イラクサを紡ぐ娘(フランダースの民話)のあらすじ。

ネトル(イラクサ) その他の物語

フランドルの民話から、La fileuse d’orties という話を紹介します。オリジナルはフランス語ですが、私が読んだのは、英訳で、アンドリュー・ラングの世界童話集のうち、あかいろの童話集に入っているものです。英語のタイトルは、The nettle spinner です。

イラクサを紡ぐ娘:1行のあらすじ

暴君に妨害されても、イラクサを紡ぎ続けた娘が、最後には好きな人と結婚できる話。

オオカミのような伯爵

昔、フランダースにブチャードという君主(伯爵)がいました。彼のあだ名は、ブチャード・ザ・ウルフでした。というのも、この人は根性が曲がっていて、ひじょうに冷酷で、農民に対して心身ともにひどい仕打ちをしたからです。

一方、彼の妻はやさしい心の持ち主で、夫が農民を痛めつけるたびに、そこへ行き、親切でやさしい行いをして償いました。よって、伯爵夫人は、夫が皆に嫌われていたのと同じくらい、皆に慕われていました。

伯爵、リネルドを気に入る

あるとき伯爵は森に狩りに行き、人里離れた小屋みたいな家で美しい娘が亜麻を紡いでいるのを見ました。

名前を聞くと、娘は、リネルドだと答えます。「こんな寂しいところで1人で麻をつむぐのはさぞかし寂しかろう」と伯爵が言うと、娘は、「慣れてるから平気です」、と答えました。

伯爵はリネルドを気に入り、伯爵夫人の召使いにしてやるから城に来るように言いました。

しかし娘は、「祖母の世話があるから行けません」、と言います。

「いいから、来い!」

そう言い渡して、伯爵は帰りました。

伯爵の言うことをきかないリネルド

リネルドは城に行きませんでした。というのも、ギルバートという木こりと婚約していたし、祖母の世話があったからです。

3日後、伯爵がまたやってきて、「お前が城に来たら、伯爵夫人と別れて、お前と結婚してやる。だから、城に来い!」とリネルドに言って立ち去りました。

しかし、2年前、リネルドの母親が長患いで亡くなったとき、伯爵夫人がとてもよくしてくれたので、恩を感じているリネルドは、やはり城に行きませんでした。

怒る伯爵

数週間後、また伯爵がリネルドのところに来ました。このとき、リネルドは亜麻ではなく、麻を紡いでいました。

リネルドは、結婚衣装を紡いでいると言います。

「おまえは結婚する気なのか?」

「はい、伯爵さま。あなたのお許しがいただければ」

この時代、農民は、君主の許可がなければ結婚できなかったのです。

「許可してもいいが1つ条件がある。教会の庭に生えているイラクサを取って、2つ服を作れ。1つは、おまえの結婚衣装。もうひとつは私の経帷子(きょうかたびら、死者を包む布)だ。

私が死んで、墓に入った日に、お前は結婚できるのだ」。

こう言うと、伯爵はほくそ笑みながら帰りました。

リネルドは震えました。イラクサを紡ぐなんて聞いたことがなかったし、鉄のように頑丈で、健康自慢の伯爵は、100歳まで生きそうだったからです。

ギルバートと曾祖母の考え

リネルドの婚約者のギルバートは毎晩、仕事のあとに、リネルドに会いに来ていました。

リネルドが伯爵の話をしたら、ギルバートは、「自分がおので伯爵を殺そうか」、と提案します。しかし、リネルドは流血沙汰は嫌いだし、伯爵夫人に恩を感じているので、「そんなことはしないで」、とギルバートに言いました。

一方、この家には、リネルドのおばあさんの母が住んでいて、もう90歳以上になるこの人は、ふだんは何も言わず、椅子の上で居眠りをしているのですが、このとき、急に

「リネルドや、長いあいだ生きてきて、イラクサを紡いで服を作る話なんて聞いたことがないけれど、神様は、人ができることしかおっしゃらない。だから、やってみたらどうだろうか」と発言しました。

ひたすらイラクサを紡ぐリネルド

曾祖母のアドバイスに従って、リネルドはイラクサを紡ぐことにしました。やってみたら、意外にもイラクサをつぶしてみると、やわらかで軽いけれど、丈夫な糸が取れました。

リネルドは、すぐに自分の結婚衣装用の布を織りあげ、仕立ても終えたところに、伯爵がやってきました。

伯爵は、リネルドがイラクサから作った美しい衣装を見ると、顔色が変わりましたが、「よろしい。では、もう1つのに取りかかりなさい」と言いました。

リネルドは、伯爵の経帷子作りに入りました。伯爵は城にもどったころから体調が悪くなり、震えて、ものが食べられなくなり、熱が出たので、ベッドに入りました。しかし眠ることはできません。朝になっても起きられません。

病気はどんどん悪くなりました。突然のこの病気の原因について、知っているのは、リネルドの機織り機だけでしょう。経帷子ができあがるにつれて、伯爵がそれを着る日が近づいているのです。

紡ぐのをやめないリネルド

伯爵は、使いの者をリネルドのもとにやり、紡ぐのをやめるよう言いました。

リネルドは、従いました。

しかし、結婚の許しをまだもらえていないことを知ったギルバートが「紡ぎ続けるんだ。それが、結婚の許可をもらう唯一の方法だと、伯爵自身がそう言ったのだから」と言ったので、翌朝、リネルドは起きるとすぐに、また紡ぎ始めました。

2時間後、伯爵の兵士たちがやってきて、リネルドの腕と足をつかみ、雨で水かさが増した川に放り込みました。リネルドが沈んでしまうのを見届けると、兵士たちは帰りました。

しかし、そのあとリネルドは、水面に浮かび、なんとか自力で、陸まで泳ぎました。

家に帰るやいなや、リネルドはすぐにまたイラクサを紡ぎ始めました。

また、兵士がやってきて、今度は、リネルドの首に重い石をぶらさげて、川に投げ込みました。

ところが、兵士が帰ろうと背をむけたその瞬間、石を結んでいたひもがとけて、リネルドは、また泳いで陸地にもどり、帰宅するとすぐに紡ぎ始めました。

伯爵の妨害

伯爵は自分でリネルドを止めに行こうとしました。彼はすっかり体力が落ちて、歩けず途中で倒れてしまったので、リネルドの紡ぎ車は、回り続けました。

伯爵は、いつも狩猟に使っている銃で、リネルドめがけて打ちました。しかし、弾丸は、機織り機のスピナー(輪の部分)に跳ね返されてしまいました。

伯爵は激怒して、怒りでパワーが出たのか、機織り機を粉々にこわすと、そのまま意識を失って倒れ、家来が城まで運びました。

翌朝、機織り機は修理され、またいつものようにリネルドは紡ぎ始めました。

糸が紡がれているその瞬間、瞬間に、自分の死が近づいていると感じた伯爵は、家来にリネルドの腕をしばりあげ、しっかり見張るよう命じました。

しかし、見張りは眠ってしまい、リネルドの腕をしばったひもが解け、彼女はまた紡ぎ始めたのです。

伯爵は、領地にあるイラクサをすべて根こそぎ取りましたが、土が少しでも見えると、また新たにイラクサが生えてきました。

イラクサはリネルドの家の床にも生えてきて、鎌が勝手に、イラクサを取って、砕いて、紡ぐ準備をするのでした。伯爵の体調は日に日に悪くなり、彼は死が近づいているのを感じました。

伯爵夫人のお願い

伯爵夫人は、とうとう夫の病気の理由を知りました。伯爵に、リネルドの結婚の許しを出すようすすめましたが、伯爵は聞き入れませんでした。

伯爵夫人は夫に内緒でリネルドのところへ行き、リネルドの亡くなった母の話をし、これ以上紡がないように頼みました。

リネルドは従いました。

夜になってギルバートがリネルドのもとにきて、布のできあがりが進んでいないので、理由をリネルドに聞いたところ、リネルドは伯爵夫人に頼まれたと打ち明けました。

しかし、結婚の許可をまだもらえていないことを知ったギルバートは、「イラクサを紡いで、彼が死んでも、それは自分のせいだ、伯爵夫人はわかってくださる」と言いました。

待ってみるリネルドとギルバート

リネルドは、伯爵の考えが変わるかもしれないので、少し待つことを提案しました。そして、2人は、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、半年、1年と待ちましたが、結婚の許可はもらえませんでした。

この間、紡ぎ車は止まったままです。

ギルバートは待ちくたびれ、紡ぐようにリネルドに言いましたが、リネルドは「もう少し待ちましょう」、と言いました。

ギルバートは疲れてしまい、リネルドに会いに来ない日があったかと思うと、そのうちすっかり来なくなりました。

彼を心から愛していたリネルドは、心が折れそうになりましたが、なんとか、正気を保ちました。

ある日、リネルドは伯爵に偶然会ったので、両手を合わせて、「伯爵さま、お慈悲を!」と叫びました。

しかし、伯爵は彼女を無視して立ち去りました。

リネルドが、またイラクサを紡ぎ始めたら、彼はそんな態度を取らなかったでしょうが、リネルドは、そういうことはしませんでした。

国を出るギルバート

ほどなくして、ギルバートは国を出ていきました。リネルドに挨拶にも来なかったけれど、彼女は出発の日と時間を知っていたので、遠くからこっそり彼を見送りました。

家に戻ると、リネルドは、三日三晩泣き続けました。

1年たちました。伯爵はまた病気になったので、伯爵夫人は、しびれを切らしたリネルドがまた紡ぎ始めたのかと思いました。しかし、リネルドの家に見に行くと、紡ぎ車は止まったままでした。

伯爵はますます悪くなり、医者もさじを投げました。鐘が鳴らされ、伯爵は死を覚悟しました。しかし、死にません。絶望的な状態に見えましたが、それ以上、よくもならないし、死にもしないのです。

反省した伯爵

彼はひどく苦しみ、大声で叫び、死を呼びました。早くこの苦しみを終わらせたかったのです。

ギリギリの状態の中で、伯爵は、昔、小さな紡ぎ手に自分が話したことを思い出しました。「死が来るのが遅いのは、死ぬ準備ができていないからだ、経帷子がないからだ」、と気づいたのです。

伯爵はリネルドを枕元に呼び、経帷子を紡ぐよう命じました。

リネルドが紡ぎ始めるやいなや、伯爵の痛みが和らぎました。伯爵は自分のプライドのせいでやったすべての悪事を悔やみ、リネルドに許してくれるよう頼みました。

リネルドは伯爵を許し、昼も夜も紡ぎました。紡ぎ終わると、それを織り、織り上がると、経帷子を縫い始めました。

リネルドが塗っているとき、彼は、さらに痛みが和らいでいき、自分の中で命が縮んでいくのを感じました。針が最後のひと針を塗ったとき、伯爵は最後の息をつきました。

国に戻ってきたギルバート

この時、ギルバートは国に戻りました。彼のリネルドへの愛は変わらなかったからです。1週間後、ギルバートはリネルドと結婚しました。

彼は2年間の幸せを失いましたが、妻が賢い紡ぎ手で、しかも、とても稀なことに、勇気があり、善良な女性であるから、よかったか、と思いました。

参考にした英訳⇒The Nettle Spinner – A Fairy Tale by Andrew Lang – In Red Fairy Book

仏語のオリジナル⇒Contes du roi Cambrinus / par Charles Deulin | Gallica 本のスキャンです。

忍耐は美徳

この話は、Charles Deulin (1827–1877) という人が編纂した Contes du roi Cambrinus (カンブリヌス王の物語)に入っています。

カンブリヌスは、ビールを作った神様であり、ビールの精とも言われています。たぶん、この童話集の中に、カンブリヌスの話が入っているのだと思います。

昔、伝承話は、必ずしも、子供向けの話ではなかったのですが、きょう紹介した話も、子供によさがわからない、というか、ひたすらイラクサを紡ぐだけの話が、子供に受けるとは思えません。

しかし、大人が読むと、リネルドのせつない気持ちや、ギルバートの焦る気持ちがよくわかります。

正直、ギルバートはたいしたことをやっておらず、伯爵も、わがままで、わけのわからない行動をする迷惑な人で、病気になるのは自業自得ですが、偉いのはなんといってもリネルドですね。

どんなに妨害されても、結婚を夢見て、ひたすらイラクサを紡ぎ続ける。しかし、伯爵夫人に、伯爵の命を助けるために、紡ぐのをやめて、と言われると、ピタっとやめて、伯爵の気が変わるのを辛抱強く待つ。

なかなかできることじゃありません。

忍耐は美徳の1つであり、パワーの1つでもありますね。

なお、イラクサで糸を紡ぐことは可能で、YouTubeに紡ぎ方を見せている動画がいくつかあります。一番短いのを紹介します(4分20秒)

糸車で紡ぐ前の下準備のほうが手間がかかる感じです。

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