糸くり三人女(グリム兄弟、1857)のあらすじ。

糸 グリム童話

グリム童話から、糸くり三人女、原題:Die drei Spinnerinnenを紹介します。

英語のタイトルは、The Three Spinners または The Three Spinning Womenです。

日本では「糸くり三人女」というタイトルで知られている話ですが、「糸くり三人女」だと、なんか、怪談みたいに思えるのは私だけでしょうか?

「糸くり」は、「糸繰り」で、繭(まゆ)や綿花から、糸を引き出して紡ぐことと、そうやって紡ぐ人のことを意味します。

今ふうの言葉で言えば、「糸を紡ぐ3人の女性」となります。

糸くり三人女、要約

怠け者で糸を紡ごうとしない少女が、女王様に見込まれ、3人の糸くりに助けられ、王子さまと結婚し、糸くりという苦行から逃れる話。

なまけ者

昔、なまけ者で糸を紡ごうとしない少女がいました。言うことを聞かない娘に切れて、母親が娘をしたたかに叩いたところ、娘は大声で泣き始めました。

たまたまそばを通りかかった女王様が、泣き声を聞き、何事かと、その家にやってきました。

「なぜ、娘さんを叩くのですか? 娘さんの泣き声が通りに響き渡っていますよ」。

母親は、なまけ者の娘のことをうちあけるのが恥ずかしかったので、

「娘が糸を紡ぐのを止めることができなかったのです。いつまでもずっと紡いでいるもんですから。私は貧しくて、亜麻を買うことができません」。

と、言いました。すると女王様は

「まあ、私は、紡ぎ車の音が大好きなんですよ。糸を紡ぐ音を聞くたびに、幸せな気持ちになります。

娘さんを、城に連れ帰ってもよいでしょうか? 城にはたくさん亜麻がありますのよ。娘さんは、心ゆくまで糸を紡げますわ」。

母親は大喜びで、娘を城に行かせました。

糸を紡ぐはめになった娘

女王は、娘を城に連れていき、上等な亜麻(亜麻の茎の部分の繊維)がたくさんある部屋を3つ見せました。

「さあ、ここで糸を紡げばいいわ。全部紡げたら見せてね。ちゃんとできたら、あなたを、私の長男の妻にしてあげます。

あなたは、貧しいかもしれませんが、私は気にしません。勤勉に糸を紡ぐ能力だけで、十分な持参金になりますもの」。

娘は内心、恐怖でいっぱいでした。糸を紡ぐことなんてできないからです。

たとえ100年生きようとも、毎日、朝から晩まで糸車に向かっていようとも。

女王が行ってしまうと、娘は泣き始め、そのまま3日たちました。

3人の救世主現る

女王がやってきて、娘が糸を紡いでいないのを見ると、びっくりしました。

「家を出て、母と離れたのが悲しくて、悲しくて、何もする気になれないのです」。

娘の言い訳に、女王は、「さもありなん」と納得しました。

「でも、明日から、仕事を始めるのですよ」。

1人になった娘は、また困り果てました。どうしていいかわからず、窓の外をぼんやり見ていたら、3人の女性が通りかかりました。

1人は、片方の足が大きくて平べったく、もう1人は、下唇が大きくて、あごの上にべろーんとのびており、もう1人は、片方の親指が、びっくりするほど大きい女でした。。

3人は立ち止まり、娘にどうしたのか、たずねました。

娘が、自分の窮状を訴えたところ、3人は助けを申し出ました。

「もし、私たちをあなたの結婚式に呼んでくれるなら、私たちのことを恥ずかしいと思わないなら、私たちのことを叔母だと言って、同じテーブルに座らせてくれるなら、亜麻糸を紡いであげましょう」。

「もちろん、いいわ。すぐに来て仕事を始めて」

またたくまに糸を紡ぐ3人

娘は3人を最初の部屋に招き入れました。

1人は、糸をひっぱりだして、ペダルを踏み、2人目は糸を湿らせ、3人めは糸をよりました。みるみるうちに美しい亜麻糸が紡がれていきます。

女王がチェックにくるたびに、娘は3人を女王の目にふれないようにし、できあがった糸を見せていました。

こうして、あっという間に3つの部屋にあった亜麻が糸になりました。

3人は、「約束を忘れないでね。そうすれば、あなたに幸運が訪れますよ」と言って帰っていきました。

娘が、できあがった糸を女王に見せると、女王は結婚式の準備をしました。

花婿(王子)は、こんなに賢くて、勤勉な妻をめとれることを嬉しく思い、娘をほめたたえました。

結婚式でのできごと

「私には叔母が3人います。私にとても親切にしてくれたので、結婚式に呼んで、同じテーブルに座ってもらいたいのですが、いいでしょうか?」

娘が、女王と王子におうかがいを立てると、反対する理由のない2人は、OKを出しました。

祝宴が始まり、変なドレスを来た3人がやってくると、王子は、その醜い姿にぎょっとしました。

王子「どうして、あなたはそんなに足が平べったいんですか?」

女1「糸車のペダルを踏んだからです」

王子「どうして、あなたの下唇はたれさがってるんです?」

女2「糸をなめるからです」

王子「どうして、そんなに親指が大きいんですか?」

女3「糸をよるからです」

これを聞いてびっくりした王子は、自分の美しい妻は、2度と糸車を使ってはいけない、と言いました。

かくして、娘は、大嫌いな糸くりから開放されたのです。

原文(英語)⇒Grimm 014: The Three Spinning Women

亜麻糸の紡ぎ方

亜麻糸の紡ぎ方を知っていると、この童話をより楽しめるでしょうから、実際に紡いでいる動画(3分)を紹介します。

これを見れば、女王が好きだという糸車の音や、糸を紡ぐとき、手足をどのように使うのかわかります。

亜麻の茎のもやもやしたものから、糸状のものをひっぱりだして、時々手に水をつけながら、糸を紡いでいきます。

足は、ペダルを踏んで、糸車を回します。

童話の糸繰りの1人は、つばで糸をよっていたみたいですが、動画で紡いでいる人のように、水を使えば、唇は変形しません。

昔の人は、指をなめながらやっていたんでしょうか? 

糸くり3人女の教訓

なまけ者で、母親の言うことをきかず、嘘もついている娘がハッピーエンドを迎えるこの童話の教訓は何でしょうか?

まず、「勤勉であることは、美徳だ」というモラルがあります。

登場人物7人のうち、6人は、「よく働くことはいいことだ」と考えているようです。

娘の母親は、娘がなまけものであることを恥じて、本当のことを言うことができません。

女王は、勤勉に糸をつむぐことができる能力があれば、貧乏人でも、自分の息子の嫁にふさわしい、と言います。

糸くりの3人は、体が変形するほど、糸を紡いでおり、そのおかげで、王族の結婚式に出られました。

王子も、賢くて勤勉な娘に満足しています。

しかし、物語の最後で、勤勉さよりも、もっと最強の武器が登場します。

美しさです。

勤勉なのはいいけれど、姿かたちが変わって醜くなるほど、糸を紡いではいけないのです。

童話の冒頭、娘の容貌については何の描写もありませんが、最後に、王子が、「自分の美しい花嫁は、もう糸車をさわってはいけない」と言った、とあります。

若くて、花嫁衣装を着ていたせいか、あるいは糸くりの3人の隣に立っていたせいか、この娘はそこそこきれいであるらしいのです。

娘が勤勉なことを喜んでいたはずの王子が、どたんばになって、娘の美を尊重します。

いったん結婚したら、美しいまま、家で大人しくしていてほしい、という男性の願望なのかもしれません。

王子なら財力がありますから、何も妻(王女)を働かせる必要もありません。

しかし、美しい人や、王族と結婚できる人は、まれなので、やはり一般庶民は、勤勉でいたほうがいい、という結論になるでしょう。


動画に出てきた人は、らくらくと糸を紡いでいますが、やってみるとけっこう難しいのかもしれません。それに、かなり単調な仕事です。

娘がやりたくなかったのもわからなくもないです。

しかし、昔は、糸を紡ぐのは重要な仕事だったでしょうし、ほかに何もやることがないのなら、私もふつうに紡いでいたでしょう。

私は、裁縫や料理といった家事は嫌いですが、美しくもありませんので、勤勉に生きる道を選んできました。

幸い、いまは既製品や電化製品があるため、裁縫や料理をしっかりしなくてもすんでいます。

嫌いなことは無理にやらず、好きなことを勤勉にやれば、そこそこ幸せな人生を送れるのかもしれません。

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この童話に出てくる娘は美貌の持ち主です⇒ルンペルシュティルツヒェン(グリム兄弟、1857)のあらすじ

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