アンデルセン童話から、『雪の女王』、デンマーク語:Snedronningen、英語:The snow queen のあらすじを紹介します。この話は童話にしては長く、小説といったほうがいい物語で、7つの物語からできています。
雪の女王、簡単な要約
忙しい人向け1行サマリー:邪悪なものが拡大して見える鏡のかけらが目と心臓に入り、悪い子になったあげく、雪の女王に連れ去られた少年カイを、仲良しのゲルダが苦労して見つけ出し、助け出す話。
第1の物語:鏡とそのかけら
たちの悪い悪魔が、大きな鏡を作りました。この鏡は、よいものや美しいものは、ゆがんで見えたり、小さくなって見えたりしますが、邪悪なものはより邪悪に、拡大されて見えます。
この鏡に狂喜した悪魔の学校の生徒たちが、天使たちに見せてからかうつもりで、天まで運ぼうとしたら、だんだん鏡が重くなり、思わず落としてしまいました。
鏡はこなごなにくだけ、大きさの異なるかけらが世界中に散ります。このかけらが目に入った人は、この世界がゆがんで見えます。心臓に入ると、それは氷のように冷たくなるのです。
第2の物語:少年と少女
ある街にカイという少年とゲルダという少女がいました。2人は隣り合った屋根裏部屋に住んでいて大の仲良しです。この街は人口が密集していて、人々は庭を持てず、植木鉢で花を育てるのが関の山。
しかし、カイとゲルダは、箱に土を入れたのを屋根の上に置き、美しいバラを育てていました。冬になると、ゲルダのおばあさんが、2人に雪の女王の話をしました。この女王は、そこら中のものを凍らせてしまうというのです。
ある日、カイは、大きな雪の結晶が、美しい女性になるのを見ます。しばらくして、カイがゲルダと絵本を読んでいると、目と心臓に、例の鏡のかけらが入ります。
一瞬、違和感を感じたカイですが、すぐになんともなくなります。心配するゲルダに、「おまえ、なんで泣いてんの、ひでー顔!」とカイは言います。この日から、カイは人々をからかう、言うことをきかない、意地悪な子になり、ゲルダを泣かせます。
カイは、大きな子たちと遊ぶと言って、そりを持ってむこうへ行き、大きくてきれいなそりに自分のそりを結びつけました。そのそりに乗っていたのは、雪の女王で、女王はそのまま、カイを北にある、自分の城へ連れ去ってしまいます。
第3の物語:魔法を使う女の花園
カイが帰ってこないので、悲しいゲルダは、春になると、カイを探しに行くことにします。ゲルダはきれいな赤い靴をはいて、川まで行きました。「川さん、私の靴をあげるから、カイの行方を教えて」、そう言って、靴を川に投げましたが、水で靴が押し戻されました。
投げる場所が悪かったと思ったゲルダはそのへんにあったボートに乗って、もっと遠くに靴を投げました。すると、ボートが勝手にどんどん進んで、ある家までたどりつきます。
花の絵が描かれた夏の帽子をかぶった年老いた女性が出てきて、ゲルダを家に招き、さくらんぼなどを出してもてなしました。ゲルダは、この女性にカイのことを聞くつもりでしたが、女性が黄金のくしで、ゲルダの髪をとくと、ゲルダは記憶をなくして、カイのことを思い出せません。
実はこの女性は魔法を使うのですが、そこまで悪い人ではなく、ただ自分が楽しむために、魔法を使うのです。老女は、ゲルダをずっと家においておきたいと思ったのです。
ゲルダがカイのことを思い出さないように、老女は庭にあるバラをすべて、魔法で、地中に沈ませました。
ゲルダは何日も、老女の美しい花園で遊びましたが、何かが足りないといつも思っていました。ある日、ゲルダは老女の帽子に描いてあるバラの絵を見て、自分が何をするつもりだったのか思い出し、熱い涙を流します。
その涙が地面に落ちた時、埋まっていたバラがいっせいに咲いて、「カイは死んでいない」とゲルダに教えます。時間を無駄にしてしまったわ、とゲルダは急いで、この家をあとにします。
第4の物語:プリンスとプリンセス
季節は秋になりました。ゲルダは、疲れて、お腹がすいて、しかも寒いです。そんなとき、やたらとよくしゃべるカラスに出会います。
近所にあるプリンセスのむこ選びの話をえんえんとしたあと、カラスは、このプリンセスといっしょになったプリンスがカイではないかと言います。
カラスは、宮廷に住んでいる婚約者のカラスの話から、そうだと思う、と言うのです。このプリンスは、きゅっときゅっとなる革のブーツをはいていて、カイもそんなブーツを持っていたのです。
カラスの案内で、ゲルダが宮廷にプリンスを見に行くと、残念ながらカイではありませんでした。プリンスとプリンセスは、ゲルダを気の毒に思い、毛皮のブーツとマフに服、食べもの、そして黄金の馬車(御者や従僕つき)をくれます。
第5の物語:小さな山賊の女の子
王族からもらった黄金の馬車に乗って、ゲルダが暗い森の中を進んでいると、山賊に襲われました。山賊たちは、御者たちを殺してしまいます。山賊の女が、ゲルダを殺そうとしたとき(殺して食べるつもり)、その女の娘である少女が出てきて、女の耳をかんで背中にのしかかり止めました。
「この子は私と遊ぶの!」娘はそう言って、馬車に乗り込み、ゲルダと一緒に走ります。「あんたがわたしを怒らせない限り、あんたは無事よ。あんた、おひめさま?」
ゲルダは少女にこれまでの事情を話し、涙をこぼしながら、自分がいかにカイを好きか伝えました。
山賊の少女は、真剣な瞳でゲルダをみつめ、「あんたが私を怒らせても、もう誰もあんたを殺さないわ」と言って、ゲルダの涙をふきます。
娘はゲルダを自分の城(山賊だけど城に住んでいる)につれていき、食事をさせたり、一緒に寝たりします。眠れないゲルダに、モリバトが、「雪の女王が カイを北の国(ラップランド)に連れていくのを見た、と言います。
翌朝、ゲルダから話をきいた山賊の娘は、ゲルダをトナカイに乗せ、 母親の大きな手袋と、パンとハムをくれ、毛皮のブーツを返し(しかし、マフは自分のものにすると言う)、ゲルダを逃します。
ゲルダを乗せたトナカイはどんどん走って、ラップランドにつきます。
第6の物語:ラップランドの女とフィンマルクの女
ゲルダとトナカイはラップランドの老女のいる小屋で、魚や飲み物をごちそうになります。トナカイが事情を話すと(ゲルダの口は凍えて動かない)、老女は、いま、雪の女王は、フィンマルクを訪れていると教えます。
フィンマルクの女への伝言を魚の干物に書くから(紙がない)、そっちでまた道を聞きなさい、と老女は言います。
フィンマルクの女のところで、トナカイは手紙を見せ、事情を話します。「ゲルダが雪の女王との戦いに勝てるように、12人の男のちからが出せる飲み物をくれませんか?」とトナカイは頼みます。
女:「カイはたしかに雪の女王のところにいるけどね。彼女のそばにいるのがすっかり気に入って動かないよ。魔法の鏡のかけらが目と心臓に入っているからね。このかけらをまず取らないとね」。
トナカイ:「なんとかゲルダのちからになるものをくれませんか?」
女:「あの子はもう十分ちからを持ってるよ。すごいパワーをね。人も動物もあの子の手助けをするじゃないか。あの子は、はだしでどれだけ進んだことか。心の中にちからがあるんだよ。それはもうやさしくて純粋な子だから。あの子はひとりで雪の女王のところに行くしかないよ。女王の庭まで、あの子を乗せて、そこでおろして、おまえはすぐに帰ってきなさい」。
そう言って、女はゲルダをトナカイに乗せました。ゲルダは手袋と靴を忘れましたが、トナカイは止まらず、女王の庭のベリーの木のもとでおろし、泣きながらゲルダにキスをすると、走って帰っていきました。
ゲルダが、裸足で祈りの言葉をとなえながら、雪の中を進むと、吐いた息が1つずつ盾(たて)と剣を持つ天使になり、雪の結晶を倒しました。とうとうゲルダは、雪の女王の城まで来ました。
第7の物語:雪の女王の宮殿であったこととその後
巨大な宮殿の中で、冷たい体をしたカイは、氷のかけらのパズルをしていました。カイは、「永遠(eternity)」という言葉をどうしても作れません。女王は、「もしこの言葉をつくれたら、カイは自由になれる、この世界をあげるし、新しいスケート靴もあげる」と言います。
その後、女王は、あたたかい国を凍らせに行くと言って飛び去ります。
引き続き、カイがパズルで頭を悩ませていると、ゲルダがやってきて、「カイ、カイ、とうとう見つけたわ!」と言って、カイを抱きしめます。しかし、カイは無表情で、凍ったように動きません。
ショックを受けたゲルダが熱い涙を流すと、カイの胸に落ち、心臓まで到達し、氷がとけ、鏡のかけらもとけました。ゲルダが、ふたりでよく歌った歌を口にすると、カイも泣き出し、目の中のかけらも流れ落ちました。
「ゲルダ、ゲルダ、こんなに長くいったいどこにいたの? 僕はどこにいたの?」
2人は抱き合って大喜び。踊ったり、笑ったり。ようやく落ち着いて床に座ったとき、カイは「永遠」を見つけます。
2人を手をつないで、宮殿を出ます。ベリーの木のところには、トナカイがもう1匹のトナカイ(子供)を連れて待っていました。
2人はトナカイにのって、ゲルダが会ってきた人や動物をたずねながら、家に戻ります。山賊の娘、プリンセス、プリンスは新しい土地に行っておらず、カラスは死んでいました。
家にもどると、季節は夏で、バラが美しく咲いていました。カイとゲルダは前より成長していましたが、子供の心を持ったままでした。
原文はこちら⇒ Hans Christian Andersen : The Snow Queen
パワフルな愛の物語
この童話のタイトルは『雪の女王』ですが、女王は悪役としてちょっと出るだけです。しかし、寒さ、冷たさ、氷、冷酷さといったものを象徴する存在なので、ただの女王ではなく、雪の女王である必要があります。
寒い国に住んでいる私には、雪の女王のおそろしさがよくわかります。
主役はもちろんゲルダで、この子はこころのなかにあたたかい愛情や情熱を持っていて、それが、周囲の人を動かし、カイを助け出します。
冷たいものと熱いものの戦いを書いた話と言えましょう。もちろん、熱いものが勝ちます。
あらすじでは、かなりはしょっていますが、一つ一つのエピソードがおもしろく、山賊の娘や、フィンマルクの女、やさしいトナカイ、カラスなど、魅力的な登場人物も多いです。
機会があったら、オリジナルのほうを読んでください。
アンデルセンは靴や足にこだわっていると、先日書きましたが、
この物語でも、ゲルダははだしになったり、赤い靴をはいたり、毛皮の靴をもらったりします。人によっては、物語に出てくる祈りの言葉(聖書の一節だと思う)に、興味を持つでしょう。ほかにも掘り下げたいポイントがいくつも見つかると思います。
コメント