忠臣ヨハネス(グリム兄弟、1819)のあらすじ

ノイシュヴァンシュタイン城 グリム童話

グリム童話から、『忠臣ヨハネス』(Der treue Johannes)という童話を紹介します。英語のタイトルは、Trusty John または、Faithful Johannesです。日本語では、『忠臣ヨハネス』のほかに、『忠義者のヨハネス』と訳されることもあります。

超簡単なあらすじ

どこまでも主君に忠実な家来、ヨハネスは、王に誤解されて石になってしまうが、最後に、王が自分の子どもを犠牲にしたことでよみがえる。

先代の王さまの遺言

昔むかし、年老いた王さまが臨終の床につき、もっとも信頼する家来、ヨハネスを枕元に呼びました。ヨハネスは忠義者なので、忠臣ヨハネスと呼ばれています。

「私が死んだらどうか息子のことを頼む。息子の片腕になってやってくれ。

息子に城のすべてを見せてやってくれ。ただし、廊下の奥にある部屋だけは見せてはいけない。

ここには、金のお城の王女の肖像画がある。もしこの絵を息子が見たら、この王女に狂おしいまでに恋をして倒れてしまう。そして、王女のせいで、危険な目にあうだろう。

おまえは、王女から息子を守らなければならない」。

「おまかせください。どこまでも王子さまをお守りいたします」というヨハネスの言葉を聞いて王さまは亡くなりました。

王さま、禁断の肖像画を見る

王さまが亡くなったあと、ヨハネスは、若い王に城中を見せました。若き王は、ヨハネスが、いつも1つの部屋の前だけ、何も言わずに通り過ぎるの気づき、なぜ、扉を開けないのか聞きました。

「中に、王さまの身をおびやかすものが入っております」。

それを聞いて、王さまは、その部屋も見せるよう、命じました。ヨハネスは、亡くなった王さまとした約束のことを現王さまに言いましたが、いまの王さまは、「部屋に入らなければ、それこそ、自分はどうにかなってしまう。昼も夜も気分が落ち着かない。扉をあけてくれるまで、私はここから一歩も動かない」とがんとして聞きません。

ヨハネスはあきらめて、ためいきをつき、その扉を開けました。

そこにある世にも美しい少女の肖像画を見たとたん、王さまは恋をして倒れてしまいました。

ヨハネスは「ああ、大変なことになった」と心臓をばくばくさせながらも、王さまをベッドまで運び、ぶどう酒を飲ませました。

ヨハネスの計画

ヨハネスから、肖像画の娘が金の城の姫だと知った王さまは、「自分はその王女にすっかり恋をしてしまった、王女を手に入れないではいられない、力になってくれ」と言いました。

忠臣ヨハネスは、いっしょうけんめい考えて、1つの案を思いつきます。

「王さま、あの姫の身の回りにある家具はすべて金でできています。王さまは、5トンの金をお持ちですから、そのうちの1トンを使って、金細工師に、金の食器や道具、飾りものなどを作らせてはどうでしょうか。

姫のところにいって、それを見せ、運をためしてみましょう」。

王さまはさまざまな金の雑貨を持って、ヨハネスと一緒に船に乗り、金の城に向かいました。

金の城の姫を誘拐する

金の城につくと、ヨハネスは商人のふりをして、王女に近づき、金のグッズを見せました。

王女は金のグッズを見てたいそう喜びました。

「とてもきれいだわ。私、みんな買いますわ」。

ヨハネスは、私は豪商の番頭にすぎず、船にはもっといろいろな金のグッズがありますよ、と言いました。

王女は、すべてを城に持ってくるように頼みましたが、ヨハネスは、「たくさんあるから、運ぶには何日もかかるし、そもそも、この城にすべては入りますまい」と答えます。

これを聞いて、王女は、ますますそれらの金のグッズを見たくなり、自分を船まで連れていくようヨハネスに言いました。

船にやってきた王女を見た王さまは、絵よりももっと美しい姫の姿に、胸がはりさけそうになりました。

王女が金のグッズを見ているあいだに、ヨハネスは船を出すよう船員に命じました。

さまざまなグッズに心を奪われていた王女は、船が出たことを知らずにいましたが、最後の品を見終わって帰ろうとしたとき、だまされたことに気づきました。

「商人の手に落ちてしまった。なんとした不覚。こんなことなら死んだほうがましだわ」。

王女は深く後悔しましたが、商人だと思っていた男から、「自分は実は王で、あなたの絵を見て、恋をしてしまったので、こんなことをしたのです」と聞くと、安心し、彼を好きになり結婚を承諾しました。

カラスの会話を聞くヨハネス

ヨハネスが船のへさきで音楽を奏でていたら、3羽のカラスが飛んできました。ヨハネスは、カラスの会話に耳を傾けました。彼は、カラスの言葉がわかったのです。

ヨハネスはカラスの会話から以下の3つの情報を得ました。

1. 陸についたときやってきた栗色の馬に、王が乗ろうとするが、馬から落ちて死ぬ⇒別の者が馬にのり、馬を撃ち殺せば助かる。しかしこのことを王に言うと膝から足先まで石になる。

2. 城で、王が、見た目は金と銀だが実は毒でできている婚礼用のシャツを着て死ぬ⇒別の者が手袋でそのシャツをつかみ、火にくべれば王は助かる。このことを王に言おうとすると、心臓から膝まで石になる。

3. 婚礼の祝いの席で花嫁が踊りだすと、まっさおになって倒れて死ぬ⇒誰かが花嫁を抱き起こし、右の乳房から血を3滴吸い取って吐き出せば助かる。このことを王に言うと体全体が石になる。

これらの情報を自分がだまっていれば王が不幸になるし、話せば、自分が石になってしまう、とヨハネスは悩みました。

しかし、結局、「たとえ自分はどうなっても、主君をお助けしよう」と心に決めました。

石になるヨハネス

船がつくと、カラスの言ったとおりのことがおこり、ヨハネスは、王をさしおいて馬に飛び乗り、鉄砲で撃ち殺し、王の婚礼用のシャツを火にくべ、お妃が踊っている最中に倒れたとき、乳房から血を吸い取って吐き出し助けました。

馬とシャツについては、皆が、「ヨハネス、なぜあんなことするんだ、ふとどきものだ」と責めても、王は「忠臣ヨハネスのやることだ。きっと何かわけがあるのだろう。好きなようにさせておけばいい」とかばいました。

しかし、最後のお妃の乳房から血を吸うのを見たときは、さすがの王さまも驚いて、ヨハネスに首吊りの刑を言い渡しました。

首吊り台の上で、ヨハネスは、死ぬ前にひとことお話したいと言って、カラスからきいた話をすっかり王さまに打ち明けました。

すべて自分を救うためにしたことだとわかった王さまは、刑の執行をやめようとしましたが、最後の言葉を言い終わったとたん、ヨハネスは息が途絶え、石像になってころがり落ちました。

ヨハネスよみがえる

王さまは自分のしたことを深く後悔し、ヨハネスの石像を自分のベッドのそばに置き、見るたびに泣いていました。

「ああ、ヨハネスよ。おまえをもう一度生かしてやりたい。忠臣ヨハネスよ」。

時が経ち、お妃は男の子の双子を生みました。2人はすくすくと大きくなり、王さまに大きな喜びをもたらしました。

ある日、お妃が教会へ行って、王さまは双子と留守番していました。王さまはヨハネスの像を見て、

「ああ、お前を生き返らせることができたらいいのに。わたしの忠臣ヨハネスよ」

すると、石が口をきくではありませんか。

石:「生き返らせることができます。もし、王のもっとも大事なものを犠牲にしてくださるならば」。

王:「おまえのためなら何だって犠牲にできるぞ」

石;「あなたがご自身でお子様2人の首をはねて、その血を私にぬってくれれば、私は生き返ります」。

これを聞いて王さまはびっくりしましたが、忠臣ヨハネスの数々の忠誠や、自分のために死んだことを思い出し、剣を抜いて子どもの首をはね、その血を石像に塗りました。

ヨハネスは生き返り、元気な姿で王さまの前に立ちました。

「王さま、あなたさまの誠実なお気持ちはむくいられないわけにはいきません」。

こう言うとヨハネスは、子どもたちの頭を体の上におき、傷口に血を塗り込みました。すると、すぐに双子は生き返り、何ごともなかったように、遊び始めました。

ハッピーエンド

お妃がもどってくるのを見ると、王さまはヨハネスと双子を衣装箱に隠しました。

お妃が、「教会でヨハネスのことを考えていた」と言うので、王さまは、「ヨハネスを生き返らせることができるが、それには、私たちの子どもを犠牲にしなければならないのだが」と言いました。

それを聞いて、お妃はまっさおになりましたが、「彼の立派な忠節のことを思えば、それもしかたがありません」と答えました。

王さまは、后も自分と同じ考えだと知り、大喜びで衣装箱をあけ、ヨハネスと双子を連れ出し、お妃に、さっき起きたことを話しました。

その後、王さま、お后、双子、ヨハネスは、ずっと幸せに暮らしました。

原文はこちら⇒Grimm 006: Faithful Johannes

何よりも忠節が大切

この童話の一番のメッセージは、「何よりも忠誠心が大事である」だと思います。

忠誠とは、忠実で正直な心です。

ヨハネスは、先代の王にも、いまの王にも忠実に仕え、カラスの予言を聞いてからも、王を助けたい一心で、誰にも理解されなくても、王や后のために行動しました。

そして、王も、自分の子どもを犠牲にしてでも、忠臣ヨハネスを生き返らせようとし、その気持ちがむくわれて、最後はハッピーエンドになったのです。

ヨハネスは自分の命、王は自分の子どもという、もっとも大切なものを忠誠を誓う相手のために差し出しました。

まあ、なかなかできることではありません。

この話はもしかしたら、キリスト教的な教えを伝えているのかもしれません。

いろいろな要素がてんこ盛り

それにしても、この童話、さまざまな要素がてんこ盛りで、奇妙だけど、なかなかパワフルな話です。

最初の、「この部屋を見せてはいけない」というあたりは、青ひげに似ています。

青ひげ(シャルル・ペロー)のあらすじ

絵を見て、いきなり王が倒れるほど恋に落ちるのはなかなかロマンチックな展開です。

金のお城のお姫さまは、金のグッズが好きすぎて誘拐されます。

最初は、「商人の手に落ちた(日本の姫なら自害するところかもしれません)」と嘆いていた姫は、相手が王さまだと知って安心します。

ここは、王と商人の身分の違いがはっきりと描かれています。

ヨハネスが、突然、カラスの話を聞き取れてしまうのもおもしろいし、王さまとお妃に次々と起こる災いも、わざとらしいといえばわざとらしい。

「これ、本当に民話なんだろうか、誰かが作ったんじゃないの?」と思いますが、創作のクラスでこんな作品を発表したら、「設定がありえなさすぎる」という評価をもらうでしょうから、やはり民話なのでしょう。

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