トマス・ブルフィンチ(1796-1867) の “The Age of Fable” (邦題:ギリシャ・ローマ神話)(1855)に収録されている『クピドとプシュケ』のあらすじの後編です。
“The Age of Fable” の原文(英語)をベースに書いているので、神さまの名前は、基本的に、英語圏で使われているものになっています。
これまでのお話
絶世の美女、プシュケ(人間)に恋をしたクピド(神)は自分の姿を見せず、結婚生活を送っていたが、ある晩、プシュケに自分の姿を見られたので、プシュケの前から姿を消す。すぐにプシュケも彼のあとを追ったが、人間プシュケは、空を飛べないので追いつかず、その場に泣き崩れる。
前編はこちら
クピドを探すプシュケ
泣きつかれたプシュケが、ふと気づくと宮殿も庭も消えていました。姉たちのところに言ってすべてを話すと、姉たちは同情するふりをしつつ、ひそかに、ほくそ笑みます。
「こんどは私たちが妻に選ばれるかもしれない」。そう思った姉たちは、山の頂上に行き、 ゼピュロス (風の神)を呼んで乗ってみたところ、運んでもらえず、そのまま下に落ちて身体がバラバラになりました。
一方、プシュケは何も食べす、昼も夜も、夫を探し歩きました。
あるお寺で、とうもろこしがぐしゃぐしゃに置いてあったのをプシュケが整理したら、その寺院の持ち主であるデーメーテール(農耕の女神)が、彼女をあわれに思い、「ヴィーナスのところへいって許しをこいなさい」とプシュケにアドバイスします。
プシュケの試練
言われたとおり、プシュケがヴィーナスのところへ行くと、ヴィーナスはすごく怒っていて、プシュケのことをぼろくそに言いました。それでも、「あんたが夫(クピド)にふさわしいかどうか、テストしてあげるわ」と言い、プシュケに難しいタスクをやらせることにします。
試練1:穀物の仕分け
ヴィーナスは穀物倉庫で山になっている、小麦、麦、豆、その他の穀物を、夕方までに同じ種類ごとにソートすることを命じました。
穀物や豆はすべてが一緒くたになっていて、量も大量だったので、プシュケは呆然とするだけです。
しかし、クピドがそのへんにいるアリを助っ人として送り込んだので、仕分けは無事終わりました。
ヴィーナスは、「これ、あんたがやった仕事じゃないね? クピドにやらせたんでしょう? あの子もあわれだこと」と言って、プシュケに黒パン(晩ごはん)を投げると、立ち去りました。
試練2:羊毛を取ってくる
翌朝、ヴィーナスは、川のそばにいる羊たちの黄金の毛を刈って、サンプルとして持ってくるようプシュケに命じました。
言われたとおりプシュケが川に行くと、川の神が耳寄りな情報をくれました。
「午前中、陽があたっている時間は、羊たちが凶暴だから近づかないほうがいい。お昼になると、羊たちは木陰に行くし、川の流れの精霊も、羊たちをなだめるから、そのとき、毛をとるといいよ」。
プシュケはそのとおりにし、無事サンプルを持ち帰りました。
ヴィーナスは、「あんた、また自分でやってないでしょう? あんたを認めるわけにはいかない。もう1つ、試験をしてもらう」と言いました。
試練3:冥界へお使いに行く
ヴィーナスは、プロセルピナ(ペルセポネ、春の女神、1年のうち半分は冥界にいる)のところへ行き、美の元を少しわけてもらってこの箱に入れて持ち帰れ、と命じました。
プロセルピナのところに行くことは、死を意味しますが、プシュケは、覚悟して、高い塔の上から、身を投げます。
すると塔から声が聞こえます。
「かわいそうな娘よ。なぜ、そんなことをするのだ? これまでだって、みなが助けてくれたではないか?」
その声は、冥界に行く道、犬の追っ払い方、川の渡し守との交渉の方法も教えてくれ、最後に、
「プロセルピナが箱に美の元をいっぱい詰めてくれたあとは、決してその箱を開けてはいけないよ」
と言いました。
プシュケ、開けてはいけない箱を開ける
プシュケは言われたとおりにし、首尾よく、美の元をもらい、もとの世界に戻ってきました。ここで、プシュケは、箱の中身を見たいと思います。
「こんなに苦労してここまで来たのだもの、美の元をちょっともらってもいいんじゃないかしら。きれいになった私を夫に見てもらいたいわ」。
プシュケが、そっと箱をあけると、入っていたのは、『地獄の眠り』で、プシュケはその場に死んだように倒れてしまいました。
プシュケを助けるクピド
そこへ、プシュケが恋しくてたまらなくなったクピドがやってきて、彼女のまとっている『眠り』を集めると、箱にしまいました。
それから、クピドは、プシュケを矢でつついて起こしました。
「またもおまえは好奇心のせいで、身を滅ぼすところだったな。でも、母の命じたことをまっとうしなさい。あとは、私にまかせてくれ」。
そう言うと、クピドはすばやく空の上にいるジュピター(ゼウス)のもとへ行き、プシュケと結婚させてほしいと頼みました。
ジュピターは、この願いを聞き入れることにし、ヴィーナスを説得しました。
ハッピーエンド
ジュピターはマーキュリー(ヘルメス)にプシュケを天上に連れてこさせ、アンブロージア(神さまの飲食物)をカップに入れて手渡します。
「プシュケ、これを飲むがいい。そうすれば、おまえはもう死なない。クピドといつまでも添いとげるのだ」。
アンブロージアを飲んだプシュケは、人間から神になり、ようやくクピドと結婚し、ほどなくして、2人の間に『喜び』という名前の子供が生まれました。
原文はこちら⇒ Cupid and Psyche myth told by Bulfinch in Age of Fable – Excellence in Literature by Janice Campbell
ひたむきにがんばる姿が人を動かす
この話のメインメッセージは、「真実の愛は成就する」「愛があればどんな試練も乗り越えられる」というロマンチックなものなので、この話のバリエーションだと言われる『美女と野獣』や、大筋はこの話と同じである『雪の女王』は人気があるのでしょうね。
愛があるところには、裏切りや背信もあります。プシュケは、好奇心や疑惑という邪悪とまではいかなくても、ダークな感情のせいで、2度も失敗しています。
けれども、ひたむきさがあるから、まわりの人が助けてくれ、最愛のクピドと一緒になれたのでしょう。
プシュケは決してできた人間ではなく、わりと周囲の人のいいなりになっています。困難を乗り越えたといっても、基本的に毎回他人が助けてくれたわけで、自分でなんとかしている場面は少ないです。
絶妙のタイミングでクピドがプシュケ助けています。
「女性は、言われたとおりのことを、まじめにひたむきにやっていれば、素敵な男性が助けてくれますよ、 こっちのほうが、自分で思考して、みずから道を切り開くよりも幸せになれますよ」という、ちょっと古い価値観を説いている物語のようにも思えます。
そういう意味では、シンデレラにも似ていますね。
『美女と野獣』のほかにも、この話のバリーエーションだと考えられる童話がいくつかありますので少しずつ紹介します。
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