ローラ:ジャック・ドゥミ監督(1961)の感想。

ナント 映画のレビュー(一般)

ジャック・ドゥミ監督の長編第1作、Lora(ローラ)を見ましたので感想を書きます。監督の生まれ故郷、ナント(Nantes)で撮影したモノクロの映画です。

ローラ、予告編

最初のほうに、「僕たちがフィルムを修復したんだよ」という技術者の話が入っています。

ローラ、基本情報

  • 監督、脚本:ジャック・ドゥミ
  • 撮影:ラウル・クタール(ゴダール監督をはじめ、ヌーヴェルバーグの映画をたくさん撮影した人です)。
  • 音楽:ミシェル・ルグラン
  • 主演:アヌーク・エーメ(ローラ)、マルク・ミシェル(ロラン・カサール)
  • 90分
  • オリジナルのフィルムが火事か何かで損失したため、長らく、誰も見ることができませんでしたが、その後修復され、さらに2012年になってデジタルリマスターされました。
  • ローラという名前は、スタンバーグ監督の『嘆きの天使』のヒロイン、ローラ・ローラ(マレーネ・ディートリッヒ)からとった名前だそうです。そういえば、アヌーク・エーメの踊り子の衣装は、ディートリッヒの衣装に雰囲気が似ています(シルクハットとか)。

あらすじ

ローラ(ローラは芸名で本名はセシル)は、キャバレーで踊り子をしながら、1人息子を育てているシングルマザー。

息子の父親ミシェルは、7年前に出ていったきり帰ってきません。ローラにとっては初恋の相手だったミシェル。彼女は今でもミシェルを愛していてずっと帰りを待っています。

一方、ローラと幼なじみ(同級生)のロランという若い男性がいます。彼は、本好きの知的な人ですが、人生に退屈していて、会社勤めなどは苦手。仕事についてもすぐに首になります(見習中に平気で大幅に遅刻をする人)。

ある日、ローラは、ロランと街でばったり再会します(15年ぶりぐらい)。実はロランは、昔から、ローラが好きだったのですが、再会して、彼女への愛が芽生えます。

仕事で街を出る予定だったロランですが、ローラに出会ったことで、予定を変更する気になります。ロランは、ローラに自分の気持ちを伝えますが、ローラは、あなたのことは好きだけど、愛してはいない(だって私はミシェルが好きなんですもの)と言います。

主人公はローラとロラン

映画のタイトルは、ローラですが、ロランの出番も多く、2人とも主人公のような気がします。ほかにも、ローラを好きなアメリカの水兵、フランキー(数日後にアメリカに帰る予定)、

本屋で出会ったロランに恋心を抱く中年の女性。その女性の娘で、フランキーに恋をする14歳のセシル、ミシェルをあわせて全部で6人の恋模様を描く群像劇です。

それぞれの登場人物が、出会ったり、すれ違ったり、さりげなく道のむこうを歩いていたり、目撃しあったりします。

なので、1回見ただけで終わらせず、2回、3回と見るともっと楽しめると思います。さらにいうと、主人公の2人は、ドゥミ監督のべつの映画でも同じ役名で登場します。

アマゾンのDVDの說明には、「甘くせつないラブロマンス」と書かれていますが、メロドラマではありません。もうちょっと乾いているので、甘くせつないというほどではありません。

みな夢を追いかけている

映画で描かれる6人は、性格も境遇も違いますが、共通点がひとつあります。それは、皆、夢を追いかけている、ということ。

ローラは、いつ帰ってくるかわからないミシェルを待ち続けているし、ロランは、サラリーマンみたいな仕事はいやだ、ナントなんて出て、どこか遠い外国に行きたいと思っています。

セシルはダンサーになりたいと思っているし、セシルのお母さんは、もとダンサーで、戦争で夫を含め、何もかもなくしたけれど、このままでは終わらせたくないと思っています。

ミシェルは金持ちになりたくて街を出ました。

夢を成就させる人、夢やぶれる人、夢にむかって、大胆な行動をとる人。それぞれの人生の明暗は違いますが、映画の最後にはほとんど皆、ナントから出ていきます。

街にとどまる可能性のある人は、夢を成就させた人だけでしょう。夢破れた人、夢を追いかけている人はその場にいてはだめなのです。

パッサージュ・ポムレが華を添える

ナントは、かつてはブルターニュの都で、港町として栄えたところです。パッサージュ・ポムレという19世紀の半ばにたてられた有名なアーケード街があり、ここで、ロランとローラは再会します。

再会するシーン(2分17秒)

ロランとローラ。

とても絵になるアーケード街ですね。私が高校生のころよく行った大曽根のアーケード街(名古屋)とはえらい違いです。

このシーン以外にも、パッサージュ・ポムレは何度か登場します。

このアーケードは3階建てというか、厳密にいうと違うようですが(2つの入り口の高さが違う)3層になっているのが特徴です。ローラが、ロランに「あなたのことは好きだけど、愛してはいない」というのは、上のフロアです。

ほかにも海をはじめ、ナントの街並みがよく出てきます。ナントは坂が多いということがわかります。

けなげな女、ローラ

アヌーク・エーメは、クールビューティというイメージがありますが(pen的には)、この映画のローラは、よくしゃべるし、とてもかわいい女性です。それは、ロランとの再会のシーンを見てもわかります。

ロランは、ふだんは、口だけ達者、かつ、うっくつしている若者ですが(戦争で心に傷を負ったらしいです)、ローラといっしょにいるときは、とてもうれしそうで、誠実な人に見えます。

お似合いの2人だと思うのですが、ローラはミシェルを決して忘れません。

セシル(14歳の女子のほう)の家に食事に招かれたとき、ロランはセシルに、「初恋は特別なんだよ、だって、2度と起きないのだから」と言いますが、ローラは、その初恋を忘れないのです。

考えてみると、べつに初恋でなくても、いま、この瞬間に起きていることは2度と起きません。

2度と起きないことが、運命や偶然とよりあわさって、それぞれの人生が織りなされていく。故郷はこころあたたまる場所だけど、自分をしばる場所でもある。そんなことを思いました。

ベートーベンの交響曲、第7番の第2楽章が効果的に使われいます。

先日、ドゥミ監督の、『ロバと王女』を見たので、シンデレラもののあいまに、この監督の作品を少しずつ見ていく予定です。

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