1697年に出たシャルル・ペローの童話集から、「長靴をはいた猫」のあらすじを紹介します。原題は、Le maître chat ou le chat botté (猫の主人、または長靴をはいた猫)。
猫を相続した男
ある粉引きが死に、長男が粉ひき小屋、次男がろば、三男が猫を相続しました。「猫なんてもらってもなんにもならない」と絶望する三男の言葉を聞いた猫は、「ご主人さま、私に袋と長ぐつをくれれば、なんとかなります」と言いました。
この猫はふだんからうまくネズミを取っていたので、半信半疑ながらも、三男は言われたとおりのものを揃えてやりました。
王様に貢ぐ猫
猫は森に行き、袋をわなにして、うさぎをつかまえ、王様のもとにいき、「私の主人、カラバ侯爵よりの贈り物でございます」と言って献上しました。王様は喜んで受け取りました。
猫は同じ要領で、しゃこ(鳥)をつかまえ王様に献上しました。その後、2~3ヶ月獲物を王様に運び続けます。ある日、猫は、王様には、世界でも一番美しい部類に入るおひめさまがいて、2人で、川のそばに遊びに行く計画があることを知りました。
主人に指示する猫
猫は、主人(三男、カラバ侯爵)に、「川に入ってください、そうすれば幸せになれます、と指示します。カラバ侯爵はわけがわかりませんでしたが、とりあえず、言われたとおりに川につかっていました。
王さまがやってくると、猫は、「助けて! カラバ侯爵さまがおぼれかけています」と叫びます。馬車から顔を出した王様は、いつも獲物を持ってきてくれた猫だとわかり、家来にカラバ侯爵を助けるよう命じます。
猫は侯爵の服を隠し、王様に、「どろぼうが、侯爵の服を盗んだ」と訴えました。王様は、侯爵に服を貸すことにしました。
カラバ侯爵に恋をするおひめさま
侯爵(三男)はもともとハンサムでしたが、王さまが貸してくれた衣装を着たら、ますます見栄えがよくなり、おひめさまはすっかり彼に恋してしまいました。
王様が侯爵を馬車に乗せ、一緒にあたりを見てまわりたいと望んだので、猫が先になって歩くことにしました。
猫は、野原にいる百姓を見つけると、「この野原は、カラバ侯爵のものだと王様に言え。そうしないとおまえたちは、ひき肉のようにこまぎれにされるぞ」と脅しました。
こまぎれになりたくない百姓たちは、王様にたずねられたとき、この土地はカラバ侯爵のものだと答えました。「立派な領地だ」と王様は感心しました。
人食い鬼を手玉にとる猫
猫は、麦畑で働いている者や、出会う人々みんなを同様に脅したので、王様は、カラバ侯爵の領地が広いことに、驚きました。
猫は、金持ちで、近所の土地をみな持っている人食いの城に到着すると、お目通りを願いました。
「あなたはなんにでも姿を変えることができるそうですね。ゾウやライオンなどにも」と猫がいうと、「できるぞ」と人食い鬼はライオンになってみせました。
「小さな動物にもなれるそうですね。たとえば、ネズミなんかにも変身できると聞いたのですが、さすがにそれは無理ですよね?」
「できるぞ!」人食いはハツカネズミになって、ちょろちょろ走りました。すぐさま猫は飛びかかってネズミを食べました。
おひめさまと結婚するカラバ侯爵
そうこうするうちに、王様の一行がやってきたので、猫は、「これはこれは、王さま。カラバ侯爵のお城へようこそお越しくださいました」と言って、中に招き入れました。
城の中には、人食い鬼が友だちのために用意してあったすばらしいごちそうがあり、それを皆で食べました。
王様は、娘が侯爵にすっかり心を奪われているし、彼が財産家だとわかったので、「どうだろう? 私の義理の息子になってくれますまいか?」と侯爵に頼みました。
侯爵はこのオファーを受けて、その日のうちにおひめさまと結婚しました。猫も、りっぱな貴族になり、その後は気晴らしのためだけに、ネズミを追いかける暮らしをしました。
教訓
どんなに素晴らしい財産が父親から息子へ譲られようとも、若者にとっては、勤勉で世渡り上手であるほうが、価値のあることです。
■もう1つの教訓
粉引きの息子が、こんなに早く、おひめさまの心を射止めたのは、服装、顔立ち、若さがあったからです。こうしたものを軽んじてはいけませんよ。
原文はこちらを参照しました⇒ Chat-Texte.pdf
なぜ長靴をはく必要があるのか?
『長靴にはいた猫』に似たおとぎ話は古くから伝わっていますが、猫に長靴をはかせたのは、シャルル・ペローが最初とのことです。以降、この話の猫は、必ず長靴をはいています。
猫はべつに裸足でも充分生きていけますが(そもそも粉引きが生きているときは裸足だったし)、三男を、王さまに近づける計画を実行するにあたって、長靴が必要だったのです。
サンドリヨン(シンデレラ)のガラスの靴といい、ペローは靴にこだわっていますが、ペローの時代、つまり、ルイ14世の御代では、服装がその人の身分を表していて、ひじょうに重要だったからです。
当時、靴は高い買い物で、ステータスシンボルでした。 ちゃんとした靴をはいていないと、誰にも相手にされないのです。
それは、教訓のところで、「服装や見てくれをバカにしてはなりませんぞ」とペローが書いているところからもわかります。出世や成功を望むなら、よい靴がいるのですね。
ペローは茶目っ気のある教訓をよく書いていますが、すべては宮廷生活で身につけた生きる知恵で、彼の心の叫びなのです。
狡猾な猫が人生のお手本になるのか?
『長靴をはいた猫』のストーリーはおもしろいですが、この猫のやっていることといえば、人をだましているだけです。村人たちを脅してもいます。
三男にいたっては何もしていません。猫をもらって、ぶつくさ文句を言うのと、猫に袋とブーツを用意するのと、川に入ったこと以外は。
お姫さまに惚れられたのは、たまたまハンサムだったから。
あらすじには書きませんでしたが、猫をもらったとき、彼は「猫を食べて、猫の皮でマフを作ったら、あとは餓死するしかない」と言っています。彼は、猫を殺すつもりだったのです。
そんな男と猫から何を学べるのか?
猫のやることを真似したら、詐欺罪で刑務所行きですし、三男のやっていることを真似したら、流されるだけの人生になりそうです。
無理やり教訓を引き出すとすれば、「もらった物に文句を言わず、現状を受け入れ、知恵をしぼれ」でしょうか。
コメント
「もらった物に文句を言わず、現状を受け入れ、知恵をしぼれ」
同感です。無理やりではなく、本当にすばらしいメッセージだと思います。
三男が智恵をしぼってるわけではないけれど、殺すしか価値がないと思っていた猫の話を受け入れたことはとても立派だと思います。
この三男は無為無策の男ですけど、ネコに仕事をまかせたのはいいかもしれないですね。
ふだんネコが、ネズミを取るとき、いろいろ工夫しているのを見ていたので、三男はネコの言うことを聞いたのです。
自分の能力をわきまえて下手に手出しせず、優秀な部下に任せ給え、という教訓もあるかもしれません。