3人の王子さまと1人の娘(ポルトガルの民話)

塔 その他の物語

ポルトガルに伝わるおとぎ話を紹介します。

英語のタイトルは、The Three Princes and the Maiden(3人の王子と1人の少女)です。

maiden は、未婚の娘、生娘のことです。

超簡単なあらすじ:3人の王子の恋のさやあてと、その結果

同じ女性に恋をする3人の王子

昔、とても仲のよい3人の王子がいました。

ある日、3人が一緒に歩いていると、窓からとてもきれいな少女がこちらをうかがっているのを目にし、全員、たちまち恋に落ちました。

王子Aが、こっそり娘に会いに行き、またいつ話をしにこれるか聞いたところ、娘は夜の10時を指定。

王子Bが同じことを聞いたら、娘は夜の11時を指定。

王子Cは、深夜に会う約束をとりつけました。

Aが、10時、Bが11時、Cが深夜にやってくると、Cは、ほかの2人も来ていることを見て、娘に言いました。

「全員に会おうとするなんて、どの王子にも、興味がない証拠ですね」

娘「いいえ、3人とも大好きですわ」

すると、1人の王子が、「でも、きみは、誰か1人としか結婚できないのだから、1人だけを選ぶべきだ」と言います。

娘「誰か1人を選ぶなんて、できません。3人とも好きなのですから」

旅に出る王子たち

ほどなくして、3人の王子たちが、旅に出ることになると、娘は、自分がいちばん気に入るプレゼントを持ち帰った王子と結婚すると言いました。

3人は、途中まで一緒でしたが、ある地点で分かれることにし、帰り道でも、同じ場所で落ち合う約束をしました。

Aの贈り物

Aが、ある国につくと、大勢の人々が建具屋さんに押し寄せ、大騒ぎになっていました。

何ごとであろうか、とAが、店に入っていくと、そこには、スペシャルな鏡がありました。

「鏡よ、私にこの人を見せておくれ」と言うと、その人が映る不思議な鏡です。

Aは、この鏡を購入し、愛する娘に贈るすばらしいプレゼントを見つけたと、大満足でした。

Bの贈り物

Bは、別の国に到着し、人々が、ろうそくを買おうと大騒ぎしているところを目撃します。

たかがろうそくに、何をそんなに興奮しているのか、とBが人々に聞いたところ、このろうそくは、誰かが死んだとき、すぐにその手に持たせると、生き返る、という代物でした。

Bは、すぐにこのろうそくを買い、最愛の人のために素晴らしいものを手に入れた、と思いました。

Cの贈り物

Cは、別の国で、ある男がウールのじゅうたんを売っているのを見ました。

1枚のじゅうたんだけ、やたらと高いので、不思議に思ったCが、男にその理由を聞いたところ、それは魔法のじゅうたんでした。

旅に出たいと思ったら、そのじゅうたんを地面に敷いて、上に立ち、「じゅうたんよ、私を、◯◯へ連れて行っておくれ」といえば、たちどころに、そこに連れていってくれるのです。

Cはすぐに、このじゅうたんを買い、愛する人のために、自分がベストの物を買った、と確信しました。

死んでしまう娘

3人の王子が、約束の場所で落ち合うと、買った物を見せ合いました。

Aが、鏡をみせ、「この鏡で、娘の姿を見ることができるのさ」と自慢したら、鏡に娘の亡き骸(なきがら)が映りました。

Bは、すかさず、「ああ、このろうそくをもたせれば、彼女はすぐに生き返る」と言い、Cは、じゅうたんを敷いて上にのり、「じゅうたんよ、僕たち3人をすぐに娘のもとに連れていっておくれ」と言いました。

その瞬間、3人の王子は、死んだ娘の横にいました。

娘の手に、ろうそくをもたせると、すぐに娘は、息を吹き返したので、3人はひとしきり喜び合うと、それぞれが、自分が、娘と結婚するべきだ、と言い張りました。

娘の選択

Bは、ろうそくがなかったら、娘は生き返らなかったと言い、Aは、鏡がなかったら、娘が死んだことはわからなかったと言い、Cは、じゅうたんがなかったら、こんなに早く、ここに来れなかった、自分の贈り物が一番だと言います。

すると、娘は、「3人とも、私と結婚する権利があるけれど、私は、一度に3人の男性と結婚できません。だから、どなたとも結婚しませんわ」と言い放ち、塔に閉じこもってしまいました。

3人の王子も、がっかりしすぎて、陰気な塔に閉じこもってしまいました。

☆Consiglieri Pedroso の Portuguese Folk Tales より

選ばない選択がもたらすもの

この話の教訓は、

候補が複数あるとき、どれかをあきらめるのがいやで、1つを選ばないでいると、全部失いますよ

だと思います。

選ばない、という選択をすると、何も手にできないのです。

全部いらないなら、選ばないのがベストですが。

物語の最初のほうで、「3人全員に会う約束をするなんて、誰にも興味がないからだ」とある王子がいいますが(それがどの王子かは言及がありません)、誰も選ばなかった娘は、最初から、3人を、そんなに好きではなかったのかもしれません。

結婚そのものに興味がなかった可能性もあります。

あるいは、この娘は、もともと優柔不断で、決めることができないタイプだったのでしょう。

自分では決められないから、「うまい具合に、プレゼントで差がついて、決められたらいいなあ」と思ったのでしょうが、あろうことか、娘は、王子の留守中に死んでしまいます。

死にますが、王子たちのプレゼントが絶妙に連携して、生き返ります。

しかし、そのプレゼントがどれも甲乙つけがたいために、やはり娘は選ぶことができず、選ばないという選択をして、塔に閉じこもってしまうのです。

選ばなかった娘が、閉じこもるのはわかりますが、なぜ、王子たちまで、塔にこもってしまうのでしょうか?

遠くにいる人の様子を見ることができる鏡は、ほかのおとぎ話でも、出てくるように、自由に移動できなかった昔の人にとっては、すばらしいお宝です。

死者をよみがえらせることができるろうそくも、掟破りの魔法のアイテムだし、空とぶじゅうたんだって、ドラえもんのどこでもドアみたいで、私がほしいぐらいの奇跡的な商品です。

そんな素敵なものを持っているのに、1人の娘にふられたぐらいで、塔に閉じこもるなんて。

3人が組んで仕事をすれば、娘にそうできたように、いろいろな人を助けることができるのに、そういう発想はないようです。王子たちは、あくまで恋に行き、ビジネスはほかの人がすればいい、という世界なんでしょうね。

きょう紹介した童話は、ポルトガルの歴史学者で、作家の Zófimo Consiglieri Pedroso (1851–1910)という人が、収集・編さんした、Portuguese Folk Tales(1878)の1つです。

この人は、政治運動家でもあり、演説が得意だったとか。

日本では、ポルトガルの民話はあまり翻訳されておらず、ペドロッソさんのこともほとんど知られてないみたいで、検索しても彼のことは何もでてきませんでした。

この伝説集から、また紹介するかもしれません。

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