The little girl and the winter whirlwinds というブルガリアの伝承話を紹介します。
英語のタイトルと、ブルガリアの話ということしかわからず、日本語に訳されているのか、訳されているとしたら、タイトルは何なのかも、わかりません。
英語圏ではわりと有名な話です。
1行のあらすじ
勇敢な少女が冬山をのぼり、春なのに冬になったままの世界を春に戻す話。
春なのに冬のまま
ある年、邪悪な冬の魔女が、春が来るのを止めて、冬を継続させました。
魔女が太陽を雲で隠したので、大地は深い雪でおおわれています。
小さな村の村人たちが、朝起きると、家の屋根まで雪が積もっていたので、雪の中にトンネルを作って移動し、近所の人たちと、この問題について話し合いました。
話し合いの結果、ものすごく高い山の頂上にいる、よい魔法使いである、ファーザーフロスト(霜の父)に助けを求めるのがベストであろう、という結論に至りました。
ファーザーフロストは山の上の氷の宮殿に住んでいます。
勇敢な女の子
しかし、誰も雪山を登りたがりません。
「わしが行こう」。
あるおじいさんが言いました。「ただ、わしは年を取りすぎているから、頂上に行けないもしれないがな。ああ、20歳若かったらなあ」
「おじいさん、私が行くわ」。
ある小さな女の子が言いました。この子は孤児で、両親が亡くなってからおじいさんの家に住んでいました。
村人たちは、反対しました。女の子は、まだ小さいから、こんなむずかしい仕事は無理だ、第一、あたたかいコートも、マフラーも、手袋も持ってないじゃないか、と。
「怖くないわ。私、足が丈夫だし、山のヤギと同じくらい早く走れるし」
女の子は、あくまで行く気まんまんです。
おじいさんは賛成してくれたし、ほかに行きたがる人はいないので、結局、女の子が行くことになります。
子どもたち(全員女の子の友人)が、それぞれ自分のコート、手袋、帽子、靴、ブーツを貸してくれたので、女の子は山に登る準備が整いました。
どんどん山を登る女の子
女の子は、何も考えず、どんどん山を登り、とうとう頂上で氷がきらきら光るのが見えるところまで来ました。
すると、つむじ風たちが目覚め、山を登ってくる女の子を見て、激怒します。
自分たちの領地に勝手に入ってきたからです。
「あの子に向かってがんがん吹いて追い出してやろう」
つむじ風たちは勢いよく吹き荒れましたが、女の子は、コートの中に身を縮め、さらにどんどんのぼります。
息が苦しくなったつむじ風たちは、地面に倒れました。
つむじ風、援軍を呼ぶ
つむじ風1「なんて強い子なんだ。僕たちヘトヘトなのに、全然平気らしい」
つむじ風2「姉さんの吹雪たちに手伝ってもらおう」
つむじ風たちが、姉の吹雪たちを呼ぶと、吹雪たちも怒って、猛烈な勢いで吹き荒れました。
しかし、女の子は平気で、吹雪のほうが疲れてしまいます。
吹雪たちは、母親の冬の魔女を呼びました。
冬の魔女の登場
冬の魔女は、「誰かを力で倒せないときは、逆のことをするとうまくいくわ。あの子にやさしくすればいいのよ」と子どもたち(つむじ風と吹雪)に言いました。
つむじ風と吹雪「やさしくするって、どういうこと? キスするとか?」
冬の魔女「違うわ。礼儀正しく、親切にしてあげれば、私たちの本心(=邪悪なたくらみ)には気づかれないのよ」
冬の魔女は、若く美しい女性の姿で、女の子の前に現れました。白いキラキラしたマントを着ていて、髪は、白い長髪、ダイヤモンドのついた王冠をかぶっています。
眠り込む女の子
女の子「夢を見ているのかしら? それともミラクル? この人、私のお母さんとそっくり。お母さんがやさしい歌声で、子守唄を歌ってくれている。ああ、もっと聞きたいわ。ちょっとここに座って、歌を聞こう。もう宮殿がみえるから、あと1時間もあれば、着くだろうし」。
女の子はその場に座って目を閉じました。
雪の女王は大喜びで、「おやすみ、かわいい子、永遠に寝ていなさい」と唱えると、女の子をそこに起こして、子どもたちのもとに飛んでいきました。
凍りつく女の子
女の子は幸せそうにほほえみながら、眠っていましたが、しだいに顔色が変わってきました。ピンクだった頬は、いったん赤くなり、その後、青くなり、いまは黄色です。女の子は少しずつ凍っていきました。
突然、雪の中から、白いネズミが頭を出し、凍りそうになっている女の子を見て、仲間のネズミを呼び、皆で女の子の足と手の上に乗りました。助けようとしたのです。
ネズミは小さいので、女の子の手足に乗っても、たいして状況は変わりません。ネズミは友達のウサギを呼びました。
ウサギたちも、雪の中から、ぼこぼこと顔を出し、助けにかけつけ、さらに、雪がつもっていた松の木からは、リスたちが出てきて女の子のもとにやってきました。
動物たちが女の子の身体に群がり温めてくれたので、女の子のほほはだんだん赤みが出てきました。
そして、女の子は目覚めます。
氷の宮殿
女の子が、動物たちに、助けてくれたお礼と、山にいる事情を言うと、動物たちは自分たちも一緒に、氷の宮殿に行く、と言ってくれました。
実は、動物たちも、いつも冬であることに、うんざりしていたのです。
とうとう女の子は、氷の宮殿まで来ました。
ノックをしても返事がありません。ドアには鍵がかかっていなかったので、勝手に入っていくと、氷の廊下の向こうの水晶の大きな部屋で、ゴージャスな氷の椅子の上に座って、ファーザー・クリスマスが眠っていました。
(*pen註:ファーザー・フロストとファーザー・クリスマスは同一人物らしい)。
リスが、ファーザー・クリスマスの膝の上に乗り、しっぽで顔をくすぐったら、ファーザー・クリスマスは大きなくしゃみをして目覚めました。
女の子は、ファーザー・クリスマスに事情を話しました。
ファーザー・クリスマスの手配
「なんだって。私が寝ているあいだに、冬の魔女が、春が来るのを止めて、冬のままにしただと?
なんてことだ。この私をさしおいて、ずっと大地にいようとするなんて。
起こしてくれてありがとう。今から、順番をちゃんと正すことにしよう」。
ファーザー・クリスマスは、銀のホイッスルを吹いて家臣を呼び、こんな命令をしました。
◯冬の魔女を連れてきて、来年の冬が来るまで牢屋に閉じ込めること。
◯雲をとりのぞいて、太陽を出し、雪を溶かせるようにすること。
家に帰ろうと女の子が宮殿の門をくぐった時、すでに、太陽が輝き、雪が溶け始めていました。
帰り道はずっと簡単でした。新しくできた動物の友人は、「これから困ったときには、いつでも助ける」と言ってくれました。
村人たちは、大喜びで、勇敢な女の子を出迎えました。
原文(英語)⇒The Little Girl and the Winter Whirlwinds | Unknown Bulgarian Author
勇敢な女の子とやさしいファーザー・クリスマス
この話、アンデルセンの『雪の女王』や、その原型である、『太陽の東 月の西』に似ています。
雪でそのあたりを凍りつかせる冬の魔女(スノウクイーン)が出てくる話や、ミッションを胸に、小さな女の子が果敢に雪山をのぼっていく話は、きっと古くから、雪深くて、山の多いヨーロッパにあったのでしょう。
童話(伝承話)で、山をのぼって活躍したり、遠くまで夫を探しに行くのは、たいてい女子ですね。
その理由はわかりませんが、一般にか弱いと考えられている女性のほうが、冒険の困難さと、冒険をする者の強さが強調されるからかもしれません。
ファーザー・クリスマスは、一見、子どもたちにやさしいサンタクロースのように思えますが、困った人や、冬山で遭難した人を助けてくれる、クリスマス精神の権化のような存在だと思います。
とくに、最近のサンタクロースは商業化がはなはだしいので、この話に出てくるファーザー・クリスマスとはちょっと違います。
さて、この話の教訓は、
・私利私欲のない勇気ある行動(自己犠牲)は見返りをもたらす
・勇気ある行動は仲間を呼ぶ
・油断禁物
・押してもだめなら引いてみな(アメとムチを使え)
・母親はあたたかい存在
こんなところでしょうか。
無事に女の子が、ミッションを終えて、村に帰り着くことができて本当によかったです。
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