笑わない王女(ロシアの民話)のあらすじ。

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ロシアの伝承話から、『笑わない王女』を紹介します。英語では、The Princess Who Never Smiled とか、The Princess who would not Smile と訳されています。

超簡単な要約

忙しい人向け1行サマリー:ある国に、生まれてから一度も笑わないおひめさまがいたが、ひょんなことから正直者が彼女を笑わせ、2人は結婚する。

笑わない娘を心配する父親

ある国にとても美しいおひめさまがいました。この王女は、人々がのぞむみ得るものはすべて持っていましたが、一つだけ大きく欠けているものがありました。

生まれてから一度も、ほほえむこともなければ、笑うこともなかったのです。

父である王さまは、そのことにとても心を痛め、なんとか娘を笑わしたいと思い、とうとう王女を笑わせたものは、王女と結婚させる、というおふれをだしました。

そこで国中から、いろいろな人がやってきました。身分の高い人から、庶民まで、ぞろぞろと城にやってきて、王女の前でいろいろなことをしましたが、王女はくすりともしませんでした。

ドジな正直者

一方、街の反対側に、貧しい正直者が住んでいて、雇い主のもとでせっせと働いていました。毎朝、庭をほうきではき、夕方には、家畜の世話をし、その間も、いろいろとくるくる働いていました。

年末になり、雇い主が、硬貨の入った袋をテーブルに置き、「おまえはよく働いてくれた。欲しいだけ硬貨を取りなさい」と言って、部屋を出ていきました。

男は、考えた末、1枚だけ硬貨をもらい、その後、のどが乾いたので、井戸に水を飲みにいったらうっかり、硬貨を井戸に落としてしまいました。

彼は、もう1年、この雇い主のもとで働くことにしました。

どこまでもドジな正直者

前の年と同じように、せっせと働いていたら、また年末になり、雇い主が、前と同じように、硬貨の入った袋を持ってきて、好きなだけとるように男に言いました。

男はまた硬貨を1枚だけ取り、井戸に水を飲みに行くと、またその硬貨を井戸に落としてしまいます。

そこで、もう1年、前よりもせっせと働いて、年末になり、硬貨を1枚とって、また井戸に行きますが、今度はお金を落としませんでした。しかも、これまで落とした硬貨が2枚、井戸の表面に浮いてきたので、それも拾いました。

不思議な家来ができる正直者

3枚、硬貨を手にいれ、うれしくなった正直者は、「今こそ、世界を見る時が来た」と、町中をてくてく歩いていました。するとネズミがやってきて、「あなたのために仕事をするから、硬貨を1枚ください」と男に頼みます。

男はネズミに硬貨を1枚やりました。しばらくすると、こんどはカブトムシが、同じことを言ってきたので、カブトムシにも1枚やりました。

もうしばらくして川に出ると、ナマズが出てきて、やはり硬貨を求めたので、男はナマズに1枚やり、一文なしになりました。

とうとう笑うおひめさま

いつのまにか男は、城の前まで来ていました。ふと見上げると、美しいおひめさまが、にこりともせず、窓から男をじっと見ています。

「ああ、どうすべ?」と男が立ち止まって考えていると、目に入った光線のかげんで、足をすべらし、そばにあったぬかるみに落ちてしまいました。

ネズミ、カブトムシ、ナマズがあわてて、男を助けおこそうとします。ネズミは、男の上着をもち、カブトムシは男のブーツをきれいにしようとし、ナマズは、男にたかっているハエを追い払おうとしました。

それを見ていたおひめさまは、思わず、ほほえみました。

それを見ていた王さまはびっくり。「誰がひめを笑わせたのじゃ?」

「あの人ですわ」。ひめが、男を指差して言いました。男は、すぐに城に招き入れられ、王さまは、約束どおり、娘と結婚させました。

これは単なる夢でしょうか? 男は夢を見ていたのでしょうか? いえ、実はこれは本当にあったことなのです。

原文はこちら⇒ Russian Folk-Tales/The Princess who would not Smile – Wikisource, the free online library

アレクサンドル・ニコライェヴィチ・アファナーシエフ

今回紹介したおとぎ話は、ロシアの、アレクサンドル・ニコライェヴィチ・アファナーシエフ(1826-1871)の、編さんした童話集に入っている一つです。

この人は民俗学者で、ロシアの民話研究の第一人者でもあり、収集した童話は600もあるそうです。

これは多いですね。グリム童話は200ですから。

彼は、大学で教鞭をとるかたわら、中世ロシア史の研究をしていましたが、セルゲイ・ウヴァーロフ(学者、政治家であり、エカテリーナ2世の寵臣、1786-1855)に反抗したので、大学にいられなくなり、その後ついた仕事も失って、貧しい中、45歳で結核で亡くなったそうです。

アファナーシェフは20代半ばから、ロシア民話に興味をもち、収集していました。これ以前には、ロシアの民話や民俗の研究はほとんどなされていなかったので、彼はパイオニアだったのですが、それにしては、かわいそうな一生です。

ロシア民話は、グリム童話に比べたら、日本や世界における知名度も低いです。しかし、彼の研究は、のちのロシアの作曲家に大きな影響を与えているそうです。

自然体がベスト

このバージョンでは、王女は、ネズミ、カブトムシ、ナマズの召使いぶりにほほえんでいますが、ほかにも、ガチョウに笑ったり(グリム童話の『黄金のガチョウ』に笑わない王女が出てきます)、男が牛をひっぱる様子を見て笑ったりするバージョンがあります。

国中の男たちが、王女を笑わせようとしたときは、あまりに作為的だったので、笑えなかったのでしょうね。しかし、この男は、何もねらっておらず、生来のドジぶりを発揮して、ぬかるみに落ちてしまっただけです。

そういう、人のよさや、やさしさみたいなものが、王女にアピールしたのかもしれません。人柄はにじみでるものですから。

男が毎年、硬貨を1枚しかとらなかったのは、「こんな仕事ぶりで、硬貨をいっぱいもらってしまったら、神さまに申し訳ない」と考えたからです。

彼の謙虚なところも、アピールしたのでしょう。

おとぎ話の王さまは、しばしば、勝手に娘の結婚を決めますが、少なくともこの王女はやさしい人と結婚できたので、幸せです。

おまけに、笑う喜びも得ることができました。

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