ナポリの王の娘(ポルトガルの民話)のあらすじ。

船 その他の物語

ポルトガルの民話から、The Daughter of the King of Naples(ナポリの王の娘)を紹介します。サブタイトルは、The Story of a Prince’s Quest(ある王子の探求の物語)

アメリカ人の民話の研究者、Elsie Spicer Eellsという人が、1922年に出版した、The Islands of Magic Legends, Folk and Fairy Tales from the Azores(魔法の伝説の島々:アゾレス諸島の伝承話と童話)という本に入っている作品です。

アゾレス諸島は、北大西洋中部にある諸島で、ポルトガル領です。

簡単な要約

ナポリ王国の姫と結婚したいと願う王子が紆余曲折を経て、願いを叶える話

なかなか結婚しない王子

ある国の王様には一人息子がいましたが、適齢期を過ぎても結婚しません。

王様は、息子に質問しました。

王様「妻をめとる時期はとっくに過ぎている。なぜ、おまえは、結婚しないのだ?」

王子「僕はナポリの王の娘以外とは結婚しません」

王様「ナポリ国王に娘がいるのか、知っているのか?」

王子「いえ、知りません」

王様「その娘と結婚する前に、娘がいるかどうかぐらい調べたほうがいいんじゃないか?」

王子「なるほど」

王子が周囲の人に聞いてみたところ、娘がいるかどうかわからなかったので、自分でナポリに行って確かめることにしました。

ナポリにて

途中、嵐にあいながらも、王子はなんとか船でナポリに到着しました。街の人に聞いてみたところ、ほとんどの人が、姫のことを知りませんでしたが、ある老女が、「お城の窓からこちらを見る、若い女性を見たことがある、きっと姫様だ」と教えてくれました。

王子は、老女に、本当に姫なのか調べるよう頼みました。お礼はたっぷりする、と言って。

老女が、以前、姫らしき人を見かけた窓にいくと、同じ女性が窓からこちらを見ていました。

老女「お嬢さん、お話があります」

たまたま姫は、退屈していたので、老女と話してくれました。すると、いかにもこの娘は王国の姫でした。

老女は、「きれいな器を売りにくるから、明日、また会おう」約束を取り付けました。

物売りに化ける王子

老女から、ナポリの王に娘がいることを知った王子さまはたいへん喜び、翌日、自分が物売りに扮して、会いに行きました。

姫は、約束どおり、彼を城に入れました。老女のかわりにハンサムな若い男がやってきたのを見て、驚きそうなものですが、姫はとくに驚いた様子は見せず、彼がもってきた美しい品々に興奮しました。

リボンやビーズ、その他きらきらしているものに、魅了されていたのです。

姫がいくつか選び、値段を聞くと、物売り(王子)は、「もっと素敵なものがあるから、明日売りに来ます」と言い、翌日、またやってくることになりました。

王子のプロポーズ

翌日、王子は、物売りではなく、王子の姿で、城に出向きました。この王子はもともとハンサムですが、ヴェルベットの真紅の王子服を身につけ、長い羽のある帽子をかぶったら、ますますイケメンです。

姫は、王子を見て、青ざめました。

「あなたは、誰? きのう来た物売りじゃないわよね?」

王子がほほえんで、姫の目をじっと見ると、姫は、きのうの物売りと同一人物だと気づきました。

王子は、姫に自分がナポリに来た理由、これまでどれだけ苦労して姫を見つけ出したか語りました(あらすじでは、はしょっていますが、彼はいろいろ苦労してここまで来ています)。

王子が姫にプロポーズすると、姫は、喜んで受けました。

次の日の夜、姫はこっそり城を抜け出し、階段をおりて、王子の船にのって、一緒に駆け落ちする。

2人はそんな計画をたてました。

姫は、ずっとかごの鳥のような生活で、自由がなかったため、すべてはとてもロマンチックに思えたのです。

駆け落ちの夜

次の日、約束よりだいぶ前に、階段の下に来た王子は、この3日間のできごとで疲れ切っていたため、うっかり馬の上で眠ってしまいました。

たまたまそこに、盗人が通りかかり、馬のサドルから、ぶらさがって寝ている王子を見ます。彼は、馬とサドルをいただくことにしました。

王子の体を抱きかかえ、そばにあった木の下に寝かせた盗人は、見たこともないほど、きれいな娘が、階段をかけおりてくるのに気づきました。

娘はまっすぐ盗人のところに走ってきます。

「準備はできていますわ、愛する人」

盗人は、娘を馬に乗せ、一緒に走り去りました。

人違いに気づく姫

「ボートはどこですの?」

この娘はボートを探しているらしい。馬で充分だと思ったが、海辺にいけば、ボートの1つぐらいあるかもしれないな。

こう思った盗人は、娘を海岸に残し、ボートを盗みに、海の中に入っていきました。

盗人がボートを盗んで戻ってきたとき、月の光がさして、顔がよく見えました。

姫は、「きのうの人と違うような?」とちらりと思いましたが、「これまで2回しか会ってないし、私の愛する王子さまだわ」と思い直しました。

2人はボートで出発します。

翌朝、朝の光の中で、盗人を見た姫は、「この人は、王子さまとは全然違う」と、今度は、はっきり気づきます。

盗人は笑い出しました。

「恋人と一緒のつもりだったのに…」。姫は涙にくれました。

駆け落ちは自分が思ったほど、ロマンチックでも楽しくもないとわかった姫は、お城にもどりたいと切に願いました。

王子、いったんあきらめる

一方、王子は木の下で目覚めました。

「あれ? どうして、こんなところにいるんだろう?」

眠い目をこすりながら、王子はあたりを見回します。馬がいなくなっているので、自分は馬から振り落とされたのだと王子は思いました。

「落ちたのに、気づかないなんて、変だな。馬がないとちょっと格好がつかないけど、姫とは船で行けばいいか」

朝が来るまで、王子は姫が来るのを待っていましたが、表れません。

姫は心変わりしたのだろうと思った王子は、とぼとぼと自分の船にもどりました。

「でも、ナポリの王に娘がいることはわかった。しかも、すごく美しい人だ。

駆け落ちがいやなら、正式に結婚を申し込めばいいな。

国に帰って、父上に、ナポリの国王に話をしてもらうようにしよう。こちらの方法のほうが理にかなっているし」

王子は、姫が約束の晩、階段をおりてきて、盗人に連れていかれたとは夢にも思わず、国に向かって船を出しました。

漁師の家に拾われる姫

王子だと思った男が別人だったと知り、泣いてばかりいる姫を見て、盗人はうんざりしてきました。

最初、見かけたときは、とてもきれいな娘だったのに、泣いているうちに、姫の顔は真っ赤に腫れ上がっています。

盗人は、娘にかかずりあうのはやめることにし、ジョンケイラス( Junqueiras、ポルトガルの街らしい)の港についたとき、姫を置いて行ってしまいました。

姫は、夜になるまで、海と空と岩しか見えないこの街をさまよい歩きました。疲れ果てた姫は、また泣き始めました。

たまたまそばに、漁師の家があり、おかみさんと娘が住んでいました。

「女の子の声が聞こえる」

2人が、ドアをあけて、扉をあけると、若い女性が岩の上で泣いています。

漁師の妻とその娘は、泣いている娘を家に連れ帰りました。漁師の娘は、姫に自分の服を着せ、2人は、姉妹のように暮らしました。

家事は忙しく、姫は泣いているひまがなくなりました。

それでも、夜になって、漁師の妻と娘が寝たあと、姫は、失った恋人や、自分が生まれ育ったお城のことを思って、すすり泣きました。

王子、またも嵐にあう

自分の国に帰ろうと船を出した王子でしたが、またしても、嵐にあい、船は航路からはずれて、ただよい、ジョンケイラスにたどりつきました。

王子は、漁師の娘と姫が2人で、岩の上に立っているのを見ます。姫の顔をくいいるように見る王子。

「きみは、かつて私が知っていた人に似ている。きみの名前は何?」

「私はナポリの王の娘です」

漁師の娘はびっくりして姫を見ました。

「えええっ? 国王の娘なんかじゃないわよ。この人、海に流れ着いたあわれな召使いよ。岩の上で見つけたの。

この人が着ているのは私の服。国王の娘ですって? それなら、私だって国王の娘よ」

しかし、王子は、黙って、ナポリの王の娘を腕に抱きました。

2人が、王子の城に戻ると、ただちに盛大な婚礼が行われ、その後、2人は、あたかも神が天使と暮らすように、仲良く暮らしました。

参照した童話はこちら⇒The Daughter of the King of Naples | Elsie Spicer Eells

育ちのよさの勝利か?

この話に出てくる王子と姫は、とても育ちがよく、人を疑うことを知りません。

しかも肝心なところで、大失敗をする詰めの甘さがあります。

しかし、最終的に、再会し、結ばれたのは、その一途な純粋さのおかげでしょう。

2人とも性格はとても良さそうですから。

王子は、会ったこともないナポリ王の娘と結婚すると思い込んでいるし、姫は会ったばかりの王子が、自分の最愛の人だと思い込み、プロポーズを受け、駆け落ちすることを承諾します。

お城の中には、ものすごく人のいい人と、ものすごく性格が悪く、奸智に長けて、人をあやつる人の2種類います。

童話の中では、悪知恵を働かす人は、途中で、いい目を見ることはあっても、最終的には破滅し、人がいい人(たいてい美男美女)が幸せになるようです。

ところで、最後に王子に名前を聞かれたとき、姫は、「ナポリの王の娘」と答えています。

これ、名前じゃありませんが、昔の高貴な人々の間では、女性の名前を知っている人は、ごくごくうちわの人だけで、対外的には、「◯◯王の娘」とか、「〇〇伯爵の妻」と名乗っていたようです。

大事なのは、誰が父親で、誰が夫かであり、本人の名前(つまり本人自身)はどうでもよかったんでしょうね。

王子がきれいな物品をいっぱい持っている商人のふりをして、姫に近づくくだりは、『忠臣ヨハネス』にもあります。

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