グリム童話から、『星の銀貨』という物語のあらすじを紹介します。原題は、 Die Sterntaler 、英語のタイトルは、The Star Talers ですが、The Star Money や The Star Coins と呼ばれることもあります。
taler(ターレル) は昔、ドイツで作られていた大型銀貨のことです。この単語で画像検索してみると、いろいろな銀貨が出てきます。
超簡単な要約
忙しい人向け1行サマリー:貧しい孤児である女の子が自分の持ち物をすべて、ほかの貧しい人にあたえて、何もかもなくなったところで、空から銀貨が降ってくる話。
要約を書くまでもなく、原文もひじょうに短いシンプルな童話です。
貧しい少女
昔むかし、両親を亡くした小さな女の子がいました。とても貧しく、家もベッドも、寝るところもありませんでした。
持っているものといえば、いま着ている服と、手に握っているパンの小さなかけら、そして思いやりの気持ちだけでした。
この子は気立てがよく、信仰心をもっていて、神を信じて街の中を歩いていました。
貧しい男にパンをあげる
ある貧しい男が少女に言いました。「私に何か食べるものをおめぐみください。とてもひもじいのです」。
少女は持っていたパンをすべて男に渡し、「神のご加護がありますように」と言って去りました。
子供に服をあげる
次に子供がやってきて言いました。「頭がとても寒いの。なにかおおうものをちょうだい」。少女は子供に自分の帽子を与えました。
少し歩くと、別の子供に会いました。その子は、上着を着ておらず、寒さにふるえています。少女はその子に上着をあげました。
さらに行くと、別の子供が服をねだったので、少女はその子に自分の服をあげました。
与えつくす少女
そのうち、少女は森にたどりつきました。あたりはすでに暗くなっています。すると、べつの子供がやってきて、少女のシュミーズ(下着)をねだりました。
「夜で暗いから、誰も見る人はいない。下着をあげても大丈夫」。こう少女は考えて、下着を脱いで、子供に上げました。
空から銀貨が降ってくる
少女がはだかで、そこに立っていると、突然空から、銀貨がばらばらと落ちてきました。
少女は何も着ていなかったのに、いまは、上等の麻の下着を着ています。少女は降ってきた銀貨を拾いあつめ、そのお金で、生涯、豊かに暮らしました。
原文(英語)はこちら⇒ Grimm 153: The Star Talers
与えればかえってくる
信仰心があつかったこの少女の物語は、キリストの教えである、「与えなさい。そうすれば与えられます」という世界観を、そのまま体現しています。
これはとても極端な話で、ここまでの自己犠牲はなかなかできませんが、人や自然から、もらったり、奪ったりすることばかり考えず、与えること、やさしくすることを忘れないでいたいと思わせてくれる話です。
それは、どんな境遇にある人も同じでしょう。まず、与えることができれば、殺伐とした社会にはなりません。
それにしても、この話、ハッピーエンドではありますが、貧しい人しか出てこず、いささか、気が滅入ります。
貧しい男や子供たちは、順番に少女の身ぐるみをはいでいきますが、自分たちはそこまで追い詰められていたのでしょうか。
この少女は住む家もないというのに。
とくに、下着を奪う子どもが解せません。この子ははだかだったのでしょうか?
「食べ物をください」とか、「頭をおおうものをください」と言った人たちを描写する箇所では、男はおなかがすいていたし、子供は頭が寒かったと書かれています。
ところが、最後の2人、服をせがむ子供と下着をもらう子に関しては、理由は何も書かれておらず、単に、「服/下着をせがんだ」とあるだけです。
このへん、シャルル・ペローなら、もっといろいろ書き込んでいたと思います。まあ、シャルル・ペローが好みそうな話ではありませんが。
美しい神の報酬
世界各地に伝わる昔ばなしをパターンごとに分類するのに、アールネ・トンプソンのタイプ・インデックス(AT分類)がよく使われます。
この分類法は、アンティ・アールネ(1867-1925)というフィンランドの民俗学者が分類したものを、スティス・トンプソン(1885-1976)というアメリカの民話学者が、改良したものなので、2人の名前がついています。
『星の銀貨』は、AT分類では、本格昔話⇒宗教的な話⇒タイプ779『神の祝福と罰』に入っています。暗い森に裸で立っている少女の上に、銀貨が降ってくるなんて、いかにも、神の祝福というイメージですね。
初版では、『貧しい少女』というタイトルだったそうですが、第2版から、『星の銀貨』になったそうです。こちらのタイトルのほうがいいですね。
なお、このブログで一番よく話題にしている、シンデレラは、AT分類では、本格昔話⇒魔法の話⇒タイプ510B、超自然的な援助者、です。
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