シンデレラのアニメと聞くと、多くの人が、1950年に公開されたディズニーのアニメを思い出すでしょう。 この映画は、「時代を越えた珠玉の作品」と呼ばれ、シンデレラという物語は、ディズニーが原作者だと思っている人もいるぐらいです。
実は、私はあまりディズニーに興味がなく、映画もほとんど見ておりません。ですが、『シンデレラ物語』を語るうえで、ディズニーのアニメを見ていないのもまずいと思い、最近見てみました。
シンデレラのストーリーは、真実の愛とか、シンデレラと王子の恋物語的な捉え方をされることが多々ありますが、このアニメは、あまりロマンス度は高くありません。むしろこの映画はシンデレラと動物たちの友情物語に思えます。
シンデレラとネズミの友情の物語
このアニメは、76分です。シャルル・ペローの原作は短いため、76分にするには、どこかをふくらませなければなりません。タツノコプロの『シンデレラ物語』はサンドリヨンとシャルル(平民のふりをしている王子)の関係や、二人が解決するさまざまな事件を盛り込み、全部で9時間以上(30分X26話)にしています。
ディズニーのアニメは、シンデレラの友達の動物(ネズミや鳥、犬、馬)の活躍をフィーチャーすることで、ふくらませています。
ディズニーのシンデレラは、屋根裏部屋で、ネズミたちと同居しており、とても親しくしています。彼女とネズミたちは最初からいきなりコミュニケーションが取れています。シンデレラは、机の引き出しに、ネズミたちの衣装まで用意しているぐらいです。
シンデレラの召使として活躍する鳥やネズミ
映画の冒頭、シンデレラが朝目覚めると、鳥とめすのネズミが歌を歌いながら、シンデレラの身支度を手伝います。
鳥たちはシンデレラのベッドメイキングをします。このシンデレラは、原作とは違い、一度も灰にまみれず、いつもびっくりするほどきれいな顔をしています。鳥たちは、シンデレラが脱ぎ捨てた寝間着をフックにかけ、女中服を椅子の上にスタンバイします。すると、ネズミたちが、羽をつかって服のほこりをはらいます。
ネズミたちは、彼女のリボン(シルクみたいな雰囲気) も用意するし 、靴も磨きます。シンデレラが体を洗うのに使う水(お湯?)を用意するのも、ネズミたちです。
シンデレラは「ららら~ん♪」と歌を歌いながら、そして踊りながら、身支度をします。なんというか、このシンデレラは、最初から王妃さまみたいな余裕を感じさせ、とても灰かむりという陰うつな雰囲気はありません。
まるでトムとジェリー
この家には継母が飼っているルシファーという性格の悪い猫がいます。この猫とネズミたちは敵対関係にあり、よくけんかします。それも長々とけんかをします。猫とネズミが丁々発止とやりあっているシーンでは、『トムとジェリー』を見ているような気になりました。
このシーン、思わず、早回しをしたいと思ったほど、えんえんと続きます。ネズミが負けそうになると、ブルーノというシンデレラの犬がやってきて助け舟を出します。
シャルル・ペローの原作には、シンデレラが動物たちと親しくするシーンなど全くないし、猫がねずみとけんかするシーンもないので(そもそも猫など出てこない)、このへんはディズニーのオリジナルのアイデアです。
シンデレラはディズニー以前にも、映画になっていますが、動物と仲のよいプリンセスという設定は、ディズニーが初めてではないでしょうか?
舞踏会に行くドレスもネズミたちが用意
お城の舞踏会の招待状が舞い込んだとき、シンデレラのために、ネズミたちが協力しあい、服飾の本を見て、ピンクの素敵なドレスを縫い上げます。残念ながら、このドレスは、継母やまま姉たちに、引き裂かれてしまうのですが、かなり完成度の高いドレスでした。
ガラスの靴の持ち主を探して、お城の人がやってきたとき、継母はシンデレラを屋根裏部屋に閉じ込めて鍵をかけます。この鍵を取り返し、シンデレラを部屋から出すのも、ネズミです。
鍵を取り返して、部屋まで運ぶシーンも、かなり長く、ここでもネズミたちの活躍がフィーチャーされています。
ネズミに比べて存在感の薄い王子
舞踏会のシーンでは王子が出てきますが、この王子に関してはシンデレラと踊っているぐらいしか印象に残っていません。ネズミに比べると、王子はひじょうに出番が少なく、あまり存在感がありません。
王子はろくにセリフもないですし、単に舞踏会で美しいシンデレラに熱をあげただけで、彼を結婚させることに熱心で、いろいろと策を練るのは、王さまと大公です。
12時の鐘が鳴り始め、シンデレラがあわてて去っていったときに、兵士に馬車を追うよう命令したのも王さまです。
この王子は他人の敷いたレールの上を歩くのに抵抗がない、たいして自主性のない性格に思われるのですが、こんな人に、次期国王が務まるのでしょうか?
アメリカンなシンデレラ
ディズニーアニメのシンデレラは、フランスの宮廷という雰囲気はまったくなく、とてもアメリカンな風が吹いています。
継母や、まま姉に食事を運ぶために、シンデレラは、お盆を3つ持ちますが、一つは頭の上に乗せて歩きます。この姿はまるでアメリカのダイナーのウエイトレスのようです(ウエイトレスはお盆を頭の上にはのせないでしょうが)。しかも、このシンデレラは、ドアを足で閉めるのです。繰り返します。ドアを蹴るのです。
映画の冒頭、シンデレラのお父さんは、「gentleman」という説明があり、再婚した女性も、良家の出である、とナレーションが入りますが、良家のお嬢様が、ドアを蹴るでしょうか?
そういえば、舞踏会で王子さまと初対面なのに、ぐるぐる踊ったあと、いきなりキスをしていたのも、やや違和感がありました。
アメリカではとても人気あり
この映画はアメリカではとても人気があります。逆境を乗り越えて夢をつかんだシンデレラに共感する人が多いのでしょう。
確かに魔法をかけるシーンなど、夢のように美しく、「うわ~っ♡」と感激しそうです。それに、シンデレラのストーリーはもともとドラマチックです。
しかし、シンデレラが、誰にでも親切でとても性格がいい、というのはあまり感じられず(かなり気が強そうな顔ですし、行動もわりとさばさばしています)、何もしていないのに、魔法のおかげで、幸せになれたという印象を持つ人がいても不思議はありません。
魔法使いも、原作のような代母ではなく、突然出現する、通りすがりの人です。
シンデレラはかわいそうな境遇ではありましたが、あまりにネズミたちが活躍しているので、「シンデレラって何もしてないよね? 顔がきれいなだけだよね?」と思わされてしまうのです。
コメント
わたくしもディズニーは個人的に好みではないので、この度この記事を読んで初めて鑑賞しました。世間のウワサどおり美しいですね。名作なんだなあとしみじみ感じました。作画の作り込みが丁寧ですし、動きもなめらかできれいで構図やデザインも一級品のように感じます。
動物メインの展開などは視聴者を子ども対象にしているためなのでしょうね。原作が何であれ(何を引用しようとも)作品は制作時の社会情勢や価値観を色濃く反映するものなので時代と地域と対象者でいろんなバリエーションができてしまうのでしょうね。おもしろいですね。
このディズニーのシンデレラは、ファンがいっぱいいます。まあ、美しいとは思いますよ。でも、私はタツノコプロの「シンデレラ物語」のほうがずっと好きですね。だって、ディズニーアニメのシンデレラって、大人の女性みたいじゃないですか? シンデレラはもっと若い少女であってほしいです。