白鳥の乙女(ジョセフ・ジェイコブス 1916)のあらすじ。

白鳥 その他の物語

イギリスの童話を集めた民俗学者、ジョセフ・ジェイコブスの「白鳥の乙女(The Swan Maidens)」のあらすじを紹介します。

ヨーロッパに伝わる、さまざまな白鳥乙女伝説を、彼が再構成したものです。

簡単な要約

白鳥乙女伝説は、日本では、天女の羽衣の話として伝わっています。

白鳥が空から降りてきて、白鳥の服を脱いで、水浴びをしていたら(このときは女性の姿)、人間の男が、その服を隠したので、天に戻れなくなり、その男と結婚する、という話です。

この話は世界各地に伝わっています。

服を盗まれた白鳥

昔、夜通し獲物を追って、狩りをしていた狩人がいました。

ある夜、狩人が、湖のそばで、アヒルを獲ろうと狙っていたら、空の上のほうで羽ばたきが聞こえます。

男が、音のするほうに弓矢をかまえたら、アヒルではなく、羽の服を着た7人の乙女でした。

乙女たちは、服を脱いで、水浴びを始めました。

全員、美しかったのですが、男は、いちばん、小さくて若い娘が特に気に入り、こっそり近寄って、その娘の服をつかんで、木立ちの中に隠しました。

水浴びが終わった乙女たちは、服を着て帰ろうとしましたが、末娘の服がありません。皆で探しましたが、夜が明けるころになっても見つかりません。

姉たち:「日が昇るからもう、もう行かなきゃ。あなたは、自分の運命を受け入れなさい」。

こう言うと、姉たちは、空高く飛んでいってしまいました。

男と結婚する白鳥

姉たちが飛んで行ったのを確認した狩人は、末娘の服を持って、出てきました。

娘は、服を返してくれるよう懇願しましたが、男は、自分のマントを渡しただけで、服は返してくれません。

服を返したら飛んで行ってしまうと思ったからです。

男は、娘に自分と結婚することを約束させ、家に連れ帰りました。娘の服は、わかりにくいところに隠しました。

2人は結婚して幸せに暮らし、子供も2人生まれました。男の子と女の子です。ともに丈夫できれいな子どもたち。母は、子どもたちを心から愛していました。

飛んで行ってしまう母親

ある時、子どもたちが、かくれんぼをしていました。妹が、羽目板の影に隠れようとしたら、羽でできた服があります。すぐに、母親に見せました。

母はこの服を着て、娘に言いました。

「お父様にこう言って。もし私に会いたいなら、太陽の東で月の西の国に来るようにって」

そう言うと、母は飛んで行ってしまいました。

翌朝戻った父親は、娘から事情を聞き、妻を見つけるため、太陽の東で月の西の国に出かけました。

何日間か歩き回ったある日、狩人は、年老いた男が道端に倒れているのを見つけ、介抱しました。

太陽の東で月の西の国

元気になった年老いた男が、狩人にどこに行くのか聞いたので、狩人は、妻のことを話し、太陽の東で月の西の国の場所をたずねてみました。

男:「自分は知らないが、みなに聞いてみよう」。

男は、そこら中の動物を呼んで聞きました。実は、この男は、動物たちの王だったのです。

あいにく、この場所を知っている動物はいなかったので、男は、自分の弟の、鳥の王に聞くように言い、居場所を教えました。

鳥の王も、鳥たちもこの国を知らず、鳥の王は、弟の、魚の王に聞くように言いました。

魚の王も、魚たちも知らなかったのですが、ただ1人(1匹)、イルカが耳寄りの情報を提供しました。

「その国は、水晶の山の上にあると聞いたことがありやす。行き方は知らないけど、野生の森(Wild Forest)のそばだとか。」

便利なツールを手にする狩人

さっそく狩人は、野生の森に向かいました。

途中で、男が2人、喧嘩しているのに出会います。

2人は兄弟です。

喧嘩中の男:「おやじが死んで、形見を2つ残したんだ。1つは、この帽子。これをかぶれば姿が見えなくなる。

もう1つはこの靴。これをはけば、どこでも行きたいとこに行ける。

俺は長男だから、両方とももらうべきなのに、弟が、靴は自分にくれ、と言うんだ。あんた、どう思う?」

狩人は、考えに考えて、「あそこの木まで走って、速く戻ってきたほうに、靴でも帽子でも好きなほうをあげるっていうのはどうだい?」と提案しました。

もうおわかりでしょう。

狩人は、靴と帽子を持って、「ここで待っている」と言いましたが、兄弟が木に向かって走っていったら、すぐに、その靴をはき、帽子をかぶって姿を隠し、「太陽の西で月の東の国へ行きたい」と念じたのです。

狩人は、どんどん景色の中を進み、とうとう、水晶の山に到着しました。イルカが言ったように、山の頂上に、目当ての国がありました。

妻を取り戻す

帽子と靴をぬぎ、そこにいた人に聞くと、この国の王様には、娘が7人いて、みな、白鳥の格好をしている、と言います。

狩人は、王様のところに行き、妻を探しに来たと告げました。

王様:「妻とは、誰のことだ?」

狩人:「あなたの末の娘です。湖で見初めて結婚したんです」

王様:「おまえの言うことが本当なら、娘の中から、自分の妻を見つけられるはずだ」

王様は娘を全員呼びました。みな、白鳥の服を着ていて、顔はそっくりです。

狩人:「手を取らせてもらえばわかります。妻は子供の服をよく縫っていたので、右手の人差し指に針の跡があるはずだから」。

実際、狩人が娘たちの手を取ったら、すぐに自分の妻が見つかりました。

王様は、2人に贈り物をし、2人は、山を出て、家に戻り、末永く幸せに暮らしました。

原文⇒Swan Maidens

男に都合のいい話

さまざまな伝承話を再構成しただけあって、童話のモチーフがたくさん出てきますね。

太陽の西で月の東の国は、ほかの童話にも出てきますが、人間の力だけで到達することは、まずできない、遠い遠い場所です。

水晶の山というのも、どこか遠くにある場所です。

それにしても、妻が夫を探して、遠くまで行く話を読むと、「よかったね。よくがんばったね。これから幸せにね」と言いたくなるのに、夫が妻を探しに行く話は、そう簡単に祝福できません。

少なくとも白鳥乙女伝説には。

最初に、白鳥の服を盗んで、相手を帰れなくしているのですから。

そして、おどして結婚する。まるで人さらいです。

話の中に、「結婚後、2人は幸せに暮らし、子宝に恵まれた」とあるけれど、これは、狩人が考えていたことで、白鳥のほうは、そうは思ってなかったかもしれません。

「子供をとても愛していた」とあるのも、狩人の主観にすぎないでしょう。

だって、服が見つかったら、白鳥は子供を置いて(連れて行かずに)、さっさと自分の国に帰っていきますから。

まあ、子供をないがしろにしているのは、狩人も同じです。彼が遠くに行っているあいだ、誰が子どもたちの面倒をみていたのでしょうか?

妻を見つけた手がかりが、人差し指についていた針の跡、というのも泣かせます。

無理やり結婚させられた白鳥は、指に針の跡がつくほど、裁縫をしなければならなかったのです。

いまの時代の人は、私と同じように考えると思います。

昔は、娘は結婚して、子供を生んで、裁縫やらの労働をするのが幸せなのだ、と思っていたのでしょうね。

1つしかないらしい幸せへの道

『白鳥の乙女』としたけれど、maiden は、処女ですから、これは、白鳥の処女が人間の男にとっつかまって、結婚する話です。

いったん逃げたのに、また連れ戻されます。

考えてみると、おひめさまと王子さまが出てくる童話はみなこのパターンかもしれません。

つまり、処女が、王子さまに会って処女でなくなる話です。

処女でなくなって、母親になるのです。そして、それはハッピーエンドとして描かれています。それ以外に幸せになる道はなかったようです。

妻が夫を探す話の原型⇒クピドとプシュケの物語(ギリシャ神話)のあらすじ(前編)。

遠いところにある国へ⇒太陽の東 月の西(ノルウェーの民話)のあらすじ。

ジェセフ・ジェイコブズの童話集より⇒ジャックと豆の木(イギリスの伝承童話)のあらすじ。

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