ジェーン・エアのアダプテーション(映像)の1作めのレビューは、1983年のBBCのドラマです。ひじょうに原作に忠実なので、原作にそった映像化が好きな人にはおすすめです。ロチェスターを演じた、ティモシー・ダルトンの熱演が光っています。
予告編(30秒)
BBCではなくて、ほかの放送局で放映するときに用意した予告編のようです。予告編というより、番宣といったほうがいいかもしれません。
作品情報
- 監督:Julian Amyes
- 原作:ジェーン・エア(シャーロット・ブロンテ)
- 脚本: Alexander Baron (イギリスの作家、脚本家)。Wikipediaによると、16冊も小説を書いていて、そのうち何冊かはベストセラーになったらしいので、著名な作家と呼べるでしょう。
- 主演:ゼラ・クラーク(ジェーン・エア)、ティモシー・ダルトン(ロチェスター)
- 30分X11回、最初と最後のテーマソング(同じ曲)を入れて5時間半ほど。
あらすじ
原作とほぼ同じです。赤ん坊のとき孤児になったジェーンは、冷たい親類にいじめられながら10歳まで世話になり、18歳まで孤児専用の寄宿学校に通い、18歳で卒業してソーンフィールドというお屋敷に家庭教師として赴任。そこで、当主のロチェスターさんという、ひじょうに癖のある男性と運命的な恋に落ちます。
3つの見どころ
いろいろ見どころがありますが、ここでは3つ紹介します。
原作に忠実なシナリオ
本にあるセリフがそっくりそのまま出てくるシーンが多く、原作に忠実なアダプテーションを求める人には向いています。原作のセリフ、おもしろいですからね。
ミニシリーズで長いから重要なシーンがわりとたくさん入っています。ゲーツヘッド(いじわるなおばさんの家)での生活とローウッドスクールでの生活にそれぞれ1エピソードずつ当てられています(しかし、ジェーンが、死の床に伏しているヘレン・バーンズの部屋へ行って、彼女のベッドで眠るシーンはありません)。
子供時代のジェーンは、ジェーンという感じではないのですが(あまり物静かな子に見えない)、ジェーンでないと思えば、わりとかわいい芸達者な女の子です。
ティモシー・ダルトンのロチェスター
好き好きはあるでしょうが、ティモシー・ダルトンは、ロチェスターのわけのわからない人柄(そっけないと思えば、情熱的になり、苦悩するかと思えば、うきうきとはしゃぐ、心にもないことをしらーっと言う)をうまく演じていると思います。
抜粋(5分ぐらい)
YouTubeにはプロポーズシーンもあります。彼は、ロチェスターを演じるにはハンサムすぎるし、背も高くスマートすぎると思いますが、ジェーンの目には、とても素敵な人に見えていたのですから、これはこれでいいのでしょう。
ロチェスターが、ジプシーのおばあさんに化けて、ジェーンの運勢を占うシーンも、このドラマにはあります。
ロチェスターはジェーンが自分のことをどう思っているか知りたくて、ジプシーの格好をし、屋敷に逗留している独身女性を1人ずつ呼び出すという手のこんだことをしたのです。このシーンでは、ダルトンは高い声を出して、おばあさんに化けていました。
脇役もいいです
ほかのキャストも、それらしい雰囲気の人がたくさんいました。特に印象に残っているのは、ミス・テンプル(ローウッドスクールのやさしい校長先生)と、 シンジン(ハンサムで冷たく、神に身を捧げているらしい宣教師)を演じた人です。
シンジンは、原作では、金髪碧眼でギリシャ彫刻のように美しい男性ということになっており、そんな感じの人が演じていました。しかし、 シンジンは冷たい人なのですが、冷たさはあまり出ていなかったかもしれません。
残念なポイント
チープなセット
1983年のBBCのテレビドラマだから、映画のようなゴージャス感や映像の美しさ(プロダクション・バリュー)はありません。ソーンフィールのお屋敷の室内は、実際はもっとすてきだと思います(架空の家だけど)。ロチェスターさんは、すごい金持ちのはずですから。
ライティングもあまり工夫がなく、屋外も室内も、全体的にしらーっとした照明です。それと、この小説、ゴシックロマンでもあるのですが、不気味なお屋敷の怖さはあまり伝わってきません。
衣装も、あまりお金をかけていません。同じテレビドラマでも、今世紀に制作された、ダウントン・アビーに出てくる衣装は、数も多いし、どれもとてもきれいですが、それと比べると格段の差です。
ジェーンは、地味な格好しかしないし、服(ドレス)も2枚ぐらいしかないのですが、金持ちのお嬢さんたちのドレスはもっと素敵でもよかったと思います。
そういえば、ブランチ・イングラム(ロチェスターが結婚するふりをする金持ちのお嬢さん)がはじめて登場するシーンは、馬車ではなく、乗馬服みたいなのを着て馬に乗ってきます。
ジェーン
ロチェスターに比べて、ジェーンの影が薄いです。この物語、主役はジェーンですが、どう考えてもロチェスターのほうが目立っています。それだけ、ティモシー・ダルトンが迫力のある演技をしているということでしょうか。
ジェーンは無口だし、本の中でも、ロチェスターの言うことに、「イエス、サー」「ノー、サー」と簡潔に答える場面が多いです。しかし、ジェーンは頭の中ではいろいろ考えています。
ときどき、ジェーンのモノローグが入る部分もありますが、もっとセリフのないジェーンの動きや、表情を使って、心情を掘り下げていれば、ジェーンが主役の「ジェーン・エア」になったでしょう。
もし、私がジェーン役を演じている女優だったら、主役の自分をフィーチャーしない脚本や演出に対して、不満をもつと思います。
それと、ジェーンを演じた人、うまいのですが、ちょっと暗いです。しかも、18歳にしてはふけています。
ラストシーン
いろいろなことがあって、ようやく最後にジェーンはロチェスターと結ばれますが、最初のプロポーズシーンに比べると、ラストは盛り上がりに欠けます。
ジェーンは、「ジェーン、ジェーン、ジェーン!」と呼ぶ声を聞き、ロチェスターのもとにかけつけます。エドワード(ロチェスターさま)はいらっしゃるかしら、お元気かしら、と、かなりうきうき、どきどきしながらソーンフィールドにやってきて、屋敷の変わり果てた姿を見て愕然とするのですが、ドラマでは、そこまでショックを受けていないようすです。
しかも、突然、ジェーンが現れたのに、ロチェスターの反応が今ひとつです。たぶんそういう演出なのでしょう。ティモシー・ダルトンは、強烈なまでに情熱的なロチェスターも演じることができるのですから。
腕と視力を失って、以前の自信も失い、意気消沈してひがみっぽいロチェスターになっているのだと思いますが、再会できたときの驚きと感激はもっと強調したほうがよかったでしょう。
もっと残念なのは、ジェーンの気持ちが感じられないことです。この本の中で、もっとも有名な一節は、“Reader, I married him.”(読者よ、私は彼と結婚しました)という文です。
孤児で何も持っていなかったジェーン、自分の情熱を制御しようと苦労してきたジェーンが最後に、お金もあり、自立した人間として、心から愛しているロチェスターと結婚し、「やったわ、とうとう結婚したわよ」と勝利の宣言をするわけです。
しかし、このドラマでは、ロチェスターがプロポーズした次のシーンは、庭にいる2人を遠くから映していて、ジェーンがモノローグで、「結婚して10年たちました」と言います。
これまで、原作のセリフをたくさん採用してきたのに、なぜ、もっとも有名な一文を入れないのか不思議です。
いろいろ書きましたが、舞台劇だと思えば、チープなセットも気にならないし、ティモシー・ダルトンは、ちゃんと原作を読んで役作りしているようだし、『ジェーン・エア』ファンならきっと楽しめるでしょう。
このドラマ、昔、NHKでやっていて(もちろん吹き替え)、見たことがあります。11回も見ていないと思いますが、ティモシー・ダルトンのロチェスターはよく覚えています(ジェーンのほうはすっぽり頭から抜け落ちていました)。
このロチェスターを見て、「ティモシー・ダルトンってかっこいいな」と思い、その後、ジェームス・ボンドを演じたとき、映画館に見に行きました。この映画はあまりおもしろくなかった記憶があります。
レビューによると、このDVDは239分で、全部入っていないようです。短縮版なのかもしれません。YouTubeには全話あがっています。
トップの画像は、ソーンフィールドの外観に使われた、Deene Parkというノーザンハンプシャーにあるお屋敷です。
写真のクレジット:By Julian Dowse, CC BY-SA 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=10773824
コメント