イギリスの伝承話、Jack and the Beanstalk (ジャックと豆の木)のあらすじを紹介します。この童話が初めて文字になったのは、1734年ですが、いろいろなバージョンがあります。
もっともよく知られている、Joseph Jacobs (ジョセフ・ジェイコブス)という人が、1890年に編さんした、English Fairy Tales (イギリスの童話集)に入っている、『ジャックと豆の木』の話を紹介します。
超簡単な要約
時間のない人用1行の要約:ジャックという貧しい少年が、牝牛(めうし)と交換して手に入れた豆が成長した巨大な豆の木をのぼって、天にいる巨人からお宝をせしめ、幸せになる話。
牛と豆を交換するジャック
昔、まずしい未亡人とその息子のジャックという少年がいました。この家にはミルキー・ホワイトという乳牛がいて、2人はこの牛からしぼったミルクを売って暮らしていました。
ある朝、牛の乳がでなくなったので、母に言われて、ジャックは 市場に牛を売りに行きました。ジャックは途中で牛が必要だという変わった服装の男に出会います。
この男は、牛の代わりにちょっと変わった豆を5つをくれると言います。「土に植えると一晩で、天に到達するほど大きな木になる、そうならなかったら牛を返してあげる」と男が言うので、ジャックは豆と牛を交換しました。
巨大な豆の木をのぼるジャック
家に帰って、牛を豆と交換したことをお母さんに言うと、お母さんは、「なんておまえは馬鹿なんだ。豆なんて一文にもなりゃしない。おまえ、今晩は夕食抜きだよ。もう寝ておしまい!」と怒って、窓から 豆を ほうりなげました。
屋根裏部屋に戻ったジャックは、「母親の言うとおりだ、あんなことするんじゃなかった、ああ、おなかがすいた」と、後悔しているうちに眠りました。
翌朝起きると、まあ、びっくり。母親が放りなげた豆が、空に届くほど大きな木になっていました。
「ああ、あの人の言ったこと、嘘じゃなかった…」。
豆の木の枝が、部屋の窓のそばまで来ていたので、ジャックは窓から、ひょいと木にのぼりました。それはまるで天にかかったはしごのようでした。彼はのぼって、のぼって、のぼって、とうとう天につきました。
巨人の家にたどりつく
天には幅の広い長い道があり、ジャックはその道を進みました。道の先には大きな家があり、戸口には上背のある女性がいます。
「おはようございます。すみませんが、朝食を食べさせてくれませんか?」できるだけていねいにジャックはたのみました。
夕食抜きで、朝ご飯も食べていなかったジャックは、とてもおなかがすいていました。
「朝ごはんを食べたいの? でも、あんたが朝ごはんになっちゃうかもよ。私の夫は巨人で、火であぶった男の子をトーストの上にのせて食べるのが大好きだから」。
おなかがすいて死にそうなジャックは、「餓死するより、火にあぶられるほうがまし」と答えました。巨人の妻はやさしい人だったので、ジャックをキッチンに入れ、パン、チーズ、ミルクを供しました。
巨人のめんどりを盗むジャック
ジャックが半分ほど食べたところで、どすん、どすん、どすんという音がし、家が揺れ始めました。巨人が帰ってきたのです。巨人の妻は、ジャックをかまどの中に隠しました。
巨人はかかとにしばりつけていた3匹の牛をテーブルに投げました。
「おい、朝食にこの牛を焼いてくれ。おや、この匂いは? イギリス人の血の匂いがする。こいつの骨を挽いたものをパンにのせて食べよう」。
「何言ってるの。ゆうべ食べた男の子の切れ端の匂いがするだけじゃないの? ほら、手を洗ってきて。そのあいだに食事の支度をしておくから」。妻がたしなめました。
食事が終わると、巨人は妻に金の卵を生むめんどりを持ってくるように言いました。めんどりに、「産め!」と命令し、金の卵が出てくるのを見ると、巨人はにやりと笑い、そのうち、眠くなって寝てしまいました。
ジャックはこっそり、かまどから出て、めんどりを抱いて、そのまま大急ぎで家に帰りました。めんどりの生む金のたまごのおかげで、ジャックと母は、快適な生活ができるようになりました。
巨人の竪琴を盗むジャック
しばらくすると、ジャックは、空には、他にももっといいものがあるんじゃないかと思うようになりました。
そこで、ジャックは、また豆の木をのぼり、巨人の妻が水をくみに家の外に出たのを確認してから、こっそり家の中に入り、おおきな真鍮(しんちゅう)の瓶(かめ)の中に隠れて、巨人が帰ってくるのを待ちました。
巨人は前回と同じように戻ってきて、やはりイギリス人の匂いがすると言い、かまどの中をチェックしました。しかし、誰もいないので、前と同じように妻から気のせいだと言われ、巨人は朝食を食べました。
朝食のあと、巨人は妻に、金の竪琴を持ってくるように言いました。巨人が竪琴に向かって、「歌え!」というと、竪琴は世にも美しい音色を奏でます。
気持ちよくなった巨人が眠ってしまうと、ジャックは、瓶から出て、こっそりテーブルに近づき、金の竪琴をつかむと、そのままだーっと逃げました。
無事に逃げおおせるジャック
竪琴が「ご主人さま、ご主人さま」と大声で言ったので、巨人は目をさまし、竪琴を持って逃げるジャックを追いかけました。
豆の木をどんどんおりていくジャックのあとを追って、巨人もどんどんおりてきます。ほとんど木を下り終えたジャックは、「母さん、母さん、斧(おの)を持ってきて、斧を持ってきて!」と叫びました。
大急ぎで母親が斧を持ってきたとき、巨人は雲の下あたりにいました。
ジャックは斧をつかむと、豆の木をたたき切りました。裂け目が入って、木が大きくゆれたので、巨人はびっくりしました。ジャックがもう1回、木に斧をたたきつけると、木は完全に切れ、巨人が落ちてきて、その上に、木がおおいかぶさりました。
ジャックが金の竪琴を見せると母は大喜び。2人はとても金持ちになり、ジャックは、すてきなお姫さまと結婚し、いつまでも幸せに暮らしました。
原文はこちら⇒ English Fairy Tales/Jack and the Beanstalk – Wikisource, the free online library
盗みになっていないバージョンもある
ジャックは、貧乏から脱出するために、巨人のめんどりと竪琴を盗んでいます。しかも、最後には巨人を殺しています。
豆の木を切り倒して、巨人を殺したのは、正当防衛と言えるかもしれませんが、このままでは、「人のものを盗めば、幸せになれる」というメッセージになってしまうので、ジャックが取った品物は、もとは父親のものだった、という事情説明が入っているバージョンもあります。
ジャックが、巨人の家に3回出向き、金貨、金の卵を生むめんどり、金の竪琴の3つを奪うバージョンもあります。 巨人が人食い鬼だったり、 めんどりがガチョウだったり、ジャックの住む場所が変わっていたり(山や街)することもあります。
ジャックがなまけものの少年と描かれているものもあります。
ジャックと豆の木の教訓
教訓や教えはいろいろ考えられます。
・ハイリスク・ハイリターン
空まで豆の木を登り、さらに巨人の家に行って物を取ってくるという危険な行為をあえてやったジャックは金持ちになり幸せになりました。
・チャンスはすかさずつかみとれ
不思議な男の差し出す奇妙な豆を受け取り、目の前にある木にとっさに上ったジャックは幸せになりました。
・収入の道はいくつか作っておいたほうがいい
ジャックの母の収入源は、ミルキー・ホワイトだけだったので、乳が出なくなったとき、2人はとても困りました。あらすじには書いていませんが、母は、「どうしたらいいの、どうしたらいいの」と苦悩します。鶏も飼う、機織りもする、などの別の収入の口があったら、こんなに困ることはなかったでしょう。
・見ず知らずの人間を安易に家にいれないほうがいい
巨人の妻は、いきなりやってきたジャックをキッチンに入れたせいで、夫を失います。おなかをすかせた人間にほどこしをするのはいいことですが、見ず知らずの人を家にいれるときは、注意したほうがいいです。
・腹八分目
童話に出てくる巨人や人食い鬼は、いつも、満腹まで食べて、すぐにグーグー眠ってしまい、それがトラブルの元になります。
ペローの『親指小僧』に出てくる人食い鬼は、食事のときお酒を飲みすぎて、判断力がにぶり、あやまって自分の娘ののどをかき切ってしまいます。
・礼儀正しくしなさい
巨人の妻に、朝ごはんをねだるとき、ジャックはとてもていねいに頼んでいます。妻はもともと気のいい人だったのでしょうが、礼儀正しい態度が、功を奏して、ジャックは家に入ることができました。
最後に
ジャックははたしてヒーローかというと、そうとは言えません。だって、盗みをしていますから、ポリティカリーコレクトではありません。お母さん思いとは言えるかもしれませんが。
そういう意味では、白黒ついていないので、より深みのある童話です。
この童話をジャックの成長の物語と考えることもできます。 へんてこな豆と牛を 交換するという、思慮深くないジャックが、豆の木をのぼって、お宝を奪い、落とし前をつける話とも言えます。
高い豆の木をどんどん上ったり、逆に巨人に追いかけられて急いでおりたりするスケールの大きさや、スリルがあるので、絵本や映像にすると映える話ですね。
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