赤い靴(1948年、パウエル&プレスバーガー監督)の感想。

舞台の緋色のカーテン アンデルセン童話

アンデルセンの童話、『赤い靴』をモチーフにしたイギリス映画、The Red Shoes (邦題:赤い靴) を見ました。

今回見たのは、この映画が好きな、マーティン・スコセッシ監督が修復したデジタル・リマスター版です。

バレエ映画の傑作で、現在もこの映画を越えるバレエ映画はない、などと言われています。

いわゆる有名な名画です。

予告編

英語版 2分30秒

日本語字幕版 2分30秒

作品情報

制作:1948年、イギリス、133分

監督・脚本・製作 マイケル・パウェル、エメリック・プレスバーガー(このコンビは、アーチャーズ・プロというのを作って、イギリス映画の傑作をたくさん作っています。基本的にパウエルが監督、プレスバーガーが脚本を担当)

撮影:ジャック・カーディフ

振り付け:ロバート・ヘルプマン、レオニード・マシーン(靴屋の踊り)

主演:アルトン・ウォルブルック(ボリス・レルモントフ:バレー団の団長かつ天才プロデューサー)、モイラ・シアラー(ヴィクトリア・ペイジ、通称ヴィッキー、赤いトウシューズを履いて踊る赤毛のバレリーナ)、マリウス・ゴーリング(ジュリアン、才能のある作曲家)。

その他:テクニカラーで色彩がきれい。

原作:ハンス・アンデルセンの『赤い靴』ではあるけれど、ストーリーは全然違う。童話の『赤い靴』で、赤い靴をはいた女の子が、死ぬまで踊り続けるさまを、バレリーナのヴィッキーになぞらえています。

赤い靴(アンデルセン、1845)のあらすじ。

あらすじ

・・・わりと詳しく書いているので、まだ見ていない人は読まない方がいいです・・・

レルモントフバレエ団の団長ボリスは、天才的なプロデューサーだが、芸術至上主義、あるいはバレーの鬼。非情なので、尊敬されてはいるが、友達は少ない感じの人。

ボリスは、新人バレリーナで才能のあるヴィッキーと、これまた才能のある若き作曲家ジュリアンを雇う(才能のある人を見抜くのもボリスの仕事)…penのつぶやき:ここまでで、映画の半分ぐらい費やしているような?

ヴィッキーは、新作バレエのプリマに抜擢され、出し物は、アンデルセンの童話をモチーフにした『赤い靴』。作曲はジュリアンが担当する。

ボリスは、ジュリアンやヴィッキーにダメ出しをいっぱいするが、なんとか初演にこぎつけると、このバレエは大当たりする。さすが天才プロデューサー、ボリス。

一躍、脚光をあびるヴィッキーとジュリアンは、いつしか恋仲になっていた。ジュリアンは作曲するだけでなく、舞台でオーケストラの指揮もするし、バレエの練習中は、ピアノを弾いたりするので、2人が会う機会はたくさんあった。ジュリアンは、ボリスとは違い、若くてまっすぐでやさしい人。

ボリスは、2人の関係が気に入らない。

彼は、ヴィッキーを世界一のバレリーナにしたいと思っているし、それは自分のバレエ団が世界一になることだ。しかも、彼はヴィッキーに恋愛感情もあるようだ(ここは解釈の分かれるところ)。

売出しをがんばっている矢先に、作曲家とうつつを抜かしている(とボリスは思う)ヴィッキーを、元の軌道にのせるため、彼は、いきなり、ジュリアンを首にする。

すると、ヴィッキーまでやめてしまった。ヴィッキーがバレエではなく、ジュリアンとの愛を選んだので、大ショックのボリス(出会ったとき、ヴィッキーはボリスに、踊ることは私にとっては生きることと同じことです、と言っている)。

ヴィッキーとジュリアンは結婚。ヴィッキーは幸せだったが、バレエへの未練はあり、引き出しにしまってあるトゥシューズをひっぱりだして、見つめたりする。

その後、ボリスはヴィッキーに接触し、また『赤い靴』の舞台に立つよう説得する。

本来は、バレエを踊るのが好きなヴィッキーは、ジュリアンに内緒で、舞台に立つことにする。ジュリアンがロンドンで自作のオペラを初演する晴れの日、ヴィッキーは、モンテカルロへ行き、舞台の楽屋で出番を待つ。

ヴィッキーが楽屋にあるラジオで、ジュリアンの演奏の中継を聞いていたら、アナウンサーが、ジュリアンが急病で指揮ができません(だったと思う)、と言う。

「いったい、どうしたのかしら!?」とヴィッキーが驚いていると、まあ、びっくり、ジュリアンが楽屋の戸口に立っている。

ヴィッキーは、妻を連れ戻そうとするジュリアンと、舞台に出そうとするボリスとの板挟みにあう。

ジュリアンかボリスか?

愛かバレエか?

家庭か芸術か?

どちらを選んでいいのかわからなくなってしまったヴィッキーが取った道は?

(結末は書きませんが、童話のストーリーを重ねれば、想像がつくと思います)。

見どころ1:バレエ

この映画の見どころは何といっても、モイラ・シアラーが踊る『赤い靴』というバレエです。

劇中バレエですが、なんと17分ぐらいあります。

最初は舞台中継ふうな映像ですが、そのうちだんだんそうではない、空想の世界のバレエなっていきます。

最後はまた舞台に戻りますが。

ヴィッキー役のモイラ・シアラーはプロのバレリーナなので、バレエが上手。まあ、バレリーナのよしあしなんて私にはわかりませんが、私はすごくうまいと思ったし、スタイルもよく、踊りが優美です。

カメラワークも美術もよく、このバレエはとても堪能できます。

見どころ2:色彩

この映画はテクニカラーです。テクニカラーは辞書で調べると、カラー映画製作の一方式、青、緑、赤の三原色を分解した3本のフィルムを1本にまとめる方法。

こうすると、艶のある美しい色彩になるそうです。そして、退色しにくいため、年月がたっても、監督が意図した色を保っているとのこと。

なるほど、70年前の映画とは思えないほど、きれいでした。

テクニカラー方式は、フィルムが3倍いるし、ものすごく大きなカメラが必要で、お金がある国(イギリスとアメリカ)だけしか使えず、普及しませんでした。

ボリスのバレエ団は、ヨーロッパ中を巡業してまわるので、『赤い靴』だけでなく、『白鳥の湖』や『コッペリア』など、有名なバレエのシーンがいくつか出てきますが、その踊りや色彩もとてもきれいです。

今見ても、「きれいだわ~」と思うので、公開当時は、みんなびっくりしたんじゃないでしょうか?

日本では1950年に公開されましたが、1950年は昭和25年です。朝鮮戦争のあった年。

童話的なストーリー

この映画、一言で書くと、プロデューサー、バレリーナ、作曲家が三角関係になり、バレリーナが、家庭をとるか、仕事(芸術)をとるかと悩む話です。

しかし、そのわりに、ヴィッキーが悩む描写が少ない。ボリスがショックを受ける表情や、自分の思い通りにならないことに怒って、ホテルの鏡を殴って割るシーンはありますが。

ヴィッキーは、わりとあっさりバレエ団をやめ、あっさり結婚し、あっさり、また『赤い靴』の舞台の楽屋にいます。

再び踊ることに決めるまで、苦悩はあったのでしょうが、その描写はあまりない。

結末も、「え、そうなる?」という感じ。

バレエの描写に力が入っているわりには、ヴィッキーの心もようの描写はあまりなく、その点、ストーリーに、そこまで深みはありません。

そういうところは、童話的だなあ、と思います。

童話も、話に奥行きがないけれど、聞いた人、読んだ人が、各自であれこれ考え、楽しむふところの深さがありますから。

それに、おもしろいシーンがいくつもあります。

たとえば、英語の予告編の1分30秒のところ。ヴィッキーがやたらと長い階段をのぼっていますが、このとき、浮世離れしたドレスを着ています。

これはボリスの山荘だったと思いますが、まるで童話の中のお姫さまのようです。

階段は、映画の最初のほうと、おしまいにも出てきて、ストーリーを暗示しています。

人が階段を上り下りすると、縦に移動するから、印象的なシーンを作ることができますよね。

最後の楽屋のシーンで、ヴィッキーがジュリアンとボリスに問い詰められているとき、赤い靴をはいていますが、これは、よく考えると、おかしいのです。

『赤い靴』というバレエでは、まず少女が靴屋で赤い靴を買うので、最初は赤くないふつうのトゥシューズをはいています。

ヴィッキーが赤い靴をはいているのは、バレエの『赤い靴』で、足が赤い靴にすっぽりはまって、どんどん踊ってしまうように、いったん赤い靴をはいたら、踊り続けずにはいられないヴィッキーの運命を象徴しているのでしょう。

実際、ここで赤い靴をはいていないと、その後のヴィッキーの行動の説明がつきません。

この映画、2時間以上あって、最初のほうは、あまりおもしろくないなあ、と思って見ていたのですが(セリフが聞き取れなかったせいもある)、ヴィッキーとジュリアンがバレエ団に雇われ、『赤い靴』の稽古に入ったあたりから、おもしろくなりました。

前半、もう少しカットするといい気もしますが、ここをじっくりやっているから、その後、映画のおもしろさが加速し、『赤い靴』の舞台が映えるのかもしれません。

バックステージものとしても楽しめる映画です。

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