Through the Looking-Glass (鏡の国のアリス) ルイス・キャロル著(1871)の感想。

鏡を見る少女 その他の物語

ルイス・キャロルの、Through the Looking-Glassを読みました。 Alice’s Adventures in Wonderland の続編です。続編といってもべつに話は続いていないので、こちらを先に読んでも問題はありません。looking glass は鏡の古い言い方です。

不思議の国のアリス、作品情報

  • 著者:ルイス・キャロル (Lewis Carroll)
  • 発行:マクミラン社、1871年12月24日
  • イギリスの児童文学の古典で、とても人気があり、初版の発行から150年近くたつのに、いまだ絶版にならず、読みつがれています。
  • 文字数: 28,855 words
  • 250 WPM (words per minute) の人であれば、1時間55分で読める量。もちろん私はもっとずっと時間がかかっています^^;
  • オリジナル版のイラストは、John Tenniel 
  • 著者とテニエルは、話し合いを重ね、本ができあがりました。著者はテニエルに細かい注文をつけ、テニエルはテニエルで、あるエピソードについて、この話はおもしろくないし、どうやって絵を描いたらいいかわからない、と抗議し、結果、このエピソードは削除されました(このエピソードは、だいぶあとになって日の目を見ます)。
  • 前作、Alice’s Adventures in Wonderland が発売されたときは、賛否両論だったのですが、この作品は発売後、すぐにベストセラーになり、前作もいっしょに売れ始めました。

あらすじ(さわり詳しめ、途中大幅に省略、結末あり)

冬のある日、アリス(7歳半の女児)は暖炉のある部屋で、毛糸を巻いていた。そばには白猫や黒猫がおり、黒猫の子猫(キティ)が、毛糸だまをほどいたので、アリスは、「まあ、キティ、だめな子ね」と怒ってみたり、そばにあるチェス台から、赤い女王の駒を取り、「キティ、あなたが腕を組めば赤い女王にそっくりになるわ。やってみなさい」と命令したりする。

しかし、キティが反応しないため、アリスはいましめのため、暖炉の上の鏡にキティを差し出して、「悪い子でいると、鏡の国に入れちゃうわよ」と言って、鏡の国の話を猫に聞かせる。すると、突然、鏡全体がふやふやとほやけ、気づくとアリスは鏡の国に入っていた。

そこは、自分のいた部屋とそっくりで、チェス盤があり、アリスは転がっている駒を拾い上げたりする。そばに本があるのを見つけて読もうとするがさっぱり読めない。それもそのはず、この本の文字はさかさまになっているのだ。

アリスが本を鏡に写すと、JABBERWOCKY という詩が見える。文字はまともなアルファベットになったが、その内容は、今いち意味不明。「わけ、わかんない」と思ったアリスは、庭を見ることにする。

庭には花々が咲いていた。花の向こうに小高い丘が見えるので、アリスは「あの丘にのぼったら、もっと庭がよく見える」とそっちへ行こうとする。しかし、アリスがどんどん前へ進んでも、すぐに家に戻ってしまう。「なに、この家、わけわかんない」と、困ったアリスは、そばにあるオニユリに気づく。

「ああ、オニユリさん、あなたの口がきけたらねえ」とアリスが言うと、オニユリは、「お話できますわ。そばに話をする価値のある人がいるときは」と話しだす。

オニユリによれば、花は話をできるのだが、ふだん花壇の土がやわらかいため、花たちは眠っていて、話をしないのだという。この家の花壇はガチガチに硬かった。アリスが花と話をしていると、赤の女王(チェスの駒)がこっちにやってくる。赤の女王はいつのまにか体が大きくなっている。

アリスは赤の女王に近づこうと思ったが失敗し、遠ざかろうとしたら近づいた。赤の女王はとても尊大な態度で、おまえは誰だ、どこから来た、なんだ、その話し方は? エチケットがなっとらん、とアリスにいちいち注文をつける。

アリスは女王が怖かったが、一緒に丘の上まで行って下をみると、なんと巨大なチェスの盤が見える。仕切りは木々だ。人がチェス盤の上を動いてる。この国はチェス盤なのだ。

「わ~、おもしろそう。私も参加できるなら、pawn (ポーン、いちばん弱小の駒、将棋の歩にあたる)でもいいわ。本当はクイーンがいいんだけど」とアリスが言うと、赤の女王は、「あんたは、白の女王のポーンにおなりなさい。2つ目のスクエア(マス目)から出発するのよ。8つ目のスクエアまで行けば、女王になれます」と言う。

もうしばらく、赤の女王と話をし、別れたら、アリスは突然、汽車にのっており、車掌に切符を見せろと言われる。

このあと不思議な生き物やチェスの駒、マザーグースのキャラ – 大きなハエ、シカ、トゥイードルダムとトゥイードルディー(マザーグースに出てくる双子キャラ)、白の女王、編み物をする羊(笑)、ハンプティ・ダンプティ、白いキング、白い騎士、ユニコーン、ライオン – などと会い、ナンセンスな会話をし、意味不明の詩を聞かせてもらったりする。

トゥイードルダムとトゥイードルディーと話をしているとき、木の根本で、赤の王さまがいびきをたてて寝ている。このとき、双子が、「赤の王さまは、あんた(=アリス)の夢を見ているんだよ。あんたは王さまの夢の中にいるだけでリアルじゃないんだ。王さまが目ざめたら、ぼん! あんたは消えちゃうんだよ、ろうそくの火のように」と言う。

「いやだ、消えないわ。私はリアルよ」とアリスは泣き出す。この「アリスは赤の王さまの夢の中にいる」というくだりは、この本の中でも有名なくだり。

そんなふうに、白の騎士をのぞけば、アリスが出会う人々(?)は、皆、アリスに冷たい。しかし、なんとかアリスは8こまめまで進み、頭が重いと思ったら、王冠をかぶっていた。

その後、赤の女王と白の女王と一緒に晩餐会をするが、料理は、出てきても、変なスピーチをすると、消えるので、「なに、これ? もういいかげんにしてよ!」とかんしゃくをおこしたアリスがテーブルクロスをひっぱって、上にのっていたものをぶちまける。赤の女王に文句を言おうと顔をあげたら、赤の女王はみるみる小さくなっていく。

アリスが赤の女王の駒をつかんでゆすったら、それは黒猫のキティになる。このとき、アリスは、目が覚める。そうまた夢だったのだ。

しかし、アリスは、夢を見ていたのが、自分だったのか、赤の王さまだったのか、わからない。「どっちだと思う、キティ? あんた、赤の王さまの妻(赤の女王)だったから、わかるでしょ? 教えてよ!」と黒猫キティに言ってみるが、猫は知らん顔して、自分の手をなめるだけだ。

チェス盤という秩序あり

『不思議の国のアリス』もおもしろいのですが、『鏡の国のアリス』もなかなかおもしろいです。

私は、1作めのほうになじみがあり、こちらはあまりよく知りませんでしたが、鏡の国のほうが好きです。「チェス盤の上を女王になるまで進む」という秩序またはゴールめいたものがあるため、中がナンセンスでも、安心できる面があります。

これは、私が秩序を求める性格だからでしょう。しかし、チェス盤はあっても、登場人物はナンセンスなことしか言いません。ハンプティ・ダンプティは、最初に出てくる詩、 JABBERWOCKY の意味を説明しますが、この説明が変すぎて、ますますわけがわからなくなります。

アリスが出会う生き物は、自分の知っている話や詩を聞かせます。これらは劇中劇のような効果があります。そもそも鏡の国は現実の世界を映し出したパラレルワールドですが、その中に劇中劇が入れ子みたいにあるので、童話や物語が好きな人には楽しめると思います。

現実はきびしい

チェス盤は、人生と考えることができます。アリスは、一応、結末に向かって先に進みますが、出会う人、出会う人、わけのわからないことを言うし、なんでも反対にやらないと、うまくできません。これは人生や運命の、気まぐれな部分、不条理な部分を表しているとも言えます。

アリスがプラムケーキを切るシーンがありますが、ふつうに切ろうとすると、切っても切っても、ケーキがくっついて元に戻ります。するとユニコーンが、「あんたは、鏡の国のケーキの扱い方を知らないね。まず、先にみんなに渡すんだよ。それから切るの!」とアドバイスします。

アリスがケーキをもって歩くと、ケーキは勝手に切れます。ここは常識の通用しない世界です。

人生にも理不尽なことがいっぱいあるし、生きるプロセスで出会う人は、結局は、自分のことでせいいっぱいなので、自分で何とかするしかありません。鏡の国のアリスのように。

そして、人は、人生がもう終わろうとするとき、「ああ、おもしろい夢だったなあ」と思うんじゃないでしょうか? 死ぬ間際を体験したことがないのでわかりませんが、昔のことは、本当にあったことなのか、自分がそう思い込んでいるだけなのか、よくわからず、すべては、まるで映画のように感じられます。

同じできごとでも、人によって、見方が違うため、自分の頭の中にある、数々の思い出は、みな、自分だけしか知らないことです。つまり、それは夢のようなもの。私も赤の王さまの夢の中で、ジタバタしているだけなのかもしれません。

英語読めなくてもちょっと勉強すればすぐに読めるようになる、とレビューに書いている人がいますが、そうですかね?

確かに、英語はそんなにむずかしくありませんが、言葉遊びやジョークがたくさんあり、状況が飛躍するので、多少多読に慣れてから読んだほうがいいと思います。

前作と同じように、何度読んでもいろいろ発見がある物語です。

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