ハリネズミのハンス(グリム兄弟 1812)

ハリネズミ グリム童話

グリム童話から、英語のタイトル、”Hans My Hedgehog” 、ドイツ語のタイトル、Hans mein Igel という話を紹介します。日本語のタイトルは、ウィキペディアによれば、『ハンスぼっちゃんはりねずみ』という、よくわからない感じです。

ハンスは、上半身がハリネズミで、下半身が人間という、普通の人間とはちょっと違う特異な体格の持ち主です。

1行のあらすじ

ハリネズミと人間の合いの子であるハンスが、親にいとまれるも、森で自立した生活をし、王様を助け、その娘と結婚する話。

子供のいない夫婦

あるところに、お金も土地も十分あるのに、子供がいない農夫の夫婦がいました。子供のいないことを、仲間の農民にからかわれて怒った農夫は、家に帰って「ああ、子供が欲しい。たとえ、その子がハリネズミでも」と言いました。

ほどなくして妻は、上半身がハリネズミで下半身が人間の男の子を産みました。子どもを見て、ぎょっとした妻は、「あんたのせいよ」と夫を責めましたが、夫は「仕方ないじゃないか」と答えます。この子は、ハリネズミのハンスと名付けられました。

たとえ半分ハリネズミでも、洗礼を受けさせなければなりません。洗礼のさい、牧師が、「この子はふつうのベッドに寝かせられませんね。針がありますから」と言ったので、両親はハンスをかまどのうしろのわらの上に寝かせ、ハンスは8年ここに寝たままでした。

父親は、ハンスが嫌いで、「死んでくれたらいいのに」と思っていました。

家を出るハンス

あるとき町で市が開かれ、農夫も行くことにしました。妻や召使いに土産の希望を聞いたあと、最後にハンスに聞いてみたら、「バグパイプがほしいです」という答えが返ってきました。

言われたように父親がハンスにバグパイプをあげたら、ハンスは、「オンドリの足に、馬のように蹄鉄をつけてくれれば、家を出て、もう2度と帰ってきません」と言ったので、喜んだ父親はオンドリを用意し、ハンスは家畜にするため豚とロバを何匹が連れて、家を出ました。

森にたどりついたハンスは、背の高い木の上にのぼって、バグパイプを演奏したり、豚とロバをチェックしたりしていました。

それから何年もたち、豚もロバもすごく数が増えました。

2人の王様

あるとき、森の中で迷った王様がハンスに道をききました。ハンスは、「道を教えてあげるかわりに、あなたが、城に帰って最初に見たものを私にください。その約束を紙に書いてくださいね」と返答。

「お安いご用だ!」と王様は返事をしました。が、実はこの王様は、あまり誠実ではなく、上半身がハリネズミで、下半身が人間の生き物なんかに字が読めるわけがない、と思い、紙には適当なことを書いたのです。

王様が城に戻ると、最初に出てきたのは、自分の娘でした。王様は、変な約束をせずにすんだことを喜びました。

しばらくすると、べつの王様がやはり道に迷って、ハンスに道を聞きました。ハンスは、前の王様にしたのと同じ申し出をしました。今度の王様は、誠実なタイプで、約束したことを署名入りで紙に書きました。

この王様が城に帰ったときも、美しい娘が出てきました。王様は、自分のした約束のことを娘に告げ、「本当にすまない」とわびました。娘は、父親への愛情から、「ハンスのもとに行きます」、と、王様に言いました。

王様の城へ

ハンスの豚とロバはますます数が増えたので、彼は地元で屠殺しました。ハンスは死んだものだと思っていた父親は、残念がっていましたが、ハンスは、「オンドリにまた蹄鉄をつけてくれたら、今度こそ、戻ってきませんから」と言って、再び、姿を消しました。

ハンスは最初に会った王様の城に行ったのです。約束を果たしてもらうために。しかし、それ以前に王様は、上半身がハリネズミで下半身が人間の生き物を見たら、打ち殺すようおふれをだしていたので、ハンスが城に近づいたとたん、銃弾が飛んできました。しかし、ハンスは身軽で、オンドリに乗って、ひゅーんと塔の上のほうまで逃げ去り、こう叫んだのです。

「約束をしたものを渡さないと、お前も娘もただじゃおかないぞ!」

怖くなった王様は、娘にハンスのところに行くよう言いました。そうすれば、自分も娘の命も助かるから、と説得して。王様は、娘に白いドレスを着せ、馬車、馬、召使い、お金、嫁入り道具などを用意して送り出しました。

ハンスはしばらくこのおひめさまと道中を共にしたあと、彼女のドレスをはぎとり、自分の針で、その体をめった刺しにし、血だらけにしました。

「嘘をついた罰だ。もうおまえに用はない」。こうハンスは言うと、おひめさまを城に返しました。このおひめさまは一生のろわれたままでした。

もう1人の王様の城へ

その後、ハンスは、もう1人の王様の城に向いました。この城では、上半身がハリネズミで下半身が人間の生き物を見たら、丁重に出迎えるようおふれが出ていました。ハンスを見たおひめさまは、その奇妙な姿に恐れをなしましたが、「今さらどうしようもできない」とあきらめ、父にした約束を果たすことにしました。

おひめさまは、ハンスを歓迎し、2人は結婚して、お祝いの食事をとりました。夜になって、床入りするとき、おひめさまは、ハンスの針を恐れましたが、ハンスは、「怖がらなくていい。傷つけたりしないから」と言いました。

ハンスは、王様に頼んで、4人の家来を寝室に呼びました。家来は、大きな火を焚くことを命じられました。ハンスは、ベッドに入る前に、ハリネズミの皮を脱ぐから、すぐにその皮を拾って、火にくべ、それが完全に燃えるまで、その場にいるよう家来に命じました。

ハリネズミの皮

時計が11時の鐘を鳴らすと、ハンスは寝室に入り、ハリネズミの皮を脱いだので、家来たちは大急ぎで皮に駆け寄り、拾って、言われたとおり火にくべました。皮が完全に燃えると、ハンスはすっかり人間の姿になってベッドに横たわっていました。

ただ、顔が、まるで燃えた炭のように真っ黒だったので、王様が、医者を呼び、彼の顔を軟膏と香油で洗わせたところ、ハンスの顔は白くなりました。しかも、彼は、とてもハンサムで若くて教養のありそうな男性になっていたのです。

そんなハンスを見て、おひめさまは大喜び。2人は起き上がって、ごちそうの食べ直しをし、結婚式もきちんとやり直し、ハンスは、王様の王国を継ぎました。

父親と対面

数年後、ハンスは、妻を連れて、父親のもとに挨拶に行きました。自分は息子だと言っても、父親は、「自分には息子なんていないし、ハリネズミみたいなのはいたけれど、そいつは森に行ってしまった」と突っぱねました。ハンスが、「自分こそ、そのハリネズミですよ」と、打ち明けたら、父親は喜び、ハンスとともに、彼の王国に帰りました。

☆原文(英語)⇒Grimm 108 Hans-My-Hedgehog

約束は守らなければならない

この奇妙な童話に教訓があるとしたら、「約束を守る者は幸せになり、守らない者は不幸になる」だと思います。

一人目の王様本人は、不幸になっていないけれど、その娘が血だらけになり、一生のろわれたから、父親としては、いたたまれなかったと思います。

まあ、この王様は、勝手な人なので、娘が傷つこうが平気だったかもしれません。

二人目の王様本人も、特に幸せになっていないような気がしますが、やはり娘がすばらしい若者と結婚し、王国を譲ることができたのはよいできごとです。

娘も、ハンスの姿に怖気づいたものの、父親との約束を果たすことにしたから、素敵な男性と結婚できました。

しかし、父親がした約束によって、娘の運命がこんなにも変えられてしまうなんて、理不尽なことです。やはり童話の世界では、おひめさまの立場は、どこまでも低く、人権などたいしてありません。

ハンスの父親は、ハンスを嫌って、「死ねばいいのに」と思っていたし、8年、わらの上に放置したのに、王様の父親として、ハンスの王国に行くことができました。

あらすじでは訳しませんでしたが、ハンスは、ハリネズミの針があったため、母親は授乳しなかったのです。つまり、ハンスは、完全に虐待されていたのに、父親があとでいい目を見るのは、「たとえどんな親でも、親は大事にしなければならない」、という教えかもしれません。

☆大蛇が皮を脱いで人間の王子さまになる話

竜王・リンドルム王(デンマークの民話)のあらすじ。

この話も、「昔むかし、子供ができない夫婦がいました」から始まります。

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