賢いちびの仕立て屋(グリム兄弟、1857)のあらすじ。

熊 グリム童話

グリム童話から、『賢いちびの仕立て屋』を紹介します。

ドイツ語のタイトルは、Vom klugen Schneiderlein、英語では、The Clever Little Tailor、または、The Cunning Little Tailor です。

1行で終わるあらすじ

結婚したくなかった高慢なおひめさまが、なぞなぞの闘いに負けて、仕立て屋と結婚する話。

高慢なおひめさま

昔、高慢なおひめさがいました。求婚者があらわれると、なぞなぞを出し、相手が答えられないと、冷たく追い払います。

「自分のなぞなぞをといた者と結婚する」とおひめさまは公言していました。

仕立て屋の兄弟

仕立て屋の3人兄弟が、おひめさまに結婚を申し込むことにしました。

上の2人は仕事ができますが、末っ子は、小さく、ろくに仕事ができません。

兄2人は、弟に家にいるように言いましたがが、末っ子は、「がんばるから、きっとちゃんとやるから」と言って、兄についていきました。

運命を決めるなぞなぞ

おひめさまが、3人に出したなぞなぞはこれです。

「私の髪は2種類の色がある。その色は何と何か?」

長男:「黒と白。ごま塩のような髪」

ひめ:「違います」

次男:「茶色と赤。私の父の晴れ着のような」

ひめ:「違います」

三男:「金色と銀色」

おひめさまは青ざめました。そのとおりだったからです。

2つ目の条件

「誰にも答えられないと思ったのに」。おひめさまはくやしい気持ちでいっぱいでしたが、気を取り直して、こう言いました。

「あなたはまだ、勝っていませんよ。もう1つやることがあります。下の小屋に熊がいます。そこであなたが、一晩過ごせたら、結婚しますわ」。

おひめさまは、これで仕立て屋を追い払えると思いました。その熊は、そばに来た者を片っ端から殺していたからです。

しかし、仕立て屋は喜んで、「半分は勝ったようなもんだ」と言いました。

熊、くるみを割れない

仕立て屋が小屋に行くと、熊は、歓迎して襲いかかってきましたが、仕立て屋は落ち着いて、ポケットから、くるみを取り出して、殻をわり、中身を食べました。

これを見た熊は自分も食べたくなります。

仕立て屋はポケットから、一握り取って熊に渡しました。

ただし、熊にあげたのはくるみではなく小石です。

熊は小石を口に入れて、がしっと割ろうとしたものの、割れません。

熊(心の中で):「ああ、なんて僕はバカなんだ。くるみの殻も割れないなんて」。

熊が、仕立て屋に割ってくれるようたのんだら、仕立て屋は、「おまえ、相当なバカだね。口は大きいのに小さなくるみも割れないのか」と、言いました。

仕立て屋は、熊の差し出した石ころを巧妙にくるみにすり替えて、口で割りました。

熊はもう一度、チャレンジしましたが、仕立て屋は、また石ころを渡したので、何度やっても割れません。

熊、バイオリンの音色に誘われる

くるみ割りが終わると(割れてませんが)、仕立て屋はバイオリンをコートの下から取り出して、弾きはじめました。

その音楽を聞いて、熊は踊りださずにはいられなくなり、思わずステップを踏みました。

熊:「ねえ、バイオリンを弾くのってむずかしい?」

仕立て屋:「子どもでもできるさ。左手で持って、右手で弓をつかってこするんだ。すると陽気な音が出るんだよ。ホップ、サッサ、ヴィヴァラレラ♪」。

熊:「僕にバイオリンを教えてくれない? そうすれば、いつでも踊れるから」

仕立て屋は承諾しましたが、熊のひづめが長いから、まず、ひづめをちょっと切らなきゃいけない、と言って、万力を持ってきました。

熊が手を万力に入れたら、仕立て屋はそれを締めて、「はさみを持ってくるまで待ってて」とその場をはなれ、小屋のはしっこまで行き、わらの上で寝てしまいました。

勝負あり

熊のおたけびが聞こえたおひめさまは、熊が仕立て屋を食べて満足の吠え声をあげていると勘違いします。

おひめさまは、「勝ったわ!」と、翌朝、るんるんと小屋に行きました。

すると、そこには、傷ひとつない仕立て屋が立っていました。

おひめさまは、もう結婚するしかありません。王様は、おひめさまと仕立て屋をのせる馬車を呼びました。

熊、ダメ押しでばかされる

教会に行くため、2人が馬車に乗るところを見た、仕立て屋の兄2人は、小屋に行って、熊を万力からはずしました。弟が、王族になって金持ちになることがねたましかったのです。

熊はものすごく怒って、吠えながら、すごい勢いで馬車を追います。

ひめ(びっくりして):「まあ、あの熊よ。あなたをつかまえるつもりよ」。

これを聞いた仕立て屋は、即座に逆立ちをして、足を2本、窓から出しました。

仕立て屋(大声で):「この万力が見えるかい? あっちに行かないと、また万力にはさむぞ!」

これを見た熊は、くるっと向きを変え、そそくさと逃げました。

仕立て屋は静かに教会へ行き、おひめさまと結婚。2人は、モリヒバリのように、幸せに暮らしました。

この話を信じない人は、1ターレル(ドイツの銀貨)を払ってください。

原文(英語)⇒The Clever Little Tailor

教訓:上には上がいる

この童話、熊が石ころを割ろうとするくだりで、「読者のあなただって、割れたとは思いませんよね?」という1文があり、最後に、「この話を信じないなら1ターレル払え」ともあり、全体的にユーモラスな語り口です。

いや、信じる人はいないですよ。

熊ってしゃべりませんから。

仕立て屋が、コートの下にバイオリンを隠していたのも、にわかには信じられません。彼は体が小さい設定なので、そんなにうまく隠せるわけないでしょう。

それに、最初のほうで、「三男は体が小さい役立たず」とあるのに、やたらと知恵がまわり、バイオリンもうまいなんて。人は見かけによらないということでしょうか。

この童話は熊と仕立て屋のユーモラスなやりとりがメインで、おひめさまは添え物のようなものです。

最後に、彼と結婚して「モリヒバリのように幸せに暮らした」とありますが、それもにわかには信じられません。

作者(編者)が「そういうことにした」としか思えません。

おひめさまは、結婚をいやがって、相手を熊のえさにしようとすらしていたのに。

さて、この童話の教訓は、いろいろ考えられます。

熊の行動から、

・人のものをやたらと欲しがってはいけない

・物を食べるときは、いきなり口に放り込まず、まずしっかり見るべきだ

・よく知らない人の言うことを信じてはいけない

こんな教訓が導き出されます。

おひめさまの行動からは、

「上には上がいる。おごるおひめさまは久しからず」

となるでしょう。

自分のなぞなぞをとける者などいないという絶対的な自信が、おひめさまを結婚へ追いやりました。

まあ、なぞなぞぐらいしか、結婚をのがれる方法はなかったのかもしれません。

ですが、16世紀の人、イギリスのエリザベス女王1世は、生涯独身でした。

独身だったのは、外交戦略、つまりイギリスを守るためだったと言われています。

グリム童話に出てくるおひめさまも、身を持って守りたい何かがあり、それを本気で守ろうとすれば、独身を貫けたかもしれません。

結婚したくなかったほかのおひめさまの話:

なぞなぞ(グリム兄弟、1857)のあらすじ

三枚の蛇の葉(グリム兄弟、1857)のあらすじ (結婚したくなかった、というのは私の解釈ですが)

ロバの皮(シャルル・ペロー)のあらすじ (父親からせまられて逃げた)

千匹皮(グリム兄弟、1857)のあらすじ。(このおひめさまも、父親と結婚したくなくて逃げた)

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