グリム童話から、『一つ目、二つ目、三つ目』というお話を紹介します。
原題は、Einäuglein, Zweiäuglein und Dreiäuglein 英語のタイトルは One-Eye, Two-Eyes, and Three-Eyes
目の数が違う三姉妹の話です。シンデレラに似た話ですが、主人公は3姉妹の真ん中です。
1行のあらすじ
目が2つで、普通すぎるため、母親や姉妹にいじめられていた3姉妹の真ん中の娘が、仙女(魔法使い)やヤギによって、幸せになる話。
目が2つある娘
あるところに3姉妹がいました。長女は額に目が1つ、次女はふつうに目が2つ、三女は三つ目(2つはふつうに並んでいて、その上に目がもう1つある)でした。
次女は、ほかの人間と同じ二つ目なので、「平凡このうえない」と、母親や姉妹からいじめられていました。
ボロを着せられ、家事を全部押し付けられ、食べ物は残りものをちょっぴりもらえるだけ。
二つ目は、いつもおなかをすかしていました。
仙女
あるとき、ヤギを外に連れ出して(ヤギの世話も次女の仕事)二つ目がひもじくて泣いていると、目の前に女性が立っています。
女性「二つ目ちゃん、なぜ泣いているの?」
二つ目「食べ物をちょっぴりしかもらえなくて、おなかがすいて死にそうだから」
女性「大丈夫よ。ヤギに向かって。こう言いなさい。ヤギさん、め~~~、テーブルよ、出ろ!と。すると食べ物が出てきます。食事が終わったら、ヤギさん、め~~~、テーブルよ、消えろ、と言ってね」。
そう言うと女性はどこかへ行ってしまいました。
ごちそうがのったテーブル
半信半疑ながらも、二つ目が、言われたとおりにしたら、本当にごちそうがいっぱいのテーブルが出ました。
ごちそうをたらふく食べたあと、「ヤギさん、め~~~、テーブルよ、消えろ!」と言ったら、テーブルは消えました。
その日、二つ目はおなかがくちていたので、帰宅したあと、残り物の皿には手をつけませんでした。
そんなことが数日続いたので、母親や姉妹は、二つ目が、どこかで食べ物を得ているに違いないと思い、真相を突き止めることにしました。
姉と妹の計画とヤギの運命
まず一つ目が、ヤギを連れ出す二つ目と、一緒に野原に行くことにしました。見張るためです。
二つ目は、姉の考えがわかっていたので、歌を歌って、姉を眠らせることにしました。
「一つ目ちゃん、起きてる? 一つ目ちゃん、もう寝た?」
こんな感じの歌です。
一つ目は、あっさり眠ったので、二つ目は、その間にテーブルを出し、ごちそうを食べました。
家に帰った一つ目が、「寝てしまって、わからなかった」と言ったので、母は、今度は三つ目を偵察につけることにしました。
二つ目は、三つ目に対しても、眠らせる戦法をとり、歌い始め、三つ目が寝たのを見計らって、テーブルを出しました。
しかし、三つ目は、ふつうに並んでいる2つの目は寝ていたものの、上にあるもう1つの目は起きていたので、二つ目が、ヤギにテーブルを出してもらったところをしっかり見ていました。
帰宅後、三つ目から事情を聞いた母親は、たいそう怒りました。
「私たちよりいい生活をするなんて、許せない。そんなことはさせやしないよ」。こう言うと、母親は、包丁でヤギを刺し殺しました。
仙女のアドバイス
頼みのヤギを殺されてしまった二つ目が、外で泣いていると、またしても例の女性が現れました。
女性「二つ目ちゃん、どうして泣いているの?」
二つ目「大事なヤギを殺されてしまいました。もう、テーブルを出せません……おなかがすいて死にそうです」
女性「大丈夫よ。死んだヤギのはらわたを入り口のそばの地面に埋めれば、いいことがあるわよ」
金の果実
二つ目が、姉たちにはらわたをもらって、外に埋めた翌朝、その場所に、立派な木が立っていました。
銀色の葉があるその木には、金の果実がなっています。
それを見た母親は、一つ目と三つ目に、果実をもぐよう言いましたが、2人が果実をもごうとするたびに、枝は逃げてしまって、もげません。
この木は「元ヤギのはらわた」なので、二つ目しか果実をもげないのです。
二つ目は、たくさん果実をもいでエプロンにいっぱい入れましたが、すべて母親に取り上げられました。
二つ目しか果実をもげないことに、母親は怒り、ますますいじめがひどくなりました。
騎士、現る
あるとき、家族で不思議な木のそばに立っていると、若くてハンサムな騎士が通りかかり、珍しい木に目をとめました。
騎士:「お礼はたっぷりはずむから、枝を1本くれないか」
一つ目と三つ目:「もちろんですわ。これは私たちの木ですもの」
こう言うと一つ目と三つ目は必死で枝を折ろうとしましたが、手を伸ばすたびに、木は向こうにそれてしまいます。
姉と妹に言われて、目立たない場所にいた二つ目だけが、枝を折ることができました。
枝をもらった騎士:「ありがとう。お礼は何がいい?」
二つ目「どうぞ私をここから連れ出してください」
騎士は、彼女を馬に乗せて、自宅(お城)に連れ帰りました。
ハッピーエンド
お城で、おいしいものを食べて、顔色がよくなり、美しいドレスに着替えた二つ目は、すっかりプリンセスのようになります。その美しさに心をうばわれた騎士と結婚し、何不自由のない暮らしを始めました。
家に残された姉妹は、「私たちも、木のそばに立っていると、結婚相手に巡り会えるかもしれない」と思い、外に出たところ、木が消えています。
実は、「元ヤギのはらわた」のこの不思議な木は、二つ目のあとをついて、お城に行ってしまったのです。
二つ目がいなくなってから、一つ目、三つ目の運は急速に悪くなります。とうとう2人は食べるものがなくなり、物乞いになりました。
家から家へ、物乞いして歩いていた一つ目と三つ目は、二つ目が嫁いだお城にもやってきました。
2人が自分の姉妹だとわかった二つ目は、2人をやさしく中に迎え入れたので、一つ目と三つ目は、かつて自分たちがしたことを深く悔いました。
原文(英語)⇒Brothers Grimm fairy tales – One-Eye, Two-Eyes, and Three-Eyes
この童話の教訓
差別してはいけない
自分と見かけの違うものを差別すると、ひどい目にあう、というのがこの話の最大のメッセージでしょう。
見かけが違っても、考え方が違っても、お互いに尊重しあうべきなのです。
自分とちょっと違う人間に違和感を抱き、時に迫害することは、今の人間もふつうにやっているので、この話はずっと生き続けるでしょう。
普通が一番いい
一つ目と三つ目は、自分がほかの人間と違うので、「私たちはすごい」と思っていましたが、幸せになったのは、10人並みだった二つ目です。
目の数は、あくまでその本人の個性にすぎず、たまたま生まれつきそうだったのだから、そのメリット(本人たちにとっては)を、自分たちのパワーの拠り所や、特権を駆使する理由にするべきではありません。
目の数と言えば、母親の目の数の説明はいっさいありませんが、二つ目を、「普通すぎる」と言っていじめていたのだから、母親も、二つ目ではなかったのでしょう。
絶望してはいけない
二つ目が泣いていたら、仙女が2度も助けてくれたことは、「どんなにつらくても、がんばっていれば、助けの手がさしのべられる」と教えてくれています。
つらくても、希望を失うべきではありません。
油断禁物
二つ目は、三つ目に子守唄を歌ったとき、うっかり、3つ目の目のチェックを怠ってしまいました。
自分が二つ目だから、寝てるときには、目は全部寝るものだ、と思ったのでしょう。
こうした油断は、ときに、災難を招きます。
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この話は、1816年にドイツで出版された別の童話集にのっていたものを、グリム兄弟がちょっと書き換えたものです。
「金の果実」が、「りんご」になっている時もあります。
ごちそうがのっているテーブルが出てくるほかの童話⇒おぜんやご飯のしたくと金貨を生む騾馬と棍棒袋から出ろ(1812, グリム童話)のあらすじ ☆この話にもヤギが出てきます。性格に問題のあるヤギですが。
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