グリム童話から、『おやゆびこぞう』を紹介します。
英語のタイトルは、Tom Thumb または、Thumbling オリジナルのドイツ語のタイトルは、Daumsdick
『おやゆびこぞう』とひらがなにしたのは、ウィキペディアがひらがな書きだったからで、本によっては、親指小僧、親指トム、おやゆび小僧 というタイトルになっています。
グリム童話には、親指小僧が出てくる話が2つ収録されていますが、今回紹介するのは、KHM 37のほうです。
この記事のあらすじでは、親指小僧を「トム」と呼ぶことにします。
一文の要約
親指ほどしかない小さな少年が、親の家から離れ、いろいろ冒険したのち、また親元に戻る話
親指トムの誕生
まずしい木こりがある晩、妻に言いました。
「子供がいないのは寂しいことだな。ほかの家はにぎやかなのに」
「本当にそうですね。1人でもいいから子供がいれば。たとえその子がすごく小さくても、私たちはとても幸せなのに」
すると本当に、夫婦は妻の言ったとおりの子供を授かりました。
五体満足で健康だけど、背丈が親指ぐらいの子供です。
両親はこの子をとても愛して、可愛がりました。
たっぷり食事をさせたけど、背丈はまったく伸びません。しかし、この子は、輝く瞳をもつ賢い子に育ちました。
お父さんのお手伝い
あるとき、父が森に木を切りにいくとき、「誰か、荷車を持ってきてくれると助かるんだがな」とひとりごちました。
これを聞いていたトムは「僕が持っていく」と言います。
「馬にカートをくくりつけ、馬の耳元にぼくを置いてくれれば、ちゃんと荷車を持っていく」というのです。
母が言われたとおりにしたら、トムは、馬に、ほら右へ行け、次は左だ、と指示をし、本当に父のところに荷車を持っていきました。
2人組に売られるトム
この様子を見ていた男性2人組は、最初、すごくびっくりしましたが、トムを見世物にすれば大金を稼げると思います。
そこで、父親にトムを売ってくれと頼みました。
「とんでもない」
トムをかわいがっている父親は断りました。しかし、「高いお金で買う」という2人組を見て、トムは、父親に耳打ちしました。
「僕を売ってください。大丈夫、ちゃんと帰ってきますから」
こうして、トムは、2人組に売られました。
野ネズミの穴へ
トムは、1人組の1人の帽子の上に乗って、進んでいました。
トム「トイレに行きたいんだけど」
男「そこで用を足しな。なーに、ときどき鳥のふんが降ってくるから、俺は慣れてるさ」
トム「そんな無作法なこと、僕はしないよ。おろしてよ!」
トムがしつこいので、男はトムを地面におろしました。するとトムはすきを見て脱走。
野ネズミの穴に入り込み逃げてしまいました。
牧師の家へ
夜になったので、トムは歩き回るのは危険だと思い、寝る場所を探しました。
幸い、ちょうどいいサイズのカタツムリの殻を見つけ、中に入って寝ようとしたとき、2人の泥棒が通りかかりました。
彼らは、金持ちの牧師から金と銀を盗む方策を相談しています。すかさずトムは
「いい案がある。僕が手伝うよ!」と名乗り出ます。
自分が牧師の部屋にしのびこみ、ほしいものは何でも取ってくるとトムが言うので、泥棒たちは、トムを連れて牧師の家に向かいました。
納屋へ
牧師の家に来ると、トムはさっそく忍びこみますが、やたらと大きな声で、「ねえ、ここにあるの、みんなほしいの?」と叫びます。
泥棒たちが、「静かにしないと人が起きる」とたしなめても、トムはますます大きな声で、「何を取ればいいの? 全部ほしいの?」と叫ぶので、メイドが目を覚まし、様子を見に来ました。
これに気づいた泥棒たちは、大急ぎで逃げ出し、トムはとっさに納屋に隠れました。
誰もいないので、メイドは、気のせいだと思いまたベッドにもどりました。
牛の胃袋の中へ
トムは納屋の干し草の中で眠って、翌日、家にもどることにしました。
ところが、夜明けにメイドが牛にえさをやりにきました。
トムが寝ている干し草をつかんで、牛に食べさせたのです。
目をさましたら、トムは牛のおなかの中にいました。
しかも、どんどん干し草が落ちてきます。
「もうエサはいらないよ! もういらないよ!」こうトムは叫びました。
牛の中から声がするのにびっくりしたメイドは、牧師のところへ走ります。
「牧師さま、すぐに来てください。牛がしゃべっているんです」
オオカミの胃袋の中へ
「何をたわけたことを」と牧師は言いましたが、牛のそばに確かめに行くと、確かに、「もうエサはいらない。もうエサはいらない!」と牛がしゃべっています。
これは悪霊のしわざだと思った牧師は、牛を殺すよう命じました。かくして牛は殺され、トムのいた胃袋は、そのへんに捨てられました。
トムがそこから出ようとしていた矢先、おなかをすかせたオオカミが通りがかり、胃袋ごとトムを食べました。
オオカミと交渉する
トムはおなかの中から、オオカミに話しかけました。
トム「オオカミくん、僕、ごちそうがいっぱいあるところ知っているよ」
オオカミ「え、それってどこ?」
オオカミは、自分の中に何かがいることはまったく気にせず、強い興味を示します。
こうしてトムは、オオカミを自分の家までうまく誘導しました。
オオカミは、下水管(流し)から、トムの家の台所に入り込み、そこにあったごちそうをおなかいっぱい食べました。
ところが、食べすぎておなかがふくれてしまい、帰ろうと思っても、下水管を通ることができません。
トムが、オオカミのお腹の中であばれて物音を立てたので、両親が起きてきました。
無事、親元に戻るトム
オオカミを見てびっくりした両親はそれぞれ斧とカマを持ち、オオカミを殺そうとします。
「父さん、僕だよ。僕、オオカミのおなかの中にいるよ!」
おなかの中からトムが叫びました。それを聞いた父は大喜び。すぐに、オオカミの頭に斧で一撃を加えました。
オオカミはあっさり死んでしまい、その後、両親は、オオカミのおなかを切って、無事トムを助け出しました。
トムが、これまでどんなふうにして家に戻ってきたか説明すると、両親は、「二度とおまえを売りはしない」と言って、トムをしっかり抱きしめました。
参考にした英文⇒Tom Thumb
教訓:自分の強みを活かしましょう
以前、シャルル・ペローの『親指小僧』を紹介しています。
ペローの親指小僧に比べて、グリムの親指小僧の話はそんなにおもしろくありません。
もちろん、創作童話であるアンデルセンの親指姫と比べても、見劣りします。
まあ、民間伝承の話を忠実に書けば、そこまでドラマチックな話にはならないのでしょう。
ペローの親指小僧はとてもかしこい子供でしたが、グリムの親指小僧は馬鹿ではないけれど、知恵の冴えみたいなものはあまり見せません。
彼の武器は、「やたらと大きな声」です。
牛の胃袋の中で叫ぶと、牛の周囲にいる人に聞こえるし、オオカミの胃袋の中で叫ぶと、そばにいた両親に聞こえるのです。
牧師の家に忍び込んだときも、すごく大きな声で叫び、別の部屋に寝ていた召使いを起こしています。
背丈が親指しかないことを考えると、人間スピーカーと呼びたいほど、大きな声です。
小さな身体と大きな声。
自分がもつ特徴を最大限に利用すれば、たとえ、誰かに売られても、なんとか家に帰ってこれるよ、目的を達成できるよ、というのがこの話の教訓と言えましょう。
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