グリム童話から、『つぐみのひげの王さま』のあらすじを紹介します。ドイツ語のタイトルは、König Drosselbart(直訳、つぐみ王)、英語のタイトルは、King Thrushbeard(つぐみのひげの王)。
べつに鳥のツグミの王さまが出てくるのではなく、ある王さま(実は王さまの息子)のあごがとがっているので、ツグミと呼ばれています。
簡単な要約
忙しい人むけ1行サマリー:美しいが高慢でわがままで口の悪いおひめさまを、彼女を愛したある王さまの息子が、手のこんだやり方を使って、謙虚な人間に変え結婚する話。
プライドの高いプリンセス
ある王さまの娘は、絶世の美女でしたが、プライドが高く尊大で、どんな結婚相手も次から次へと拒否しました。
ある日、王さまが、娘の結婚相手を見つけるために、近隣の候補者を呼んで、パーティを開きました。
候補者は、身分が高い順番に並び、王女の謁見を賜りましたが、王女は、全員にケチをつけ、しかも、ぼろぼろにけなし、あざ笑い、結婚を拒否しました。
一番身分の高い王さまに対しては、笑いながら、「あの人のあごは、ツグミのくちばしみたいね。ふふふん」と言ったので、そのときから、この王さまは、「ツグミのひげ」と呼ばれるようになりました。
王さまのお仕置き
娘の態度が悪いので王さまはお怒りになり、「おまえは、城にやってきた最初の物乞いと結婚しろ」と勝手に決めました。
数日後、吟遊詩人(地位がとても低い)が、城の窓の下で歌を歌っていました。小銭を稼ぐためです。彼の声を聞いて、王さまは、この男を城にあげました。
「わしはおまえの歌が気に入った。お礼に、娘をおまえの妻としてつかわす」。こう王さまは言い、司祭を呼んで、2人を結婚させました。
もちろん、王女は抵抗しましたが、王さまは意見を変えません。しかも、結婚したあと、「乞食の嫁は、城にいてはいかん」と言って、王女を追い出しました。
乞食と暮らすおひめさま
乞食(吟遊詩人)に手をとられ、とぼとぼと歩いていくと、大きな森に出ました。
「この美しい森はどなたのものなの?」
「ツグミのひげの王さまのさ。王さまと結婚すれば、おまえのものになったろう」。
王女は、「ああ、不幸な私、ツグミのひげの王さまの嫁になっておけばよかった」と後悔しました。
森を超え、牧場を通り過ぎ、大きな街に出ました。すべてツグミのひげの王さまの領土だと聞き、王女は、彼と結婚しなかった自分を呪いました。
乞食は、「ほかの人と結婚すればよかったなんて言うなよ。俺じゃまずいのか?」と言いました。
家事能力ゼロのおひめさま
2人はボロボロの小さな掘っ立て小屋につきました。ここが乞食の家、2人の新居です。王女はショックを受けました。
妻:召使いはどこ?
夫:そんなもんいないよ。全部自分でやるんだ。火をつけて、お湯をわかして、何か食べるもの、作ってくれ。
王女は、家事なんてしたことがなかったので、何をするにも、夫が手伝わねばなりません。ささやかな食事をすませると、2人は床に入りました。
翌朝早く、夫は妻を起こしました。家事をするためです。数日間、こんな調子で暮らしましたが、食料が底をつきました。
お金になる労働もできないおひめさま
お金がなくなったので、稼ぐために、夫は柳を切ってくると、これでかごを編むよう 妻に、言いました。しかし、妻は固い柳の木で指をけがしただけでした。
次に夫は、妻に、糸をつむがせてみたら、今度は 妻は糸で指をけがしました。
「おまえは何もできないんだな。とんだ貧乏くじだ。おまえ、これから市場で壺を売ってこい」。
ええ? もし市場で知ってる人にみられたら、とんだ恥だわ。市場で物を売るなんて、妻はいやでしたが、飢え死にするのもいやなので、結局壺を売りにいきました。
壺を売るのはうまくいきそうだったが
王女の美貌のおかげで、壺はよく売れました。妻の言い値で売れたのです。夫はまた壺をたくさん仕入れてきました。妻が市場の角に陣取って、壺を売ろうとしたそのとき、酔っ払った騎兵(きへい、馬に乗っている兵隊)が、突っ込んできて、壺はみな、こなごなに割れました。
妻は泣き始めました。「ああ、どうしよう。夫が何と言うかしら?」
家に帰って事情を話したら、夫は妻の就職先のめどをつけていました。
「市場の角で壺を売るやつなんてどこにいる? まあ、いい、もう泣くな。おまえにまともな仕事ができないのはよくわかった。だから、王さまの城で働く口を見つけてきてやった。台所の下働きだ。給金として、食べ物をくれるぞ」。
城の台所で働くおひめさま
こうして元王女は、城のキッチンで、さまざまな汚れ仕事をすることになりました。仕事が終わると、ポケットに食べ物を入れて帰り、夫婦はこれで食いつなぎました。
ある日、城で王さまの長男の結婚式が行われることになりました。
元王女は上にあがって、様子をうかがい、美しく着飾って楽しそうにしている王侯貴族を見て、自分のいまの身の上を嘆きました。そして、プライドと尊大さのせいで、王女から貧乏な女中になった自分を呪いました。
ごちそうが運ばれてきました。召使いたちはときどき、元王女に食べ物の切れ端を投げてよこしました。
ツグミのひげの王さまと再会する
突然、立派な姿をした王さまの息子がやってきて、ドアのそばにいる元王女の手を取り、踊ろうと言います。元王女は、驚いて断りました。その人は、自分が拒絶した、ツグミのひげの王さまだったからです。
しかし、ツグミのひげの王さまは、元王女を無理やり部屋のまんなかにひっぱっていきます。その拍子に、元王女のポケットが破れて、食べ物を入れていた器(壺)が床に落ち、中身がそこら中に散らばりました。
人々はこれを見て、大笑い。元王女は急いで部屋から出ようとしましたが、ツグミのひげの王さまに、連れ戻されました。
吟遊詩人はツグミのひげの王さまだった
「こわがらなくてもいい。あまえが掘っ立て小屋で暮らしている吟遊詩人は、私なんだよ。おまえを愛しているから、乞食に化けたのだ。
壺の中に突っ込んだ騎兵も私だ。すべて、おまえの高慢な心を謙虚にさせ、私をばかにした尊大さを罰するためにしたことなのだ」。
これをきいて元王女は泣き出しました。「私は大きな間違いをしました。あなたの妻にはふさわしくありません」。
「安心しなさい。悪い日々はもう終わった。2人の結婚を祝おうじゃないか」。
すぐに侍女がやってきて、元王女に美しいドレスを着せ、王女の父や、宮廷の人もみなやってきて、ツグミのひげの王さまとの結婚を祝いました。
2人の幸せは始まったばかりです。
原文(英語)はこちら⇒ Grimm 052: King Thrushbeard
わかりやすい教訓
この話のモラルや教訓で、わかりやすいのをあげれば
- 謙虚であることが大事
- 人の容貌をからかってはいけない
- 選り好みしてはいけない
- 断るときは、感じよく断りなさい
- 見かけで人を判断してはいけない
- たとえ、王族でも、家事の練習をしておくべきだ
- 働かざる者食うべからず
- 固いものを扱うときは手袋をしたほうがいい
- 割れ物を売るときは、安全な場所に陣取ること
- 食べ物を運ぶときは、ポケットではなく、バッグなど専用の袋を用意したほうがいい
こんなところでしょうか。
おひめさまがかわいそうすぎる
このお話、ハッピーエンドらしいのですが、おひめさまがかわいそうすぎませんか? ツグミのひげの王さまの、執念深さが怖いです。
たしかに、この王女は尊大で、毒舌で、鼻持ちならないタイプです。でも、こんな手のこんだやり方で、欠点を思い知らされるなんて。
「おまえを愛しているからこそ」なんてツグミのひげの王さまは言っていますが、単に、自分のいいように妻をしつけただけという気がします。
乞食に化けて、王女と結婚したのも気持ちわるいですが、自分が仕入れてきた大量の壺を、妻に市場に持っていかせ、そこに自分で馬に乗って突っ込むとは?!
そんなことしたたら、割れた壺がもったいないし、ようやくまともにできる仕事を見つけた王女のセルフエスティームが、どーんと下がってしまうではないですか。
童話によくある、「女性は、父と夫に従って、その人たちの庇護のもと、謙虚に、ひたむきに、やさしく、にこやかに、家事もしっかりやりながら生きなさい、そうすれば、幸せになれますよ」というモラルが浮き彫りになっている話です。
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