ヤギが3匹出てくる童話を紹介します。
英語のタイトルは、Three Billy Goats Gruff、オリジナルのノルウエー語のタイトルは、De tre bukkene Bruse
ヤギは兄弟で、Bruseや、Gruffは名字です。話の内容からすると、この名字は、ヤギの長男のガラガラ声からきているようです。ウィキペディアによると、Bruse は「うなり声」という意味だそうです。
邦題では、「がらがらどん」となっているため、名前に思えませんね。
billy goat はヤギのことです。
1行のあらすじ
3匹のヤギが、トロール(巨人)をかわして、目的を達成する話。
丘の上に行きたい3匹
昔むかしあるところに、3匹のヤギがいて、丘の上に行って草を食べたいと思っていました。
彼らの名前は、がらがらどん(Gruff)でした。
丘の上に行く途中に川があり、橋を渡らなければなりませんが、この橋には、恐ろしいトロールが住んでいました。
トロールの目はソーサーのように大きく、鼻は火かき棒のように長いのです。
まず末っ子が橋を渡る
最初に末っ子のヤギが橋を渡りました。
タッタタッタタッタ。
橋の音に気づいたトロールが怒鳴ります。
「誰だ? 俺様の橋を渡るやつは?」
「あ、僕です。一番小さい、がらがらどん家のヤギです。丘の上に行って草を食べようと思ってるんです」
「ふん、おまえをひと飲みしてやらあ」
「あ、だめです。僕を食べないで。僕は一番小さいし。すぐに、上の兄さんがやってきます。兄さんのほうが大きいので食べごたえありますよ」
「そうか、じゃあ、おまえはこのまま、通してやる」
真ん中のヤギが橋を渡る
しばらくして、すぐ上のヤギが橋を渡りました。
タッタタッタタッタ。
橋の音を聞きつけたトロールは、さっきと同じように怒鳴り、同じように「おまえを食べる!」と言います。
真ん中のヤギも、
「あ、だめです。僕を食べないで。すぐに兄がやってきます。兄は僕よりずっと大きいから、食べごたえがありますよ」
と言って、無事に橋を通してもらいました。
長男のヤギが橋を渡る
しばらくして、一番上のヤギが、橋を渡りました。
長男は身体が大きく体重があるため、橋はひときわ大きな音を立てます。
「誰だ? 俺様の橋を渡るのは?」トロールが怒鳴ると、
「俺様だ!」長男は、トロールに負けずとも劣らないガラガラ声で叫びました。
「よし、お前を食べてやる!」
「ふん、かかってこい。俺様の槍(やり)で、お前の目を突き刺して、丸石で、お前を八つ裂きしてやるだけだ!」
長男ヤギはこう言うと、トロールに突進し、角で目を突き刺し、彼の身体をこっぱみじんにして、滝に放り投げました。
その後、長男は、丘の上に行き、兄弟たちと合流して草をたらふく食べました。
参考にした原文(英語)⇒ Three Billy Goats Gruff
明日の百より今日の五十
とても短い話ですが、いくつか教訓があります。
まず、トロールとしては、「さっさと末っ子を食べておけばよかった」、という学びがあります。まあ、彼は完全に殺されてしまったので、今さら学びもへちまもありませんが。
末っ子のヤギは、角がはえていないし、小さいので、簡単にねじ伏せることができたはずです。
「明日の百より今日の五十」ということわざがありますが、今確実に手に入るお金で満足しておくほうが、明日手に入るかもしれない倍のお金を待つよりも、ずっといいのです。
しかし、トロールは、末っ子のみならず、真ん中のヤギも、のがしてしまいました。欲ばり過ぎるべきではなかったのです。
虎穴に入らずんば虎子を得ず
次に、勇気と交渉の重要さも学べます。
原文だけ見ていると、橋にトロールが住んでいることを、3匹のヤギが知っていたのかどうか、あいまいですが、絵本やアニメでは、知っていることになっています。
恐ろしいトロールがいるけれど、それでも勇気をだして、ヤギたちは橋を渡ったのです。ここでは、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」ということわざが思いだされます。
おいしい草をたっぷり食べるという利益を得るためには、多少の危険は覚悟しなければなりません。たとえ障害や危険があろうとも、勇気を出して前進しなければならないのです。
何か達成したいことがあるとき、障害はつきものなので、これは人生全般に使える教訓です。
末っ子と真ん中のヤギの交渉力にも注目したいところです。
「自分なんて食べても仕方ないですよ。だって、あとから、僕よりもっと大きくて、食べごたえのあるヤギが来るんですから」。
力のないものは下手にトロールと武力対決をするのではなく、知恵をしぼって交渉すべきなのです。そして、むずかしい仕事は、トロールと同等かそれ以上に力のある長男に任せてしまうのがベスト。
下のヤギ2匹は、身のほどをわきまえていました。
ノルウェーの民話
この話は、アスビョルンセンとヨルゲン・モー(Asbjørnsen と Moe)という人たちが、1841年に出版した、Norske Folkeeventyr(ノルウエー民話集)に入っています。
アスビョルンセンは動物学者、モーは聖職者でティーエイジャーのころからの友人(学友)とのこと。
二人とも、仕事のかたわら、それぞれ民話を収集していましたが、グリム兄弟の本を読んでから、本格的に出版する気になったそうです。
グリム兄弟が、ドイツ文化とドイツ産にこだわって民話を収集したのと同様に、アスビョルンセンとヨルゲン・モーも、当時、独立を勝ち取ったノルウエー(1442年からデンマークの統治下にあった)における国家主義や民族主義の高まりを背景に、口承で伝わっていたノルウエーの話を、ノルウエー語の口語にまとめて出版しました。
民話集の出版は、ノルウエー民族の誇りを回復させ、デンマーク語ではないノルウエー語の書き言葉(文学)を成立させるのに多いに役立ちました。
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3匹のヤギの話、日本ではそこまで有名ではないと思いますが、英語圏では人気があり、絵本はもちろん、映画、アニメ、テレビ番組、劇など、いろいろなアダプテーションがあります。
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