ジャック・ドゥミ監督の妻だったアニエス・ヴァルダ監督の長編商業映画第1作(作った映画としては2本目)の、Cléo de 5 à 7(邦題:5時から7時までのクレオ)を見ました。
昭和36年に公開された古いモノクロ映画ですが、今みても、さして古くさくありません。もちろん、出てくる風物は古いけれど(後ろから乗るバスとか、車の構造とか)普遍的なテーマを扱っているせいか、わりとモダンな映画だと思います。
5時から7時までのクレオ、予告編1分30秒
基本情報
- 監督、脚本:アニエス・ヴァルダ(当時33歳ぐらい)
- 音楽:ミシェル・ルグラン(映画にも登場してピアノを弾いています)
- 主演:コリーヌ・マルシャン(クレオ、歌手)、アントワーヌ・ブルセイエ(アントワーヌ、クレオが公園で出会った兵士、これからアルジェリアに向かう)、ドミニク・ダヴレー(クレオの付き人、マネージャー、家政婦みたいな人。けっこういばってる)。
- クレオの友達の彼氏が見せてくれるサイレントの短編映画の登場人物として、若き日のジャン=リュック・ゴダール、アンナ・カリーナ、ジャン=クロード・ブリアリが出演。
- 言語:フランス語、上映時間90分
- モノクロだけど、冒頭のタロットカードの出てくるシーンはカラー。
- ドキュメンタリータッチのドラマ。ルグランの音楽がドラマチックなので、予告編を見るとメロドラマに見えるかもしれませんが、そうではありません。
- 公開当時ヒットした作品。
あらすじ
クレオはシングル盤を3枚出して、多少は売れているらしい若い女性歌手。しかし、才能はあまりないようだ。病院で受けた検査の結果が、今夜出るので医者に電話して聞くことになっている。
自分はがんで、もう死ぬのではないかと怯えているクレオは、夜になるまで、いろいろなことをして気をまぎらわそうとする。
そんなクレオの夏の1日(6月21日の夏至、火曜日)の午後5時から6時半までの行動をリアルタイムで映し出しているドキュメンタリーふうの話(内容はフィクション)。
午後5時は、タロット占いをする女性のところに行っており、映画はそこから始まる。
その後、クレオは帽子を買ったり、タクシーで家に帰ったり、また街に出てカフェに行ったり、友達に会いに行ったりするが、不安でイライラしたり、ふとした拍子に気分がどーんと落ち込む。
作詞家と作曲家がもってきた新曲を歌っているうちに、涙がでたりもする。最終的にモンスーリ公園に行ったら、休暇が終わって、これからまたアルジェリアに行く、おしゃべりな兵士、アントワーヌと出会う。
彼が、「電話するより、医者に直接聞いたほうがいい、一緒に病院に行こう」というので、2人で病院に向かう。
リアルに時間が流れる映画
画面の左下に、「クレオ、17時15分から17時18分」みたいに、細かく時間のテロップが入ります。また時計の映像や時計の音も、よく出てきます。これは実際の時間の流れを表しています。映画の中の時間と上映時間は、ほぼ同じです。
クレオにとっては、検査結果がでるまではすごく長い一方、「残り時間はもうない」という気持ちもあり、主体的に時間が流れていきます。
クレオは、死に直面して恐れているのですが、映画はそんなに深刻にはならず、行き当たりばったりの行動をとるクレオをたんたんと映し出しています。
筋はあるようで、ありません。ストーリー的にはさしたる盛り上がりもなく、時間のテロップがあるわりには、検査の結果はどうなるんだろう、というサスペンスもありません。
そもそも、クレオは病人にしては元気そうです。
ですが、よく考えると、私たちの時間の過ごし方はこんなふうに、メリハリなく流れます。
サスペンスが生まれるのは、映画監督や脚本家が、そうなるように、現実の要素を選んでつなぎあわせるからです。そういう意味では、リアリティのある映画です。
パリの街並みを体感できる
ドゥミ監督の『モデル・ショップ』は、主人公がやたらと車を運転していてロスアンゼルスの街並みがよくわかるのですが、この映画の主人公、クレオもタクシーに乗ることが多く、車に乗っているときは、彼女の目線で映しているので、フロントガラスからパリの街並みがよく見えます。
クレオが歩いている場面も多いので、1960年当時のパリに興味があったり、ロケ地を研究している人には、とても楽しい映画だと思います。 ヴァルダ監督は、地元のパリで撮影するのが一番安上がりだから、そうしたのでしょう が。
この頃のパリの道路って車線がないんでしょうか? 車はすごく適当なところを走っているようですし、信号もないみたいで、歩行者も、すごく気ままに車の前を横切っています。
60年前は、のんびりしていたのでしょうね。
ヴァルダ監督は、もともとは写真家のせいか、どこを切り取ってもおしゃれなポストカードになりそうな映像です。冒頭のタロットカードのシーンは真上からとっていて、カードをさわるクレオのパールの指輪をはめた指先がとてもきれいです。
クレオが鏡に映る自分にむかって話しかけるシーンや、ショーウインドウ越しにクレオを映すシーンがいくつかあって、本人が写り込んだり、まわりのものが写り込んだりして、おもしろい映像になっています。
ヴァルダ監督は、構図やら光の加減を選ぶセンスのある方なのでしょう。
クレオはミスキャストだったかも?
クレオを演じた女優はとても美しい人ですが、知的で思慮深い顔つきなので、勝手に死ぬかもしれないと思い込み、気まぐれでヒステリックな行動をとる役柄には、合ってないような気がします。
もっと、頭がからっぽそうで軽薄な感じのする女優を使ったほうが、クレオの変貌(情緒不安定から、現実を受け入れて、安定した状態へ変化する)に説得力が出て、おもしろくなったかもしれないと思います。
クレオの家政婦(かマネージャーか知らないが)のおばさん役の人は、役に合っています。
このおばさんは、やたらと迷信ぶかく、クレオが、買った帽子をかぶって帰ろうとしたら、火曜日に、新しいものを身につけてはいけない、手に持ってもだめ、といって、帽子1つをわざわざ家に配達させます。
ほかにも、車のナンバープレートを見て、縁起がいいとか悪いとか言って、タクシーを決めます。クレオが、自分は、がんかもしれないと心配しているのに、このおばさん、たいした気遣いをみせません。
パリの街並みや、昔の物を見ているだけでもおもしろいので、おすすめです。ミシェル・ルグランがピアノを弾きながら歌を歌っているシーンもたっぷりあります。昔のフランス映画なので、フランス語も聞き取りやすいです。
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