もじゃもじゃ頭(ノルウエーの民話)のあらすじ。

くしゃくしゃの髪 その他の物語

アスビョルンセンとモーが編纂したノルウエーの昔話から、Tatterhood を紹介します。これは英語のタイトルで、ノルウエー語のタイトルは、Lurvehette です。

tatter は ぼろぼろという意味で、フードをかぶっているその下の髪がもじゃもじゃの少女のことです。ついでに言うと、この子はたいへん醜いのですが、双子の姉がいて、こちらはびっくりするような美少女です。

美女と醜女の双子が出てくる話は、ノルウエーやアイスランドに多く、ほかの地域にはあまりないとのこと(Wiki情報)。

1行の要約

髪の毛がもじゃもじゃでとても醜いけれど、行動力のある少女が、双子の姉を助け、自分も幸せになる話。

けっこう長い話なので、前半、もじゃもじゃ頭が出てくるまでは、はしょります。

子供のいない女王

ある国の王様と女王には子供がいなかったので、女王はとてもさみしがっていました。街で国民の子供とその親を見ては、自分も、叱ったり、かわいがったりできる子供がほしいと願いました。そこで、このカップルは、養女をもらうことにしました。

あるとき、養女が庭で金色のりんごで遊んでいると、小さな娘を連れた乞食の女(実は魔女)が、やって来ます。養女と乞食の娘はすぐに仲良くなり、金色のりんごをキャッチボールして遊んでいました。

しかし、女王はこれをよく思わず、乞食の娘を追い出そうとします。乞食の娘は、「私のママのパワーを知ったら、私のこと、追い出そうなんて思わないわよ」と女王に言います。

女王「は? あなたのお母さんのパワーですって。何よそれ、もっとはっきり言いなさい」

乞食の娘「ママが望めば、あなたに子供を授けてあげることができるのよ」

双子が生まれる

これを聞いた女王が乞食本人に確かめると、最初、乞食は否定しました。しかし、乞食の娘の入れ知恵で、乞食にお酒を飲ませたら、乞食の口が軽くなり、女王に子供を授かる方法を教えました。

「たらい2つにそれぞれお湯を入れ、寝る前に、両方のたらいに順番に入って、体を洗いなさい。それから、両方のたらいのお湯をベッドの下に流してね。翌朝、花が2つ咲くからきれいなほうの花を食べて。そしたら子供を授かるよ。言っとくけど、汚いほうの花は絶対食べちゃだめだからね」

女王が言われたとおりにすると、翌朝、ベッドの下に花が2つ咲きました。きれいなほうの花を食べてみたら、あまりにおいしいので、女王は、乞食のアドバイスを無視して、汚いほうの花も食べてしまいました。

しばらくする女王は身ごもり、双子の女の子を生みました。

ひとりめの子はびっくりするほどのブスです。しかも、生まれたときからロバに乗っていて、手には木のスプーンを持っていました。自分の醜さに、ショックを受けている女王に、この子は言います。「大丈夫よ、これから生まれてくるほうはすごい美人だからさ」

この子の言ったとおり、次に生まれてきた女の子はびっくりするほどきれいな子でした。

もじゃもじゃ頭

見かけが全然違う双子でしたが、この2人はとても仲良しでした。醜いほうは、髪の毛を洗わず、いつももじゃもじゃ頭、そこにフードをかぶっていたので、「もじゃもじゃ頭フード」または、「もじゃもじゃ頭ずきん」と呼ばれていました。

しかし、これでは長くて呼びにくいので、ここからは、「もじゃ」と呼びます。ちなみに、この話で呼び名やニックネームが出てくるのはもじゃだけです。

あるクリスマス、変な物音がするので、もじゃが母親に「何事ぞ?」と聞いたら、クリスマスを祝いにトロールと魔女がが大挙してやってきているというではありませんか。もじゃはトロールたちを追い出すことにします。周りの者は、反対しましたが、もじゃは一度、言い出したら引きません。

もじゃは母親に、「ドアをしっかりしめてトロールと魔女を入れないように注意して」と言い残すと、ロバに乗って出ていきました。

このロバはけっこう、はすっこく、トロールたちを蹴散らし、もじゃも、持っていた木のスプーンで、戦い、ほどなくしてトロールたちは逃げていきました。

牛になってしまった姉

しかし、もじゃは知らなかったのです。自分がトロールと戦って、大騒ぎをしているその時、物音に気づいた姉が様子を見るため、こっそり、ドアを開けて頭を出したことを。そして、そのとき、トロールの1人に、頭をはねられ、変わりに牛の首をすげられてしまったことを。

もじゃが城に戻って見ると、牛になってしまった姉が、四足で部屋の中を歩き、「も~、も~」と鳴いていました。もじゃは、「だから絶対ドアを開けちゃだめだって、言ったでしょ!」と母親と家来たちを叱りましたが後の祭りです。

姉を連れて旅立つもじゃ

もじゃは姉を元の姿に戻すために、王様(父親だけど、もじゃと姉の誕生には関与していない)に、船を用意してもらい、姉と一緒に魔女が住む場所へと旅立ちました。

ほどなく魔女の国につき、もじゃが、魔女の城に駆け上がっていくと、窓の1つに姉の首がかけてあったので、もじゃはすばやくそれを奪います。気づいた魔女たちが追いかけてきましたが、もじゃはロバと木のスプーンを使って、魔女たちを蹴散らし、逃げおおせます。そして、船に戻り、姉の牛の首を取り、もとの首をかぶせました。

すると姉はもとの美しい人間に戻り、2人は船に乗ります。自国に帰ろうと思ったのでしょうが、船はべつの王国にたどりつきます。

姉を気に入る王様

その国の王様が、船の様子をチェックしにきました。実は、最初、家来が来たのですが、その家来は、船の上で、木のスプーンを持った、もじゃもじゃ頭のブスな女子が、ロバに乗って、フルスピードで、走りまわっているのを見てたまげました。家来が、「ほかに乗っている人がいるのか」、ともじゃに聞くと、「いるけど会わせないよ。王様がじきじきに来ない限りはね」と言ったので、王様がやってきたわけです。

ちなみに、この王様は后を亡くしたシングルで一人息子がいました。

王様がやってきたので、もじゃは彼に姉を紹介しました。姉は、驚くほどの美女ですから、王様はひと目で恋をします。そして、姉と結婚したいと思うのですが、もじゃは、条件を出します。

「あんたの息子と私を結婚させてくれるなら、あんた、姉と結婚してもいいわよ」。

もちろん、息子はもじゃと結婚するなんて金輪際ごめんです。しかし、父親や周りの人に説き伏せられ、結婚することにしました。まあ、王子なんて、自分の願った人とはなかなか結婚できないものです。きっと、「とにかく結婚だけしてくれればいいんだ。あとは、愛人でも妾でも何でも作ればいいじゃないか」と言われたのでしょう。

婚礼の日

王様ともじゃの姉、王子ともじゃのダブル結婚式が行われる日がきました。二組のカップルがそれぞれ、教会に向かいます。王様と姉のカップルはまぶしいばかりで、人々は姉の美しさをほめそやしました。次に王子ともじゃがやってきました。王子は1人で馬に乗り、もじゃはその横を、いつも乗っているロバに乗って走っています。もちろん、手には木のスプーンを握って。

王子は、きょうは生涯最悪の教会行きだと感じ、ずっとふさぎこんでいます。その様子を見て、もじゃが聞きました。

もじゃ「どうして何も話さないの?」

王子「(ものすごく不機嫌に)いったい、何を話せと言うんだ?」

もじゃ「たとえば、私がどうしてこんな醜いロバに乗っているのか、とか」

王子「どうして、おまえはそんなに汚いロバに乗っているんだ?」

もじゃ「汚いロバですって? これは花嫁が乗るもっとも美しい馬よ」

もじゃがこう言ったら、あら不思議、ロバが美しい馬に変身しました。この後、もじゃは王子と同じパターンの会話をし、醜い木のスプーンは銀の扇に、古ぼけたフードは、黄金の冠になり、最後にはもじゃも世界で一番美しい女性になりました。

こうなれば、王子はもう何の文句はありません。2人は無事に結婚し、祝の宴がいつまでも続いたのです。

☆参考にした原文(英語)⇒Tatterhood

美は最強のパワーか

行動力のあるもじゃと違って、姉のほうは、ものすごく美しいけれど、全くの無力です。しかも、トロールに首を取られて、牛になったりします。

しかし、何もできない姉ですが、その美しさゆえに、一発で王様の心をとらえ、国民にも慕われます。

だから、美しい人は無力でいいのかもしれません。美しさという最強のパワーを持っていますから、へたなことをしないほうがいいのです。

一方、美しくない娘は、自分で人生を切り開いていかねばなりません。ロバを乗り回し、木のスプーンで、トロールと戦い、船に乗って、魔女の国へ向かう。王様に交換条件を出して、王子と結婚する。不機嫌な王子に話しかけて、気分を引き立ててやるなど、やることがたくさんあります。

絶世の美女に生まれつく確率は低いので、多くの人は、もじゃほどでないにしろ、いろいろ努力せねばならないのです。

しかし、もじゃは最後に、国中で一番の美女になります。すると、もう木のスプーンもロバも必要なくなります。その後は王子様次第の、大変ではないけど、かなり退屈な人生になるのではないでしょうか?

魔女の言いつけ

女王が花を食べて、妊娠するくだりは、ラプンツェルに似ています。おとぎ話の世界では、魔女だけが手に入れることができる特殊な植物を食べると、人間は妊娠できるのです。

しかし、このとき、魔女の言いつけをちゃんと守らないと、せっかく生まれた赤ん坊を魔女に取られたり、もじゃのような、ブスできてれつな赤ん坊が生まれたりします。

やはり魔女と取引するのはリスクが伴いますね。

そういうえば、この話の最初のほうに出てきた女王も養女も乞食の娘も、その後は全く出てきません。もじゃを登場させるためだけのキャラクターだったのでしょう。もっと影が薄いのが女王の夫である王様です。

最後に出てくる別の国の王様と王子も、そんなに出番はありません。

この話は、強い女子、もじゃのガールパワーが炸裂する話で、ディズニーが好きそうな話ではありますが、もじゃがあまりにブスなので、映画にはならないのでしょう。

欧米ではけっこう人気のある話で絵本になったりしています。

■これまで紹介したノルウエーの民話

三びきのやぎのがらがらどん(ノルウェーの民話)のあらすじ。 アスビョルンセンとヨルゲン・モーについてはこの記事で少し説明しています。

太陽の東 月の西(ノルウェーの民話)のあらすじ。

ガラス山のおひめさま(ノルウエーの民話)のあらすじ。

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