モン・パリ:ジャック・ドゥミ監督(1973)の感想。

パリ 映画のレビュー(一般)

ジャック・ドゥミ監督の長編映画、8作目にあたる、L’Événement le plus important depuis que l’homme a marché sur la Lune(直訳:人が月の上を歩いて以来、もっとも重要なできごと)、邦題『モン・パリ』を見ました。

ドゥミ監督の映画は、公開されたあと、すぐにDVDにならないものが多く、この作品も、DVDになるまでに時間がかかっています。YouTubeで予告編を探しましたが、なかったので抜粋を紹介します。

モン・パリ、抜粋(1分)

息子に父親が妊娠したことを知らせるシーンです。息子のルカを演じているのは、作家のバンジャマン・ルグランで、彼は、ミシェル・ルグランの異母兄弟です(年が18歳ぐらい違う)。

基本情報

  • 脚本、監督:ジャック・ドゥミ
  • 音楽:ミシェル・ルグラン
  • 主演:マルチェロ・マストロヤンニ(マルコ)、カトリーヌ・ドゥヌーブ(イレーヌ)、ミシュリーヌ・プレール(ファミリー・ドクター)
  • 日本では、ロマンチックコメディとか、現代のおとぎ話みたいに言われていて、邦題の『モン・パリ』もそんな意図が感じられます。しかし、実際は、落語みたいなコメディで、ロマンチックではないです。

あらすじ(結末まで書いています)

マルコとイレーヌは、同棲しているカップル。7~8歳の息子がいますが、結婚はしていません。マルコは、 自動車の運転を教える会社を経営していて(といっても、従業員は自分を合わせて2人)、日々、生徒に車の運転を教えています(路上教習しかない雰囲気) 。

マルコは最近、体調がすぐれません。頭痛がしたり吐いたりします。

心配したイレーヌが、自分のかかりつけの医者(女医)のところに行くようマルコにすすめます。ただの消化不良だと思っているマルコですが、一応医者に行きます。

女医さん(白衣は着ておらず、シックなスーツ姿)は、問診したり、胸に聴診器をあてたりします。なんと彼女は、マルコのおなかを触診しただけで、妊娠を疑い、専門医のところへ行くようマルコに言います。

専門家の見立ても同じで、マルコは妊娠しているというのです(この段階までレントゲン検査も、尿検査もいっさいしていない様子)。

ふつう男性は妊娠しないものですが、この映画に出てくる人たちは、そのニュースを聞いて、一応驚くものの、わりと冷静に受け止めています。

イレーヌも、最初は驚きましたが、わりとすぐに受け入れます。

マルコを診察した専門医は、長年、男の妊娠もありうる、という研究を20年していて、自分の理論を証明する第1号の患者があらわれたことを、学会で発表したので、マルコはいきなり時の人となります。

マルコのおなかは次第にせり出してきます。

マルコは新聞や雑誌に取材されるようになり、さらに、マタニティドレスを作っている会社から、専属モデルになってくれというオファーが届きます。

この会社は、男性のマタニティドレスという新しい市場を開拓したいのです。他社にマルコを取られたくないので、マルコがモデルになってくれたら、月に1万フランの給料と、バケーションの費用をもち、さらに子供が生まれたら、養育にかかる費用を10歳まで持つといいます。

ものすごい好条件です。マルコはこの仕事を引き受けます。彼の大きなポスターが街なかに何枚も貼られ、テレビの討論番組にも出演します。世界のあちこちで、妊娠に気づいた男性が出てきます。

マルコは、イレーヌに、自分に子供ができたことだし、このさい結婚しようじゃないかとプロポーズし、2人は結婚することに決めます。

妊娠7ヶ月をすぎても、赤ん坊がおなかを蹴らないことを心配したマルコとイレーヌは婦人科医のところに行きます。「あなたの場合は特殊ケースですから、女性の妊娠と同じ経過をたどるとは言えません。ですが、念のためレントゲンを取りましょう」と医者は言い、レントゲンを取ります。

翌日、医者に出向くと、レントゲンを取った結果、マルコのおなかに赤ん坊はいず、想像妊娠だったと医者は言うのです。

「こんなに大騒ぎになって、赤ん坊がいないなんて、皆の笑い者になるわ」と言うイレーヌ。しかし、いないものは仕方ありません。数日後、マルコとイレーヌは、内輪だけでこじんまりとした結婚式をあげます。

風刺を楽しむ映画

そもそも、マルコはどうやって妊娠したのか、そして赤ん坊はどうやって生まれるのか? この2つの重大な疑問に関しては、映画では何の説明もありません。

妊娠する理由は、食べ物に含まれている添加物や化学物質のせいでホルモンが異常をきたし、人体が変わりつつあるから、と説明されます。

環境ホルモンのせいで、男性が女性化しているというのは、現実世界でも言われていますが。

まあ、結果として妊娠していなかったので、そんなことは気にしなくていいのでしょうが、医者は学会で発表し、国会でも、男性が妊娠することによる法改正について話し合い(当時、フランスでは、中絶を合法化するかどうか議論されていました)、

マタニティドレスの会社は、プレタポルテに発表するなどと、とうとうとビジネスプランを述べ、コマーシャルの撮影でも、皆、おおまじめにやっています。

エビデンスは必要ないんかい?

ありえないできごとに対する、皆のおおまじめな反応を楽しむ映画と言えるかもしれません。

私が、特におもしろいと思ったのは、テレビの討論番組です。マルコとイレーヌ、ファミリードクターと婦人科医、さらにコメンテーターとして牧師とTVジャーナリストが呼ばれ、司会者が討論をすすめていきます。

カメラを意識した司会者が、いかにもテレビのアナウンサーで、医者2人は権威をちらつかせ、イレーヌは、派手な毛皮を着て、髪は銀座のマダムのようなアップ、マルコはひたすら恐縮し、全くかみあわない討論を、意味ありげにまとめるアナウンサー。笑えます。

また、当時、ウーマンリブが盛んだったせいか、美容院の女性客が、「ああ、これで、子供ができなくても、プレッシャーかけられなくなるわ」とか、「男性が妊娠できるんだから、中絶は合法化すべきよね」と語ります。

カラフルな70年代ファッション

ドゥミ監督の映画は、カラフルさが売りですが、この映画の色彩もこっています。特にドゥヌーブの衣装は、いかにも70年代の派手な服。パフスリーブのセーター(パステルカラーも原色もある)を着ていたり、ハート柄のプリントの服を着ていたり、サロペットを着ていたりします。

この美容院は、ドヌーブ含めて、3~4人、美容師がいますが、全員がサロペット姿のシーンがあります。また、髪に派手な色のぱっちんどめ(ヘアクリップ)をしていることもあります。

当時のファッションをリアルタイムで(かすかに)知っているので、ノスタルジーを感じました。

マルコがマタニティドレスの会社と契約してからは、金回りがよくなったのか、彼女の衣装がさらに派手になります。

3人が住んでいる狭いアパルトマンの家具調度や食器なども興味深いし(狭いキッチンでよく食事をしている)、自宅で見ているテレビも使っている電話もいかにも70年代です。ホームドラマとも言えるかもしれません。

大傑作ではない

何ともいえない奇妙なコメディで、そこはかとなくおもしろく、最後まで見てしまう映画ですが、ドゥミ監督の作品の中では、今ひとつのできではないでしょうか?

カトリーヌ・ドヌーブ、マルチェロ・マストロヤンニ、ミシェル・ルグラン、そしてドゥミ監督とそうそうたる顔ぶれが揃っているのだから、もっとすごい映画が作れてもよかったのではないか、と思います。

当時、ドヌーブとマストロヤンニは実生活でもカップルだったので、息は合ってるんでしょうけど、この2人、映画的に見ると、あまりいい組み合わせではなく、お互いが映えない気がします。緊張感もなければ、胸がどきどきするようなロマンスも感じられません。

というか、ドヌーブって、映画によっては、ものすごく妖艶に、エロチックに怪しげに輝くのですが、ドゥミ監督の映画ではそういうことはありません。明るくて無邪気なドヌーブとなっております。

ドヌーブは、これまで、シェルブールの雨傘ロシュフォールの恋人たちロバと王女 の3作、ドゥミ監督の映画に出ているし、シェルブールの雨傘は、彼女の出世作ですけどね。

これは、ドゥミ監督がゲイだったことに関係あるのかもしれません(私の勝手な憶測です)。

アマゾンでレンタルすることもできます。

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