千匹皮(グリム兄弟、1857)のあらすじ。

毛皮を着た女性 グリム童話

グリム童話から『千匹皮』(せんびきがわ)というおとぎ話のあらすじを紹介します。原題は、Allerleirauh 英語のタイトルは、All-kinds-of-fur です。

いろいろな動物の毛皮からできたマントを着るおひめさまの話で、シャルル・ペローの『ロバの皮』とひじょうによく似ています。

超簡単な要約

忙しい人向け1行サマリー:国王である父親に結婚をせまられ、千匹の動物の毛皮で作ったマントを着て、逃げ出した王女が、よその国の城の台所の下働きになり、晩餐会がきっかけで、美しい王女だと判明し、その国の王さまと結婚する話。

亡き妻の遺言

昔、あるところに、とても美しい金髪の妻をもつ王さまがいました。あるとき、女王は病気になり、死ぬ間際に自分と同じ金髪をもつ美しい女性と再婚して、と王さまに頼みます。

王さまはこれを承諾しました。

悲しみが癒えると、王さまは再婚することに決め、亡き妻と同じくらい美しい人を探しましたが見つかりません。

王さまは自分の娘が妻と同じくらい美しいことに気づき、娘と結婚しようとします。

「だめです。父親と娘が結婚するなんて神さまがお許しになりません。そんなことをしたら王国が滅びます」と家来は止めましたが、王さまは聞く耳を持ちません。

結婚の条件を出すおひめさま

父親に自分の妻になるよう言われた娘は、恐れおののいて、なんとか結婚せずにすむよう、父親に条件をだしました。

「お願いを聞いてくださらないかぎり、結婚しません。ドレスを3着作ってください。太陽のような黄金のドレス、月のような銀色のドレス、星のように光っているドレスです。そして、国中にいるあらゆる動物の毛皮で作ったマントをお願いします」。

「そんな服は作れない」と娘は思っていましたが、なんと王さまはすべてを用意しました。高い技術をもつ女性に布を織らせドレスを作り、猟師に国中の動物を殺させ、皮を集めてマントを作ったのです。

城を逃げ出すおひめさま

用意した3着のドレスと毛皮を見せ、王さまは、「明日、結婚式をする」と宣言。娘は、もう逃げ出すしかない、と思いました。

夜、娘は、こっそり起き出し、自分の宝ものである、金の指輪、小さな金の糸車、小さな金の糸巻きを持ち、3着のドレスを木の実の中に入れ、毛皮のマントを着て、顔と手を炭で汚して、城から逃げ出しました。

森まで歩くと、王女は疲れて、木の根本で眠ってしまいました。

よその国の王さまに拾われる

翌日、昼になってもまだ王女さまが寝ていると、狩りをしていた、その森の領主である王さまが通りかかります。王さまの犬が王女を見つけて吠えました。

お供の猟師たちに、「あれは、いったいどういう動物だ?」と王さまが聞いたところ、「あんな変わった動物は見たことがありません。千の種類の毛皮を持つ動物でございます」という返事です。

王さまが、生け捕りするよう命じたので、猟師たちが、王女をつかまえようとしたら、王女は目をさまし、「私は、父と母に捨てられた者です。一緒につれていってください」と頼みました。

「じゃあ、千匹皮、おまえは台所で働くがいい」と猟師たちは言い、こうして、王女は、千匹皮として、お城のキッチンの下働きをすることになりました。

階段の下の、日の差さない小さな部屋をあてがわれ、王女は、每日、薪や水を運び、火を起こし、鶏の皮をはがし、野菜を仕分けし、灰をほうきではくといった汚れ仕事をして過ごしました。

「ああ、本当は美しいプリンセスの私なのに、いったいこれからどうなるの?」

お城で晩餐会が行われる

ある日、お城で晩餐会が行われることになり、王女は料理番に、「ドアの外からパーティの様子をちょっと見てきたい」と頼みました。

「いいよ。でも30分後には帰ってこい」。

料理番が承諾したので、王女は自分の部屋に行き、毛皮のマントを脱ぐと、顔や手足をきれいに洗い、木の実から太陽のドレスを取り出して着ました。そして、晩餐会の会場に行くと、王女の美しさに皆、びっくり。「どこの誰かはわからないけど、王女さまに違いない」と、誰もが思いました。

王さまが、王女のそばに来て、手をとりダンスを申し込みました。「あなたのように美しい人は、見たことがありません」。

ダンスがすむと、王女はカーツィ(ドレスをちょっと持ち上げて、膝をまげてするお辞儀)をし、王さまがよそ見をしている間に、会場を抜け出しました。

スープに指輪を入れるおひめさま

王女がいつもの毛皮のマントに着替え、炭で顔をこすって、キッチンに戻ると、料理番が、今度は自分はパーティを見たいから、自分の代わりに王さまにお出しするスープを作るよう、言いました。

「絶対髪の毛を落とすなよ。そんなことをしたら、2度と食べ物をやらないぞ」。

千匹皮は、ブレッドスープを作り、できあがると器の中に金の指輪を中に入れました。

王さまがスープを飲むと、とてもおいしいのにびっくり。さらに器の底に金の指輪があるので、またびっくり。

王さまは料理番を呼んで、誰がそのスープを作ったのか、問いただします

料理番:「あっしでございます」。

王さま:「そんなはずはない。いつもと違うスープで、ものすごくおいしかったからな」

料理番は、実は千匹皮が作ったと白状しました。

千匹皮と対面する王さま

王さまは千匹皮を呼び、「お前は誰だ? 城で何をしている? スープの中の指輪はどこで見つけた?」と聞きました。

「私は両親のいないかわいそうな子供です。ブーツを頭に投げられるぐらいしか役立つことはできません。指輪のことは何も知りません」。

千匹皮ははぐらかしました。

2度めと3度目の晩餐会

しばらくしてまた晩餐会が行われたので、千匹皮は前と同じように仕事をちょっと抜け出し、月のドレスを来て王さまと踊り、スープに金の糸車を入れ、王さまに事情を聞かれても、はぐらかしました。

3回目の晩餐会のとき、星のドレスを着て王さまと踊っているとき、王女が知らないうちに、王さまは、王女の指に例の金の指輪をはめました。

このときは、いつもより長々と踊ってしまったので、王女は、ドレスを着替える時間がなくなり、上から千匹皮のコートを着て、台所に戻りました。

手足を汚す時間もあまりなかったので、1本だけきれいな指のままでした。

そして王女はスープを作り、金の糸巻きを入れました。

ハッピーエンド

前と同じように、王さまが千匹皮を問いただそうとしたとき、汚れていないきれいな指に、王さまがこっそりはめた指輪が光っているのを見つけました。

王さまが、千匹皮の手を取り、引き寄せようとしたので、千匹皮が逃げようとしたら、マントの下から、輝く星のドレスが見えます。

王さまが、千匹皮のマントを無理やり引き剥がしたら、美しい金髪があらわれ、そこに立つのは、美しいドレス姿の若い女性です。王女が、顔についていた灰をぬぐい落としたら、これまで誰も見たことがない美しい女性となりました。

王さま:「おまえは私の花嫁だ。もう決して離れ離れにはならない」。

結婚式が行われ、2人は死ぬまで幸せに暮らしました。

原文(英語)はこちら⇒ Grimm 065: All-Kinds-of-Fur

労働するおひめさま

ロバの皮は、城から逃げ出し、自分で豚や鶏の世話をする仕事を見つけますが、千匹皮は、森で眠っていたところを、たまたま助け出されただけです。

そして、台所で下働き。グリム童話では、よく台所で下働きをするおひめさまがでてきますが、これは、「女性よ、家事をしっかりやりたまえ」というメッセージでしょう。

シャルル・ペローは、まずは宮廷の童話仲間が読むことを想定していたせいか、シンデレラ以外は、おひめさまの労働は出てきません。

まあ、 韻文を入れても、童話が 11個しかないので、比べるには、データが少なすぎるかもしれませんが。

『千匹皮』の原文では、王女が、台所でどんな仕事をしたか細かく書いてあるのであらすじにも入れました。ペローのほうは、たとえば、シンデレラでは、おひめさまやいじわるなまま姉たちがどんなドレスを着ていたかこと細かく書いてあります。

質実剛健な気風を好む学者と宮廷詩人の違いと言えましょう。

グリム童話の時代になると、身分がそこまで高くない人も童話を読んだので、「家事にいそしみたまえ」というメッセージが出てきたのでしょうね。

ロバの皮のおひめさまは、ケーキに指輪を入れましたが、千匹皮は、スープに指輪やら糸巻きなど、3回も入れます。

なぜこんなことをしたかというと、当然、王さまの気を引きたかったからでしょうが、そのたびにはぐらかすのが不思議です。私に言わせれば、嘘つきです。かなりツンデレなおひめさまと言えましょう。

教訓

さて、この話の教訓はなんでしょうか?

「娘に結婚を迫ってはいけない」という当たり前のモラルがまず1つ。

さらに、「わけのわからない狂った要求をつきつける親からは逃げてもよい」というのがあります。

ふつう、子供は親にさからってはいけないことになっています。

しかし、自分たちをひどい目にあわせる親の言うことはべつに聞かなくていいのです。そんな場所にがまんしている必要はなく、外の世界に出て、まじめに働いていれば、心ある人が助けてくれます。

「いやなら逃げればいい、または、いまいる世界がすべてではない」というのが私の読み取ったメッセージです。

それと、「幸せになるためには、皮を脱ぐべきだ」というのもあります。ロバの皮にしても、千匹皮にしても、毛皮の中に隠れていたときは、つらい生活が続いていました。

しかし、ひとたび皮を脱げば、自分は美しいおひめさま。べつにおひめさまでなくとも、自分らしさをアピールしたほうが、人は幸せになれます。

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『千匹皮』とペローの『ロバの皮』をくらべると、『ロバの皮』のほうが、物語的なおもしろさがあります。やはり、ペローはいろいろ独自のアイデアを盛り込んでいるのでしょう。

それにしても、国中の動物の毛皮を使ってマントを作るとは、ロバが殺されたときも、かわいそうだと思いましたが、千匹皮の犠牲になった動物も気の毒です。

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