ジェーン・エア(シャーロット・ブロンテ著、1847)のあらすじ。

ヨークシャー 美女と野獣

ビクトリア時代の英国で書かれた、ひじょうに有名な長編小説、ジェーン・エアのあらすじを紹介します。

この小説は、名作であり、いろいろな読み方ができます。が、プロットだけを取り出すと、フェアリーテールなので、今回取り上げてみました。

あらすじには結末まで書くので、未読の方は、ここで読むのをやめてください。内容を知らないで読んだほうがおもしろいです。内容を知ってて読んでもおもしろい物語ですが。

作品情報

  • 著者:シャーロット・ブロンテ(イギリスの女流作家)。 はじめは、Currer Bell という名で出版。
  • 出版日:1847年10月16日
  • 出版社: Smith, Elder & Co.
  • ページ数は本によって多少違いますが、ペンギン・クラシックスのペーパーバックでは532ページ。
  • いまも読みつがれていて、 何度ドラマや映画になっています。

カラー・ベルという名前

シャーロット・ブロンテが、カラー・ベルという男性とも女性ともとれる名前(当時の人は男性だと思ったでしょう)で本を出版したのは、女性の本だとまともに読まれない恐れがあったからです。

シャーロットはもとは詩人志望で、『ジェーン・エア』を出すまえに、尊敬していた、当時の桂冠詩人、ロバート・サウジーに、自分の詩を送って、アドバイスを請いました。そのとき、サウジーは、こんな返事をよこしたのです。

Literature cannot be the business of a woman’s life, and it ought not to be. The more she is engaged in her proper duties, the less leisure will she have for it even as an accomplishment and a recreation.

penの訳:文学は、女性の人生における職業にはなりえないし、そうなるべきでもない。本来の役目を果たそうとすればするほど、それが、業績だろうと、レクリエーションだろうと、文学にあてる時間は減りますから。

女性は家事や子育てなどで忙しいから、詩や小説なんて書いてられないですよ、ということなんでしょう。サウジーがこう書いてよこした手紙は、ブロンテ博物館に展示してあるそうです。

いまは、サウジーより、ブロンテ姉妹のほうが圧倒的に有名ですね。

ロバート・サウジーは、『ゴルディロックスと3匹のくま』のもとになった詩(の1つ)を書いた人です。

超簡単な要約

忙しい人向け1行サマリー:孤児で器量の悪いジェーン・エアが、孤児向けの学校で教育をうけ、その後、家庭教師として赴任したお屋敷のご主人、ロチェスターと恋仲になり、紆余曲折の末、彼と結ばれる話。

ゲーツヘッドでの悲惨な子供時代

ジェーンが赤ん坊の頃に両親が相次いで病気で亡くなったので、母親の兄(ジェーンにとってはおじさん)がジェーンを引き取りました。しかし、このおじさんがなくなり、妻のおばさん(ミセス・リード)は、自分とは何の縁もない、ジェーンが全然かわいくなく、つらくあたります(というより虐待)。

おじさんの子供(ジェーンにとってはいとこ)が3人いて、男の子1人に女の子2人。この3人も、ジェーンに意地悪で、特に長男のジョンは、ジェーンを積極的にいじめました。

ジェーンは気が強く、ジョンにはむかってけんかをするも、おばさんに一方的にジェーンが悪いと決められ、「赤の部屋」というおじさんが亡くなった部屋にとじこめられます。

ローウッドスクールでの生活

おばさんはジェーンが嫌いで、ほとほと手にあまり、ローウッドスクールというチャリティスクール(孤児のための学校)にやることにします。かくして、10歳になったジェーンは、1人でこの学院まで馬車で行きます。

この学校は、とても劣悪な環境で、ろくに食べ物はないし、せまいところに80人の女子が詰め込まれ、服も粗悪で薄着、 暖房が充分でなく、 冬になると寒くて大変でした。朝は、顔を洗う洗面器の水が凍っているぐらいです。

ブルックルハーストという冷酷で偽善的な校長は、リードおばさんのジェーンに関する話を頭から信じていて、ジェーンは「嘘つき」だと、全校生徒の前で言い放ちします。

しかし、ジェーンはヘレン・バーンズという、とても信心深く、賢い少女と知り合いになり、また、テンプル先生という尊敬できる先生もいて、嘘つきの汚名をそそいだあとは、勉学に打ち込みました。

その後、学校でチフスが流行り、劣悪な環境のことが問題になり、心ある人たちの手によって、もっとましな学校になります。

ジェーンはここで6年生徒としてすごし、2年教師をしたのち、テンプル先生が結婚して去ったのをきっかけに、学院を出ます。

自分で広告を出し、家庭教師(ガヴァネス、住み込みの家庭教師)の口を見つけたのです。このときジェーンは18歳。

ソーンフィールドでロチェスターと出会う

ジェーンが赴任したのはソーンフィールドという名のお屋敷で当主はエドワード・ロチェスター(38歳)というミステリアスでエキセントリックな人物です。最初のころは、傲慢で、身勝手な人だった、と私、penは思います。ですが、とても愛情深い人で、あとで出てくるシンジンという男性と対象的です。

この人は全然ハンサムではないのですが、金持ちだし、活力にあふれているし、歌もうまいし、話もわけがわからないところがあるものの、おもしろいし、やさしいところもあるし、後述しますが、秘密をかかえているので、影もあり、なかなか魅力的な男性です。

いつしか、ジェーンはロチェスターを愛するようになります。

ロチェスターに頼まれて、ジェーンを採用したフェアファックス夫人はやさしいし、ほかの召使いもいい人だし、生徒のアデルという女の子(フランス人)は、賢くはないけど、まあまあ素直でかわいく、ジェーンは幸せでした。

不思議なことが起きるお屋敷

しかし、このお屋敷には不思議なことがあります。まず、ときどき3階から、物音とともに、ぞっとするような笑い声が聞こえます。

ある夜、ロチェスターが寝ているベッドが燃えているのをジェーンが発見して、水をかけて、消化します。誰かが彼のベッドに火をつけたのです。

また、屋敷に滞在していたメイスンという人は、何者かにナイフで襲われ、噛みつかれました。

すべては、グレイス・プールという召使いの所業だ、とロチェスターは言うのですが、それならなぜ、ロチェスターはグレイスを首にしないのか、ジェーンは解せません。

それにグレイス当人に会っても、本人は、何も悪びれたところがないのです。

ジェーンにプロポーズするロチェスター

ジェーンはロチェスターをとても好きでしたが、身分が違うから、どうこうなるものでもない、と自分をおさえていました。

ロチェスターは、客として連れてきた、ものすごくきれいで身分も釣り合うブランチ・イングラムと結婚するらしいといううわさで、ロチェスターもこの女性と結婚するような素振りをみせます。

ブランチ・イングラムはきれいですが、性格に難があり、どうにもこうにも浅はかだし、アデルに冷たいし、家庭教師のことをぼろくそに言ったりします。

しかし、ロチェスターは、本当はジェーンのことが好きで、ある日、ジェーンにプロポーズします。ジェーンはそれを受けました。と、さらっと書きましたが、ロチェスターの愛の告白は、相当濃厚です。

結婚式で秘密がわかる

結婚式の前の晩(だったと思う)、ジェーンの部屋に、背が高く、髪がぼさぼさで、浅黒い肌の女の人がやってきて、式でつける予定のヴェールを引き裂きました。その女の人が、ジェーンのほうにやってきたとき、恐怖のあまりジェーンは気絶します。

ロチェスターにその話をしたら、彼は「ベールを引き裂いたのは、グレイス・プールだろう」と言います。「でも、グレイスとは姿が違います」とジェーンが言うと、、夢と現実がごちゃまぜになったのだ、とロチェスターは結論づけます。

ジェーンとロチェスターの結婚式をあげる日が来ました。招待客など誰もいないのですが、なぜか教会に、2人の男性がいます。

「この結婚に反対する者はいますぐ名乗り出よ」という、おきまりの文句を牧師が言ったとき、男性の一人(弁護士)が「反対です」と言います。

彼はロチェスターにはすでに妻、バーサがいるから、結婚はできない、証人は隣にいるバーサの兄のメイスン氏ある、と言うのです。

びっくりするジェーンと牧師、さらに弁護士とメイスンをつれて、ロチェスターは自宅の3階にむかいます。そこには、気が狂って狂犬のようにふるまうロチェスターの妻、バーサと、彼女の世話をしているグレイス・プールがいました。

ロチェスターは狂人の妻を15年間、屋敷の3階に隠していたのです(当時は、こういうことはよくあったそうで、反社会的なことではなかったらしいです)。

ソーンフィールドを出るジェーン

ロチェスターは、妻がいても、ジェーンと一緒に暮らしたいというのですが、「それって、愛人?」と思ったジェーンは、さんざん迷ったあげく、一人で、自分の持ち物とお金(少ない)を持って、こっそり屋敷を出ます。

その後、ジェーンは、馬車に包みを置き忘れて一文無しになり、二晩ぐらいは、野宿しましたが、おなかがすいてきたので、仕事はないか人に聞いたり、このスカーフとパンを交換してください、と言ったりして歩きまわります。

しかし、仕事は見つからず、おなかがすいてふらふらになったジェーンは、ある家の扉をたたき、食事と一夜の宿をもとめますが、女中に断られてしまいます。

疲れ切っていたジェーンが絶望して、扉の前でうずくまっていたら、その家の住人の男性シンジン(牧師 St. John)が彼女を家に入れます。

この家には、この男性の妹2人もいて、ジェーンはこの2人ととても仲良くなります。しばらくしてわかるのですが、実はこの3人は、なんとジェーンのいとこでした。

ジェーンの父方のおじさんが、すべての遺産をジェーンに残して亡くなったのです。

シンジンにプロポーズされるジェーン

ジェーンは遺産をいとこ4人で等分に分けました。 シンジンは、ジェーンに農村の娘のための学校の先生(先生は1人だけ)という仕事を見つけ、ジェーンは家に一人暮らしして(孤児の女中が身の回りの世話をする)教師として働きはじめました。

無学で粗野な娘たちばかりでしたし、教える内容もベーシックなことばかりですが、教えていくうちに、能力を発揮する子たちもいて、ジェーンは、やりがいを感じ始めます。

そのうち、 シンジンは、ジェーンに、自分の妻として、インドにいっしょに宣教にいかないかと、ジェーンに言います。といっても、彼は、べつにジェーンを女性として(人間として)愛しているわけではありません。ただ単にジェーンの資質が自分といっしょに宣教するのにぴったりだと思っているのです。

ジェーンは、 シンジンのことは、兄のように思っていたので、とても妻にはなれないと思います。

しかし、 シンジンは、説教などはとてもうまく、神をもちだして、ジェーンを執拗に説得し(このシーン、精神的ないじめです)、ジェーンは、とうとうその気になります。

しかし、その時、ジェーンは、「ジェーン、ジェーン、ジェーン!」と彼女を呼ぶロチェスターの声を聞きます。

ロチェスターのもとに戻るジェーン

翌日、ジェーンはソーンフィールドに戻ります。すでにそこを出て1年ぐらいたっています。「ロチェスターさま、エドワードはお部屋にいらっしゃるかしら」などと、どきどきしながら、屋敷を見ると、なんと、屋敷は火事にあったらしく、見る影もありません。

近所の人に聞くと、バーサ(ロチェスターの妻)が、屋敷(家庭教師の部屋)に火を放ち、大きな火事になり、バーサは屋根から落ちて死亡。

バーサや使用人を助けるために、すぐに逃げなかったロチェスターは、片手を失い、失明していました(片目はつぶれ、もう片目は炎症をおこしました)。

いま、ロチェスターは別の地味な住まいに、使用人夫婦だけをおき、引きこもっているといいます。ジェーンはその屋敷にいき、ロチェスターと再会。そして結婚します。

エピローグでは、結婚して10年のあいだに、ロチェスターの目がだんだんよくなり、2人の第一子の男の子が、ロチェスターと同じ目をしているのを、本人も見ることができた、と書かれています。

シンデレラの要素

この物語、細部はリアルです。

時代背景が違うので、事象は現代と違いますが、ジェーンの心情は、いまの女性でも共感できることがたくさんあるし、自分を貫こうとする勇気のあるジェーンの生き方に励まされもします。

しかし、枠組みは童話です。

それなりに地位 のあるジェーン (父親は貧乏牧師で、母親はいい家のおじょうさん。しかし、貧乏牧師と結婚したので、親族と疎遠になる)なのに、最初は、貧乏で、リード家でいじめられます。

リード家の長男、ジョンに「おまえはお金を持っていないんだから、うちの本をさわるな」と言われます。

しかし、最後には、遺産が得て、かなりのお金持ちになり、ロチェスターと対等(というより、むしろ上)の立場になって、彼と結婚します。結婚の障害になっていたバーサは都合よく死んでくれます。

そういう意味ではこの物語はシンデレラです。

美女と野獣の要素

この話は『美女と野獣』のバリエーションともとれます。ジェインは美女ではありませんが、心が美しいです。それに18歳なので、お肌はつやつやだと思います。

野獣はもちろんロチェスターです。彼は秘密と苦悩をかかえており、絶望の人生を生きていて、これまではソーンフィールドにはたまにしか帰ってきませんでした。

しかしジェーンと出会ってからは、また幸せな人生を生きられるかもしれないという希望を持ちます。そして、ジェーンに熱烈にプロポーズします。

ロチェスターは、夜、お茶の時間に、ジェーンを自分のところに呼び、いろいろな話をさせます。この時間が午後7時なのも、毎晩7時にやってきて、ベルにプロポーズする野獣を思い出させます。

傲慢だったロチェスターは、火事で、手や視力を失ったあと、ジェーンを得て、やさしい人になります。彼が神の慈悲に感謝する場面もあります。

ロチェスターは、野獣からプリンスの姿に戻ったのです。

その他、青ひげの要素など

ロチェスターが秘密の部屋に狂人の妻、バーサを隠していたのは、『青ひげ』にでてくる、青いひげを持ったお屋敷の当主に似ています。

『ジェーン・エア』の本文にも、『青ひげ』への言及があります。

さらに、ロチェスターは、しばしば、ジェーンのことをエルフだとか、チェンジリング(妖精が人間の子供と取り替えた、醜い子供)だとか、この世の人ではなく、童話にでてくる生き物によくたとえます。

屋敷のそばにある自然豊かな場所や、ジェーンがさまようムーアは、童話に出てくる暗い森を思わせます。

童話でもディテールを変えれば力のある小説になる

このように、『ジェイン・エア』のメインプロットは親しみやすい童話です。しかし、枠組みは童話でも、細部にいろいろなことが盛り込まれていて、とてもパワフルでリアリティのある小説になっています。

シャルル・ペローが、「物語はストーリーラインより、いかに語るかが重要だ」、と言っていますが、語り方によって、とてもつまらない話にもなれば、読む人をぐいぐい引っ張る話にもなるわけです。

今回、光文社古典新訳文庫で読んでみたら、とても読みやすかったです。

今は原文を読んでいますが、シャーロット・ブロンテの英語は飾り気がなくシンプルなので、そんなにむずかしくありません。

Audibleのオリジナルである、タンディ・ニュートンの朗読のオーディオブックも聞いています。

さすが女優さんだけのことはあり、登場人物の声がみんなちがって、まるで芝居をみているかのようです。

今後は、童話のアダプテーションの合間に、『ジェーン・エア』の映画なども見ていく予定です。

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