ヒヤシンス王子とうるわしの姫(ボーモン夫人 1756)のあらすじ。

ヒヤシンス その他の物語

『美女と野獣』の著者として有名な、ボーモン夫人の書いた童話、Le Prince Désir et la Princesse Mignonne のあらすじを紹介します。

今回、私はアンドリュー・ラング(アンドルー・ラング)の『あおいろの童話集』The Blue Fairy Book (1889)にのっている英訳のほう(Prince Hyacinth and the Dear Little Princess)で読みました。

邦題は、『ヒヤシンス王子とうるわしの姫』

超簡単な要約

鼻が異様に長いことを知らずに育ったプリンスが、「本当は長かったんだ」と現実を受け入れたときに、ようやく恋していたおひめさまと結婚できる話。

猫のしっぽの上を歩くチャレンジ

昔あるところに、ある姫を愛していた王様がいました。

王様はおひめさまと結婚したかったのですが、あいにくこの姫は魔法をかけられていたので、誰とも結婚できません。

王様は、妖精に、どうしたらいいか相談しました。

妖精「あのおひめさま、猫を飼っていて、すごくかわいがっているでしょ? おひめさまは、その猫のしっぽの上を歩いた人と結婚するわよ」。

猫のしっぽの上を歩くなんて簡単だと思った王様ですが、この猫はなかなかすばしこく、しっぽの上に足を乗せることすらできません。

しかし、あるとき、猫がしっぽを伸ばしてぐっすり眠っているとき、王様はしっぽの上に足をのせました。

すると、その瞬間、猫が飛び起き、背の高い男になりました。

猫は魔法使いだった

彼は怒ってこう言いました。

魔法使い「おまえは、姫と結婚するがいいさ。呪いをといたからな。だけど、私は復讐するぞ。おまえには息子が生まれるが、その子は自分の鼻がすごく長いと気づくまで、決して幸せにはなれない。

このことを誰かに言ったら、おまえは、その瞬間に、消えてなくなるぞ」。

王様は魔法使いを見ておびえましたが、この脅迫には笑いがとまりませんでした。

王様「息子が長い鼻を持っていたら、気づかないわけないじゃないか」

鼻の長い息子が生まれる

王様は好きだった姫と結婚しましたが、ほどなく死にました。妻と、ヒヤシンスという名の息子(まだ赤ん坊)を残して。

小さなヒヤシンスは、美しい目とかわいい口をしていましたが、鼻がとても長く、顔半分をおおっていました。

息子の大きな鼻を見て、母親(女王)は、ショックを受けましたが、召使いたちは、女王の気持ちを考えて、こんなふうに言いました。

「そんなに大きくありませんわ。ローマ人の鼻ですよ。歴史の本に出てくる英雄たちは、みな、こんな鼻をしています」。

これを聞いて、女王も、「そうかもしれない」と思い始めました。

いつわりの世界で育つ王子

ヒヤシンス王子はとても大切に育てられました。

話ができるようになるとすぐ、家臣やまわりの人から、鼻の小さい人間がいかに醜いか、いかに人間としてだめか、という話を聞かされました。

女王のご機嫌をとるために、この国では、鼻が長いのはあたりまえのこと、むしろ、美しいこと、小さな鼻はだめ、みっともない、という建前を口にする人ばかりになっていたのです。

家臣の中には、自分の子供のふつうの長さの鼻をひっぱって、大きくしようとした者もいました。ですが、どんなに、しっかり、何度もひっぱっても、ヒヤシンス王子の鼻にはとても太刀打ちできませんでした。

うるわしの姫に恋をする王子

二十歳になった王子は、そろそろ結婚する時期です。

母の女王は、お妃候補を探すため、近隣の国の姫たちの肖像画を、取り寄せました。

肖像画の中に、とても美しい「うるわしの姫」の絵がありました。

この姫の父親は偉大な王様で、将来、姫はいくつもの国を父親から譲り受けることになっていました。

しかし、ヒヤシンス王子は、そういうことはいっさい頭になく、ただただ、美しいこの姫の姿にすっかり恋してしまいました。

確かに、とても美しい人だったのです。ただし、鼻が普通サイズだったので、王子的には、ここが難点でした。

一般人の目から見ると、姫の鼻は形がよくて、むしろチャームポイントだったのですが。

鼻が小さすぎる問題

「こんなに鼻が小さいと、みなに笑われてしまう」そう、王子は思いました。

この国では、長年の習慣のせいで、鼻の小さい人を影で笑うことがありました。

事実、うっかり、2人の家来が、姫の鼻をあざ笑い、王子の機嫌を損ね、追い出されました。

そこで、ほかの家臣は、うるわしの姫の鼻について、あからさまにけなすことはせず、うまく言い抜けることにしました。

「確かに、鼻が長くない男性はまったく価値がありませんが、女性の美は男性とは違います。クレオパトラも、鼻は小さかったそうですよ」。

これを聞いて、王子は安心し、うるわしの姫との結婚話をすすめることにしました。

魔法使いにさらわれる姫

姫の父親の承諾を得て、ヒヤシンス王子は、姫に会いにいき、その手を取ろうとしたその瞬間、なんと、姫は魔法使いにさらわれてしまいます。

王子は大きなショックを受け、馬に乗って、自分で姫を探しに行くことにしました。

馬に乗ってどんどん行くと、100歳ぐらいに見える老婆がいました。

実はこの老婆は妖精で、ヒヤシンス王子の父親に「猫のしっぽの上を歩け」と言った人です。この人は、人並み以上に小さな鼻の持ち主でした。

王子と老婆はお互いの姿を見ると、思わず笑い出しました。

王子「ああっ、なんて変な鼻!」

老婆「あんたの鼻ほどじゃないわ」

王子「鼻の話より、何か食べ物はありませんか? 私も馬も、空腹なのです」

おしゃべりな妖精

老婆「よろこんで食事を出しますよ。あんたの鼻はとっても変だけど、あんたは私の親友の息子だしね。あんたの父さん、大好きだったわ。私の兄みたいで。彼は、とっても素敵な鼻をしていたわねえ~」

王子「私の鼻に何か足りない点でも?」

老婆「足りなくなんてないわよ。ありすぎるのよ。長すぎるの。

でも、気にしなくてもいいわよ。鼻が長くても立派な人っているしね。

私が、あなたの父さんの友達だって話、したかしら。彼、昔、私によく会いに来てね・・・[この後、えんえんと昔話が続く]」

王子「お話をうかがいたいのはやまやまですが、おなかがすいていますので、何か食べさせてください」

老婆「もちろんよ。さあ、中に入って。夕食をごちそうするわ。食べながら、話しましょう。

手短かに話しますよ。長話は、長い鼻より、たちが悪いですからね。母にも言われたわ。話は短めにって。

私が若いときね、私の父がね。父は王様で私は姫だったんだけど・・・[このあと、えんえんと身の上話が続く]」

王子(いらいらして)「あなたの父上はおなかがすいたときは、何か食べたんじゃないですか?」

老婆は、食事を用意すると言いながら、話をやめません。しかも、長話はよくないし、自分は、無口だと力説します。合間に、王子の鼻がいかに長いか、何度も言いながら。

心の中で妖精を非難する王子

王子(心の中で)「おなかがすいていなかったら、自分は無口だと言いはる、こんなおしゃべり女の相手なんてするものか。

自分の欠点に気づかない人間は、いかに愚かであることか。

この人は、姫だったから、周囲の人が、本当はおしゃべりなのに、無口だと本人に思わせてしまったのだろう。やれやれ、あわれなことだ」

食事の支度が整い、王子はようやく、食べ物にありつきました。

王子は、何を言われても、老婆をほめる女中を見て、自分は、人のおせじを聞かなかった、自分の欠点はわかっている、と思います。

王子は本当にそう信じていました。自分の鼻をほめた人間が、影で笑っていたのを知らなかったのです。

その後、老婆は、王子の鼻の長いことをしつこいまでに言います。

王子の鼻が影を作って、皿の上にのっているものが見えないとか。

そう言いながらも、自分は王子の気を損ねないために、鼻のことはできるだけ言わないようにしているともいます。

妖精の親切

おなかがいっぱいになった王子は馬にのって去っていきますが、老婆(妖精)は、王子を助けたかったので、うるわしの姫をクリスタルの城にとじこめて、王子の前にさし出します。

うるわしの姫を見て王子は、狂喜しますが、クリスタルにはばまれています。

しかし、姫は手を伸ばすことができました。王子がその手に、口づけをしようとします。が、長い鼻がじゃまをして、くちづけすることができません。

このとき、はじめて、王子は自分の鼻が長いことに気づきました。

王子「ああ、自分の鼻が長すぎると認めざるを得ない」

その瞬間、クリスタルの牢獄が砕かれ、老婆(妖精)が、姫の手をとり、王子に言いました。

老婆「自己愛のせいで、自分の心や身体の欠点に気づけないととわかったわよね? 誰かが教えてくれようとしても、自分の都合のいいように解釈しちゃうんだわ(おしゃべりなので、実際はもっといろいろ言っている)」

ヒヤシンス王子の鼻は人並みになり、彼は、今回のことからしっかり学びました。王子は、うるわしの姫と結婚し、末永く幸せに暮らしました。

原文(英語)はこちら⇒The Blue Fairy Book/Prince Hyacinth and the dear little princess – Wikisource, the free online library

思い込みと幻想と

『美女と野獣』で、ボーモン夫人は、野獣の見かけより、実は王子さまで、教養があり、やさしくて紳士的な中身が大事、と訴えていました。

今回のテーマも、見かけより中身、という点では似ているかもしれません。

周囲の人のせいで、見かけ上の欠点を受け入れることなく生きてきた王子は、最後にそれを受け入れたとき、最愛の姫と結婚することができました。

最後の老婆(妖精)のセリフは、説教くさいし、説明されなくてもわかることなので、私がこの話を映像化するなら、ここはばっさり、カットします。

この老婆はおしゃべりだから、どうしても一言、二言、言わずにはいられなかったのでしょう。

それにしても、この話、笑えます。

猫のしっぽの上を歩くというのも笑えるけど、老婆と王子のやりとりもおもしろい。

原文は長いから、要約にはあまり書いてないのですが、老婆(妖精)が本当におしゃべりで、どうでもいいことをえんえんとしゃべっていて、なかなか食事を出さないのです。

彼女みたいに、しゃべりだすと止まらない人、現実にもいますね。

おなかがペコペコの王子は、心の中で、「自分の欠点に気づかない人間はかわいそうだ」と、老婆をジャッジします。

自分の欠点に気づいていないのは、王子もそうなのですが。

自分のことを棚にあげて、他人をジャッジする人も、現実の世界にたくさんいます。

この話は、皮肉に終始していて、マジカルで派手な展開はありません。

人の容貌を、あからさまに非難しており、ポリティカリーコレクトでもないので、ディズニーの映画にはなりそうにないです。

しかし、人間は思い込みや幻想の中で生きているし、その思い込みを打破するのはむずかしい、ということをよく表しています。

王子に、鼻が人より長いと気づかせなかった、母親や周囲の人のやり方は、昔からよくあることで、それは、いまの政府やメディアのやり方にも通じます。

狭い世界にとじこもっていないで、外から見たり、立場の違う人の意見を聞いたりしないと、自分の思い込みにはなかなか気づくことができません。

アンドリュー・ラングについて⇒パドキー(Puddocky、ドイツの民話)のあらすじ。

☆Andrew Langなので、アンドリューだと思うのですが、日本ではアンドルーと表記されているので、このブログでも両方の表記が混在しています。

美女と野獣(ボーモン夫人)のあらすじ

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