ガラス山のおひめさま(ノルウエーの民話)のあらすじ。

ガラス その他の物語

ノルウエーの伝承話、『ガラス山のおひめさま』のあらすじを紹介します。原題は、Jomfruen på glassberget(ガラスの山の上の乙女、Google翻訳によれば)で、英語のタイトルは、The Princess on the Glass Hill です。

私的には、シンデレラの男性版だと思います(舞踏会はでてきません)。

簡単な要約

農家の三男坊で、兄たちに、『灰まるけ』と呼ばれ、馬鹿にされていた男性が、ガラスの山の上にいるおひめさまのところまで、馬にのって行き、結婚する話。

牧場の謎

広大な牧草地を持ってる男がいました。牧草地のそばに、納屋を作って、そこに刈り取った草を入れていましたが、ここ数年、この納屋の中はからっぽです。

なぜなら、聖ヨハネの日(St. John’s Day、6月24日)、草がもっとも伸びて青々している晩に、何者かが、草を食べ尽くしてしまうからです。

これでは商売にならないので、男は、息子たちに納屋で番をするように言いました。

長男、次男とも逃げ出す

まず、長男が、納屋に行きましたが、夜になると、納屋がガタガタ揺れだし、地震になりました。壁も屋根もすごく揺れ、室内にあるものも、ガラガラと落ちてきます。おびえた長男はそのまま逃げ出しました。翌日、牧草地の草はなくなっていました。

次の聖ヨハネの日は、次男が番をしにいきましたが、やはり地震が起きて、長男と同じ結果になりました。

三男は逃げ出さなかった

翌年の聖ヨハネの日は、三男が番をしに行きました。兄2人は、「おまえなんかに番ができるわけがない」と笑ったりこきおろしたりしましたが、三男は気にせず、納屋に向かいました。

その夜、やはり地震になりましたが、三男は、「あ、これが兄さんたちの言っていた地震だな。でもこのぐらいならがまんできるぞ」と動じませんでした。地震はあと2回、全部で3回、おきましたが、3回目のゆれがおさまると、あたりはしーんと静まりました。

太った馬がやってくる

しばらくすると、外から馬がやってくる音がします。三男が、扉のかげからのぞいてみると、まるまると太った大きな馬が、草を食べていました。馬のとなりには、真鍮製の騎士のよろいかぶとがあります。

「ああ、あいつが食べていたんだな。よし、止めてやれ」と、三男は火打ち箱で、火打ち金に火をつけると、馬に投げました。馬はおびえておとなしくなったので、三男は、馬とよろいかぶとを、誰にも見つからない場所に隠しました。

こうして三男は草を守ることができましたが、帰宅すると兄たちに馬鹿にされました。

翌年とその次の年も馬がやってくる

翌年の聖ヨハネの日、兄2人はおびえて納屋に行きたがらなかったので、また三男が行きました。前の年と同じことが、よりスケールが大きくなって起きました。この夜、やってきた馬の隣には、銀のよろいかぶとがあったので、やはり三男は馬とよろいかぶとを誰にも見つからないところに隠しました。

翌年の聖ヨハネの日も三男が番をしに行き、やはり地震が起きて、馬がやってきたから、つかまえる、ということ繰り返しました。この年の馬は、黄金のよろいかぶとを持ってきており、三男は馬とよろいかぶとを隠しました。

こうして、三男は毎年、草の番をしっかりしたのに、相変わらず、兄たちに馬鹿にされていました。

ガラスの山の上のプリンセス

この兄弟が住む国の王さまが、ガラスの山をのまでのぼった者を娘(おひめさま)と結婚させるというおふれを出しました。このおひめさまは、とても美しく、ちらっと見ただけで、男性なら誰もが夢中になるタイプです。

おひめさまは、高いガラスの山の上にすわり、ひざの上に黄金のりんごを3つ持っていました。上までのぼって、3つのりんごを持ち帰ったものは、おひめさまと結婚して、王国の半分を手にできるのです。

王国内に住む王子や騎士がたくさんやってきて、ガラスの山のぼりにチャレンジしました。

謎の騎士

農家の兄2人も挑戦しに行きました。三男も行きたがりましたが、「おまえなんておよびじゃない。灰だらけのおまえがついてくるとみっともないから来るな!」と兄たちに一蹴されました。

三男は、「それなら1人でいくからいいさ」とひとりごちました。

この山はかなり高く、とても傾斜がきついし、おまけにガラスなので、どんな馬もつるつるすべってしまい、のぼることができません。

誰ものぼることができないでいると、立派な馬に乗り、真鍮のよろいかぶとを着て文字通り光輝いている騎士がやってきて、山を3分の1まで難なくのぼりました。すてきな騎士の姿に、おひめさまは、うっとりして、上までやってくるのを待ちました。

しかし、そのまま、上に行けそうだったのに、この騎士は、そこで、くるっと向きを変え、下に降りていきました。おひめさまは、急いで金のりんごを、この騎士めがけて投げました。

騎士はさっさと帰ってしまいました。

謎の騎士、再び

トーナメントが終わったあと、王さまがりんごを持つ者がいるかチェックしましたが、誰も持っていませんでした。

家に帰って兄たちから謎の騎士のことを聞くと、三男は、灰に足をつっこみながら、「へ~かっこいい! 僕もその騎士に会ってみたい」と言いましたが、兄たちに、「おまえのような灰まるけには関係のない話だ、ひっこんでいろ、このぼけ!」といつものようにぼろくそに言われました。

2回めのチャレンジの日が来ました。もう書かなくてもわかるでしょう。1回目と同じことが起きました。ただし、今回やって来た謎の騎士は、銀のよろいかぶとを着ていて、3分の2までのぼったところで、下におりていきました。もちろんおひめさまは彼にりんごを投げています。

3回目のチャレンジの日がきました。1度めと2度めのときと同じ展開でしたが、今度は、謎の騎士(このときは黄金のよろいかぶと)は上までのぼりきり、おひめさまのひざにある金のりんごをとると、さっさと降りて行ってしまいました。

りんごの持ち主探し

王さまが、挑戦した男たちを集め、りんごを持っている者を探しましたが誰もいません。そこで、王さまは、王国に住む男性全員に、城にやってくるよう命じました。

金のりんごを持っているか、直接聞いてみることにしたのです。

男たちが次々とやってきましたが、金のりんごを持っている者はいません。農家の兄2人も出向きました。もちろんりんごは持っていません。彼らが最後だったので、王さまは、城にやってきていない男性がいないか、兄弟にききました。

「そういえば、うちに弟がいますけど、金のりんごなんて持っていません。あいつは、トーナメントに参加してないし、家でかまどの灰をかきまわしてるだけだし」と兄弟は答えました。

しかし、王さまは、全員と面接したかったので、弟も城にくるよう命じました

三男がやってきたので、王さまが「金のりんごを持っているか?」と聞いたら、三男は、「はい」と言って、3つのりんごを見せました。三男が、着ていた灰だらけのぼろきれみたいな服をはぎとると、そこには金色のよろいを着てきらきらと輝く、立派な騎士が立っていました。

こうして三男は、おひめさまと結婚し、盛大な祝宴が開かれました。

こちらの童話を参考にしました⇒ The Princess on the Glass Hill | Asbjørnsen & Moe

逆シンデレラストーリー

「3」にこだわっているこの童話、どう考えても逆シンデレラストーリーだと思います。リンク先の英語の童話には、三男のあだなはBootsとありますが、Cinderlad(灰かむり者)としているものもあります。

彼は、ふだんはかまどの灰の世話をしているらしく、家で、よく灰に 足をつっこんでいて、そのせいで、灰だらけでとても汚いのです。

汚いせいか、末っ子のせいか、いつも兄たちにぼろくそに言われています。

しかし、彼は兄たちにはない勇気がありました。大きな地震が来ても逃げ出さなかったのですから。その後の馬の対処も落ち着いてやっています。

まあ、地震でゆれているときは、むやみに外に出ていかないほうがいいので、三男は、兄たちよりも知恵があったと言えましょう。

そのおかげで、脚力のある馬と、太陽の光にあたってキラキラ輝く、りっぱなよろいかぶとを手に入れ、それを使って、ガラスの山をのぼり、おひめさまと結婚することができたのです。

ガラスの山が象徴するもの

この話の主役は三男ですが、「灰かむり者」というタイトルではありません。

ガラスの山をフィーチャーすることで、読者に希望をもたせているのかもしれません。透明で高いガラスの山と、その頂上にいる美しいおひめさま、さらに3つの金のりんごは、何か純粋なものを連想させます。

人の魂が求めている美しく崇高なものとも考えられます。

もう少し世俗的に考えれば、それぞれの夢かもしれません。

人になんと言われようとも、勇気をもって進んでいけば、夢に近づけるというメッセージを読み取ることができます。情景を思い浮かべてみると、青々とした草や、光るよろいかぶと、すきとおった山、金のりんごなど、光や命を連想させるものが多く、ポジティブな童話だと思います。

それにしても、おひめさまをガラスの山にのせてトーナメントをするなんて、伝承話にでてくる王さまは、突拍子のないことを考えて、わけのわからないおふれを出す人が多いです。

そして、おひめさまは、自分で結婚相手を選ぶことはできません。

三男が心優しい人であることを祈るばかりです。

聖ヨハネの日

聖ヨハネの日は、宗派によって日付が違いますが、草の背丈が一番高いとあるので、6月24日だと思われます。 Wikipediaによれば、正教会、カトリック、聖公会、ルーテル教会はこの日が聖ヨハネの日です。

彼は、キリストより半年前に生まれたとされており、クリスマスの半年前が 聖ヨハネの日となります。

まあ、実際は、キリストが生まれたのは12月25日ではないそうですから、この日も便宜的に定められたのでしょう。この日は昔はヨーロッパで夏至のまつりがあった時期です。

だから、聖ヨハネの日の前夜は魔女や精霊があらわれるという言い伝えがあり、この民話で、納屋で地震をおこし、馬とよろいかぶとをつかわしたのも魔法使いの仕業だと思われます。

シェークスピアの『真夏の夜の夢』もこうした伝説が背景になっています。

『ガラス山のおひめさま』は、『太陽の東 月の西』と同じで、 ノルウエーの民俗学者の、 ペテル・クリスティン・アスビョルンセンとヨルゲン・モーが収集し、出版したものです(1845)。

火打ち箱はこちらで説明しています。

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