ジェーン・エアの映像化作品としてはもっとも新しい、2011年の映画、Jane Eyreを見ました。
この映画、メディアや新聞のレビューサイトでは高評価ですが、penの評価は低いです。まあ、私がどう評価しようと、世の中の流れはいっさい変わりませんが。
作品情報
- 監督:キャリー・フクナガ
- 脚本:モイラ・バフィーニ
- 制作:イギリスとアメリカ
- 公開:2011年3月(アメリカにて)
- 上映時間:120分
- 主演:ミア・ワシコウスカ(ジェーン)、マイケル・ファスベンダー(ロチェスター)、脇はイギリスの著名な役者が固めています。主役の2人は純粋な (シェークスピアの舞台とかやっていそうな) イギリスの役者ではないので(ミアはオーストラリア人でマイケルはドイツ系アイルランド人)、脇役でイギリスのムードをかもしだそうとしたのかも?
- 第84回衣装デザイン賞ノミネート。
- 原作:ジェーン・エア/シャーロット・ブロンテ
ジェーン・エア(シャーロット・ブロンテ著、1847)のあらすじ。
ジェーン・エア(2011)予告編
2分11秒。
はははは…。これではまるでホラー映画ではないですか?! もちろん、この映画はホラーではなく、恋愛映画、ヒストリカルロマンス、メロドラマです。予告編だと本編の雰囲気が伝わらないので、日本市場向けの予告編も紹介します。
1分41秒。
こちらは、ロマンス映画に見えますが、「最愛の人には屋敷に閉じ込めている妻がいた」って、完全なネタバレをしています。「ジェーン・エアのあらすじは皆、知っているから、べつにいい」、という考えなのでしょうか?
結婚式が中断するシーンもあるし?? 見せすぎていると思います。
この映画でよいと思ったところ
それなりに予算をかけた映画なので、いわゆるシネマトグラフィー(映像とか映画の撮影全般)はよいです。景色はきれいだし、室内の様子も雰囲気があるし、衣装もこっています。
花嫁衣装は時間にしてほんの数分しか出番がないのに、きっちり作ってあります。音楽も悪くありません。
俳優たちもそつなく演技しています。
「ジェーン・エア」の原作を読んだことがなければ、「すてきな恋愛映画」に見えるかもしれません(事前に日本語の予告編を見ていなければ。そしてストーリー展開を理解できれば)。
物足りない、と思ったところ
「ここは、いまいち」と思ったところはたくさんあるのですが、4点だけ紹介します。
お熱くないジェーンとロチェスターのカップル
この2人は、「階級や年齢が違っても、魂が結びついているため、どんな障害があっても結ばれることになっている永遠の恋人同士」、のはずですが、そのように見えません。
ここが最大のネックだと思います。
ロチェスターが、ジェーンに、結婚を申し込むシーンがあり(ジェーン・エアの映画やドラマなら必ずありますが)、予告編のように、Will you marry me ? とか、言うのですが、このシーンを見た時、私は、「え、あなた、ジェーンが好きだったの?」と驚きました。
あまりに驚いたので、もう1度、最初から見たぐらいです。いったい、「いつロチェスターはジェーンを好きになったのだろうか?」と。もう1度見たら、バーサ(奥さん)にベッドに火をつけられたあとや、ジェーンがゲイツ・ヘッドに行ってまた戻ってきところなどで、一応、2人で話すシーンがあります。
ですが、お互いに好きになっていくプロセスはあまり描かれていません。
「愛している」と口で言っていても、「セリフだからそう言っている」、という雰囲気です。
暗いジェーン
ミア・ワシコウスカのジェーンは、歴代の映画のジェーンの中で、一番、ジェーンらしい、という声もありますが、このジェーンはかなり暗いジェーンです。
ロチェスターが、ジェーンに、「何を落ち込んでいるんだ。You are depressed」というシーンがありますが、落ち込んでいるのはこのときに限りません。最初から、ずっとゆううつそうです。
ジェーンはもともとかなり情熱的な性格で、もっと、はつらつとした部分があるべきだと、私は思います。
暗いといえば、ロチェスターもさして明るくありません。 この2人が 暖炉のそばで話すシーンは、よくいえば「抑えた雰囲気」、悪く言えば、「どこまでも暗い」です。たぶんそういう演出なのでしょう。
話の途中から始まる脚本
この映画は、ほかのジェーン・エアとは違い、ジェーンが、ソーンフィールドを飛び出すシーンから始まります。なぜ飛び出すのかというと、結婚しようと思っていたロチェスターに妻がいたからです。
そして、ムーアで倒れていたところを、シンジンが助けます。その後、 シンジンやシンジンの姉妹とのやりとりが続きます。昔のことは、子供時代から、ジェーンが回想する形ででてきます。
これ、何もしらないと、わかりにくくないですかね? それに、「ジェーンは屋敷から出ていくんだ」、とかなり早い部分で観客は知ることになります。なので、飛び出すシーン(映画のあとのほうでも出てきます)があまりドラマチックではありません。
さらに、 シンジンの出番が多く、それはいいとしても、 シンジンは、ジェーンを好きらしいという脚本になっています(ロチェスターに嫉妬していると思われるセリフあり)。ここに違和感を覚えます。
確かに、 シンジンはジェーンに結婚を申し込むけれど、それはジェーンが好きだからではなく、インドに布教にいくときのアシスタントとしてジェーンが最適だからです。
小説では、 シンジンはよい人で、尊敬できる人間だけど、あまりにも冷たい人であり、彼は、失敗をたくさんするけれど、ジェーンを深く愛しているロチェスターと対象的に描かれています。
唐突なエンディング
この映画のエンディングはきわめてあっさりしています。
エンディング(2分47秒)
Who’s there?
This hand…
Jane Eyre. Jane Eyre.
Edward, I am come back to you.
Fairfax Rochester with nothing to say?
You are altogether a human being, Jane.
I conscientiously believe so.
A dream.
Awaken then.
このシーンの前に、ジェーンは火事になったソーンフィールドに行って、なぜかそこにいたフェアファックス夫人から、屋敷が火事になったこと、ロチェスターが火にのまれたことを聞きます。
ここで、フェアファックス夫人はロチェスターの目が見えなくなったとは言っていません。
しかし、ラストでは、彼は目が見ないようです(小説では目が見えなくなっているので、ジェーン・エアを知っている人にはわかるだろうけど、この映画のみを見ている人には、よくわからないと思います)。
ラストシーンはようやく2人が結ばれる感動のシーンなのかもしれません。
けれども、私は、「ジェーン・エア」のラストは、ロチェスターとジェーンの立場が入れ替わっていることがポイントだと思います。
お金も身よりも何もない、ちっぽけなジェーンが、いろいろあって、最後には、金持ちでパワフルだったロチェスターと立場が逆転する。つまり、最後は、ジェーンのほうがロチェスターより強いというところが大事なのですが、この映画ではそこはまったく描かれていません。
最後に
600ページ近くある小説を映像にするには、数時間確保できるミニシリーズのほうが向いているのかもしれません。その点、映画は2時間なので、よほどうまく脚色しないと、重要なポイントが抜け落ちるのでしょう。
主役の2人とも、小声でぼそぼそしゃべるので、何を言っているのかよく聞き取れないところも多々ありました (聞き取れないのは私の英語力の問題ですが)。。
このせりふまわしも演出のせいだと思います。
ミア・ワシコウスカのインタビューを見たら、とてもはきはきとしゃべっているからです。
3分21秒。
マイケル・ファスベンダー のインタビューも見ましたが、彼もふつうにわかりやすくしゃべっていました。この人は、魅力的な声の持ち主ですね。
やや物足りませんが、ジェーン・エアファンなら見ても損はないでしょう。映像は美しいし、衣装だけ見ていてもいいし、詩的なセリフを味わってもいいです。
主演の2人は美形なので(本当はブスとブ男のロマンスのはずですが)、顔を見ていてもいいかもしれません。それにしても、 ミア・ワシコウスカのウエストの細さにはびっくりしました。
コメント