Ashpet: An American Cinderellaを見ましたので、感想を書きます。日本では公開されていない映画なので、便宜上、和訳をつけてこの記事のタイトルとしました。Tom Davenportというアメリカのインディペンデント映画の監督が作ったもので、45分の短い作品です。まず予告編をごらんください。
アッシュペットの予告編
時代背景は、第2次世界大戦が始まったころ、場所は、アメリカの南部の小さな街。季節は夏です。
原作はグリム童話のシンデレラ
アッシュペットは、グリム童話をアメリカに置き換えた映画シリーズの1つです。アッシュペットという名前は、ドイツ語のシンデレラ、Aschenputtel(アシェンプテル)からつけたそうです。
とはいえ、鳩も豆も出てこないし、まま姉が靴をはくために、つま先やかかとを切ったりもしません。そもそも魔法はいっさい出てこないのです。
シンデレラの物語の基本的な骨組みだけが出てきます。すなわち
- 家族にしいたげられている不幸な少女
- 少女をたすけてくれる存在
- ダンスパーティ
- 物(靴)によって、本人を確認すること
この監督は、長らく民間伝承の物語を研究している人で、彼によれば、世界に700以上あるシンデレラの話の大半は、魔法(12時で魔法が消える)、かぼちゃの馬車、ガラスの靴は出てこず、これらすべて、シャルル・ペローが盛り込んだ要素だそうです。
ディズニーが、ペローの原作をもとにアニメを作り、これが広く知られているために、シンデレラは魔法で幸せになるんだと思われていますが、実は魔法はいらない、というのがこの作品の1つのメッセージだと思います。
アッシュペットを助けてくれる人
グリム童話では、鳩やはしばみの木にやどった母親のスピリットがシンデレラを助けますが、アッシュペットでは、近所に住んでいるダークサリーと呼ばれるアフリカン・アメリカンのおばあさん(年齢不詳)が助けてくれます。
サリーは、この物語のナレーターでもあります。今は亡き、アッシュペットの母親のために、料理を作っていたサリーは、アッシュペットをとてもかわいがっています。
逆に、ダンスパーティのために、サシェ(魅惑的な香水がふくませてある)を買いきたまま姉たちには、きみょうななぞなぞを言って、渡してくれません。
サリーは、よく昔話をしていて、これが、劇中劇ならぬ、物語の中の物語効果をあげているのですが、南部訛りが強烈で、ろくに聞き取れませんでした^^;
知性も品性もないまま姉2人
この映画では、継母よりまま姉2人のほうが、アッシュペットをいじめます。下の姉は、バカすぎるため、多少かわいげがありますが、上の姉は、人をあやつる、傲慢でいやな性格です。
低所得層の白人や、人間的にどうしようもない白人のことを軽蔑して、 ホワイト・トラッシュ (White Trash) と呼ぶことがありますが、この2人は、ホワイト・トラッシュ度が高いです。
対する黒人のサリーは、知恵のある人であり、しょうもない白人と、やさしい黒人を描いているところは、原作にはない要素です。
まま姉2人は、あまりにもいやな人間なので、逆に気の毒になるほどです。
自分を取り戻せばシンデレラになれる
「魔法がないのに、どうやってシンデレラになるんだ?」と思うかもしれません。必要なのは、灰まるけの召使いにあまんじている人間に、本来の自分を取り戻させるちょっとした力づけやきっかけだけです。
サリーは、ローションみたいなものをアッシュペットに渡し、川へ行って、灰だらけのからだをこれできれいに洗いなさい、と言います。
そして、アッシュペットの本名はリリーなのですが、あなたは、「灰まるけじゃなくて、リリーなのよ」とも言います。
人は、周囲の人が思っているとおりの人間になるといいますが、いつも召使い扱いされ、汚いだのドジだの、アホだの言われ続けていると、セルフイメージもそうなってしまうのです。恐ろしいことです。
幸せになれたアッシュペット
亡きお母さんのドレスと靴のあり場所(秘密の部屋みたいなのがある)を教えてもらったアッシュペットは、それを着てダンスに行き、ウィリアムという、皆に人気のある、家柄も性格もいい青年と踊って楽しくすごします。
しかし、「母親や姉たちが帰ってくるまえに、家に戻りなさいね」というサリーの忠告に従い、黙って途中で帰ります。その時、アッシュペットが落とした靴をウィリアムが拾うのは、よくあるシンデレラの話と同じです。
彼は、翌日戦地に行くのですが、出発する前に、靴を持ってアッシュペットの家にやってきます。ここで、まま姉が妨害しますが、結局、2人は再会できます。
彼は、片方の靴を持って、必ず戻ってくるからと言い残し、戦地に向かいます。エンディングのクレジットに流れる写真で、彼がちゃんと戻ってアッシュペットと一緒になったことがわかります。
子供だけでなく、大人も楽しめる現実的なシンデレラの映画です。ただし、きらびやかなものを見たい人には向きません。
コメント
20世紀生まれのせいか、内容的にこれが一番共感できますね。シンデレラにつきものの魔法は非現実的なので童話としては最高に楽しめるのですが、現実感がないので共感はできませんものね。
わたしは古典的で装飾華美なものが好みなのですが、もはや20世紀な香りもクラシックな感じがして、雅ではなくても、なかなか味わい深くて好感が持てますね。アッシュペットも普通っぽくてとてもいいです。
この映画は1940年代が舞台だから、ノスタルジックなんだと思います。
部屋の中の家具調度とか、服装とか、レトロですから。アッシュペットが、蓄音機のハンドルを手でぐるぐる回してからレコードを聞くシーンがありました。
相手の兵隊さんが、いい人そうでよかったです。性格のよい人のほうが幸せになれますね。