グリム童話から、糸くり三人女、原題:Die drei Spinnerinnenを紹介します。
英語のタイトルは、The Three Spinners または The Three Spinning Womenです。
日本では「糸くり三人女」というタイトルで知られている話ですが、「糸くり三人女」だと、なんか、怪談みたいに思えるのは私だけでしょうか?
「糸くり」は、「糸繰り」で、繭(まゆ)や綿花から、糸を引き出して紡ぐことと、そうやって紡ぐ人のことを意味します。
今ふうの言葉で言えば、「糸を紡ぐ3人の女性」となります。
糸くり三人女、要約
怠け者で糸を紡ごうとしない少女が、女王様に見込まれ、3人の糸くりに助けられ、王子さまと結婚し、糸くりという苦行から逃れる話。
なまけ者
昔、なまけ者で糸を紡ごうとしない少女がいました。言うことを聞かない娘に切れて、母親が娘をしたたかに叩いたところ、娘は大声で泣き始めました。
たまたまそばを通りかかった女王様が、泣き声を聞き、何事かと、その家にやってきました。
「なぜ、娘さんを叩くのですか? 娘さんの泣き声が通りに響き渡っていますよ」。
母親は、なまけ者の娘のことをうちあけるのが恥ずかしかったので、
「娘が糸を紡ぐのを止めることができなかったのです。いつまでもずっと紡いでいるもんですから。私は貧しくて、亜麻を買うことができません」。
と、言いました。すると女王様は
「まあ、私は、紡ぎ車の音が大好きなんですよ。糸を紡ぐ音を聞くたびに、幸せな気持ちになります。
娘さんを、城に連れ帰ってもよいでしょうか? 城にはたくさん亜麻がありますのよ。娘さんは、心ゆくまで糸を紡げますわ」。
母親は大喜びで、娘を城に行かせました。
糸を紡ぐはめになった娘
女王は、娘を城に連れていき、上等な亜麻(亜麻の茎の部分の繊維)がたくさんある部屋を3つ見せました。
「さあ、ここで糸を紡げばいいわ。全部紡げたら見せてね。ちゃんとできたら、あなたを、私の長男の妻にしてあげます。
あなたは、貧しいかもしれませんが、私は気にしません。勤勉に糸を紡ぐ能力だけで、十分な持参金になりますもの」。
娘は内心、恐怖でいっぱいでした。糸を紡ぐことなんてできないからです。
たとえ100年生きようとも、毎日、朝から晩まで糸車に向かっていようとも。
女王が行ってしまうと、娘は泣き始め、そのまま3日たちました。
3人の救世主現る
女王がやってきて、娘が糸を紡いでいないのを見ると、びっくりしました。
「家を出て、母と離れたのが悲しくて、悲しくて、何もする気になれないのです」。
娘の言い訳に、女王は、「さもありなん」と納得しました。
「でも、明日から、仕事を始めるのですよ」。
1人になった娘は、また困り果てました。どうしていいかわからず、窓の外をぼんやり見ていたら、3人の女性が通りかかりました。
1人は、片方の足が大きくて平べったく、もう1人は、下唇が大きくて、あごの上にべろーんとのびており、もう1人は、片方の親指が、びっくりするほど大きい女でした。。
3人は立ち止まり、娘にどうしたのか、たずねました。
娘が、自分の窮状を訴えたところ、3人は助けを申し出ました。
「もし、私たちをあなたの結婚式に呼んでくれるなら、私たちのことを恥ずかしいと思わないなら、私たちのことを叔母だと言って、同じテーブルに座らせてくれるなら、亜麻糸を紡いであげましょう」。
「もちろん、いいわ。すぐに来て仕事を始めて」
またたくまに糸を紡ぐ3人
娘は3人を最初の部屋に招き入れました。
1人は、糸をひっぱりだして、ペダルを踏み、2人目は糸を湿らせ、3人めは糸をよりました。みるみるうちに美しい亜麻糸が紡がれていきます。
女王がチェックにくるたびに、娘は3人を女王の目にふれないようにし、できあがった糸を見せていました。
こうして、あっという間に3つの部屋にあった亜麻が糸になりました。
3人は、「約束を忘れないでね。そうすれば、あなたに幸運が訪れますよ」と言って帰っていきました。
娘が、できあがった糸を女王に見せると、女王は結婚式の準備をしました。
花婿(王子)は、こんなに賢くて、勤勉な妻をめとれることを嬉しく思い、娘をほめたたえました。
結婚式でのできごと
「私には叔母が3人います。私にとても親切にしてくれたので、結婚式に呼んで、同じテーブルに座ってもらいたいのですが、いいでしょうか?」
娘が、女王と王子におうかがいを立てると、反対する理由のない2人は、OKを出しました。
祝宴が始まり、変なドレスを来た3人がやってくると、王子は、その醜い姿にぎょっとしました。
王子「どうして、あなたはそんなに足が平べったいんですか?」
女1「糸車のペダルを踏んだからです」
王子「どうして、あなたの下唇はたれさがってるんです?」
女2「糸をなめるからです」
王子「どうして、そんなに親指が大きいんですか?」
女3「糸をよるからです」
これを聞いてびっくりした王子は、自分の美しい妻は、2度と糸車を使ってはいけない、と言いました。
かくして、娘は、大嫌いな糸くりから開放されたのです。
原文(英語)⇒Grimm 014: The Three Spinning Women
亜麻糸の紡ぎ方
亜麻糸の紡ぎ方を知っていると、この童話をより楽しめるでしょうから、実際に紡いでいる動画(3分)を紹介します。
これを見れば、女王が好きだという糸車の音や、糸を紡ぐとき、手足をどのように使うのかわかります。
亜麻の茎のもやもやしたものから、糸状のものをひっぱりだして、時々手に水をつけながら、糸を紡いでいきます。
足は、ペダルを踏んで、糸車を回します。
童話の糸繰りの1人は、つばで糸をよっていたみたいですが、動画で紡いでいる人のように、水を使えば、唇は変形しません。
昔の人は、指をなめながらやっていたんでしょうか?
糸くり3人女の教訓
なまけ者で、母親の言うことをきかず、嘘もついている娘がハッピーエンドを迎えるこの童話の教訓は何でしょうか?
まず、「勤勉であることは、美徳だ」というモラルがあります。
登場人物7人のうち、6人は、「よく働くことはいいことだ」と考えているようです。
娘の母親は、娘がなまけものであることを恥じて、本当のことを言うことができません。
女王は、勤勉に糸をつむぐことができる能力があれば、貧乏人でも、自分の息子の嫁にふさわしい、と言います。
糸くりの3人は、体が変形するほど、糸を紡いでおり、そのおかげで、王族の結婚式に出られました。
王子も、賢くて勤勉な娘に満足しています。
しかし、物語の最後で、勤勉さよりも、もっと最強の武器が登場します。
美しさです。
勤勉なのはいいけれど、姿かたちが変わって醜くなるほど、糸を紡いではいけないのです。
童話の冒頭、娘の容貌については何の描写もありませんが、最後に、王子が、「自分の美しい花嫁は、もう糸車をさわってはいけない」と言った、とあります。
若くて、花嫁衣装を着ていたせいか、あるいは糸くりの3人の隣に立っていたせいか、この娘はそこそこきれいであるらしいのです。
娘が勤勉なことを喜んでいたはずの王子が、どたんばになって、娘の美を尊重します。
いったん結婚したら、美しいまま、家で大人しくしていてほしい、という男性の願望なのかもしれません。
王子なら財力がありますから、何も妻(王女)を働かせる必要もありません。
しかし、美しい人や、王族と結婚できる人は、まれなので、やはり一般庶民は、勤勉でいたほうがいい、という結論になるでしょう。
動画に出てきた人は、らくらくと糸を紡いでいますが、やってみるとけっこう難しいのかもしれません。それに、かなり単調な仕事です。
娘がやりたくなかったのもわからなくもないです。
しかし、昔は、糸を紡ぐのは重要な仕事だったでしょうし、ほかに何もやることがないのなら、私もふつうに紡いでいたでしょう。
私は、裁縫や料理といった家事は嫌いですが、美しくもありませんので、勤勉に生きる道を選んできました。
幸い、いまは既製品や電化製品があるため、裁縫や料理をしっかりしなくてもすんでいます。
嫌いなことは無理にやらず、好きなことを勤勉にやれば、そこそこ幸せな人生を送れるのかもしれません。
☆糸をつむぐことがフィーチャーされているほかの童話もどうぞ。
この童話に出てくる娘は美貌の持ち主です⇒ルンペルシュティルツヒェン(グリム兄弟、1857)のあらすじ
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