらいしか、結婚をのがれる方法はなかったのかもしれません。
ですが、16世紀の人、イギリスのエリザベス女王1世は、生涯独身でした。
独身だったのは、外交戦略、つまりイギリスを守るためだったと言われています。
グリム童話に出てくるおひめさまも、身を持って守りたい何かがあり、それを本気で守ろうとすれば、独身を貫けたかもしれません。
結婚したくなかったほかのおひめさまの話:
三枚の蛇の葉(グリム兄弟、1857)のあらすじ (結婚したくなかった、というのは私の解釈ですが)
ロバの皮(シャルル・ペロー)のあらすじ (父親からせまられて逃げた)
千匹皮(グリム兄弟、1857)のあらすじ。(このおひめさまも、父親と結婚したくなくて逃げた)
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